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第四章
ダンジョンをみつけました
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今私が持っているロングソードは、旅に出る前にエリーゼから渡された物で、通常より魔力伝導率が高い武器であるらしい。本来は特殊効果なりをエンチャントして属性剣として売り出す武器らしいけど、どういった伝か知らないが付与前の物を安く入手したと聞いている。
属性剣などのマジックアイテム用に作られた物だけあり、安物の剣なら壊れてしまう魔力量を平気で流し込める。
私が流し込む魔力量に合わせ光り輝く剣は、剣先の延長が数メートルに達し、そろそろいいだろうと見極めた所で衝撃波を放った。
「ヤアアァァァァッ」
烈帛の気合いとともに私を起点に放たれた衝撃波は、三十メートル程の幅で前方に存在する物を薙ぎ払っていく。
その威力は凄まじく、出現したばかりのモンスター達と、まだ壊れていない外柵や樹木を巻き込みながら、数百メートル先まで根こそぎ破壊し尽くしてしまった。
これには野猿も恐怖を覚えたみたいで、司令塔らしき亜種が鳴き声をあげると脱兎の如く逃げ始めた。
「ティアルカ、後を追って住処を見つけろ。確認できたら一人で入らず一度戻って来い」
「分かった」
今此処にいる中では、魔気を纏わない状態でもティアが一番身軽だ。
指示を受けたティアは、私にハルバードを預けてショートソードを受け取ると、一番最後尾を逃げる野猿の追跡を開始した。
(ティア、気をつけてね)
妹分の無事を祈ると周囲を見回し、私は放った衝撃波の被害を見て溜息をついた。
(や、やりすぎた……)
ティアルカが帰って来るまでの時間、待っている者もただ待っていた訳ではない。
衝撃波から生き残ったモンスターの掃討が終わりると、被害状況の把握、怪我人の治療とヴィラ・ププリは大騒ぎとなった。アイシャが破壊した分は除いても、犠牲者や怪我人をいれ、今までこれだけの被害が出た事がなかったからである。大騒ぎではあるが混乱していないのは、エミンとトナテがそれぞれ率いている者に的確な指示を与えているからだろう。
一方アイシャ達は大きく破壊してしまった外柵部分の歩哨を担当していた。
外柵の代わりにガーディアンを横一列に並べ、内側にも三体ほど待機させる。また転移してくるかもしれないモンスターに対し、人の目が無いのは不安が残る為、今は三人一緒に待機してティアルカの帰りを待っている所だ。
トナテは修繕すればいいから気にする事は無いと言ったが、今までモンスターの侵入を阻んでいただろう御神体の力はもう無い。そうなると早急に原因解明と対策が必要だ。
修繕にかかる時間、人数、木材の量などを私とグランツで見積もっていると、左手の方からエミンが近付いてきた。エミンは私から見ても長身でスタイルのいい美人さんです。きっとドレスなんか着たら似合うと思うんだけど、騎士なんかやってるのは勿体ないなって思う。
私がグランツに用だろうと決め付けていると、不意をつかれる形で話し掛けられてしまった。
「ア、アイシャ殿」
「は、はいっ?」
声が上ずってしまった。
「私と少し話しをしないか? 本当はティアルカ殿とも話しをしたかったのだが……」
騎士様が冒険者と話したいなど一体どんな話しなんだろう。とりあえず少し話しを聞いてみる事にする。
「どんな話し?」
「そ、その……若い女の身でありながらあれ程の力をどうやって身につけたのか聞きたいと思って。それに使っていた魔剣も……」
「あ……あぁ……さっきのですか?」
「そうだ」
私は話してもいいものなのか困ってしまいグランツを見る。
「話したいなら話しても構わんだろう。好きにしろ」
グランツが好きにしろと言うのなら、エミンは大丈夫なのだろう。
「うん。お話ししましょ」
「ありがとう。ではまず使っていた魔剣を見せてほしい」
魔剣ではないけど、見せて欲しいといわれれば承諾したので見せる。今は魔剣の力だって思ってるのね。
私はエミンの前でも気にせずスキルで剣を出して渡した。
「ア、アイテムボックスか?」
「ま、まあそんな感じ……」
剣を受け取ったエミンはいろいろな角度から見てるけど、頭の上にハテナマークが見えそうなくらい不思議そうな顔をし首を傾げている。やはり魔剣ではないというのが分かるのだろう。
「これは魔剣ではないようだが、本当に先程使っていた剣か?」
「ええ、それと魔剣ではないというのもあっているわ」
「なっ!?」
「う~ん、私の場合はどんな剣でも魔剣のように使えてしまうの。その剣は魔力伝導率がよいだけの剣よ。属性剣にして売り出す前のものらしいわ」
エミンはまた首を傾げると、もう一度剣を確かめ頷いてから返してよこす。
「つまりは何かしらのスキルを使ってという事か?」
「そうね。そもそもが神に与えられた力だから……」
「神だと!? ではあなたは神の啓示を受けた勇者か使徒なのか?」
「ええと、そんな大層なものじゃなくって眷属です……はい……」
眷属という言葉を聞くとエミンの目が大きく見開かれ、驚きに言葉も出ない状態となった。
「あの……エミン?」
「い、いや、なんというか……私の認識では、神の眷属とは神の力を分け与えられ、既に神にも等しい存在なのだが……」
「エミンの言う事は合ってるとは思うけど、私は冒険者をしたくてやってるのよ。しかも人間としてね」
「そうか……」
少し落ち着いてから話しを聞いてみると、モンスターを一瞬で大量殺傷してのけた技をどのようにして身に付けたのか聞きたかったらしい。
実力主義のタキアで女だてらに騎士をしているだけあり、私やティアの強さに興味をもったとの事だった。
値の張る属性剣や魔剣の類いならまだいい。しかし、神に与えられた力、眷属だのと聞いてしまっては人が行使できる力ではないと思い落胆してしまったようだ。
若い騎士が迎えに来ると、エミンは『邪魔をしてしまってすまなかった』と謝り戻っていった。
◇ ◇ ◇
逃げる野猿を追うティアルカは、相手に気付かれないギリギリの距離を付いていく。
森林の中の追跡だというのに移動速度が速い為、もうヴィラ・ププリから数キロは離れているはずだ。既に先頭を行く野猿の気配は感じ取れるギリギリの距離だ。だが、もし感じ取れなくなっても前を行く野猿を見失わなければ問題は無いだろう。
そこまで自分で判断すると、ティアルカは前を行く野猿の追跡だけに集中する。複雑な経路は特に無い。ほぼ一直線に住処に向かっているのか、野猿の方は周囲をあまり警戒していないようだ。
途中、擬態していたリトルマンティスがビックリしたのか飛び付いて来たが、それは鮮やかに手刀で叩き落とし撃退した。
前方の野猿の気配がどんどん消えていき、それに合わせてある地形が近付いてくる。それは森林の切れ目ともいうべき地形だ。幅は十メートルほどで深さがわからない断崖絶壁の崖が足元に広がり、崖に沿って少し進めば三十メートルほどの切り立った岩山が見て取れる。野猿は崖に落ちる事なく切り立った岩山を後ろ側へ回り込むように姿を消した。ティアルカは崖の手前で立ち止まると、ゆっくり暗闇が支配する崖下を覗き込んだ。すると、普通に見ただけでは死角になるように大きな岩棚が岩山のはじまり辺りから続き、降り立って進んでみると大きな横穴が開いているのが確認できた。おそらく野猿達の住処だろう事はわかるが、村の近くに転移されてきた秘密は洞窟の中を調査しなければ分からないだろう。
ティアルカは入って確認したい気持ちを抑えると、崖を上り村の方向を向いて引き返し始める。グランツの指示で住処を確認だけして戻れと言われたからだ。それに、自分だけで調査をし、何かあった場合は情報を伝える事が出来なくなる事くらいは判断できる。
もう追跡する相手もいない為、来た時より速度を上げ帰路を急ぐが、一つだけ気になったのは野猿達の気配だ。
住処の近くだというのに、崖上でも全く感じ取る事が出来なかったのだ。
(急いで帰ろう)
ティアルカは魔気を纏い、更に移動速度を上げた。
◇ ◇ ◇
ティアルカが帰ってきた頃には、プチカ族とタキアが合同で外柵の応急補修に取り掛かっていた。重い木の運搬にはウルが操るガーディアンが力を発揮し、今は主だった者が再度広場に集まりティアルカの報告を聞いているところだ。
「つまり、プチカ族も知らない洞窟という事か。思ったよりも大家族で構成された野猿かもしれないが、それが他のモンスターともどもここに転送されてきた理由には結びつかない。これは早急に調査をしなければならないな」
「調査にはタキアからも私以下三名ほど同行させていただきたい」
「ではプチカ族からも四人の戦士を出そう」
「こちらはウルも含めて全員行く。特に難しい道順ではないようだが、用心に越したことはないだろうし、ここの守りも固めたい所だが、残りの者で大丈夫か?」
トナテが少し考え込むが問題ないと答えた。
「よし、ならば明日は暗いうちから移動する。野猿は人と同じリズムで寝起きする。すなわち夜は活動しない。朝方暗いうちから移動し、早朝に洞窟内に入るとしよう。人が先頭なら危険が伴うが、ガーディアンを先頭に入っていけば被害もないだろう」
それから明日の移動開始時間などいろいろ決め、そろそろ解散かという頃にティアルカが思い出したようにグランツに話しかけた。
「グランツ、話すの忘れたけど一つだけ気になる事があった」
「なんだ?」
「洞窟内には野猿がいるはずなのに、入った後は気配が消えてしまう。その理由まではわからなかった」
「ふむ……」
それに関してはグランツも少し思い当たる事があったが、確定ではない為今は言わない。
「まあ、明日行ってみればわかるさ」
話しは決まった。本日はタキアもこのまま野営に入り、私達も空き家を提供してもらい自由時間となった。
夜は歩哨に慣れているタキアの者が交代で付いてくれる事になり、何かあれば銅鑼を叩いて知らせるという段取りも取り決められた。
プチカ族はもともと就寝が早いらしく既に家の明かりが消えている所が多いけど、私はまだまだ寝れそうにない。
一旦グランツを追い出し、ティアとウルと一緒に体を拭く。その後は明日に備えて武器と防具の手入れをし、とりあえず横になってればそのうち寝るだろうというグランツの言葉に従い就寝する。
すると今日起きた事がいろいろと思い出された。まだ少し興奮してるのかもしれない。
野猿、その他にもモンスターが転移されてくるという異常事態。私は野猿の襲撃よりもその事が気になった。それは、その瞬間こそ見ていないけど、時縛りのダンジョンでもオーガが転移されてきて戦闘になったという経験があるからだ。今回の状況がその時の状況に似ているのがどうにも気になる。
横になりながらいろいろな事を考えていると、ウルが私とティアの間に潜り混んできたので受け入れてあげる。
抱きつかれながら王都に残してきたエリーゼは今頃どうしているか考えていると、急に強い睡魔に襲われゆっくりと眠りに落ちて行った。
次の日、私達は月明りだけを頼りに暗い内から行動を開始した。目指すはプチカ族も知らない未踏の洞窟。そこは只の野猿の住処なのか、それとも他に何か秘密があるのか、およそ三時間歩いて目的地に着くと、ゆっくり足場を作りながら崖下の岩棚に降り立つ。そこにはティアの報告通り野猿の住処と目される洞窟の入り口があった。
これも報告通りだけど、入る前から野猿はおろか他のモンスターの気配が感じられない。
ウルの操作する二体のガーディアンを先頭に洞窟内に入って進んでいくと、今のところ特に分岐がある訳でもなく単調な一本道が真っ直ぐ続くだけだ。
そのまま十分ほど歩いただろうか、少し下りになり前方が明るくなっているのが見えだした。やっと別な場所に出るみたい。そのまま光を目指して進み、通路を抜け出ると私達は全員絶句してしまう。
抜けた先は切り立った岩壁になっててて、下を見下ろせばそこは鬱蒼と生い茂る密林だ。濃い緑の匂いが立ち込め、モンスターや他の生き物の気配もかなりの数が感じ取れる。その中には今まで感じた事がないような危険な気配を放っているモンスターがいるのも分かる。
「もしかしたらとは思ったが……やはりダンジョンか!! しかも相当な規模だ。一番高い場所だろうここから見ても向こう側の終わりが見えないとは……」
『ダンジョン!?』
全員がそれぞれに驚きを表現した後は、暫く誰も声を出す事なく立ち尽くした。今まで誰も存在を知らなかった広大な未踏のダンジョンが目の前に広がっていた。しかし、驚くのはダンジョンの広さだけではない。だいぶ離れた位置にはなるが、空を何匹かの小さな群れを連れドラゴンらしきものが飛んでいるのである。その他にも多くのモンスターの気配が密林の中を移動しているのを感じ取れるがその数は尋常ではない。もしここ以外にも別な階層があるとしたらとんでもない規模のダンジョンだというのが分かる。
アイシャは知らぬ間に手に汗を握っていた。それは見知らぬ空飛ぶモンスターを見た事や、多くのモンスターの気配を感じたからではない。恐怖からではないのは自分でもわかる。一度ぶるりと身震いをした後は体の芯が勝手に熱くなってくるのを感じ取れるのだ。そう、それは……。
(これ! これだわ! 湖底遺跡を見つけた時にも思ったけど、これだから冒険者はやめられないのよ)
まだ誰も知らないダンジョンを冒険できる。
驚きの後にアイシャを襲ったのは、止めどなく波のように押し寄せてくるワクワク感であった。
--------------------------------
現ステータス(簡易)
アイシャ・職種(剣士)
スキル1【肉体再生能力・空間操作能力・不老】
スキル2【武器等魔剣化:魔力付与】
スキル3【治癒の涙:血にも効果あり】
現在C級冒険者。
肉体年齢は十八歳で固定された。
修行の旅で成長中。
ティアルカ・職種(剣士)
年齢(不明)
スキル1【夢魔に近い能力を持つ】
スキル2【深紅の魔眼:能力の詳細は不明】
スキル3【魔気:身体能力強化】
現在C級冒険者。
魔族であり魔力や身体能力が高い。
武器は通常より丈夫で重いハルバードを使用。
ウル・職種(クリエイター)
年齢(不明)
スキル 【魔導兵作成・制御・修理】
魔導兵(ガーディアン)を作成使役できる。
妖精に属する種族らしいが、まだいろいろな能力が謎。
属性剣などのマジックアイテム用に作られた物だけあり、安物の剣なら壊れてしまう魔力量を平気で流し込める。
私が流し込む魔力量に合わせ光り輝く剣は、剣先の延長が数メートルに達し、そろそろいいだろうと見極めた所で衝撃波を放った。
「ヤアアァァァァッ」
烈帛の気合いとともに私を起点に放たれた衝撃波は、三十メートル程の幅で前方に存在する物を薙ぎ払っていく。
その威力は凄まじく、出現したばかりのモンスター達と、まだ壊れていない外柵や樹木を巻き込みながら、数百メートル先まで根こそぎ破壊し尽くしてしまった。
これには野猿も恐怖を覚えたみたいで、司令塔らしき亜種が鳴き声をあげると脱兎の如く逃げ始めた。
「ティアルカ、後を追って住処を見つけろ。確認できたら一人で入らず一度戻って来い」
「分かった」
今此処にいる中では、魔気を纏わない状態でもティアが一番身軽だ。
指示を受けたティアは、私にハルバードを預けてショートソードを受け取ると、一番最後尾を逃げる野猿の追跡を開始した。
(ティア、気をつけてね)
妹分の無事を祈ると周囲を見回し、私は放った衝撃波の被害を見て溜息をついた。
(や、やりすぎた……)
ティアルカが帰って来るまでの時間、待っている者もただ待っていた訳ではない。
衝撃波から生き残ったモンスターの掃討が終わりると、被害状況の把握、怪我人の治療とヴィラ・ププリは大騒ぎとなった。アイシャが破壊した分は除いても、犠牲者や怪我人をいれ、今までこれだけの被害が出た事がなかったからである。大騒ぎではあるが混乱していないのは、エミンとトナテがそれぞれ率いている者に的確な指示を与えているからだろう。
一方アイシャ達は大きく破壊してしまった外柵部分の歩哨を担当していた。
外柵の代わりにガーディアンを横一列に並べ、内側にも三体ほど待機させる。また転移してくるかもしれないモンスターに対し、人の目が無いのは不安が残る為、今は三人一緒に待機してティアルカの帰りを待っている所だ。
トナテは修繕すればいいから気にする事は無いと言ったが、今までモンスターの侵入を阻んでいただろう御神体の力はもう無い。そうなると早急に原因解明と対策が必要だ。
修繕にかかる時間、人数、木材の量などを私とグランツで見積もっていると、左手の方からエミンが近付いてきた。エミンは私から見ても長身でスタイルのいい美人さんです。きっとドレスなんか着たら似合うと思うんだけど、騎士なんかやってるのは勿体ないなって思う。
私がグランツに用だろうと決め付けていると、不意をつかれる形で話し掛けられてしまった。
「ア、アイシャ殿」
「は、はいっ?」
声が上ずってしまった。
「私と少し話しをしないか? 本当はティアルカ殿とも話しをしたかったのだが……」
騎士様が冒険者と話したいなど一体どんな話しなんだろう。とりあえず少し話しを聞いてみる事にする。
「どんな話し?」
「そ、その……若い女の身でありながらあれ程の力をどうやって身につけたのか聞きたいと思って。それに使っていた魔剣も……」
「あ……あぁ……さっきのですか?」
「そうだ」
私は話してもいいものなのか困ってしまいグランツを見る。
「話したいなら話しても構わんだろう。好きにしろ」
グランツが好きにしろと言うのなら、エミンは大丈夫なのだろう。
「うん。お話ししましょ」
「ありがとう。ではまず使っていた魔剣を見せてほしい」
魔剣ではないけど、見せて欲しいといわれれば承諾したので見せる。今は魔剣の力だって思ってるのね。
私はエミンの前でも気にせずスキルで剣を出して渡した。
「ア、アイテムボックスか?」
「ま、まあそんな感じ……」
剣を受け取ったエミンはいろいろな角度から見てるけど、頭の上にハテナマークが見えそうなくらい不思議そうな顔をし首を傾げている。やはり魔剣ではないというのが分かるのだろう。
「これは魔剣ではないようだが、本当に先程使っていた剣か?」
「ええ、それと魔剣ではないというのもあっているわ」
「なっ!?」
「う~ん、私の場合はどんな剣でも魔剣のように使えてしまうの。その剣は魔力伝導率がよいだけの剣よ。属性剣にして売り出す前のものらしいわ」
エミンはまた首を傾げると、もう一度剣を確かめ頷いてから返してよこす。
「つまりは何かしらのスキルを使ってという事か?」
「そうね。そもそもが神に与えられた力だから……」
「神だと!? ではあなたは神の啓示を受けた勇者か使徒なのか?」
「ええと、そんな大層なものじゃなくって眷属です……はい……」
眷属という言葉を聞くとエミンの目が大きく見開かれ、驚きに言葉も出ない状態となった。
「あの……エミン?」
「い、いや、なんというか……私の認識では、神の眷属とは神の力を分け与えられ、既に神にも等しい存在なのだが……」
「エミンの言う事は合ってるとは思うけど、私は冒険者をしたくてやってるのよ。しかも人間としてね」
「そうか……」
少し落ち着いてから話しを聞いてみると、モンスターを一瞬で大量殺傷してのけた技をどのようにして身に付けたのか聞きたかったらしい。
実力主義のタキアで女だてらに騎士をしているだけあり、私やティアの強さに興味をもったとの事だった。
値の張る属性剣や魔剣の類いならまだいい。しかし、神に与えられた力、眷属だのと聞いてしまっては人が行使できる力ではないと思い落胆してしまったようだ。
若い騎士が迎えに来ると、エミンは『邪魔をしてしまってすまなかった』と謝り戻っていった。
◇ ◇ ◇
逃げる野猿を追うティアルカは、相手に気付かれないギリギリの距離を付いていく。
森林の中の追跡だというのに移動速度が速い為、もうヴィラ・ププリから数キロは離れているはずだ。既に先頭を行く野猿の気配は感じ取れるギリギリの距離だ。だが、もし感じ取れなくなっても前を行く野猿を見失わなければ問題は無いだろう。
そこまで自分で判断すると、ティアルカは前を行く野猿の追跡だけに集中する。複雑な経路は特に無い。ほぼ一直線に住処に向かっているのか、野猿の方は周囲をあまり警戒していないようだ。
途中、擬態していたリトルマンティスがビックリしたのか飛び付いて来たが、それは鮮やかに手刀で叩き落とし撃退した。
前方の野猿の気配がどんどん消えていき、それに合わせてある地形が近付いてくる。それは森林の切れ目ともいうべき地形だ。幅は十メートルほどで深さがわからない断崖絶壁の崖が足元に広がり、崖に沿って少し進めば三十メートルほどの切り立った岩山が見て取れる。野猿は崖に落ちる事なく切り立った岩山を後ろ側へ回り込むように姿を消した。ティアルカは崖の手前で立ち止まると、ゆっくり暗闇が支配する崖下を覗き込んだ。すると、普通に見ただけでは死角になるように大きな岩棚が岩山のはじまり辺りから続き、降り立って進んでみると大きな横穴が開いているのが確認できた。おそらく野猿達の住処だろう事はわかるが、村の近くに転移されてきた秘密は洞窟の中を調査しなければ分からないだろう。
ティアルカは入って確認したい気持ちを抑えると、崖を上り村の方向を向いて引き返し始める。グランツの指示で住処を確認だけして戻れと言われたからだ。それに、自分だけで調査をし、何かあった場合は情報を伝える事が出来なくなる事くらいは判断できる。
もう追跡する相手もいない為、来た時より速度を上げ帰路を急ぐが、一つだけ気になったのは野猿達の気配だ。
住処の近くだというのに、崖上でも全く感じ取る事が出来なかったのだ。
(急いで帰ろう)
ティアルカは魔気を纏い、更に移動速度を上げた。
◇ ◇ ◇
ティアルカが帰ってきた頃には、プチカ族とタキアが合同で外柵の応急補修に取り掛かっていた。重い木の運搬にはウルが操るガーディアンが力を発揮し、今は主だった者が再度広場に集まりティアルカの報告を聞いているところだ。
「つまり、プチカ族も知らない洞窟という事か。思ったよりも大家族で構成された野猿かもしれないが、それが他のモンスターともどもここに転送されてきた理由には結びつかない。これは早急に調査をしなければならないな」
「調査にはタキアからも私以下三名ほど同行させていただきたい」
「ではプチカ族からも四人の戦士を出そう」
「こちらはウルも含めて全員行く。特に難しい道順ではないようだが、用心に越したことはないだろうし、ここの守りも固めたい所だが、残りの者で大丈夫か?」
トナテが少し考え込むが問題ないと答えた。
「よし、ならば明日は暗いうちから移動する。野猿は人と同じリズムで寝起きする。すなわち夜は活動しない。朝方暗いうちから移動し、早朝に洞窟内に入るとしよう。人が先頭なら危険が伴うが、ガーディアンを先頭に入っていけば被害もないだろう」
それから明日の移動開始時間などいろいろ決め、そろそろ解散かという頃にティアルカが思い出したようにグランツに話しかけた。
「グランツ、話すの忘れたけど一つだけ気になる事があった」
「なんだ?」
「洞窟内には野猿がいるはずなのに、入った後は気配が消えてしまう。その理由まではわからなかった」
「ふむ……」
それに関してはグランツも少し思い当たる事があったが、確定ではない為今は言わない。
「まあ、明日行ってみればわかるさ」
話しは決まった。本日はタキアもこのまま野営に入り、私達も空き家を提供してもらい自由時間となった。
夜は歩哨に慣れているタキアの者が交代で付いてくれる事になり、何かあれば銅鑼を叩いて知らせるという段取りも取り決められた。
プチカ族はもともと就寝が早いらしく既に家の明かりが消えている所が多いけど、私はまだまだ寝れそうにない。
一旦グランツを追い出し、ティアとウルと一緒に体を拭く。その後は明日に備えて武器と防具の手入れをし、とりあえず横になってればそのうち寝るだろうというグランツの言葉に従い就寝する。
すると今日起きた事がいろいろと思い出された。まだ少し興奮してるのかもしれない。
野猿、その他にもモンスターが転移されてくるという異常事態。私は野猿の襲撃よりもその事が気になった。それは、その瞬間こそ見ていないけど、時縛りのダンジョンでもオーガが転移されてきて戦闘になったという経験があるからだ。今回の状況がその時の状況に似ているのがどうにも気になる。
横になりながらいろいろな事を考えていると、ウルが私とティアの間に潜り混んできたので受け入れてあげる。
抱きつかれながら王都に残してきたエリーゼは今頃どうしているか考えていると、急に強い睡魔に襲われゆっくりと眠りに落ちて行った。
次の日、私達は月明りだけを頼りに暗い内から行動を開始した。目指すはプチカ族も知らない未踏の洞窟。そこは只の野猿の住処なのか、それとも他に何か秘密があるのか、およそ三時間歩いて目的地に着くと、ゆっくり足場を作りながら崖下の岩棚に降り立つ。そこにはティアの報告通り野猿の住処と目される洞窟の入り口があった。
これも報告通りだけど、入る前から野猿はおろか他のモンスターの気配が感じられない。
ウルの操作する二体のガーディアンを先頭に洞窟内に入って進んでいくと、今のところ特に分岐がある訳でもなく単調な一本道が真っ直ぐ続くだけだ。
そのまま十分ほど歩いただろうか、少し下りになり前方が明るくなっているのが見えだした。やっと別な場所に出るみたい。そのまま光を目指して進み、通路を抜け出ると私達は全員絶句してしまう。
抜けた先は切り立った岩壁になっててて、下を見下ろせばそこは鬱蒼と生い茂る密林だ。濃い緑の匂いが立ち込め、モンスターや他の生き物の気配もかなりの数が感じ取れる。その中には今まで感じた事がないような危険な気配を放っているモンスターがいるのも分かる。
「もしかしたらとは思ったが……やはりダンジョンか!! しかも相当な規模だ。一番高い場所だろうここから見ても向こう側の終わりが見えないとは……」
『ダンジョン!?』
全員がそれぞれに驚きを表現した後は、暫く誰も声を出す事なく立ち尽くした。今まで誰も存在を知らなかった広大な未踏のダンジョンが目の前に広がっていた。しかし、驚くのはダンジョンの広さだけではない。だいぶ離れた位置にはなるが、空を何匹かの小さな群れを連れドラゴンらしきものが飛んでいるのである。その他にも多くのモンスターの気配が密林の中を移動しているのを感じ取れるがその数は尋常ではない。もしここ以外にも別な階層があるとしたらとんでもない規模のダンジョンだというのが分かる。
アイシャは知らぬ間に手に汗を握っていた。それは見知らぬ空飛ぶモンスターを見た事や、多くのモンスターの気配を感じたからではない。恐怖からではないのは自分でもわかる。一度ぶるりと身震いをした後は体の芯が勝手に熱くなってくるのを感じ取れるのだ。そう、それは……。
(これ! これだわ! 湖底遺跡を見つけた時にも思ったけど、これだから冒険者はやめられないのよ)
まだ誰も知らないダンジョンを冒険できる。
驚きの後にアイシャを襲ったのは、止めどなく波のように押し寄せてくるワクワク感であった。
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現ステータス(簡易)
アイシャ・職種(剣士)
スキル1【肉体再生能力・空間操作能力・不老】
スキル2【武器等魔剣化:魔力付与】
スキル3【治癒の涙:血にも効果あり】
現在C級冒険者。
肉体年齢は十八歳で固定された。
修行の旅で成長中。
ティアルカ・職種(剣士)
年齢(不明)
スキル1【夢魔に近い能力を持つ】
スキル2【深紅の魔眼:能力の詳細は不明】
スキル3【魔気:身体能力強化】
現在C級冒険者。
魔族であり魔力や身体能力が高い。
武器は通常より丈夫で重いハルバードを使用。
ウル・職種(クリエイター)
年齢(不明)
スキル 【魔導兵作成・制御・修理】
魔導兵(ガーディアン)を作成使役できる。
妖精に属する種族らしいが、まだいろいろな能力が謎。
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