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三章 壊れゆく日常編
三話
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不安そうな相生をよそに、何とか大黒は昼休憩の時間の内に昼食を食べ終えた。
「ふぅ……」
しかしかなり無理をしたようで、大黒は運動をし終えた後のような息を吐く。
しばらく静観していた相生だったが、さすがに見るに見かねて立ち上がり大黒の手を取った。
「? どうした委員長?」
「いや、もうあれだよ。帰ろう大黒くん。いくら大丈夫って言われても説得力ないよ」
眉根を下げて心配そうにする相生を正面から見れず、大黒は思わず顔を逸らす。
「でもまだ講義残ってるしなぁ……、ゼミだってあるし。ほら、委員長にまで催促が言ってるくらいだろ? そろそろ出席くらいしとかないとマジで単位が危うい」
「講義くらい私が代返しといてあげるよ。ゼミの方も私から教授に話は通しとくから。大黒くん本人が『体調不良です』って言っても信じてもらえないだろうけど、私が言ったらちゃんと本当のことなんだって分かってくれると思うし」
「俺は教授からそんなに信用無いのか……」
「大黒くんが教授と顔合わせた回数なんて十回あるかないかくらいだし、そこは自業自得だと思うよ……」
担当教授からの信頼の無さにがっくりと肩を落とす大黒を見て、相生の顔に呆れの感情が混じる。
「とにかくっ、大黒くんはちゃんと元気になるまで学校は休むこと! 今まで散っ々学校生活をサポートしてきてあげたんだから、これくらいのお願いは聞いてくれるよね?」
「…………敵わないな委員長には。分かった、従うよ。委員長には負い目、というか借りしかないのも事実だし」
大黒は諦めて相生の手を借りたまま立ち上がる。
そしてホッとした笑みを浮かべた相生はそのまま大黒の手を引っ張って食堂から出ていく。
(本当に、借りばっかり増えていく。磨を守れず、ハクとギクシャクして、周りに心配ばっかりかけて、…………何をやってるんだろう俺は)
相生に手を引かれながら大黒は俯いて自分を責める。
過去は振り返らず、自分のせいで起きたことの責任は自分で取り、他人に借りは作ってもきちんと返す。
そうした信条を大黒は持っていた。
だが、それもこれも磨が死んでからは満足に貫けておらず、ひたすらに自分に言い聞かせることしか出来ていなかった。
今も、自分が不甲斐ないせいで相生に要らぬ世話をかけてしまっている。そのことは大黒の心に重い澱を蓄積させ続けている。
「……そういや委員長どこまで行くんだ? 逃げやしないしもう手を離してもらっても大丈夫なんだけど」
様々な思いを巡らせていた大黒はふと我に返り、現在の状況に疑問を投げかけた。
それに対し相生は、幼子の面倒を見る母親のような顔で答えた。
「そんなわけにもいかないよ。今のままだと大黒くんいつ倒れるか分からないし。確か家は近いんだよね? だったら次の講義にも間に合うだろうし送っていくよ」
「え、いやいや流石にそこまでしてもらうわけには……」
言葉の通りの遠慮と、万が一にでもハクを見られたらという不安で大黒は相生の申し出を断ろうとする。
「いやいやいや、むしろここで別れた方が私的には気になるからさ。家に着けるかも心配になるし。これは私の我儘だから大黒くんが気にすることはないよー」
しかしその面倒見の良さや責任感の強さから委員長と渾名される彼女が、それくらいの言葉で引き下がるわけもなかった。
(ありがたいけどどうしよう……。なんなら家に着いた後も看病してあげるとか言ってくれそうな勢いだ。普通の大学生だったら狂喜するシチュエーションだけど、俺の場合はマズいことにしかならない。ハクのことを知られたら通報もありえそうだし……)
相生の心遣いをどう後腐れなく躱そうかと大黒は頭を悩ますが、何も思いつかないまま校門が見える位置まで来てしまう。
「んん? なんかざわついてるね」
だが、そこで二人の足は止まる。
相生は校門の近くで生徒たちが騒いでいることへの疑問のため、そして大黒は戦いが始まるかもしれないという警戒のため。
(……何だ、あいつは。人間に変化してるけど、それでも感じられるこの怖気……!)
校門には一人の男がいた。
二メートルは優に超えている体躯。攻撃的な吊り目。金髪のオールバック。さらには人くらい簡単に食いちぎれそうな鋭い歯。
それら全てが近寄りがたい要因となっていて、校門を出入りする生徒は皆その男を出来るだけ避けるように歩いている。
男は時折スマートフォンを見ながら道行く生徒の顔を一人一人確認しており、傍から見れば人探しでもしているようだった。
「ふぅ……」
しかしかなり無理をしたようで、大黒は運動をし終えた後のような息を吐く。
しばらく静観していた相生だったが、さすがに見るに見かねて立ち上がり大黒の手を取った。
「? どうした委員長?」
「いや、もうあれだよ。帰ろう大黒くん。いくら大丈夫って言われても説得力ないよ」
眉根を下げて心配そうにする相生を正面から見れず、大黒は思わず顔を逸らす。
「でもまだ講義残ってるしなぁ……、ゼミだってあるし。ほら、委員長にまで催促が言ってるくらいだろ? そろそろ出席くらいしとかないとマジで単位が危うい」
「講義くらい私が代返しといてあげるよ。ゼミの方も私から教授に話は通しとくから。大黒くん本人が『体調不良です』って言っても信じてもらえないだろうけど、私が言ったらちゃんと本当のことなんだって分かってくれると思うし」
「俺は教授からそんなに信用無いのか……」
「大黒くんが教授と顔合わせた回数なんて十回あるかないかくらいだし、そこは自業自得だと思うよ……」
担当教授からの信頼の無さにがっくりと肩を落とす大黒を見て、相生の顔に呆れの感情が混じる。
「とにかくっ、大黒くんはちゃんと元気になるまで学校は休むこと! 今まで散っ々学校生活をサポートしてきてあげたんだから、これくらいのお願いは聞いてくれるよね?」
「…………敵わないな委員長には。分かった、従うよ。委員長には負い目、というか借りしかないのも事実だし」
大黒は諦めて相生の手を借りたまま立ち上がる。
そしてホッとした笑みを浮かべた相生はそのまま大黒の手を引っ張って食堂から出ていく。
(本当に、借りばっかり増えていく。磨を守れず、ハクとギクシャクして、周りに心配ばっかりかけて、…………何をやってるんだろう俺は)
相生に手を引かれながら大黒は俯いて自分を責める。
過去は振り返らず、自分のせいで起きたことの責任は自分で取り、他人に借りは作ってもきちんと返す。
そうした信条を大黒は持っていた。
だが、それもこれも磨が死んでからは満足に貫けておらず、ひたすらに自分に言い聞かせることしか出来ていなかった。
今も、自分が不甲斐ないせいで相生に要らぬ世話をかけてしまっている。そのことは大黒の心に重い澱を蓄積させ続けている。
「……そういや委員長どこまで行くんだ? 逃げやしないしもう手を離してもらっても大丈夫なんだけど」
様々な思いを巡らせていた大黒はふと我に返り、現在の状況に疑問を投げかけた。
それに対し相生は、幼子の面倒を見る母親のような顔で答えた。
「そんなわけにもいかないよ。今のままだと大黒くんいつ倒れるか分からないし。確か家は近いんだよね? だったら次の講義にも間に合うだろうし送っていくよ」
「え、いやいや流石にそこまでしてもらうわけには……」
言葉の通りの遠慮と、万が一にでもハクを見られたらという不安で大黒は相生の申し出を断ろうとする。
「いやいやいや、むしろここで別れた方が私的には気になるからさ。家に着けるかも心配になるし。これは私の我儘だから大黒くんが気にすることはないよー」
しかしその面倒見の良さや責任感の強さから委員長と渾名される彼女が、それくらいの言葉で引き下がるわけもなかった。
(ありがたいけどどうしよう……。なんなら家に着いた後も看病してあげるとか言ってくれそうな勢いだ。普通の大学生だったら狂喜するシチュエーションだけど、俺の場合はマズいことにしかならない。ハクのことを知られたら通報もありえそうだし……)
相生の心遣いをどう後腐れなく躱そうかと大黒は頭を悩ますが、何も思いつかないまま校門が見える位置まで来てしまう。
「んん? なんかざわついてるね」
だが、そこで二人の足は止まる。
相生は校門の近くで生徒たちが騒いでいることへの疑問のため、そして大黒は戦いが始まるかもしれないという警戒のため。
(……何だ、あいつは。人間に変化してるけど、それでも感じられるこの怖気……!)
校門には一人の男がいた。
二メートルは優に超えている体躯。攻撃的な吊り目。金髪のオールバック。さらには人くらい簡単に食いちぎれそうな鋭い歯。
それら全てが近寄りがたい要因となっていて、校門を出入りする生徒は皆その男を出来るだけ避けるように歩いている。
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