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第五章
魔国軍、ハーゲンへの道中で
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戦闘の後始末も終え、魔国軍の姿は再び大平原北東の台上にあった。
途中、先行して戦っていた五十名ほどの兵達を回収し、シュテラと一緒にいくつかの場所を見て周る。
本来であれば、いや、予定通りであれば完全に制御できたはずのワームが暴走してしまい、だいぶ想定外の結果となってしまった。
その原因は分かっている。ウルベリィの持つ妖精族特有の異質な魔力と、魔鉱石が原料となって出来ている古代ゴーレム(ガーディアン)のせいだ。
特にウルベリィの存在は予想外だった。妖精界への門を開き、あれだけの古代ゴーレムを召喚するなどエシリカにとってもイレギュラー過ぎたのだ。つまり、妖精族である事に気付いた時は既に対策するのが遅かったのだ。
「いやはや参ったね。あれだけの事をやってくれるとは予想できなかったよ。そのせいで大きく予定が狂ってしまった。どうしようか?」
「う~ん…どうしようね? ワームも何処かに行っちゃったし、飲み込まれた二人も絶望的だろうなって思う。ウルちゃんカワイかったのになぁ…」
エシリカもシュテラが言う事に何度も頷く。
「ソレだよソレ! ティアルカにワームに飲み込まれたって聞いた時、マジでショックのあまり目の前が真っ暗になったよ…遠慮せずに愛でとけばよかったな」
「そこは遠慮してよ!」
エシリカはショックと言いながらお道化た様子で話す。魔界出身の魔族特有とでも言うべきか、死というものに対して固執しない所があるのだ。所詮は他人であり、一度会っただけの間柄というのもあるだろう。
ただ、カワイイ物好きのエシリカの率直な感想が吐露されただけであり、結果を結果として受け止めているだけなのだ。
シュテラの立てた計画では、遥か太古の時代から地中深くに潜む魔界のワームを呼び寄せ、テイムして自分達が使役するはずだったのだ。もし成功していれば魔国軍の大きな戦力となっていたし、仮に制御できないようであれば討伐してしまうという単純なもので、過去から何度もテイムを繰り返しては失敗という結果に終わっている。
つまり『神様のイタズラ』の正体は魔国軍のモンスターテイムが原因という事になる。迷惑な話しではあるが、それにより得られるソリッドモールの素材は馬鹿にならない。強力な武器や防具の素材になるのだから、運の悪い冒険者のように逃げ遅れたりしなければ大きな収入源になるのだ。
「さて、我々もハーゲンに向かうとするか」
エシリカは魔国軍の殆どを帰還させ、自分を含めた二十名ほどでハーゲンへ向け出発した。
あれだけ暴走したワームの行方は気になるが、それはそのうち調べるとして、まずは冒険者を助けた事でギルドマスターと会談する事になるだろう。
エシリカはギルドマスターが一筋縄ではいかない人物である事を知っている。
それは自分自身が冒険者として活動していた時期があり、少なからず顔を合わせている間柄だから知っているのだが、まあ得をする事はあっても損をする事はないのだし、少しでも恩を高く売る事ができればいいと考えている。
「まあ会うのはいいんだけどね? ちょっとあのオジサン苦手なんだよ」
「ふぅ~ん。エシリカにも苦手な人がいるんだね?」
馬に二人乗りであり、エシリカの顔を見ることが出来ないが、シュテラには物調面をしている顔がはっきりと頭に浮かんでいる。実際そんな顔しているが、エシリカは決してシュテラ以外にそんな顔を見せる事がない。今は自分が隊の先頭にいる為、他の者に見られる事がないからよいが、もし見られていたなら記憶が飛ぶまで頭を掴んでシャッフルしていただろう。
「ふむふむ…随分じゃないか? よ~し、今日の夜はあんな事やこんな事してやるからな!」
「ふぇっ? それはダメだよ。僕はエシリカの玩具じゃないんだからね?」
「そうだっけ?」
「そうだよっ!! って、そろそろふざけてないで真面目な話しをするからね? ええと、アース大陸から来てる使者にはどう返事をするつもりなの?」
二週間ほど前になるが、アース大陸にある魔族の都メトより使者が来ているのだ。
アース大陸は人種が力を持っており、魔族と亜人の立場は弱い。
アース大陸では何百年も前に戦国の世が終わっており、ラターニア王国が一大勢力として他国を先導している。いや、先導する立場と自負しているのだが、それぞれの国は表面上認めているだけであり、何かがあればラターニアの力を削ぎたいと思っているのだ。
その何かを周辺国家を巻き込んで魔族と亜人が起こそうとしているのだが、それに力を貸してほしいというのが使者が持ってきた書状に書いてあった内容だ。
エシリカとしては興味がなくどうでもいいし、兵を貸しただけのメリットがあるとも思えない。ただし、内容の中に一つだけ無視できないものがあった。
それは魔界への恒久的なゲートを確立できるかもしれないというもので、それが成しえた場合は強力な力を持つ魔族が多数こちら側へ来る事になるだろう。そうすれば人種などたまったものではないはずだ。
アース大陸などは魔族が統べる魔大陸となってしまうことだろう。
そこまで考えているかは分からないが、メトで魔族を統べるダルーシャという男は魔界の魔族を甘く見過ぎている。
エシリカはこちら側では数少ない魔界出身の魔族で、魔界にいた頃は嫌というほど戦う日々を繰り返し送っていた。実際には一日という概念や時間の経過すら怪しい世界ではあるのだが。
そんな場所だからこそ自分は強くなれた。そう思わなくもないが、こちらの世界の方が楽しいし戻ろうとは思わない。というか、寧ろこちらの世界を乱してほしくないとさえ思っている。
魔界にいた頃、エシリカの一族は強力な身体強化能力を持つ事で有名だった。
そのせいで名を上げたい者によく命を狙われたりしたが、こちら側ではそんな事は起こらないし、仲間達と面白おかしく暮らして行ければそれでいい。
それらを踏まえてエシリカが下した判断は?
「形だけだが軍船を貸し出してやるとしよう。数はそうだな……十隻だ」
「そんなに?」
「うむ。ラハリクの奴隷商人共に貸しを作ってまで船での輸送をするよりも、奴らにしてみれば軍船の方が有り難いだろうさ。特殊な軍船だし、操船の習熟に半年、操船要員を魔国によこすように伝えといてよ。あとは魔界のゲートだが、もし本当に開けるようなら私が直々に出向いて阻止する! あれを軽々しく開けられるとこっちの世界で楽しめなくなるからね」
「あはは…エシリカは何処までも楽しいが優先だね」
「そこだけは譲れない」
エシリカは言いながら複雑な顔をする。
「そういえばさ、軍船を貸すのはいいけどメトには港がないって話しだよ?」
「ああ、それだって沖に停泊しといて飛龍ゴンドラでピストン輸送すればなんとかなるだろ」
「さすが将軍様はいろいろ考えてるね」
アース大陸に放っている密偵からは『動乱の兆しあり』と報告があがっている。
ラターニア王国は、メト周辺で魔族や亜人が争っているのはいつもの事と軽く見ているようだが、事態はそう軽く簡単なものではない。
メト周辺の小部族は既に国として統一されている状態であり、軍事力だけを見れば人種の国では抗えない程の戦力を有しているのだ。
何やらメトの魔族がラターニアでヘマをしたようだが、敵が動き出すまで数年猶予があるなど見積もりが甘すぎるだろう。まあ、魔国以外の国が乱れればそれがつけ入る隙となるのは悪くない話だ。そこまではいいだろう。
(だが…ゲートだけはダメだ。また塞ぐのだって面倒だし、余計な奴だって来ちゃうしな)
いっその事メトを制圧してしまおうかとも考えたが、制圧した後が面倒なのだ。だから口を挟む口実として軍船を貸すことにしたのだ。
エシリカとしては自分達が統治するガルシアだけあれば十分だし、制圧した後に統治する手間を考えると、跡形も無く滅ぼしてしまった方がまだ楽だと思えるのだ。だが、他大陸にそこまでしてしまえば、周辺国家に侵略行為と取られて後戻り出来なくなるだろう。それこそ面倒以外の何ものでもない。
それにだ。エシリカには何となくアース大陸に行くだろうという予感があるのだ。その理由は二つ、地理的に魔族側がゲートを押さえているのと、自分が魔界とのゲートを閉じた一人であるからだ。
エシリカが魔界に居た頃から思っている事は、平和なだけではつまらないし、ある程度は戦う事を楽しめればよいという事。できればそれが魔族以外の相手であればいいという事。
今この世界の何処にも恒久の平和などないだろうが、自分にとってだいぶ理想に近い状態ではある。
今回も少しだけ関わる事で重要な部分をコントロールできればと思うが、魔族同士で闘う事だけは無いように済ませたいものだ。
(魔族以外がどうなろうとどうでもいいけどね…だけど可愛い者はできるだけ保護しないとなぁ)
などと自分の趣味嗜好に都合のよい事を考えながら馬を駆る。
途中でハーゲンに帰還する冒険者の一団を抜きさり、勾配のついてきた道を登り切ると、まだ距離はあるが前方にハーゲンの北大門が見え始めた。
しばらく今後の展開を頭で考えているうちに随分と時間が経っていたようだ。
後ろから腰に手を回すシュテラも眠そうにしているし、前に移して落ちないように抱きとめてあげる。シュテラの顔を上から覗き込むと天使のように可愛い。魔族的に表現がどうかとは思うが、可愛いものは可愛いのだから仕方がない。
こんな細やかな平和でいい。自分の楽しみが世界からなくならなければいい。自分にとって都合のよい世界のままであればいい。と……エシリカは心から願うのだった。
途中、先行して戦っていた五十名ほどの兵達を回収し、シュテラと一緒にいくつかの場所を見て周る。
本来であれば、いや、予定通りであれば完全に制御できたはずのワームが暴走してしまい、だいぶ想定外の結果となってしまった。
その原因は分かっている。ウルベリィの持つ妖精族特有の異質な魔力と、魔鉱石が原料となって出来ている古代ゴーレム(ガーディアン)のせいだ。
特にウルベリィの存在は予想外だった。妖精界への門を開き、あれだけの古代ゴーレムを召喚するなどエシリカにとってもイレギュラー過ぎたのだ。つまり、妖精族である事に気付いた時は既に対策するのが遅かったのだ。
「いやはや参ったね。あれだけの事をやってくれるとは予想できなかったよ。そのせいで大きく予定が狂ってしまった。どうしようか?」
「う~ん…どうしようね? ワームも何処かに行っちゃったし、飲み込まれた二人も絶望的だろうなって思う。ウルちゃんカワイかったのになぁ…」
エシリカもシュテラが言う事に何度も頷く。
「ソレだよソレ! ティアルカにワームに飲み込まれたって聞いた時、マジでショックのあまり目の前が真っ暗になったよ…遠慮せずに愛でとけばよかったな」
「そこは遠慮してよ!」
エシリカはショックと言いながらお道化た様子で話す。魔界出身の魔族特有とでも言うべきか、死というものに対して固執しない所があるのだ。所詮は他人であり、一度会っただけの間柄というのもあるだろう。
ただ、カワイイ物好きのエシリカの率直な感想が吐露されただけであり、結果を結果として受け止めているだけなのだ。
シュテラの立てた計画では、遥か太古の時代から地中深くに潜む魔界のワームを呼び寄せ、テイムして自分達が使役するはずだったのだ。もし成功していれば魔国軍の大きな戦力となっていたし、仮に制御できないようであれば討伐してしまうという単純なもので、過去から何度もテイムを繰り返しては失敗という結果に終わっている。
つまり『神様のイタズラ』の正体は魔国軍のモンスターテイムが原因という事になる。迷惑な話しではあるが、それにより得られるソリッドモールの素材は馬鹿にならない。強力な武器や防具の素材になるのだから、運の悪い冒険者のように逃げ遅れたりしなければ大きな収入源になるのだ。
「さて、我々もハーゲンに向かうとするか」
エシリカは魔国軍の殆どを帰還させ、自分を含めた二十名ほどでハーゲンへ向け出発した。
あれだけ暴走したワームの行方は気になるが、それはそのうち調べるとして、まずは冒険者を助けた事でギルドマスターと会談する事になるだろう。
エシリカはギルドマスターが一筋縄ではいかない人物である事を知っている。
それは自分自身が冒険者として活動していた時期があり、少なからず顔を合わせている間柄だから知っているのだが、まあ得をする事はあっても損をする事はないのだし、少しでも恩を高く売る事ができればいいと考えている。
「まあ会うのはいいんだけどね? ちょっとあのオジサン苦手なんだよ」
「ふぅ~ん。エシリカにも苦手な人がいるんだね?」
馬に二人乗りであり、エシリカの顔を見ることが出来ないが、シュテラには物調面をしている顔がはっきりと頭に浮かんでいる。実際そんな顔しているが、エシリカは決してシュテラ以外にそんな顔を見せる事がない。今は自分が隊の先頭にいる為、他の者に見られる事がないからよいが、もし見られていたなら記憶が飛ぶまで頭を掴んでシャッフルしていただろう。
「ふむふむ…随分じゃないか? よ~し、今日の夜はあんな事やこんな事してやるからな!」
「ふぇっ? それはダメだよ。僕はエシリカの玩具じゃないんだからね?」
「そうだっけ?」
「そうだよっ!! って、そろそろふざけてないで真面目な話しをするからね? ええと、アース大陸から来てる使者にはどう返事をするつもりなの?」
二週間ほど前になるが、アース大陸にある魔族の都メトより使者が来ているのだ。
アース大陸は人種が力を持っており、魔族と亜人の立場は弱い。
アース大陸では何百年も前に戦国の世が終わっており、ラターニア王国が一大勢力として他国を先導している。いや、先導する立場と自負しているのだが、それぞれの国は表面上認めているだけであり、何かがあればラターニアの力を削ぎたいと思っているのだ。
その何かを周辺国家を巻き込んで魔族と亜人が起こそうとしているのだが、それに力を貸してほしいというのが使者が持ってきた書状に書いてあった内容だ。
エシリカとしては興味がなくどうでもいいし、兵を貸しただけのメリットがあるとも思えない。ただし、内容の中に一つだけ無視できないものがあった。
それは魔界への恒久的なゲートを確立できるかもしれないというもので、それが成しえた場合は強力な力を持つ魔族が多数こちら側へ来る事になるだろう。そうすれば人種などたまったものではないはずだ。
アース大陸などは魔族が統べる魔大陸となってしまうことだろう。
そこまで考えているかは分からないが、メトで魔族を統べるダルーシャという男は魔界の魔族を甘く見過ぎている。
エシリカはこちら側では数少ない魔界出身の魔族で、魔界にいた頃は嫌というほど戦う日々を繰り返し送っていた。実際には一日という概念や時間の経過すら怪しい世界ではあるのだが。
そんな場所だからこそ自分は強くなれた。そう思わなくもないが、こちらの世界の方が楽しいし戻ろうとは思わない。というか、寧ろこちらの世界を乱してほしくないとさえ思っている。
魔界にいた頃、エシリカの一族は強力な身体強化能力を持つ事で有名だった。
そのせいで名を上げたい者によく命を狙われたりしたが、こちら側ではそんな事は起こらないし、仲間達と面白おかしく暮らして行ければそれでいい。
それらを踏まえてエシリカが下した判断は?
「形だけだが軍船を貸し出してやるとしよう。数はそうだな……十隻だ」
「そんなに?」
「うむ。ラハリクの奴隷商人共に貸しを作ってまで船での輸送をするよりも、奴らにしてみれば軍船の方が有り難いだろうさ。特殊な軍船だし、操船の習熟に半年、操船要員を魔国によこすように伝えといてよ。あとは魔界のゲートだが、もし本当に開けるようなら私が直々に出向いて阻止する! あれを軽々しく開けられるとこっちの世界で楽しめなくなるからね」
「あはは…エシリカは何処までも楽しいが優先だね」
「そこだけは譲れない」
エシリカは言いながら複雑な顔をする。
「そういえばさ、軍船を貸すのはいいけどメトには港がないって話しだよ?」
「ああ、それだって沖に停泊しといて飛龍ゴンドラでピストン輸送すればなんとかなるだろ」
「さすが将軍様はいろいろ考えてるね」
アース大陸に放っている密偵からは『動乱の兆しあり』と報告があがっている。
ラターニア王国は、メト周辺で魔族や亜人が争っているのはいつもの事と軽く見ているようだが、事態はそう軽く簡単なものではない。
メト周辺の小部族は既に国として統一されている状態であり、軍事力だけを見れば人種の国では抗えない程の戦力を有しているのだ。
何やらメトの魔族がラターニアでヘマをしたようだが、敵が動き出すまで数年猶予があるなど見積もりが甘すぎるだろう。まあ、魔国以外の国が乱れればそれがつけ入る隙となるのは悪くない話だ。そこまではいいだろう。
(だが…ゲートだけはダメだ。また塞ぐのだって面倒だし、余計な奴だって来ちゃうしな)
いっその事メトを制圧してしまおうかとも考えたが、制圧した後が面倒なのだ。だから口を挟む口実として軍船を貸すことにしたのだ。
エシリカとしては自分達が統治するガルシアだけあれば十分だし、制圧した後に統治する手間を考えると、跡形も無く滅ぼしてしまった方がまだ楽だと思えるのだ。だが、他大陸にそこまでしてしまえば、周辺国家に侵略行為と取られて後戻り出来なくなるだろう。それこそ面倒以外の何ものでもない。
それにだ。エシリカには何となくアース大陸に行くだろうという予感があるのだ。その理由は二つ、地理的に魔族側がゲートを押さえているのと、自分が魔界とのゲートを閉じた一人であるからだ。
エシリカが魔界に居た頃から思っている事は、平和なだけではつまらないし、ある程度は戦う事を楽しめればよいという事。できればそれが魔族以外の相手であればいいという事。
今この世界の何処にも恒久の平和などないだろうが、自分にとってだいぶ理想に近い状態ではある。
今回も少しだけ関わる事で重要な部分をコントロールできればと思うが、魔族同士で闘う事だけは無いように済ませたいものだ。
(魔族以外がどうなろうとどうでもいいけどね…だけど可愛い者はできるだけ保護しないとなぁ)
などと自分の趣味嗜好に都合のよい事を考えながら馬を駆る。
途中でハーゲンに帰還する冒険者の一団を抜きさり、勾配のついてきた道を登り切ると、まだ距離はあるが前方にハーゲンの北大門が見え始めた。
しばらく今後の展開を頭で考えているうちに随分と時間が経っていたようだ。
後ろから腰に手を回すシュテラも眠そうにしているし、前に移して落ちないように抱きとめてあげる。シュテラの顔を上から覗き込むと天使のように可愛い。魔族的に表現がどうかとは思うが、可愛いものは可愛いのだから仕方がない。
こんな細やかな平和でいい。自分の楽しみが世界からなくならなければいい。自分にとって都合のよい世界のままであればいい。と……エシリカは心から願うのだった。
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