私、凄いスキルが遺伝しました。

龍夢

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第二章

痛かったんだからっ!

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 エリーゼの支援魔法が発動され、パーティー全員の体が薄い白光を帯びる。
 体には一気に力が漲り、感覚的に身体能力が底上げされた事が分かる。
 戦闘が行われている場所まで少し距離があるようだが、急ぎ向かえば手遅れになるような事はないだろう。

「私は速く走れないから、皆は先に行って!」

「分かった」

 エリーゼの言葉に全員で頷き、戦闘が行われている方向へ走り出す。
 近付くにつれ音や声が大きくなり、ある程度の状況が分かってくるが、コーディからの報告通り複数体のオーガが、それこそ何十という数のオーガが冒険者と戦闘をしている。
 その中に一体だけ赤褐色のオーガが居るのも報告通り確認出来た。

(あれがエリーゼの言っていた…オーグレー? 体が筋肉質であるのは変わらないけど、確かに胸の膨らみ具合は女のそれだ)

 そして、近付く私達に気付くと、オーグレーは指示をする為か雄叫びをあげた。

「オオオォォォォーッ」

 三体のオーガがそれに応えこちらに向かって来る。

「いくら支援魔法が効いてるからって攻撃をまともに受けるなよ?」

「分かってる。武器がもたないもの」

 既にコーディは足を止め弓を射始めている。集中攻撃されたオーガは、体に何本もの矢が刺さり動きが大きく鈍った。気にせず距離を詰めてくる二体のうち、一体をラパンが、もう一体をアイシャとイリージャが迎え撃つ。

「イリージャ、私が足止めするから止めの攻撃お願い!」

「分かった!」

 アイシャは両手で持つ剣を大きく引き姿勢を低くする。そこへ突っ込んできたオーガは、持っている棍棒を上段から力任せに振り下ろした。しかし、大振りの攻撃を見切るのは難しくない。それを右前方へ躱しながら足を剣で斬り付ける。エリーゼの支援魔法により強化された攻撃は、容易くオーガの足を膝上から切断した。

「ハァッ」

 バランスを崩したオーガに対し更に追撃で左腕を切り飛ばし、最後はイリージャがオーガの首に剣を振り下ろし止めを刺した。連携の取れた攻撃で一体のオーガを仕留めると、アイシャはラパンの方へ視線を向ける。するとそちらもオーガの胸に剣を突き立て止めを刺すのが見えた。

「集中して! まだ戦闘は終わってないわ」

 追い着いたエリーゼが二人に注意する。ハッとして周りを見回すと、コーディがまだオーガと戦っているのが目に入った。特にピンチという訳ではないが、近接戦闘が得意ではない為、少し手こずっているようだ。

「俺が行く」

「お願い!」

 コーディの所へはラパンが向かい、アイシャ達は苦戦している他の場所へ向かう。丁度少し離れた場所で戦っている冒険者が二人いるが、一人は攻撃を受けたのか左腕から出血しているようだ。その出血量からすると決して浅い傷ではないだろう。

「エリーゼ、怪我人に治癒魔法をお願い」

「分かったわ」

 エリーゼは短時間の集中だけで魔力を高めると、治癒魔法と支援魔法を連続発動した。

『ディバイン・ヒール、ディバイン・プロテクション・レイ』

『!?』

 負傷していた者は傷が治り、更に二人の身体能力が支援魔法により強化された。

「一度下がって体勢を立て直して!」

「す、すまん」

 アイシャとイリージャがオーガを挟む位置に移動し、二人の冒険者は一度戦闘から離脱する。それを追ってオーガが動き出すが、エリーゼが放った魔法の矢が何本も体に突き刺さり動きを止めた。

「グオォォォ」

 動きの止まったオーガなどアイシャ達の敵ではない。左右から同時に斬りかかり、脇腹、首、胸、幾つもの場所に致命傷を負わせると、ドス黒い血を滴らせながらオーガは崩れ落ちた。

「よし、次は……」

 次の得物はと周囲を見回した時だった。目の前に空中から赤褐色の影が降り立ち、何であるのか確認も出来ないままアイシャの右腕は肘から千切れ飛んだ。

「!?……えっ?……」

 オーグレーだった。たった一撃の攻撃だけで腕が千切れ飛び、その数瞬後には激痛が右腕を走り抜ける。何が起きたか把握も出来ぬうちに今度は拳の一撃が胸を強打し、その攻撃を受けたアイシャは『ゴキバキ』っと骨の砕ける嫌な音とともに勢いよく吹き飛ばされた。

「アイシャァァァァァッ!」

 次は近くにいたイリージャが標的となったが、オーグレーの前面広範囲を水の壁が覆い攻撃を阻害した。エリーゼの発動したアクア・ウォールが間一髪で間に合ったのだ。

「イリージャ、アイシャなら大丈夫だから」

 そう、肉体再生能力のあるアイシャは大丈夫だ。エリーゼの言葉に冷静さを取り戻すと、イリージャは後方に飛びのき距離を取る。

(オーグレーをなんとかしないと死人が出るかもしれない)

 エリーゼから見ても、明らかに他のオーガより上位の強さを持つオーグレー。無詠唱で魔法を使えるからこそ今も間に合ったが、あと数瞬遅ければイリージャも攻撃を受けていたはずだ。どうするかと考えていると、いきなりオーグレーから悲痛な叫び声があがった。

「ガウゥゥ、オ、オ、オォォォォォウッ」

 何が起きたのかとオーグレーを注視するが、アクア・ウォールのせいでよく見えない。仕方なく解除してみると、背中側から刺したのか、オーグレーの胸の真ん中から剣先が突き出ているのが見えた。そして、また一本の剣先が突き出ると、それに合わせて『ビクッ』と痙攣する。更に一本、合計三本の剣に胸を貫かれ、オーグレーは口から大量の血を溢れさせて崩れ落ちた。

「ふん……モンスターだから不意打ちするなとは言わないけど、痛かったんだからっ!」

 アイシャだった。胸部の胸当ては砕け、服が破けて胸が半分露わになっているが、千切れ飛んだ腕は完全に再生が終わっている。そして、空間に突き入れていた手を引き抜くと、そこには新たに剣が二本握られている。それをオーグレーの喉に一本突き刺し、最後は左胸に突き通して止めを刺す。オーグレーは暫くピクピクと小刻みに痙攣していたが、次第に目の光が失われていき動かなくなった。

『………ッ!! オオオオオォォォォォ』

 オーグレーが倒されると、残ったオーガ達の行動に劇的な変化が起きた。全てのオーガが雄叫びを上げ、アイシャを標的として駆け寄りだしたのだ。或いはオーグレーの亡骸を取り返そうという行動かもしれない。

「不味いぞ! あの女もう……」

 『助からないだろう』と周囲の冒険者達が生存を絶望視する。しかし、アイシャ本人は全く殺られてやる気などなかった。

「エリーゼ、私の周囲にアクア・ウォール! あとは……構わないから私に近づくオーガを魔法で一掃して!」

「いい判断よアイシャ! あとは任せなさい」

 すぐ集中を始め、準備が出来ると魔法を発動する。

『アクア・ウォール』

 アイシャの周囲は今までよりも倍は厚みがあるだろう水の壁で覆われた。
 オーガ達はそれを全く気にせずどんどん群がって来る。十、十五…十六、全部で十八体ものオーガが群がり水の壁に攻撃を始める。だが、水の壁を突破してアイシャに攻撃が当たる事はなかった。

「広範囲に魔法を使うからオーガから離れて!」

 注意喚起をすると、オーガに攻撃するか迷っていた者達が距離をとっていく。
 再び集中を始め、いつもの倍以上も時間を掛けて魔力を高めると、エリーゼは今までとは比べものにならない程の白光に包まれる。魔法を使うのに必要な魔力まで高まると、美しく透き通るような声で詠唱が響き渡った。

『静かなる水面は仮初めの姿、清らかなる流れは悠久にあらず、水神の怒りは激しき力と現れ、全てを破壊する神槍となり振るわれる……具現せよ!』

 詠唱が完成すると、エリーゼの頭上に高圧縮された無数の水槍が生み出されていく。十、二十、三十、まだまだ槍は増え続ける。

「あ、あの魔術師……」

 魔術師にはある程度魔力を感じ取る力がある。その中でも力の強い者達はエリーゼがどれだけの魔力を使い魔法を発動しているのかが分かった。
 その魔力量はあり得なかった。普通であれば数本の槍を作り出すのが精一杯であるのに対し、数十本もの槍を作り出しているからである。それがどれだけ凄い事なのか、周囲で見ている者は魔術師でなくとも理解する事が出来た。そして、作り出された槍が五十本を越えた頃、全ての槍が一斉にオーガ達に向け放たれた。

『滅しなさい! アクア・ランス・エクスプロージョン!』

 エリーゼより放たれた魔法の水槍は容赦なくオーガ達に襲い掛かった。十八体のオーガ達は体の至る所を槍に貫かれ地に縫い付けられた。既に息のあるオーガは数体しかいないというのに、まだこれで終わりではなかった。最後に止めとばかり全ての槍が爆ぜると、オーガ達の体は爆砕し、屍は殆ど原型を留めていない。

『………………』

 エリーゼの魔法を見た驚きか、それともオーガ達の末路を見た故か、現在、幾つものパーティー、多くの冒険者が集まる第二層は、異様な雰囲気ともとれる静寂に包まれていた。
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