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第二章

スキルと家族が増えました

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 部屋に入ると扉は勝手に閉まり、アイシャは全く別空間に来たという感覚的なものがあった。エリーゼの横に並ぶと改めてクロノスを見るが、その美しく端正な容姿は話しに聞いていた以上に思えた。

「最初にここへ来た目的を話すわね。クロノス、私の不老を解除するかアイシャを不老にしてほしいの」

「そんな事だろうと予想はできたよ。まあ、とりあえず不老を解除するというのはやめたほうがいい」

「それじゃアイシャを不老にする事は?」

「可能だけど、その前に……アイシャ、よく来てくれたね。エリーゼに似て美しく成長してくれたのをうれしく思うよ」

 自分に話し掛けられた。アイシャはよく分からないがそれが嬉しかった。そして、確認の為にクロノスに問い返す。

「パパ……なの?」

「強引にではあったけど、僕がパパなのは間違いないよ」

「私も……パパに触れていい?」

「ああ、何も遠慮する事はない」

 ゆっくり近付いていくと、クロノスはおいでと言うように両手を広げた。そこへ『ぽふっ』と抱きつく。

「私のパパ……いたんだね……」

 近くで見守るエリーゼを見ると、双眸からは涙が溢れ頬を伝っていた。そして、なぜかティアルカも琴線に触れたのか泣きそうになっている。

「アイシャ、不老になる事を後悔しないかい?」

「私は……エリーゼと一緒に生きたい!」

 躊躇う事なくはっきりと即答した。

「では、このまま儀式を行ってしまおうか?」

 アイシャはこれにも躊躇なく頷く。
 抱き付いていたアイシャを少しだけ距離を開け離すと、エリーゼの方を向き最終確認をするが、こちらも意思は固まっているのか首肯された。そして、クロノスの手がさっと振るわれた後は、身に着ける全ての装具や衣類が消えてなくなり、美しい裸体を部屋にいる者全員の目に晒す事になった。

「え?」

 いきなり身に着けていた物が消える感覚に混乱するアイシャ、しかし、そんな事はまったくお構いなしに儀式は続けられる。クロノスの手がアイシャの美しい双丘の中心に触れると、それは体の中に抵抗なく沈み込んでいき、胸の中心に大きな異物が入ってくるという始めての経験に絶叫する。

「いやあああぁぁぁぁぁっ」

「落ち着いてアイシャ! そのまま力を抜いて楽にするの」

 エリーゼの声になんとか恐慌状態から脱する事が出来たが、自分の体の中に異物が入り込んでくる感覚に恐怖が消える事はない。

「もう少しだけ我慢するんだ! 魂の奥深くに僕の加護の印を刻む」

(というのは建前で、本当は強過ぎる力を封印しておく儀式なのだけどね。神格を降格させるという処置だ。今まで自分で認識してなくて使ってなかったのか、今のアイシャにはまだ制御しきれない力だ。眷属という部分はエリーゼと事情が異なる。もともと産まれた時からデミゴッドなのだからね。力はそのうち機を見て開放するとしよう)
 

 時間にすれば数分程度だったはずだが、アイシャにとってその時間は何倍何十倍にも感じられた。体には玉のように汗が浮き出ており、激しい運動をしたという訳でもないのに荒く呼吸を繰り返している。

「終わったよ……これでアイシャも僕の眷属だ。そして、これからは老いる事も無いだろう」

「………てよ」

「うん?」

「こういう事するならやる前に言ってよ。心の準備にもいろいろあるんだからっ!」

「ああ……ごめんよ」

「ううぅぅぅっ……酷いよパパ! 早く服とか戻して!!」

 自分がまだ裸であるという事、エリーゼは良いとしてもクロノスとティアルカにまで見られているという事、それらが認識されると、羞恥心に火が付き顔が赤く染まっていくのが自分で分かった。

「もっと見ていたいけど残念だなぁ」

「………」

 クロノスはアイシャの裸、特に乳房を凝視しながら本当に残念がっている。しかし、エリーゼに睨まれた事で仕方なく衣類や装具を元に戻した。

「それと神族にパパとかママっていう概念はないんだ。だからこれからはクロノスって呼ぶといい」

「うん……エリーゼって呼ぶのと一緒ね」

「あと、今の儀式で分かった事がある。アイシャはエリーゼに劣らぬ魔法の素質があるんだ。しかし、残念な事に魔力を高めても放出する為の能力がそれに見合っていないようだね」

「そっか、私はエリーゼと違ってダメダメなんだね」

「そんな事はない。だから少しだけね? あとで武器に魔力を流す練習をしてみるといい。そうすればどんな武器でもちょっとした魔剣だよ」

 使ってもいないしまだ実感はないが、今回得たこのチカラは、後にアイシャの名を冒険者中に轟かせる一つの要因となる。

「それとエリーゼにお願いがあるんだけどいいかい?」

「なに?」

「ティアルカを一緒に連れていってほしいんだ」

「それ本気で言ってるの?」

「ああ、ダークエルフと人間のハーフ、それかハーフデーモンとでも言っておけば分からないかもね?」

「……そうね」

 アイシャとエリーゼがどうするか相談を始める。その様子を不安な顔をしながら見守るティアルカ。
 少し本人に話しを聞くと、ティアルカはだいぶ魔族の中で虐げられてきたようだ。人間に似すぎる容姿と優し過ぎる性格。そして、一度も人間を傷つけたり殺した事がないというのもその原因のようだ。

「ご主人様、私はまた何処かに連れて行かれるの?」

「ああ、だけど安心するといい。ここにいる僕の眷属達が新しい世界をティアにみせてくれるよ」

「新しい世界?」

「こんな地の底や魔界のように闇の支配する場所ではなく、頭上には太陽が光り輝き、夜は柔らかい月明かりと星の輝きが空を美しく飾るんだ。見てみたいだろ?」

 ティアルカは目をキラキラさせながら何度も頷いた。

「エリーゼ、どうだい?」

「ティア、一緒に行く?」

「うん」

 ティアルカが『コクリ』と頷くと、アイシャは手を取りやさしく抱き寄せた。

(ティア、よ~く見るとすっごくカワイイじゃない。エリーゼは姉って事になってるけど実際は違うし、もしかして妹ができたって事かな?)

 アイシャはティアルカとのこれからの生活をいろいろと想像し、なんだか楽しくなってきて『ニマニマ』としている。しかし、現実はそう甘くない。

「新しいご主人様、どうぞよろしくお願いします」

「………」

 ティアルカにとって二人は新しいご主人様という事らしい。

「ダメ……ダメなんだからっ! ティアは私達の召使いや下僕じゃないの」

「そうよ、だから私達の事を家族と思って名前で呼んでちょうだい」

 驚いた顔をしながらクロノスを見るティアルカ、それに対してクロノスは一回だけ頷く。

「アイシャ様、エリ…」

「様もいらないから!」

 怒られた事に『ビクリ』と肩を震わせるとクロノスの後ろに隠れてしまった。

「怒ってごめん……ティアは私達と対等だよ。だからアイシャとエリーゼって呼んでくれる?」

 アイシャは、もう一度ティアルカの手を取りやさしく抱き寄せた。

「アイシャ……あたたかい……」

「そう、それでいいの」

 今日、二人に新しい家族が増えた。
 魔族だけど魔族に見えない。
 赤髪にクリっとした大きな目、ちょっとだけ尖った耳はハーフエルフのようにも見える。
 ダンジョンの外に連れ出す事に多少の不安はあるが、全ての魔族が忌諱されている訳ではない。人間に友好的な魔族や、近い存在として鬼族の末裔達がコルナ山に住んでおり、既に人間達に受け容れられている。ティアルカのように可愛らしい魔族であれば、案外すんなりと人間に受け容れられてしまうかもしれない。

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現ステータス(簡易)

母(エリーゼ)・職種(魔術師)
【肉体再生能力・空間操作能力・不老・魔力無尽蔵】
 肉体年齢は十九歳の時に固定された。
 いろいろ隠し事が多い。
 魔法は攻撃、支援、治癒と一通り使える。

娘(アイシャ)・職種(剣士)
【肉体再生能力・空間操作能力・不老・武器等魔力付与?】
 肉体年齢は十八歳で固定された。
 まだまだこれから成長します。

ティアルカ・職種(不明)・年齢(不明)
【夢魔に近い能力を持つ】
 クロノスの話しでは魔力や身体能力が高いらしい。
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