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一章
どこにでもあった幸せ(6)
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「いいよ。元から六つも当てはめるとか無理だろって思ってたし、普通に説明してくれるだけでもありがたい」
「それじゃあそうさせてもらうよ。あと残っているのはルダス、マニア、アガペーの三つだけど君は何から聞きたい?」
葵は指を三本立て、こちらに向けて来る。
うーん、何から聞きたいと言われてもな……。
「あー、じゃあ平野妹の時に少し触れてたマニアからで」
「分かった。再度言うけどこれから先は身近にいないものの説明だから、さっきまでよりもずっと端的で淡白な言い方になるかもしれない」
「ああ、大丈夫だ。もしかしたらその方が分かりやすい可能性すらあるし、説明が短くなって」
「失礼な奴だな、君は」
葵は心外そうに頬を膨らませる。
なんだそれ、かわ…………いや、今はこの感情は置いておこう。
「では君のお望み通り短く話をまとめよう」
俺が自分の感情と葛藤しているうちに、葵は皮肉を交えながらマニアについて説明を始めてくれた。
「マニアは偏執的で、とても熱狂的な愛の形だ。相手に対して酷く嫉妬をしたり、普通では考えられないくらい執着する。その様はまるで狂っているようにも見えて、人によってはマニアを病的な愛とも呼ぶそうだ」
「病的、ねぇ……。そこまで愛されたらある意味幸せなのかな」
「どうだろうね。そのせいで束縛が強くなり過ぎたりもするらしいから、一概に幸せとは言えないと思うよ。ほら、平野透みたいに異性との接触を完全に禁止されたり、誰かとの連絡を逐一チェックされたりなんてのを想像してごらん。少なくとも私は窮屈に感じるだろうね」
どこへ行くのにも付いてこられて、誰かと話すのも注意されて、何をするのにも監視される。
……うん、俺もさすがに嫌だな。
「ちょっと想像してみたけど俺も我慢できそうにないな……」
「だろう? いや、感性が同じ相手同士だったら問題は無いんだろうけど、そんなケースは大半の人が恋人を作っている昔ですら少なかったらしいからね。どうしてもマニアは一方的な愛になってしまうそうなんだ」
「そりゃあ昔は今より人が多かったし、病的に好きになれる相手の、病的に好きになれる対象が自分になるなんて不可能にも近いだろ」
「いや、これは時代の問題ではないと思うよ。そんなことを言い出したら、マニア以外の愛が成立していたことも不自然になるからね。どちらかというとこれは男女の比率の問題かな。マニア型は女性の方が多いらしいから、それに対応する男性が増えない限り、マニア同士の恋愛は中々成立しないんだろう」
葵は人差し指をくるくる回しながら言う。
ふーむ、男女の考え方の差か。今は男女関係なく恋愛とかしないからその発想は無かったな。
「その感じだと男の方が多い愛の形もあったのか?」
「そうだね、ちょうどいいし次はそれについて話そうか。もちろん女性に多い愛の形も男性に多い愛の形も一つじゃないけど、残っている中で君の疑問に該当するのはルダス、恋愛をゲームとして捉える快楽思考の愛だね。複数の相手と関係を持ったりすることが多く、プライバシーが侵害されることを嫌う、先ほどのマニアとは正反対の愛の形さ」
「遊び人ってことか。それもそれで今では考えられないような人間だな。そんな恋愛を気楽に考えられるなんて羨ましい限りだ」
自嘲気味にそう言うと、葵は奇異なものを見るような視線をこちらに向けてきた。
え、何だ。俺そんなに変なこと言ったか?
そりゃ女をとっかえひっかえするようなタイプの人間を羨ましいとか言ったのは倫理的に褒められたことじゃないかもしれないけど、そんな目で見られるような発言でも無いような……。
でもそれはあくまで俺(男)目線の考え方で、女の葵からすると全く理解できないものだったりするのだろうか。
「何か気に障るようなことでも言ってしまったか?」
色々不安になりながら恐る恐る葵の様子を窺うが、葵は手を横に振り否定の意を示す。
「ごめん、そういう訳じゃないんだ。ただ、君が言いそうに無い言葉だったから戸惑ってしまった」
「ああ、そういうことか……。でも、気軽に人を愛せるのを羨ましいって思うやつは結構いそうなものだけどな」
小説で見る恋愛譚や、噂で伝え聞く恋愛譚を羨む奴は少なくない。
それが自分の中には存在しない感情だとしても、いや、存在しない感情だからこそ人は誰かを好きになるということに憧れを持つ。
だからルダスと呼ばれるゲーム感覚で多くの人と遊べる考え方に惹かれる奴は、きっと俺以外にもいっぱいいる。
「うん、それはいるだろうね。私だってそれがどんな気持ちなのか知るために体験してみたくもある。だけど、君はそんな無いものねだりをしないんじゃないかと思ってたからさ」
葵はうーん、と言いながら虚空を見上げる。今までの俺の言動を思い返したりしているのかもしれない。
「それじゃあそうさせてもらうよ。あと残っているのはルダス、マニア、アガペーの三つだけど君は何から聞きたい?」
葵は指を三本立て、こちらに向けて来る。
うーん、何から聞きたいと言われてもな……。
「あー、じゃあ平野妹の時に少し触れてたマニアからで」
「分かった。再度言うけどこれから先は身近にいないものの説明だから、さっきまでよりもずっと端的で淡白な言い方になるかもしれない」
「ああ、大丈夫だ。もしかしたらその方が分かりやすい可能性すらあるし、説明が短くなって」
「失礼な奴だな、君は」
葵は心外そうに頬を膨らませる。
なんだそれ、かわ…………いや、今はこの感情は置いておこう。
「では君のお望み通り短く話をまとめよう」
俺が自分の感情と葛藤しているうちに、葵は皮肉を交えながらマニアについて説明を始めてくれた。
「マニアは偏執的で、とても熱狂的な愛の形だ。相手に対して酷く嫉妬をしたり、普通では考えられないくらい執着する。その様はまるで狂っているようにも見えて、人によってはマニアを病的な愛とも呼ぶそうだ」
「病的、ねぇ……。そこまで愛されたらある意味幸せなのかな」
「どうだろうね。そのせいで束縛が強くなり過ぎたりもするらしいから、一概に幸せとは言えないと思うよ。ほら、平野透みたいに異性との接触を完全に禁止されたり、誰かとの連絡を逐一チェックされたりなんてのを想像してごらん。少なくとも私は窮屈に感じるだろうね」
どこへ行くのにも付いてこられて、誰かと話すのも注意されて、何をするのにも監視される。
……うん、俺もさすがに嫌だな。
「ちょっと想像してみたけど俺も我慢できそうにないな……」
「だろう? いや、感性が同じ相手同士だったら問題は無いんだろうけど、そんなケースは大半の人が恋人を作っている昔ですら少なかったらしいからね。どうしてもマニアは一方的な愛になってしまうそうなんだ」
「そりゃあ昔は今より人が多かったし、病的に好きになれる相手の、病的に好きになれる対象が自分になるなんて不可能にも近いだろ」
「いや、これは時代の問題ではないと思うよ。そんなことを言い出したら、マニア以外の愛が成立していたことも不自然になるからね。どちらかというとこれは男女の比率の問題かな。マニア型は女性の方が多いらしいから、それに対応する男性が増えない限り、マニア同士の恋愛は中々成立しないんだろう」
葵は人差し指をくるくる回しながら言う。
ふーむ、男女の考え方の差か。今は男女関係なく恋愛とかしないからその発想は無かったな。
「その感じだと男の方が多い愛の形もあったのか?」
「そうだね、ちょうどいいし次はそれについて話そうか。もちろん女性に多い愛の形も男性に多い愛の形も一つじゃないけど、残っている中で君の疑問に該当するのはルダス、恋愛をゲームとして捉える快楽思考の愛だね。複数の相手と関係を持ったりすることが多く、プライバシーが侵害されることを嫌う、先ほどのマニアとは正反対の愛の形さ」
「遊び人ってことか。それもそれで今では考えられないような人間だな。そんな恋愛を気楽に考えられるなんて羨ましい限りだ」
自嘲気味にそう言うと、葵は奇異なものを見るような視線をこちらに向けてきた。
え、何だ。俺そんなに変なこと言ったか?
そりゃ女をとっかえひっかえするようなタイプの人間を羨ましいとか言ったのは倫理的に褒められたことじゃないかもしれないけど、そんな目で見られるような発言でも無いような……。
でもそれはあくまで俺(男)目線の考え方で、女の葵からすると全く理解できないものだったりするのだろうか。
「何か気に障るようなことでも言ってしまったか?」
色々不安になりながら恐る恐る葵の様子を窺うが、葵は手を横に振り否定の意を示す。
「ごめん、そういう訳じゃないんだ。ただ、君が言いそうに無い言葉だったから戸惑ってしまった」
「ああ、そういうことか……。でも、気軽に人を愛せるのを羨ましいって思うやつは結構いそうなものだけどな」
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それが自分の中には存在しない感情だとしても、いや、存在しない感情だからこそ人は誰かを好きになるということに憧れを持つ。
だからルダスと呼ばれるゲーム感覚で多くの人と遊べる考え方に惹かれる奴は、きっと俺以外にもいっぱいいる。
「うん、それはいるだろうね。私だってそれがどんな気持ちなのか知るために体験してみたくもある。だけど、君はそんな無いものねだりをしないんじゃないかと思ってたからさ」
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