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二章 混ざり怪編
十二話
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磨が大黒たちの家に来た二日目の昼下がり、昼食を食べ終えた三人は各々自分がやらなければならないことに着手しようとしていた。
しかしその前に来客を告げるインターホンが鳴り響き、全員が一旦動きを止める。
そしてカメラで来客の姿を確認すると、大黒は困ったように頬をかいた。
「あちゃー……、そういや今日って日曜だったか」
そう言いながら大黒は、オートロックの扉を開けるボタンを押して自分を訪ねてきた二人をマンションの中へと入れる。
「あの人達ですか?」
ハクは大黒の反応を見て、来訪者たちが誰なのかにあたりをつける。
「ああ、昨日一昨日とバタバタしてて完全に忘れてた。やばいなぁ、磨のことをどう説明しよう……」
「ありのままを伝えたらいいんじゃないですか? あの人達なら貴方がする事に文句もつけないでしょう」
「そんな教祖と信者みたいな関係じゃないからなぁ」
「いえ、少なくとも片方は貴方を盲信してると言っても過言じゃないですよ」
ハクは話をそこで区切って、中断していた洗い物を再開し始める。
二人の会話が終わったのを見計らって今度は磨が大黒に話しかけに来た。
磨は大黒の左袖をくいくいと引っ張って、大黒に問いかける。
「誰か来たの?」
「ん? ああ、ちょっと妹とその友達がな。上がってきたら磨にも紹介するよ。大丈夫、変な奴らだけどそこまで悪い奴らでもないから」
大黒は磨の頭を撫でながら、現在階下から上がってきてるであろう二人の素性を磨に説明する。
大黒を訪ねてきたのは大黒純と鬼川綾女の二人。
純は妖化薬を使った大黒の体に異常が出ていないかを調べるため、鬼川は純の送り迎えをするため隔週日曜に大黒の家に足を運んでいる。
その事自体には心から感謝している大黒だったが、少し前に霊力を熾した事や磨という少女を家に住まわせている事はまだ二人には伝えていなかったため、内心で今日はもう帰ってくれないかな、などと考えていた。
その事について怒られたり、説明したりする準備がまだできていないからだ。
だがもちろんそんな大黒の内心を二人が知っているはずもなく、無情にも部屋の前についたことを伝えるチャイムが鳴る。
そうすると大黒も覚悟を決め、リビングを出て玄関の鍵を開けに行く。
そうして大黒がガチャリ、と鍵を回すとその瞬間に勢いよく扉が開かれた。
「お久しぶりです兄さん! 元気でしたか!? 私です! 愛しの妹です! さあ! 早く抱きしめて、頭を撫でて、キスをしてください!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。ストップ、待て。もう少しテンションを落としてから上がってくれ」
大黒は今にも自分を押し倒しそうな勢いで入ってきた妹にたじたじになりながら、どうにか落ち着かせようとする。
「そんなんじゃあ駄目っすよお兄さん。興奮した当主を落ち着かせるにはもっと強い言葉を使わないと」
「俺の身体を診にわざわざやってきてくれた妹にそんなの言えるかっ!」
「律儀っすねぇ」
「ていうか傍観してないで純を抑えるの手伝ってくれよ!」
大黒は迫ってくる純の頭を右手で押さえながら鬼川に助けを求める。
だが鬼川は両手を挙げるだけで近づいてこようとすらしなかった。
「無理っすよ無理。お兄さんと再開した当主の邪魔をするなんて、自殺みたいなもんじゃないすか。馬に蹴られるどころの話じゃないっすよ」
「いや純だってそこまで見境なくは……! いやもしかしたら……」
「言葉に詰まる時点でお兄さんも分かってるでしょう。やりかねないって。もう潔く受け入れちゃえばいいじゃないっすか」
「一度許したら歯止めがきかなくなるんだよ……!」
純とぎりぎりの攻防を繰り広げながら鬼川と言葉の応酬をする大黒。
今はなんとか踏ん張っているが片手で純を抑え続けるのには限界がある。その限界に近づいてきたため、大黒は別の方向からアプローチをかけることにした。
「んー……! んー……!」
「唇を尖らせながら近づいてくるな……! 純、実はなお前のためにプレゼントを用意してあるんだ! 俺はそれを純に渡すのが楽しみで楽しみで! 早く渡したいからそろそろリビングの方に行かないか!?」
「…………!」
大黒の言葉を聞いた純は閉じていた目をカッと見開き、前に進めようとしていた足を止める。
「に、兄さんが私にプレゼント……! ありがとうございます! こうしてはいられません! 今すぐ行きましょう!」
そしてキラキラと目を輝かせた純は靴を脱ぎ捨て、リビングの方へと走っていってしまう。
そんな純の後ろ姿を見送って、残された二人はふーっと一息つく。
「やっと行ってくれた……」
「大変っすねー。でもあそこまで愛されるなんて幸せじゃないすか」
その場が落ち着いたことで、鬼川もやっと靴を脱いで玄関に上がってきた。
自分の靴と一緒に純が脱ぎ捨てた靴も揃えている鬼川に、大黒はふと疑問に思ったことを尋ねる。
「めっちゃ他人事だな……。それよりなんか純のやつ会う度にテンションがおかしくなってないか? 数年ぶりに会った時より今のほうが激しいってどういうことだ」
「そりゃもうあれっすよ。タガが外れたってやつです。今までずぅーっと抑圧されてきたものが解放されたってんならああもなるでしょう。風俗を覚えちゃった童貞みたいなもんっす」
「例えが最低に生々しいなっ!」
「まあまあ、それよりあたし達もとっとと行かないと。お兄さんのプレゼントって餌があっても、当主が九尾を前に我慢なんて出来ないでしょうし」
鬼川は大黒の叫びなど意にも介さず、立ち上がって純の後を追う。
それに対してさらに何か言おうとした大黒だったが、言ってることはもっともだったため、ため息をつくだけに留めて鬼川の背中についていった。
しかしその前に来客を告げるインターホンが鳴り響き、全員が一旦動きを止める。
そしてカメラで来客の姿を確認すると、大黒は困ったように頬をかいた。
「あちゃー……、そういや今日って日曜だったか」
そう言いながら大黒は、オートロックの扉を開けるボタンを押して自分を訪ねてきた二人をマンションの中へと入れる。
「あの人達ですか?」
ハクは大黒の反応を見て、来訪者たちが誰なのかにあたりをつける。
「ああ、昨日一昨日とバタバタしてて完全に忘れてた。やばいなぁ、磨のことをどう説明しよう……」
「ありのままを伝えたらいいんじゃないですか? あの人達なら貴方がする事に文句もつけないでしょう」
「そんな教祖と信者みたいな関係じゃないからなぁ」
「いえ、少なくとも片方は貴方を盲信してると言っても過言じゃないですよ」
ハクは話をそこで区切って、中断していた洗い物を再開し始める。
二人の会話が終わったのを見計らって今度は磨が大黒に話しかけに来た。
磨は大黒の左袖をくいくいと引っ張って、大黒に問いかける。
「誰か来たの?」
「ん? ああ、ちょっと妹とその友達がな。上がってきたら磨にも紹介するよ。大丈夫、変な奴らだけどそこまで悪い奴らでもないから」
大黒は磨の頭を撫でながら、現在階下から上がってきてるであろう二人の素性を磨に説明する。
大黒を訪ねてきたのは大黒純と鬼川綾女の二人。
純は妖化薬を使った大黒の体に異常が出ていないかを調べるため、鬼川は純の送り迎えをするため隔週日曜に大黒の家に足を運んでいる。
その事自体には心から感謝している大黒だったが、少し前に霊力を熾した事や磨という少女を家に住まわせている事はまだ二人には伝えていなかったため、内心で今日はもう帰ってくれないかな、などと考えていた。
その事について怒られたり、説明したりする準備がまだできていないからだ。
だがもちろんそんな大黒の内心を二人が知っているはずもなく、無情にも部屋の前についたことを伝えるチャイムが鳴る。
そうすると大黒も覚悟を決め、リビングを出て玄関の鍵を開けに行く。
そうして大黒がガチャリ、と鍵を回すとその瞬間に勢いよく扉が開かれた。
「お久しぶりです兄さん! 元気でしたか!? 私です! 愛しの妹です! さあ! 早く抱きしめて、頭を撫でて、キスをしてください!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。ストップ、待て。もう少しテンションを落としてから上がってくれ」
大黒は今にも自分を押し倒しそうな勢いで入ってきた妹にたじたじになりながら、どうにか落ち着かせようとする。
「そんなんじゃあ駄目っすよお兄さん。興奮した当主を落ち着かせるにはもっと強い言葉を使わないと」
「俺の身体を診にわざわざやってきてくれた妹にそんなの言えるかっ!」
「律儀っすねぇ」
「ていうか傍観してないで純を抑えるの手伝ってくれよ!」
大黒は迫ってくる純の頭を右手で押さえながら鬼川に助けを求める。
だが鬼川は両手を挙げるだけで近づいてこようとすらしなかった。
「無理っすよ無理。お兄さんと再開した当主の邪魔をするなんて、自殺みたいなもんじゃないすか。馬に蹴られるどころの話じゃないっすよ」
「いや純だってそこまで見境なくは……! いやもしかしたら……」
「言葉に詰まる時点でお兄さんも分かってるでしょう。やりかねないって。もう潔く受け入れちゃえばいいじゃないっすか」
「一度許したら歯止めがきかなくなるんだよ……!」
純とぎりぎりの攻防を繰り広げながら鬼川と言葉の応酬をする大黒。
今はなんとか踏ん張っているが片手で純を抑え続けるのには限界がある。その限界に近づいてきたため、大黒は別の方向からアプローチをかけることにした。
「んー……! んー……!」
「唇を尖らせながら近づいてくるな……! 純、実はなお前のためにプレゼントを用意してあるんだ! 俺はそれを純に渡すのが楽しみで楽しみで! 早く渡したいからそろそろリビングの方に行かないか!?」
「…………!」
大黒の言葉を聞いた純は閉じていた目をカッと見開き、前に進めようとしていた足を止める。
「に、兄さんが私にプレゼント……! ありがとうございます! こうしてはいられません! 今すぐ行きましょう!」
そしてキラキラと目を輝かせた純は靴を脱ぎ捨て、リビングの方へと走っていってしまう。
そんな純の後ろ姿を見送って、残された二人はふーっと一息つく。
「やっと行ってくれた……」
「大変っすねー。でもあそこまで愛されるなんて幸せじゃないすか」
その場が落ち着いたことで、鬼川もやっと靴を脱いで玄関に上がってきた。
自分の靴と一緒に純が脱ぎ捨てた靴も揃えている鬼川に、大黒はふと疑問に思ったことを尋ねる。
「めっちゃ他人事だな……。それよりなんか純のやつ会う度にテンションがおかしくなってないか? 数年ぶりに会った時より今のほうが激しいってどういうことだ」
「そりゃもうあれっすよ。タガが外れたってやつです。今までずぅーっと抑圧されてきたものが解放されたってんならああもなるでしょう。風俗を覚えちゃった童貞みたいなもんっす」
「例えが最低に生々しいなっ!」
「まあまあ、それよりあたし達もとっとと行かないと。お兄さんのプレゼントって餌があっても、当主が九尾を前に我慢なんて出来ないでしょうし」
鬼川は大黒の叫びなど意にも介さず、立ち上がって純の後を追う。
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