上 下
16 / 52
第二章

ダンジョンに入りました

しおりを挟む
 次の日の朝、宿舎から出た私は先ず冒険者の多さに驚く事になった。前日は全員早めに寝床に入り、今日という日に備えたのだが、朝起きてダンジョン入り口へ向かうと、昨日疎らだった冒険者の数と違い百人を超す数の冒険者が列をなしていたのだ。
 受付は数名の職員がパーティー単位で捌いているけど、とても人手が足りているとは思えなかった。
 待ち行列に並ぶと、周囲から視線が殺到するのが自分でもわかる。きっとエリーゼの容姿が目立ってるんだと思う。私もちょっと悪寒がするけどそういう事にしておこう。
 すぐそこにいる男なんかエリーゼにずっと見惚れてるし、なんか一緒にパーティーを組んでるからかラパンやコーディを羨ましそうな目で見てる人もいる。
 王都に移り住んだ当初は私も人の目が気になって仕方無かったけど、最近はそんな視線にも馴れてきたと思ってたのに違うみたい。ここは一言文句を言ってやらなくちゃ。

「男って本当に無遠慮に女を見るのよね」

 私がわざと周囲に聞こえるように言うと、ほらほら何人もの男達が視線を逸した。

「アイシャ、そんなに男達を虐めるなよ。減るもんじゃないだろ?」

「だって嫌なんだもん。エリーゼは平気なの?」

「減るものじゃないしね」

 どうやらエリーゼは平気みたい。大人だなあ。

「流石にエリーゼは分かってるな」

 目を逸らした人達も『そうだ』って言うように頷いてる。私が子供なのかな?

「うむむぅ…じゃあ私も我慢する」

「アイシャもそろそろ男を知らないと駄目ね」

「まだ知らなくていいもん」

 周囲から生唾を飲むような音が幾つも聞こえてきたけど、とりあえず睨む事で一喝しといた。
 パーティーメンバーと話しながら待っていると、順調に待ち行列が解消されてきて自分達の順番が回ってきた。
 ギルド職員に聞いてみたところ、最近はパーティーが協力しあって下層攻略に乗り出しているらしい。
 昔から下層に行く者は特殊な魔鉱石の採取、各モンスターの上位種素材が目当てだったけど、ここ数年は下層各階で横に広大な未踏領域が発見され、多くの冒険者がギルド発注の情報収集クエストに挑んでいるんだとか。
 そのせいでこのような混雑が続いているという話しだった。
 私達の目的は中層なので協力などは特に必要ない。それでもダンジョン入り口に着くまでの間に何組ものパーティーから誘いを受けた。ただ誘いに来た者達の目当ては間違い無くエリーゼだと思うの……。話す時に皆少しだけ顔が赤いんだもん。

 受け付けが終わってダンジョン入り口へ向かう道に進むと、こちらは特に混雑もなくスムーズに進んでいるようだ。
 私とイリージャはダンジョン初体験だけど他の人は違う。待ってる間に聞いた話しだと、特にラパンは中層をメインに何度もパーティーで来ているらしい。

「いよいよね」

 もうじきダンジョン入り口だ。初ダンジョンだから緊張するけどすごい楽しみ。

「アイシャとイリージャに一つだけ注意しておくけど、無闇にスライムを殺すのだけは駄目よ?」

「あ、それ知ってます。ダンジョン内のゴミや、モンスターの死体を片付ける役割があるからですね?」

 イリージャが率先して答える。

「よく知ってるわね。あと場所によってはマナーとして邪魔にならないように避ける事ね」

 その後もラパンがちょっとしたマナーを説明してくれて、終わるとパーティーはダンジョンの入り口を潜り中へ入った。暫く緩やかな下りが続き、平らになった頃に明るい光が奥の方に見え出した。光の方へ近づいていくと、通路の幅も徐々に広くなっていく。そして、完全に広い空間に出ると私とイリージャだけ感嘆の声を上げた。

「えぇっ!?」

 目の前に広がる光景はダンジョンと呼ぶには広すぎる空間であり、下った高さよりも天井までの高さがあるのだ。
 それらがどういった仕組みになっているのか分からないけど、ダンジョン内は優しい太陽光にも似た光に満たされている。
 草木も適度に生い茂り、まるで外の森林地帯にも似た作りとなっているのだ。

「ダンジョンって狭くて迷路みたいで薄暗闇でっていうイメージがあったけど、これでダンジョンなの?」

「ああ、上層はこんな感じのが四層続く。未だ見つかってないダンジョンコアが作り出してる空間らしいが、俺も最初来た時はびっくりしたよ」

「ここに出るモンスターは三層と四層だけ注意が必要だ。毒を持ってるのと酸を吐くのがいるからな」

「酸かぁ…」

 まずは第一層と第二層だ。慣れる為に少しずつ歩を進めるが、よく耳を澄ませば他のパーティーが戦闘する音も遠いようだが聞き取る事が出来る。

「ここらへんはどんなモンスターが出るの?」

「アルミラージやゴブリンがメインでオークも出る。油断しなければ問題ないが、オークは女と見れば攫って犯す事もあるから注意しろよ」

 イリージャは攫うという言葉に反応し私の腕にしがみ付いた。ついこの間、盗賊に捕らえられた時の事を思い出したのだろう。

「大丈夫よイリージャ」

「うん…」

 そのまま暫く進んでいくと、少し開けた場所にアルミラージが数匹固まっているのが見えた。しかし、こちらに気付いているのかいないのか、襲い掛かってくるような気配はない。
 そのままもう少しだけ近づくと、今度は何とも言えない咀嚼音が耳に聞こえだす。
 アルミラージ達は他の冒険者が倒したオークを寄って集って食べているようだ。

「気付いてるけど食べるのに夢中で襲ってこないようだな。このまま迂回して進むとしよう」

 先頭を行くコーディの判断に全員頷き、広場を大きく迂回するように避けて通った。
 先に入った他のパーティーが戦闘で倒したというのもあるけど、その後は特にモンスターに出会う事なく、第二層への下り道に辿り着いた。
 そして第二層。ここも第一層と変わらない風景が続くけど、どうも様子がおかしい。
 戦闘が行われているのは間違いないのに、遠くで轟音が響き渡り人の怒声や剣戟の音が耳に入ってくる。

「まだ二層だというのに、随分と激しい戦闘をしているようね」

「よし、俺が偵察してくるから全員ここで待っててくれ」

 コーディが偵察に行き、わずか十分程という短い時間で帰ってくる。
 なんとなく顔が青ざめているようにも見え、沈んだ声で状況を報告する。

「複数体のオーガと何組かのパーティーが戦闘になっている。しかも普通のオーガじゃない。武装してるし肌も赤茶色で今まで見た事ない種類のオーガが混じってる。この階層じゃオーガなんて今まで見た事なかったが…」

「赤茶色……オーグレーかしら……」

『オーグレー?』

 私だけじゃなく他の者も聞いた事ないと首を傾げる。

「そう、メスのオーガよ」

「そんなのよく知ってるなあ」

「勉強してるもの。それよりも戦闘しているパーティーはどうなの?」

「奇襲されたのか怪我人が何人もいる。死人はいないようだが、助けに行くなら早い方がいいだろう」

「行こうよ。同じ冒険者仲間だし見捨てれないよ」

 私の言葉に全員が頷き、エリーゼは支援魔法を発動する為に集中を始めた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

策が咲く〜死刑囚の王女と騎士の生存戦略〜

鋸鎚のこ
ファンタジー
亡国の王女シロンは、死刑囚鉱山へと送り込まれるが、そこで出会ったのは隣国の英雄騎士デュフェルだった。二人は運命的な出会いを果たし、力を合わせて大胆な脱獄劇を成功させる。 だが、自由を手に入れたその先に待っていたのは、策略渦巻く戦場と王宮の陰謀。「生き抜くためなら手段を選ばない」智略の天才・シロンと、「一騎当千の強さで戦局を変える」勇猛な武将・デュフェル。異なる資質を持つ二人が協力し、国家の未来を左右する大逆転を仕掛ける。 これは、互いに背中を預けながら、戦乱の世を生き抜く王女と騎士の生存戦略譚である。 ※この作品はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※本編完結・番外編を不定期投稿のため、完結とさせていただきます。

ぽっちゃりおっさん異世界ひとり旅〜目指せSランク冒険者〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
酒好きなぽっちゃりおっさん。 魔物が跋扈する異世界で転生する。 頭で思い浮かべた事を具現化する魔法《創造魔法》の加護を貰う。 《創造魔法》を駆使して異世界でSランク冒険者を目指す物語。 ※以前完結した作品を修正、加筆しております。 完結した内容を変更して、続編を連載する予定です。

対人恐怖症は異世界でも下を向きがち

こう7
ファンタジー
円堂 康太(えんどう こうた)は、小学生時代のトラウマから対人恐怖症に陥っていた。学校にほとんど行かず、最大移動距離は200m先のコンビニ。 そんな彼は、とある事故をきっかけに神様と出会う。 そして、過保護な神様は異世界フィルロードで生きてもらうために多くの力を与える。 人と極力関わりたくない彼を、老若男女のフラグさん達がじわじわと近づいてくる。 容赦なく迫ってくるフラグさん。 康太は回避するのか、それとも受け入れて前へと進むのか。 なるべく間隔を空けず更新しようと思います! よかったら、読んでください

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

処理中です...