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一章 大黒家争乱編
五話
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ハクが大黒の家に住む(監禁)ようになってから一週間、ハクはすっかり大黒の家に馴染んでいた。
ハクはいつものように洗濯機をまわして、いつものように朝食を準備し、いつものように大黒を起こしに大黒の部屋を訪ねる。全ての行動の枕詞に『いつものように』がつくくらいに、ハクはこの生活に順応していた。
「朝ですよ、起きてください。今日は朝から講義があると言ってたでしょう」
ハクはベッドの上でシーツに包まれた大黒の体をゆさゆさと揺さぶる。
「んー、後八分……」
しかし外界から体に少しの刺激が加わったくらいでは大黒は起きる素振りを見せない。
「その中途半端な数字は何なのです。ほら、こんな小さい子に起こされるなんて情けないと思わないのですか」
「うーん、小さいって言っても実年齢で言ったらってぇ!?」
大黒が寝ぼけながら言おうとした言葉は最後まで続かなかった。
ハクにベッドごとひっくり返され強制的に目を覚まさせられたからである。
「デリカシーというものを刻み込んであげましょうか? 文字通り、骨の髄まで」
「ごめんなさい! 顔を洗ってきます!」
大黒はハクの方を見ず、急いで部屋を出る。
九尾の狐は、古くは紀元前までルーツをさかのぼれる妖怪。そこまでの年を経験しているとさすがに年齢を気にしているなんてことはないが、大黒を無理やり起こせる良い口実であったため怒っている風を見せた。
「世話が焼けますね……」
大黒の部屋に一人残されたハクは独りごちる。
そしてリビングに向かい、朝食が並べられたテーブルの前に座りながら大黒の準備が整うのを待つ。
それから数分もすると外出する格好になった大黒がリビングに顔を出した。
「今日の朝飯は何?」
「じゃがいものお味噌汁とほうれん草の煮びたしと卵焼きです」
軽く会話を交わしながら大黒がハクの前に座ると、二人で同時に朝食を食べ始める。
何もしなくていいと言われたハクがここまでかいがいしく大黒の世話を焼いているのは、もちろんハクの要望からである。
当初大黒は全て自分に任せてくれと強く主張したのだが、ハクは家事の類は自分がやるといって聞かなかった。
貴方に任せたら料理に何か入れられそうなので、とはハクの弁である。
そんなことを言われたら大黒も引き下がるしかなく、料理以外の家事に関しても大黒の信用が無いという理由でハクが担当することになった。
それでも子供の体では何かと不便だろうと思い、大黒も手伝おうとしたのだが、ハクの家事スキルが非常に高い水準のものであったため今ではすっかり甘えるようになった。
そしてハクの生来の世話好きで流されやすい面と大黒の基本怠惰な面が重なり合った結果、今の形に落ち着いた。
「にしてもハクが料理作れると知ったときは驚いたな、軒並み美味いし。昔から作ってたりしたのか?」
大黒はハクの用意した朝食に舌鼓を打ちながら、この一週間疑問に思っていたことをハクに尋ねた。
「昔も作ってはいましたけど現代の料理とは作り方も味付けも違うものでした。なので今出している料理は現代で培った技術で使ったものです」
「へー、この数年でほぼ一から始めてこれって凄いな」
「私は才女ですから、大体の事はすぐに出来るようになるんです」
白米を口に持って行きながら何でもないことのように言うハク。
「傾国の美女と呼ばれてるだけあって自信も凄い。今まで聞いてこなかったけど転生してからはどうやって生きてきたんだ? 山にでも籠ってたのか思ってたけど、それにしては人間世界に詳しいしなぁ」
「その辺りのことは話すと長くなりますので、聞きたいなら家に帰ってきてから再度聞いて下さい。それよりもう八時半ですよ、早くご飯を食べて学校に行って来て下さい」
「おっと、もうそんな時間か。やっぱ楽しい時間って早く過ぎるもんだな!」
「そういうのはいいです」
大黒はハクへのアピールを毎日欠かさず行っていたのだが、ハクの対応は芳しくない。
まあ、大黒はハクを閉じ込めて好感度が最低になっていることも自覚しているし、長期戦になることを覚悟して臨んでいるのだから、ハクの返事がそっけなかったところでめげることもないのだが。
「よし、じゃあ行ってくる。俺の帰りを心待ちにしててくれ」
大黒は急いで朝食を片付けると、ハクに出かける挨拶をしてリビングを出ていこうとする。
「帰って来なくなられても困りますし、気を付けて行って来て下さい」
「同棲一週間でデレ期が……!」
「何を言っているのですか。貴方が帰って来ないと私が餓死するでしょう」
「あ、そういう。いやハクって餓死とかするのか? いえ、何でもないです、はい……、行ってきます……」
「はい、いってらっしゃい」
まだぐだぐだとしようとした大黒を一睨みして玄関に向かわせると、ハクも椅子に座ったまま見送りの挨拶をする。
「ふぅ……やっと行きましたか、毎朝一苦労です。……さて、私もやるべきことをやりましょうか」
大黒が学校やバイトに行っている間にハクは家事全般をこなしている。
そうは言っても結界の関係でハクは買い物にも行けないため、やることといえば洗い物に洗濯、掃除に夜ご飯の用意くらいしかない。
どれも毎日やっていればそれほど時間がかかるものではないので、残りの時間はテレビを見たり、大黒が買ってきた女性誌を読んだり、昼寝をして過ごしている。
ちなみにハクが現在着ている服はTシャツにジーパンと機能性を重視したものである。元々ハクが持っていた服はこの町で拠点としていたホテルに置いているのだが、結界で閉じ込められていては取りに行くことも叶わないと諦めた。
そのため今は大黒がハクのために用意した服を着ている。大黒は九尾の狐がどのような姿であってもいいように大人用から子供用まで多種多様な女性ものの服を取り揃えていたのだ。
独り暮らしの男の家のクローゼットに女性物の服が大量に収納されているのを見たその時のハクはどこから突っ込めばいいのかと頭を抱えた。
(あの人と暮らしていくのにあの程度で取り乱していては駄目なのでしょうね)
やることを終えたハクはソファーで横になりながら自分の服を見下ろしてその時のことを思い出す。そして春の陽気に誘われるまま夢の世界へと旅立ち、瞳を閉じた。
ハクはいつものように洗濯機をまわして、いつものように朝食を準備し、いつものように大黒を起こしに大黒の部屋を訪ねる。全ての行動の枕詞に『いつものように』がつくくらいに、ハクはこの生活に順応していた。
「朝ですよ、起きてください。今日は朝から講義があると言ってたでしょう」
ハクはベッドの上でシーツに包まれた大黒の体をゆさゆさと揺さぶる。
「んー、後八分……」
しかし外界から体に少しの刺激が加わったくらいでは大黒は起きる素振りを見せない。
「その中途半端な数字は何なのです。ほら、こんな小さい子に起こされるなんて情けないと思わないのですか」
「うーん、小さいって言っても実年齢で言ったらってぇ!?」
大黒が寝ぼけながら言おうとした言葉は最後まで続かなかった。
ハクにベッドごとひっくり返され強制的に目を覚まさせられたからである。
「デリカシーというものを刻み込んであげましょうか? 文字通り、骨の髄まで」
「ごめんなさい! 顔を洗ってきます!」
大黒はハクの方を見ず、急いで部屋を出る。
九尾の狐は、古くは紀元前までルーツをさかのぼれる妖怪。そこまでの年を経験しているとさすがに年齢を気にしているなんてことはないが、大黒を無理やり起こせる良い口実であったため怒っている風を見せた。
「世話が焼けますね……」
大黒の部屋に一人残されたハクは独りごちる。
そしてリビングに向かい、朝食が並べられたテーブルの前に座りながら大黒の準備が整うのを待つ。
それから数分もすると外出する格好になった大黒がリビングに顔を出した。
「今日の朝飯は何?」
「じゃがいものお味噌汁とほうれん草の煮びたしと卵焼きです」
軽く会話を交わしながら大黒がハクの前に座ると、二人で同時に朝食を食べ始める。
何もしなくていいと言われたハクがここまでかいがいしく大黒の世話を焼いているのは、もちろんハクの要望からである。
当初大黒は全て自分に任せてくれと強く主張したのだが、ハクは家事の類は自分がやるといって聞かなかった。
貴方に任せたら料理に何か入れられそうなので、とはハクの弁である。
そんなことを言われたら大黒も引き下がるしかなく、料理以外の家事に関しても大黒の信用が無いという理由でハクが担当することになった。
それでも子供の体では何かと不便だろうと思い、大黒も手伝おうとしたのだが、ハクの家事スキルが非常に高い水準のものであったため今ではすっかり甘えるようになった。
そしてハクの生来の世話好きで流されやすい面と大黒の基本怠惰な面が重なり合った結果、今の形に落ち着いた。
「にしてもハクが料理作れると知ったときは驚いたな、軒並み美味いし。昔から作ってたりしたのか?」
大黒はハクの用意した朝食に舌鼓を打ちながら、この一週間疑問に思っていたことをハクに尋ねた。
「昔も作ってはいましたけど現代の料理とは作り方も味付けも違うものでした。なので今出している料理は現代で培った技術で使ったものです」
「へー、この数年でほぼ一から始めてこれって凄いな」
「私は才女ですから、大体の事はすぐに出来るようになるんです」
白米を口に持って行きながら何でもないことのように言うハク。
「傾国の美女と呼ばれてるだけあって自信も凄い。今まで聞いてこなかったけど転生してからはどうやって生きてきたんだ? 山にでも籠ってたのか思ってたけど、それにしては人間世界に詳しいしなぁ」
「その辺りのことは話すと長くなりますので、聞きたいなら家に帰ってきてから再度聞いて下さい。それよりもう八時半ですよ、早くご飯を食べて学校に行って来て下さい」
「おっと、もうそんな時間か。やっぱ楽しい時間って早く過ぎるもんだな!」
「そういうのはいいです」
大黒はハクへのアピールを毎日欠かさず行っていたのだが、ハクの対応は芳しくない。
まあ、大黒はハクを閉じ込めて好感度が最低になっていることも自覚しているし、長期戦になることを覚悟して臨んでいるのだから、ハクの返事がそっけなかったところでめげることもないのだが。
「よし、じゃあ行ってくる。俺の帰りを心待ちにしててくれ」
大黒は急いで朝食を片付けると、ハクに出かける挨拶をしてリビングを出ていこうとする。
「帰って来なくなられても困りますし、気を付けて行って来て下さい」
「同棲一週間でデレ期が……!」
「何を言っているのですか。貴方が帰って来ないと私が餓死するでしょう」
「あ、そういう。いやハクって餓死とかするのか? いえ、何でもないです、はい……、行ってきます……」
「はい、いってらっしゃい」
まだぐだぐだとしようとした大黒を一睨みして玄関に向かわせると、ハクも椅子に座ったまま見送りの挨拶をする。
「ふぅ……やっと行きましたか、毎朝一苦労です。……さて、私もやるべきことをやりましょうか」
大黒が学校やバイトに行っている間にハクは家事全般をこなしている。
そうは言っても結界の関係でハクは買い物にも行けないため、やることといえば洗い物に洗濯、掃除に夜ご飯の用意くらいしかない。
どれも毎日やっていればそれほど時間がかかるものではないので、残りの時間はテレビを見たり、大黒が買ってきた女性誌を読んだり、昼寝をして過ごしている。
ちなみにハクが現在着ている服はTシャツにジーパンと機能性を重視したものである。元々ハクが持っていた服はこの町で拠点としていたホテルに置いているのだが、結界で閉じ込められていては取りに行くことも叶わないと諦めた。
そのため今は大黒がハクのために用意した服を着ている。大黒は九尾の狐がどのような姿であってもいいように大人用から子供用まで多種多様な女性ものの服を取り揃えていたのだ。
独り暮らしの男の家のクローゼットに女性物の服が大量に収納されているのを見たその時のハクはどこから突っ込めばいいのかと頭を抱えた。
(あの人と暮らしていくのにあの程度で取り乱していては駄目なのでしょうね)
やることを終えたハクはソファーで横になりながら自分の服を見下ろしてその時のことを思い出す。そして春の陽気に誘われるまま夢の世界へと旅立ち、瞳を閉じた。
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