九尾の狐、監禁しました

八神響

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二章 混ざり怪編

十三話

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「やべっ、そういや言わなきゃならないことがあったんだった」
「?」

 大黒はリビングに入る直前に、純達に磨のことを話していないことを思い出した。

 しかしすぐに『まあ、なんとかなるか』と楽観的に考えることにして、疑問符を浮かべている鬼川に説明することもなくリビングへと入る。

「………………」
「………………」
「………………」

 だが妙な緊張感が漂うリビングを見て、やはり先に説明しておけばよかったと後悔することになった。

 磨はソファーの影に隠れて純の様子を伺い、純は磨を見てわなわなと震えており、ハクは交互に二人を見てどうやって間に入ろうかと考えている様子だった。

 大黒はその中でも真っ先に対処しなければならない相手である純に話しかける。

「あー……、純。その子のことでちょっと話さなきゃならないから、先に俺の部屋にでも……、純?」

 自分の言葉に反応しない純を不思議に思った大黒は、純の肩に手を置いて少し揺らしてみる。

 そうすることでようやく純は大黒の方へと振り向き、震える指で磨を指差した。

「に、兄さん。どうしましょう」
「何がだ? もしかして磨と会ったことがあったりでもするのか?」

 想像していたよりも動揺している純を見て、大黒は二人が元々知り合いだったのではないかと推測する。

 しかしそれに対する純の返答は大黒の考えの斜め上だった。

「と、とうとう私達の子どもが具現化されてしまいました!」
「お前は何を言っているんだ」

 純は興奮気味に詰め寄ってきたのだが、十年以上兄妹をやっている大黒からしても純の発言の意味が分からず真顔で問い返してしまう。

「私は常々兄さんとの子どもがほしいと思っていました。その感情は日に日に増していき、我慢ができそうもなくなった私は妄想の中で兄さんの子どもを宿すことにしました」
「いや、もう今日は俺のこと診なくていいよ。頼むからお前が病院に行ってきてくれ」

 大黒はどうにか純をまともにしようと真面目な顔で懇願するが、自分語りに夢中な純の耳には届きそうになかった。

「妄想の中とはいえそれは私と兄さんの愛の結晶。私はその子が生まれてくるまで大切に大切に守っていました。そしてとうとう出産の日がやってきたのです」
「想像妊娠とかは聞いたことあるけど想像出産っていうのもあるんだなぁ……」
「それからはシュミレーションも兼ねてですが、生まれてきた子を本当の子供のように愛してきました。あの子はきっと、そんな私を見た神様が具現化してくれた私の子どもに違いありません!」

 純は満面の笑みで磨を自分の子供だと断言する。

 誰がどう見てもヤバい思考回路を持つ純に、その場が静まり返る。

 話の対象である磨にいたっては完全にソファーに隠れ、顔すら出さなくなっていしまった。

「ふー……。ハク、鬼川」
「はい」
「はーい」
「純は俺がなんとかしてくるからこっちは任せた」

 大黒は天井を仰ぎ見て二人に磨のフォローを頼む。

 二人が神妙に頷いたのを見て大黒は純の手を引いて自分の部屋へと連れて行く。

「どうしたんですか兄さん。私はまだあの子を抱きしめていないんですけど」
「ああ、これ以上磨に悪影響を与えないために、お前はしばらく磨の半径五メートル以内に接近禁止な」
「何故ですっ!?」

 ぎゃーぎゃーと騒ぐ兄妹がリビングから姿を消したことによって、磨が再びソファーから顔を出して、今度は鬼川の顔をじっと見つめる。

 その視線に気づいた鬼川は磨にひらひらと手を振って、唇を吊り上げる。

「どーも初めまして。あたしは鬼川綾女、気軽に鬼川お姉さんとでも呼んでくださいっす」
「………………」

 鬼川としては最大限友好的に挨拶したつもりだったのだが、先程の純の仲間だという要素が磨から警戒を解かせない。

「うーん……、当主も余計なことしてくれたもんっすねぇ。……まあ、いっか。よく考えれば誰か分かんねぇ子どもと仲良くする必要はねぇし」

 小声で本音を漏らした鬼川は懐から煙草の箱を取り出し、箱から少し出した煙草をを口に加えた。

 しかし、それに火をつけようとした瞬間、いつの間にか横に来ていたハクに煙草を取り上げられる。

「子どもの前です。吸うならベランダにでも行ってきてください」
「……へいへい」

 ハクの小言に肩を竦めた鬼川は、ハクから煙草を返してもらってそのままベランダにむかう。

 そしてベランダで鼻歌を歌いながら煙草をふかす鬼川を見たハクは、疲労からため息をついた。

「はぁー……、どうしてこうあの一族の関係者は自由な人ばかりなんでしょうか……。磨、さっきのことは悪い夢でも見たと思って忘れてください。その方が貴女のためです。いずれあの人が妹との話を終えて戻ってくるでしょうし、それまでゆっくりしておいてください」

 ハクは磨に声をかけると洗い物の続きに戻っていった。

「………………」

 一人取り残された磨は、ハクの言う通り今起こったことは忘れることにして、ソファーの上で大黒を待つことにした。
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