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第一章

戦闘になりそうです

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 冒険者ギルドからの帰り道、私はイリージャが居るのも構わずエリーゼに質問をした。

「エリーゼ、どうしてダンジョンに行くのか教えて?」

「パパに会いに行きます。私達の今後の為にも会わないといけないの」

 答えてくれないかと思ったけど、特に渋る事なくエリーゼは教えてくれた。

「私達の今後の為?」

「そうよ」

「あ、あの~私はお邪魔だと思うからそろそろ……」

「あっ! ごめんイリージャ」

「ううん、いいの。それじゃ明日」

「明日からお願いね」

 イリージャに気を使わせてしまった事を申し訳なく思ったけど、同時に嬉しくも思った。
 イリージャは歳も一緒で冒険者になったのも同期だ。
 カミンに居た時は周りが大人だけだったし、遊び相手もエリーゼだけだった。文字の読み書き、一般常識、剣術の基礎、どんな事でも大人が教えてくれたけど、友達と呼べる同年代の者は一人も居なかった。
 つまり、イリージャは私にとって初めての友達と言えた。それにあの盗賊達との一件で私達の仲は冒険者同期から親友と呼べるまでになったと思う。
 イリージャと別れた後は明日の準備の為にいろいろな店を回った。
 今回は必要な物が二人分になるけど、持ち歩く物を必要最小限にするのは決めてあった。それは『時に忘れられた世界』に仕舞い込んでおく事が出来るからだ。
 必要な物を買い込んでは人に見られない場所で仕舞い込み、これで良しとなると早めに夕飯を食べて家に帰った。

◇     ◇     ◇

 家に着くと二人で明日の準備を始めたけど、あまり時間がかからずに終わってしまった。
 では次に何をするか? そう考えた時に思い浮かんだのは、やはりエリーゼがダンジョンに行く主目的だった。
 『パパに会いに行きます』というのは分かるけど、会ってどうするのかが知りたい。

「エリーゼ、パパに会うのはいいけど、会ってどうするのかも教えてよ?」

「………」

「教えてくれないの?」

「私ね…あなたが先に老いてしまうのが怖いのよ……」

「え?」

「不老不死である私と違ってアイシャは私を置いて先に死んでしまうわ。そんな事は絶対に許容できない。だから私を不老じゃなくしてもらうかあなたを不老にしてもらうつもり。アイシャはどっちがいい?」

「そんなの決めれないよ。でも…私もエリーゼと一緒にいたいな…」

「私もずっとアイシャと一緒にいたい…」

 この話題はいつか必ず問題になると思っていた。エリーゼは十九歳で肉体年齢が固定された。私だってもうじき十九歳になる。今クロノスに会っておいた方が良いという判断は、タイミング的にも間違いではないはずだ。
 悠久の時を生きる事が出来るエリーゼにとって、自分の娘が先に老いていくのを見るのは許容できないというのもわかるし、それに対し私も自分だけ年老いていくのは辛いものがある。だからといって不老になりたいかといえばそうではないのだけど、先ずはクロノスに会い、いろいろと聞いてみない事には判断のしようがない。
 私は小刻みに震えるエリーゼを抱き締め落ち着くのを待った。
 この様子では話しの続きをするのは無理だろう。別にエリーゼに聞かなくたっていい。聞きたい事や疑問はクロノスに会えれば明らかになるのだから。

◇      ◇      ◇

 次の日の朝、待ち合わせ場所に行くと一台の幌馬車が停まっていた。
 御者席にはラパンが乗り、後ろの乗り口からイリージャが顔を出し手招きをしている。

「この馬車どうしたの?」

「荷物も多かろうと思って俺が用意したのさ。遠慮なく荷物を……って全然ねぇじゃねえか!」

 得意気に話しをしていたラパンが、私達の荷物の少なさに驚きの声をあげる。

「てか、もしかしてダンジョンの事ナメてるのか?」

「そうじゃないよ。まあ、これもあとで話す?」

「そうね……後で教えてあげる?」

「なんかアンタ達姉妹は秘密が多すぎなんだよ。まあ、謎多き女も魅力的ではあるがな」

 私達は準備が整うとギルド前を出発した。
 ほとんどの者が徒歩で移動する中、幌馬車とはいえ歩くより何倍も快適だ。いっきに南門まで行くと、冒険者証を見せるだけで身分が証明でき、簡単な検分を受けるだけで街を出る。一時間ほど南へ街道を進み、右へ緩やかに分岐している道へ入る。
 ラパンの話しだと馬車で二日程進めばダンジョンキャンプに着くらしいけど、本日は半分の距離で野営をするらしい。
 途中、幾つかのパーティーとすれ違ったけど、徒歩で移動するパーティーは荷車を用意し荷物を運んでいる。自分達がそうならなかったのは、馬車を用意したラパンの手柄だろう。

「ここから暫くは周りに注意したほうがいい。ゴブリン、ライノサラス、ジャイアントトードといったモンスターが稀に襲撃してくる危険地帯だからな」

 先輩冒険者らしくコーディが説明する。どのモンスターも個体ではそれほど強くないが、ライノサラスだけは違うらしい。

「今の時期だと子連れのライノサラスなんか危険ね」

「エリーゼは行きたいと言うだけあって詳しいな」

「此処らへんは何度か通った事あるから……」

 悲しそうな顔をして話すエリーゼ。
 私はある程度昔の話しを聞いているから分かったけど、他の者にはなぜそんな顔をするのか分かるはずもない。
 そもそも冒険者ではない者がこんな所へ来る事もないんだけど、そこらへんは昨日から話したがらない事を知っている為、誰も探りを入れるような質問はしてこない。
 基本的に冒険者というのは他人の事にあまり干渉しないのだ。
 固定パーティーを組んでいるような仲ならまた違っただろうけど、今回は臨時パーティーであり、次にまたパーティーを組むとは限らないのも理由の一つだ。
 冒険者という人種は、他人が自分の事をどう思っていようが気にしない者だって少なくないのだ。

 周囲を警戒しつつ進む事さらに一時間ほど、やっと危険地帯を抜けるかと思われた頃、ラパンが遥か前方で異状があった事を報告する。
  おそらく火属性魔法を使った者がいて火柱があがったのが見えたらしい。何者かによる戦闘が行われている事で一気に場の緊張感が増す。幌馬車の速度を落として慎重に近づいていくと、私達の目にも戦闘の様子がわかるようになってきた。
 ある程度距離がある場所で幌馬車を停めると、ラパンは御者席から後ろを振り返り前方を指差して注意を促す。

「モンスター対パーティーだとは思うが、数が多いのか激しい戦闘が行われているな。もう少し近づいてみようと思うが、どうする?」
 
「もし苦戦しているようなら見殺しに出来ないし、我々も加勢したほうがいいだろう。俺はラパンの意見に賛成だ」

 顔を見合わせる女三人と違い、すぐさまコーディが的確な意見を述べる。皆が同意の為に一度だけ頷くと馬車は再び走り始め、戦闘をしている場所へゆっくりと近づいていく。
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