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一章 大黒家争乱編
四話
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「結婚云々は一旦置いておきましょう。ところで、先ほどから気になっていたのですがあちらの部屋には何があるのですか?」
「ん? ああ、そこの部屋の中にあるのは家を出る時に盗ってきた色んな呪具だよ」
告白の途中で露骨に話題転換されたのにも関わらず、それを気にした素振りを見せない大黒をハクは訝しく思うが、話を戻すわけにもいかないのでそのまま話を聞く。
「今は衰退して見る影もないが、大黒家はその昔、名家って呼ばれるような所だったらしいんだ。その時の名残で呪具や資料は豊富に揃えられていた。それで行きがけの駄賃に扱いやすく強力なものをいくつか持ちだしてきて、そこに保管してあるんだよ」
大黒は立ち上がり和室へと歩いていくと襖に手をかけ、部屋の中にある呪具をハクに見せる。
ハクもひょこひょこと大黒についていき、大黒の隣で部屋の中の呪具を観察する。
「なるほど、確かに規格外の物もいくつかありますね」
「伝説の妖怪にそう言ってもらえて光栄だ。ゴミ同然だとか言われたらどうしようかと」
「呪具とは製作者が強い思いを込めて作り上げるものです。拙い出来だったとしてもそれを中傷することは言いませんよ」
興味深げに呪具を眺めながらそう言ったハクの目に一種類の道具が止まった。
「あの大量にある木刀は何ですか?」
ハクの目の先には中学生が修学旅行で好んで買いそうな木刀が十本前後並んでいる。
禍々しい気を放つ道具と一緒に置かれているそれは、明らかに場違いであり一際異彩を放っている。
「見ての通り木刀だ。俺は基本的に木刀で妖怪と闘うからストックは多いに越したことはないんだよ」
「いえ、そうではなく。ただの木刀にしては随分大きな力を感じるので、どんな逸話があるものなのかと。それにストックと称するには些か心許ない数ですし……」
「あー……、それにはまず俺が何で木刀を使ってるのかってところから何だが……」
大黒は頬を掻きながら言葉を探す。
「それも気にはなりました。殺傷能力が低く、霊力も通りにくい木刀などを武器に使うなんてどんな意味があるのかと」
一般に妖怪は人間よりも力が強く、体が丈夫にできている。そのため、陰陽師が妖怪を相手取るときに使う武器は、確実に相手の体に傷を残せる真剣や弓が一般的である。
ハクが見てきた陰陽師も、稽古等ではともかく、妖怪と戦う場で木刀を使う者はいなかった。
それなのにあえて木刀を使っている大黒にはどのような信条があるのかとハクは初めて大黒自身に興味を示す。
ハクは大黒を見つめるが、どうしたことか今まで(鬱陶しいくらいに)ハクを見つめてきた大黒がその目を逸らしながら話し出す。
「言ってしまえば簡単なんだけどさ。俺は普通の刀が使えないんだ」
絞り出すように言葉を吐き出した大黒の顔は、親の話をしている時と同じくらい苦渋に満ちていた。
その顔を見てハクは大黒のデリケートな部分に触れてしまったのかと思い、気を使った声を出す。
「あの、言いづらいことがあるのでしたら無理に言わなくても……」
「いや、聞いてくれ。ハクに隠し事はしたくない」
だが大黒は意外と実直な性格のようで、一度言うと決めた以上それを覆すことはしないらしい。少なくともハクに対しては。
ハクもそれを感じ取り、聞き手としての心の準備を整える。
「分かりました、聞きましょう」
「俺も日本刀を使おうとしてた時期はあったんだ。メジャーな武器だし、何よりもかっこいいからな。でも俺の考えは甘かったんだ」
両目を閉じて重苦しく吐かれる大黒の言葉を、ハクは正面から受け止める。
「日本刀は、重い」
「は?」
一体どんな事情があるのだろうと身構えていたハクは、予想外に軽い大黒の理由に理解が追い付かず馬鹿みたいな声をあげてしまった。
ハクの様子を気にせず大黒は話を続ける。
「知ってるか? 日本刀って平均一・五キロくらいあるらしいんだ。そんなのを戦闘中に振り回すなんて俺にはとても無理だった」
「鍛えましょうよっ!」
「これでも鍛えたんだぞ、……一週間くらい」
「ぼそっと言ったの聞こえてますからね」
「いやー、それ以上筋トレとか型覚えたりするのも面倒でなー。でも武器は必要だし、どうしようかと考えてたら思いついたんだ。別に真剣とか使わなくても木刀でいいんじゃないかと」
さも名案を思い付いたかのように話す大黒に、ハクは呆れてため息を吐く。
「向上心のかけらもありませんね」
「それで木刀使うようになったんだけど、妖怪相手には効きづらいし、案外脆いしでまたどうしようか考えた」
「大人しく鍛えて真剣使ったら良いのでは」
聞こえていないのか、聞こえていない振りをしているのか大黒はハクの言葉に反応しない。
「そんで、考えながら縁側でぼーっとしてたら、庭にあるなんか、歴史のある神木が目についた」
大黒の言葉を聞いてハクは部屋の中にある木刀に目を移した。そして震えた指で木刀を指し示す。
「まさかあの木刀は……」
「そう。その神木を切り倒し、作れるだけ作った特別製の木刀だ」
そう答える大黒は何故か自慢げな顔をしていた。
「罰当たりにも程があるでしょうっ!」
「えー、なんでだよ。特別な素材で作られた武器なんてそこら中にあるだろ?」
「動機が不純だと言ってるんです! 楽をしたいがために切り倒される御神木の身にもなってください!」
「そんなこと言われても木の気持ちなんてわかんないしなぁ……。それにちゃんと苦労はしたんだぞ、夜中に人を起こさないように大木を切ってそれを加工するとか想像するだけでも大変だと分かるだろ」
自業自得な苦労を語る大黒に対してハクは余計に怒りを募らせる。
「その苦労は別の所ですべきなんです! はぁ……、もういいです……。それよりもやはり家の方には無断で作業を行ったんですね」
「そりゃ樹齢千年はゆうに超えてる木だったらしいし、家の連中と仲が良くても木刀にしたいなんて許されるはずも無いしな」
「全部分かっている上で尚、実行したのですから余計に質が悪いですね」
「それにほら、神木だってあんな家に植えられてるより俺に使われた方がよっぽど幸せってもんだろ」
軽蔑交じりの言葉を受けても大黒は悪びれもしない。
「過大評価も甚だしいですね。はぁ……、御神木の伐採に呪具の持ち出しなんて、縁を切るどころか命を狙われてる可能性すらありますよ」
「上等だ! 返り討ちにしてやる!」
「真剣も振れないくせにやたらと好戦的ですね」
「ま、ま、そのあたりのことはもういいだろう。自分が非力だって話をするのはわりと恥ずかしいんだ。それよりもこの呪具たちを見てってくれよ、ハクも認める俺の自慢のコレクションの数々を!」
「盗人猛々しいとはこのことですね……。しかし、」
ハクは部屋に敷き詰められている呪具をぐるっと一望する。
「木刀以外にも気になるものがいくつかあるのも確かです」
「そりゃ良かった。俺は気にせずあれこれ調べてくれてもいいぞ。効能が知りたかったら聞いてくれ」
「ふむ」
ハクは手を顎に当てて部屋へと踏み入った。
「この櫛は何ですか?」
「使った時間が長いほどその使用者に幸福をもたらすけど、壊れたら最後に使ってた人間に今まで櫛がもたらしてきた幸福分の不幸が訪れる呪具」
「こちらの鏡は?」
「誰かの写真を自分の顔に重ねながら鏡に映ると、写真の人物の顔になれる呪具。一度顔を変えると鏡を壊すまで元に戻れない」
「あの熊のぬいぐるみは?」
「あれを枕元に置いて寝ると、十回に一回の頻度で起きるのが嫌になるくらい幸せな夢を見れる呪具。残りの九回は逆に寝るのが嫌になるくらいの悪夢を見る」
ハクは気になった呪具を次々と指さしてその効果を大黒に尋ねる。
部屋の中を歩き回るハクの足取りはとても慎重で、万が一にも呪具に触れないよう細心の注意を払っているのが見て取れる。
呪具には触ることが呪いの発動条件であるものも多く、過去にはこの部屋にある何倍もの数の呪具を扱ってきたハクはそのことをよく知っている。
呪具に触れないように、鏡には映らないように、壺は覗き込まないように。興味と警戒を同居させて部屋を見ていたハクだったのだが、
「これは何でしょう?」
何故か石で出来ている箱に強く惹かれ、足元にあったそれを拾い上げると、先ほどまでの警戒はどこに行ったのか不用意にもその箱を開けてしまった。
「っ!?」
箱を開けた瞬間、中から煙が噴出しハクの体を覆った。
突然の事態に頭が追い付かず、ハクは煙が消えるまで棒立ちの状態で事態が収まるのをただ待つのみとなってしまい、煙が晴れた時には、
「な、なんですかこれー!!?」
体が縮んでしまっていた。
「どうしたハク! そんなに小さくなってしまって! ちっちゃいハクも可愛いな!」
「言っている場合ですかっ!」
この異常事態にもぶれずに能天気でいる大黒をハクは叱責する。
ハクが振り返って大黒を見るとその顔には隠し切れない笑みが滲んでいた。それは、何もかもが予定通りにいった人間が浮かべる笑みであった。
その顔を見たハクは空恐ろしいほどの無表情で問う。
「私が持っているこの石箱は何ですか」
「ど、どうしたんだハク。せっかくの可愛い顔が台無しだぜ」
大黒は震え声になりながらも茶化そうとしたが、ハクは一切表情を崩さない。
「はやく答えてください」
「はい」
大黒も観念し、呪具の詳細を語りだす。
「それはだな、とある特別な石を使って作ったもので、その蓋を開けた者の生命力を奪う力を持ってるんだ」
「…………」
ハクは小さくなった自分の手を見つめる。さらに確認のため尻尾を出してみたが、その数は三本しかなかった。
「生命力を奪うというなら何故私は生きているのでしょう」
「箱には許容量があってな、その許容量を超える力は奪えないんだ。俺も許容量の上限を初めて知ったが、見たところハクの力の三分の二が上限だったらしい」
生命力はつまり霊力と言い換えられる。霊力が強いほど長寿であるし、霊力が弱いほど短命だ。
転生を繰り返し強大な力を身に着けた妖狐の三分の二の力を奪えるその箱は、常人が開けると数瞬の間も無くその命を奪い尽くす。
「呪具についてはある程度分かりました。……ここからが大事なのですが、この呪いを解く方法はありますか?」
「あるにはある。けど、実行不可能だから無いとも言えるな」
「聞いてから判断しますのでその方法を早く口にして下さい」
「……まあ、力はその箱に閉じ込められてるんだからそれを開ければ力は元の持ち主の元に帰ることになる。力の持ち主が生きていないと箱を開けても力が霧散するだけだから殆ど意味の無い解呪方法だけど」
「私は生きているのですからそこの心配はいらないでしょう。貴方が不可能だと思う問題は何なのですか」
「あー……、それを開けるにはさ、中に閉じ込められてる以上の力を持ってる奴が必要なんだ」
それを聞き、ハクは、『なるほど、それは不可能だ』と思った。
三分の一しか霊力が残っていない自分はもちろん、三分の一の自分と同等かそれよりも劣る力の大黒も箱を開けるのに適した力は持っていない。
そもそも世界中を探したところで、箱に封じられた以上の力を持つ生き物は極僅かだろう。
「……とりあえず今すぐ力を取り戻すことは諦めましょう。長い、長い時間はかかりますが霊力はいずれ回復するでしょうし。それよりも聞きたいことがあります」
「な、なに?」
大黒は目を逸らしながら挙動不審な態度をとる。
「貴方は先ほど『とある特別な石』と言葉を濁しましたが、この石箱はどのような石で造られているのですか」
大黒はハクの質問に手を右往左往させてどうにか誤魔化そうとしたが、確信を携えた瞳をしているハクを見ると、諦めて息を吐く。
「あー……、その石は近づくだけで生き物を殺す力がある。その石は俺の実家の近くにあり、昔から石の伝説を何度も聞いた。……大黒家がある場所は栃木県那須町、」
そこで大黒は一度言葉を切り、少しの静寂が部屋に落ちる。
「石の名前は、殺生石」
鳥獣がこれに近づけばその命を奪う、殺生の石。
栃木県の那須町にあるその石は、伝説の妖狐玉藻の前が正体を見破られ、この地で討伐された後の姿だといわれている。
「やはりそうでしたか……、こうなるのは貴方の計画通りだったということですか」
「そんな死神の本を拾った天才みたいなことは言わないさ。計画というよりも願望通りといった方が正しいしな。妖狐は呪いを得意とする妖怪、じゃあ九尾の狐も呪いを得手としているだろうし呪具に興味を持つんじゃないか。殺生石は九尾の狐が姿を変えたもの、じゃあ殺生石で作った呪具には警戒心が薄れるんじゃないか。そんな予想とも言えないただの願望が奇跡的に現実になった」
ハクが大黒の告白を躱した時に大黒が何も言わなかった理由もこれである。
本来なら大黒の方から呪具のある部屋にハクを誘導しようとしていたのだが、ハクの方から言い出してくれたことにより不自然さが無くなったと大黒は内心ほくそ笑んでいた。
「これでずっと一緒にいられるなっ!」
九尾の狐を自分の所に留まらせておくための考え、その全てが上手くいった大黒は嬉しそうに破顔する。
しかし騙し討ちを食らったハクは穏やかではない。
「貴方はこれくらいで私を閉じ込めておけると思っているのですか」
ハクの背後に大きな火球が三つ浮かぶ。
それは脅しのためのものではなく、ここで大黒が失言でもすれば、火球は見た目通りの威力を伴って大黒に向かってくるだろう。
そのため大黒も今までのようにふざけたりはせず、真面目に答える。
「……甘めに見積もって今のハクと互角って所だろうな。いい勝負はするだろうけど多分負ける。でもハクだって気づいてるだろ」
「…………」
大黒が言っているのは部屋に仕掛けられている妖怪用の結界のことである。
大黒はいつか九尾の狐を自分の部屋に連れて来ることが出来た時のために、大黒が許可した者以外は出入りすることが出来なくなる結界で部屋全てを覆っていた。
もちろんハクはこの部屋に着いた時から結界の存在に気付いていた。部屋に入る時に壊すことも考えたのだが、結界の余りの精緻さ、美しさに壊すのがもったいなくなり、そのまま放置することにした。だが、そんな考えも自分にこの結界は用をなさないという余裕から出たものであった。
霊力が三分の一まで落ちた今の自分ではあの結界を突破することは出来ない、そう判断したハクは過去の自分の慢心を呪いたくなった。
「これでも結界術だけなら他の陰陽師に遅れはとらないと思ってる。ハクも今の力で結界を壊すのは無理なはずだ。この結界には三年間注ぎ続けた俺の霊力がこもってるし俺が死んでもこの先数十年はもつだろう。つまりハクがここで俺を殺したら、その数十年間ハクはこの部屋で食糧も娯楽もなく無為な時間を過ごすことになる。そんなのはごめんだろ?」
大黒はハクがすぐに自分を攻撃してくる意思は無いと判断して、ハクがここに留まる気になるように言葉を重ねる。
その説得が功を奏したのかハクは手を振って背後の火球を消した。
「貴方の言う通り、ここで争っても無駄ですね」
とりあえずは矛を収めたハクを見て大黒は安堵の息を吐く。
ハクは生きようと思えば数百年だって生きることが出来る。そんなハクにとって数十年と言うのは大黒に騙されたことによって傷つけられたプライドよりも優先されるものなのか、その天秤がどちらに傾くのか、それは大黒に分かるはずもなかった。
そんな訳でいつ火球が飛んでくるかと警戒し続け、極度の緊張をしていた大黒だったが、ハクが火球を消したことにより軽口が叩けるくらいには調子を取り戻した。
「そうそうラブ&ピースが一番だ」
「開き直られてもそれはそれで腹が立ちますが」
だが今すぐ殺すつもりは無くなったとはいえ、自分を閉じ込めた張本人にそのような態度を取られればハクの怒りが再燃するのも当然と言える。
「不本意ながら、今しばらくは貴方と同じ家で過ごすことになりました。それで聞いておきたいのですが、貴方はこの先の事をちゃんと考えているんですか」
ハクは額に血管を浮かび上がらせつつ、大黒にこれからの予定を尋ねる。
「そうだなー……、当面の目標は密室でハクと愛を育んでいくことかな!」
空気を読まない発言をした大黒の喉元にハクは手刀を突き付けた。
小学生くらいの体躯になってしまったハクがそうしても子供の遊びのように見えてしまうが、突き付けられた大黒からすれば先程と同じくらいの命の危機だった。
これ以上戯言を吐くようなら今すぐその喉を貫くぞ、というハクの殺意を言外に感じ取り、大黒は冷や汗を垂らしながら両手を挙げる。
「う、うん。考えてるといったら嘘になるな、どう閉じ込めようという事しか考えてこなかったから。だからハクには何かしてもらおうとは思ってない、欲しいものがあったら言ってくれれば買ってくるし、家の事も俺に全部任せてくれ。本当は一緒のベッドで寝たいけど最初はハクも嫌がるだろうしハク用の部屋も用意してある。ハクはただこの家に居てくれるだけで十分って感じだ」
「……貴方にも多少なりとも常識や罪悪感は備わっているのですね」
「もちろんだ、もちろんだとも。だから早くその手を下ろしてくれません?」
情けない笑顔で懇願する大黒を見かねて、ハクは大黒に向けていた手刀を下ろす。
「私がこの家で過ごすにあたってのルールは追々決めていくとしましょう。ですがその前に確認しておきたいことがあります。……貴方は、本当に分かっているのですか? 私と一緒にいるという、その意味が」
「……分かってるよ、分かってるつもりだ。家を出た時から……いや、九尾の狐に理想を抱いた時からその覚悟はしてきた」
九尾の狐。妖怪に疎い者であろうと一度は耳にしたことがあると思われる名前。
大きな力を持つ者にはそれなりのしがらみや苦悩が纏わりつくのが世の道理である。それは時に、大きな力を持つ者の傍にいる者にさえも牙をむく。
大黒もそのことはきちんと認識している。
「……妖怪からも人間からも狙われますよ」
ハクは苦々しい顔で念を押してくるが、大黒の覚悟はぶれることは無く、大黒は右拳で自分の胸を強く叩いた。
「どんと来いだ! 俺はハクのためなら世界だって敵に回せる!」
人生には大きな分岐点がいくつか存在する。その時の選択如何によって、その後の人生は大きく形を変えてしまう。
大学四回生の四月、大黒真の人生最大の分岐点はそこにあった。ハクと一緒に生きるという選択をしたことにより、大黒にとって一番過酷で、一番幸せな人生が幕を開けることとなった。
「ん? ああ、そこの部屋の中にあるのは家を出る時に盗ってきた色んな呪具だよ」
告白の途中で露骨に話題転換されたのにも関わらず、それを気にした素振りを見せない大黒をハクは訝しく思うが、話を戻すわけにもいかないのでそのまま話を聞く。
「今は衰退して見る影もないが、大黒家はその昔、名家って呼ばれるような所だったらしいんだ。その時の名残で呪具や資料は豊富に揃えられていた。それで行きがけの駄賃に扱いやすく強力なものをいくつか持ちだしてきて、そこに保管してあるんだよ」
大黒は立ち上がり和室へと歩いていくと襖に手をかけ、部屋の中にある呪具をハクに見せる。
ハクもひょこひょこと大黒についていき、大黒の隣で部屋の中の呪具を観察する。
「なるほど、確かに規格外の物もいくつかありますね」
「伝説の妖怪にそう言ってもらえて光栄だ。ゴミ同然だとか言われたらどうしようかと」
「呪具とは製作者が強い思いを込めて作り上げるものです。拙い出来だったとしてもそれを中傷することは言いませんよ」
興味深げに呪具を眺めながらそう言ったハクの目に一種類の道具が止まった。
「あの大量にある木刀は何ですか?」
ハクの目の先には中学生が修学旅行で好んで買いそうな木刀が十本前後並んでいる。
禍々しい気を放つ道具と一緒に置かれているそれは、明らかに場違いであり一際異彩を放っている。
「見ての通り木刀だ。俺は基本的に木刀で妖怪と闘うからストックは多いに越したことはないんだよ」
「いえ、そうではなく。ただの木刀にしては随分大きな力を感じるので、どんな逸話があるものなのかと。それにストックと称するには些か心許ない数ですし……」
「あー……、それにはまず俺が何で木刀を使ってるのかってところから何だが……」
大黒は頬を掻きながら言葉を探す。
「それも気にはなりました。殺傷能力が低く、霊力も通りにくい木刀などを武器に使うなんてどんな意味があるのかと」
一般に妖怪は人間よりも力が強く、体が丈夫にできている。そのため、陰陽師が妖怪を相手取るときに使う武器は、確実に相手の体に傷を残せる真剣や弓が一般的である。
ハクが見てきた陰陽師も、稽古等ではともかく、妖怪と戦う場で木刀を使う者はいなかった。
それなのにあえて木刀を使っている大黒にはどのような信条があるのかとハクは初めて大黒自身に興味を示す。
ハクは大黒を見つめるが、どうしたことか今まで(鬱陶しいくらいに)ハクを見つめてきた大黒がその目を逸らしながら話し出す。
「言ってしまえば簡単なんだけどさ。俺は普通の刀が使えないんだ」
絞り出すように言葉を吐き出した大黒の顔は、親の話をしている時と同じくらい苦渋に満ちていた。
その顔を見てハクは大黒のデリケートな部分に触れてしまったのかと思い、気を使った声を出す。
「あの、言いづらいことがあるのでしたら無理に言わなくても……」
「いや、聞いてくれ。ハクに隠し事はしたくない」
だが大黒は意外と実直な性格のようで、一度言うと決めた以上それを覆すことはしないらしい。少なくともハクに対しては。
ハクもそれを感じ取り、聞き手としての心の準備を整える。
「分かりました、聞きましょう」
「俺も日本刀を使おうとしてた時期はあったんだ。メジャーな武器だし、何よりもかっこいいからな。でも俺の考えは甘かったんだ」
両目を閉じて重苦しく吐かれる大黒の言葉を、ハクは正面から受け止める。
「日本刀は、重い」
「は?」
一体どんな事情があるのだろうと身構えていたハクは、予想外に軽い大黒の理由に理解が追い付かず馬鹿みたいな声をあげてしまった。
ハクの様子を気にせず大黒は話を続ける。
「知ってるか? 日本刀って平均一・五キロくらいあるらしいんだ。そんなのを戦闘中に振り回すなんて俺にはとても無理だった」
「鍛えましょうよっ!」
「これでも鍛えたんだぞ、……一週間くらい」
「ぼそっと言ったの聞こえてますからね」
「いやー、それ以上筋トレとか型覚えたりするのも面倒でなー。でも武器は必要だし、どうしようかと考えてたら思いついたんだ。別に真剣とか使わなくても木刀でいいんじゃないかと」
さも名案を思い付いたかのように話す大黒に、ハクは呆れてため息を吐く。
「向上心のかけらもありませんね」
「それで木刀使うようになったんだけど、妖怪相手には効きづらいし、案外脆いしでまたどうしようか考えた」
「大人しく鍛えて真剣使ったら良いのでは」
聞こえていないのか、聞こえていない振りをしているのか大黒はハクの言葉に反応しない。
「そんで、考えながら縁側でぼーっとしてたら、庭にあるなんか、歴史のある神木が目についた」
大黒の言葉を聞いてハクは部屋の中にある木刀に目を移した。そして震えた指で木刀を指し示す。
「まさかあの木刀は……」
「そう。その神木を切り倒し、作れるだけ作った特別製の木刀だ」
そう答える大黒は何故か自慢げな顔をしていた。
「罰当たりにも程があるでしょうっ!」
「えー、なんでだよ。特別な素材で作られた武器なんてそこら中にあるだろ?」
「動機が不純だと言ってるんです! 楽をしたいがために切り倒される御神木の身にもなってください!」
「そんなこと言われても木の気持ちなんてわかんないしなぁ……。それにちゃんと苦労はしたんだぞ、夜中に人を起こさないように大木を切ってそれを加工するとか想像するだけでも大変だと分かるだろ」
自業自得な苦労を語る大黒に対してハクは余計に怒りを募らせる。
「その苦労は別の所ですべきなんです! はぁ……、もういいです……。それよりもやはり家の方には無断で作業を行ったんですね」
「そりゃ樹齢千年はゆうに超えてる木だったらしいし、家の連中と仲が良くても木刀にしたいなんて許されるはずも無いしな」
「全部分かっている上で尚、実行したのですから余計に質が悪いですね」
「それにほら、神木だってあんな家に植えられてるより俺に使われた方がよっぽど幸せってもんだろ」
軽蔑交じりの言葉を受けても大黒は悪びれもしない。
「過大評価も甚だしいですね。はぁ……、御神木の伐採に呪具の持ち出しなんて、縁を切るどころか命を狙われてる可能性すらありますよ」
「上等だ! 返り討ちにしてやる!」
「真剣も振れないくせにやたらと好戦的ですね」
「ま、ま、そのあたりのことはもういいだろう。自分が非力だって話をするのはわりと恥ずかしいんだ。それよりもこの呪具たちを見てってくれよ、ハクも認める俺の自慢のコレクションの数々を!」
「盗人猛々しいとはこのことですね……。しかし、」
ハクは部屋に敷き詰められている呪具をぐるっと一望する。
「木刀以外にも気になるものがいくつかあるのも確かです」
「そりゃ良かった。俺は気にせずあれこれ調べてくれてもいいぞ。効能が知りたかったら聞いてくれ」
「ふむ」
ハクは手を顎に当てて部屋へと踏み入った。
「この櫛は何ですか?」
「使った時間が長いほどその使用者に幸福をもたらすけど、壊れたら最後に使ってた人間に今まで櫛がもたらしてきた幸福分の不幸が訪れる呪具」
「こちらの鏡は?」
「誰かの写真を自分の顔に重ねながら鏡に映ると、写真の人物の顔になれる呪具。一度顔を変えると鏡を壊すまで元に戻れない」
「あの熊のぬいぐるみは?」
「あれを枕元に置いて寝ると、十回に一回の頻度で起きるのが嫌になるくらい幸せな夢を見れる呪具。残りの九回は逆に寝るのが嫌になるくらいの悪夢を見る」
ハクは気になった呪具を次々と指さしてその効果を大黒に尋ねる。
部屋の中を歩き回るハクの足取りはとても慎重で、万が一にも呪具に触れないよう細心の注意を払っているのが見て取れる。
呪具には触ることが呪いの発動条件であるものも多く、過去にはこの部屋にある何倍もの数の呪具を扱ってきたハクはそのことをよく知っている。
呪具に触れないように、鏡には映らないように、壺は覗き込まないように。興味と警戒を同居させて部屋を見ていたハクだったのだが、
「これは何でしょう?」
何故か石で出来ている箱に強く惹かれ、足元にあったそれを拾い上げると、先ほどまでの警戒はどこに行ったのか不用意にもその箱を開けてしまった。
「っ!?」
箱を開けた瞬間、中から煙が噴出しハクの体を覆った。
突然の事態に頭が追い付かず、ハクは煙が消えるまで棒立ちの状態で事態が収まるのをただ待つのみとなってしまい、煙が晴れた時には、
「な、なんですかこれー!!?」
体が縮んでしまっていた。
「どうしたハク! そんなに小さくなってしまって! ちっちゃいハクも可愛いな!」
「言っている場合ですかっ!」
この異常事態にもぶれずに能天気でいる大黒をハクは叱責する。
ハクが振り返って大黒を見るとその顔には隠し切れない笑みが滲んでいた。それは、何もかもが予定通りにいった人間が浮かべる笑みであった。
その顔を見たハクは空恐ろしいほどの無表情で問う。
「私が持っているこの石箱は何ですか」
「ど、どうしたんだハク。せっかくの可愛い顔が台無しだぜ」
大黒は震え声になりながらも茶化そうとしたが、ハクは一切表情を崩さない。
「はやく答えてください」
「はい」
大黒も観念し、呪具の詳細を語りだす。
「それはだな、とある特別な石を使って作ったもので、その蓋を開けた者の生命力を奪う力を持ってるんだ」
「…………」
ハクは小さくなった自分の手を見つめる。さらに確認のため尻尾を出してみたが、その数は三本しかなかった。
「生命力を奪うというなら何故私は生きているのでしょう」
「箱には許容量があってな、その許容量を超える力は奪えないんだ。俺も許容量の上限を初めて知ったが、見たところハクの力の三分の二が上限だったらしい」
生命力はつまり霊力と言い換えられる。霊力が強いほど長寿であるし、霊力が弱いほど短命だ。
転生を繰り返し強大な力を身に着けた妖狐の三分の二の力を奪えるその箱は、常人が開けると数瞬の間も無くその命を奪い尽くす。
「呪具についてはある程度分かりました。……ここからが大事なのですが、この呪いを解く方法はありますか?」
「あるにはある。けど、実行不可能だから無いとも言えるな」
「聞いてから判断しますのでその方法を早く口にして下さい」
「……まあ、力はその箱に閉じ込められてるんだからそれを開ければ力は元の持ち主の元に帰ることになる。力の持ち主が生きていないと箱を開けても力が霧散するだけだから殆ど意味の無い解呪方法だけど」
「私は生きているのですからそこの心配はいらないでしょう。貴方が不可能だと思う問題は何なのですか」
「あー……、それを開けるにはさ、中に閉じ込められてる以上の力を持ってる奴が必要なんだ」
それを聞き、ハクは、『なるほど、それは不可能だ』と思った。
三分の一しか霊力が残っていない自分はもちろん、三分の一の自分と同等かそれよりも劣る力の大黒も箱を開けるのに適した力は持っていない。
そもそも世界中を探したところで、箱に封じられた以上の力を持つ生き物は極僅かだろう。
「……とりあえず今すぐ力を取り戻すことは諦めましょう。長い、長い時間はかかりますが霊力はいずれ回復するでしょうし。それよりも聞きたいことがあります」
「な、なに?」
大黒は目を逸らしながら挙動不審な態度をとる。
「貴方は先ほど『とある特別な石』と言葉を濁しましたが、この石箱はどのような石で造られているのですか」
大黒はハクの質問に手を右往左往させてどうにか誤魔化そうとしたが、確信を携えた瞳をしているハクを見ると、諦めて息を吐く。
「あー……、その石は近づくだけで生き物を殺す力がある。その石は俺の実家の近くにあり、昔から石の伝説を何度も聞いた。……大黒家がある場所は栃木県那須町、」
そこで大黒は一度言葉を切り、少しの静寂が部屋に落ちる。
「石の名前は、殺生石」
鳥獣がこれに近づけばその命を奪う、殺生の石。
栃木県の那須町にあるその石は、伝説の妖狐玉藻の前が正体を見破られ、この地で討伐された後の姿だといわれている。
「やはりそうでしたか……、こうなるのは貴方の計画通りだったということですか」
「そんな死神の本を拾った天才みたいなことは言わないさ。計画というよりも願望通りといった方が正しいしな。妖狐は呪いを得意とする妖怪、じゃあ九尾の狐も呪いを得手としているだろうし呪具に興味を持つんじゃないか。殺生石は九尾の狐が姿を変えたもの、じゃあ殺生石で作った呪具には警戒心が薄れるんじゃないか。そんな予想とも言えないただの願望が奇跡的に現実になった」
ハクが大黒の告白を躱した時に大黒が何も言わなかった理由もこれである。
本来なら大黒の方から呪具のある部屋にハクを誘導しようとしていたのだが、ハクの方から言い出してくれたことにより不自然さが無くなったと大黒は内心ほくそ笑んでいた。
「これでずっと一緒にいられるなっ!」
九尾の狐を自分の所に留まらせておくための考え、その全てが上手くいった大黒は嬉しそうに破顔する。
しかし騙し討ちを食らったハクは穏やかではない。
「貴方はこれくらいで私を閉じ込めておけると思っているのですか」
ハクの背後に大きな火球が三つ浮かぶ。
それは脅しのためのものではなく、ここで大黒が失言でもすれば、火球は見た目通りの威力を伴って大黒に向かってくるだろう。
そのため大黒も今までのようにふざけたりはせず、真面目に答える。
「……甘めに見積もって今のハクと互角って所だろうな。いい勝負はするだろうけど多分負ける。でもハクだって気づいてるだろ」
「…………」
大黒が言っているのは部屋に仕掛けられている妖怪用の結界のことである。
大黒はいつか九尾の狐を自分の部屋に連れて来ることが出来た時のために、大黒が許可した者以外は出入りすることが出来なくなる結界で部屋全てを覆っていた。
もちろんハクはこの部屋に着いた時から結界の存在に気付いていた。部屋に入る時に壊すことも考えたのだが、結界の余りの精緻さ、美しさに壊すのがもったいなくなり、そのまま放置することにした。だが、そんな考えも自分にこの結界は用をなさないという余裕から出たものであった。
霊力が三分の一まで落ちた今の自分ではあの結界を突破することは出来ない、そう判断したハクは過去の自分の慢心を呪いたくなった。
「これでも結界術だけなら他の陰陽師に遅れはとらないと思ってる。ハクも今の力で結界を壊すのは無理なはずだ。この結界には三年間注ぎ続けた俺の霊力がこもってるし俺が死んでもこの先数十年はもつだろう。つまりハクがここで俺を殺したら、その数十年間ハクはこの部屋で食糧も娯楽もなく無為な時間を過ごすことになる。そんなのはごめんだろ?」
大黒はハクがすぐに自分を攻撃してくる意思は無いと判断して、ハクがここに留まる気になるように言葉を重ねる。
その説得が功を奏したのかハクは手を振って背後の火球を消した。
「貴方の言う通り、ここで争っても無駄ですね」
とりあえずは矛を収めたハクを見て大黒は安堵の息を吐く。
ハクは生きようと思えば数百年だって生きることが出来る。そんなハクにとって数十年と言うのは大黒に騙されたことによって傷つけられたプライドよりも優先されるものなのか、その天秤がどちらに傾くのか、それは大黒に分かるはずもなかった。
そんな訳でいつ火球が飛んでくるかと警戒し続け、極度の緊張をしていた大黒だったが、ハクが火球を消したことにより軽口が叩けるくらいには調子を取り戻した。
「そうそうラブ&ピースが一番だ」
「開き直られてもそれはそれで腹が立ちますが」
だが今すぐ殺すつもりは無くなったとはいえ、自分を閉じ込めた張本人にそのような態度を取られればハクの怒りが再燃するのも当然と言える。
「不本意ながら、今しばらくは貴方と同じ家で過ごすことになりました。それで聞いておきたいのですが、貴方はこの先の事をちゃんと考えているんですか」
ハクは額に血管を浮かび上がらせつつ、大黒にこれからの予定を尋ねる。
「そうだなー……、当面の目標は密室でハクと愛を育んでいくことかな!」
空気を読まない発言をした大黒の喉元にハクは手刀を突き付けた。
小学生くらいの体躯になってしまったハクがそうしても子供の遊びのように見えてしまうが、突き付けられた大黒からすれば先程と同じくらいの命の危機だった。
これ以上戯言を吐くようなら今すぐその喉を貫くぞ、というハクの殺意を言外に感じ取り、大黒は冷や汗を垂らしながら両手を挙げる。
「う、うん。考えてるといったら嘘になるな、どう閉じ込めようという事しか考えてこなかったから。だからハクには何かしてもらおうとは思ってない、欲しいものがあったら言ってくれれば買ってくるし、家の事も俺に全部任せてくれ。本当は一緒のベッドで寝たいけど最初はハクも嫌がるだろうしハク用の部屋も用意してある。ハクはただこの家に居てくれるだけで十分って感じだ」
「……貴方にも多少なりとも常識や罪悪感は備わっているのですね」
「もちろんだ、もちろんだとも。だから早くその手を下ろしてくれません?」
情けない笑顔で懇願する大黒を見かねて、ハクは大黒に向けていた手刀を下ろす。
「私がこの家で過ごすにあたってのルールは追々決めていくとしましょう。ですがその前に確認しておきたいことがあります。……貴方は、本当に分かっているのですか? 私と一緒にいるという、その意味が」
「……分かってるよ、分かってるつもりだ。家を出た時から……いや、九尾の狐に理想を抱いた時からその覚悟はしてきた」
九尾の狐。妖怪に疎い者であろうと一度は耳にしたことがあると思われる名前。
大きな力を持つ者にはそれなりのしがらみや苦悩が纏わりつくのが世の道理である。それは時に、大きな力を持つ者の傍にいる者にさえも牙をむく。
大黒もそのことはきちんと認識している。
「……妖怪からも人間からも狙われますよ」
ハクは苦々しい顔で念を押してくるが、大黒の覚悟はぶれることは無く、大黒は右拳で自分の胸を強く叩いた。
「どんと来いだ! 俺はハクのためなら世界だって敵に回せる!」
人生には大きな分岐点がいくつか存在する。その時の選択如何によって、その後の人生は大きく形を変えてしまう。
大学四回生の四月、大黒真の人生最大の分岐点はそこにあった。ハクと一緒に生きるという選択をしたことにより、大黒にとって一番過酷で、一番幸せな人生が幕を開けることとなった。
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