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一章 大黒家争乱編
序
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京都に住む大学生、大黒真はある噂の真偽を確かめるため夜の街を徘徊していた。
曰く、千年近く前退治された九尾の狐が長い時を経て転生したらしい。
曰く、その狐は自分を退治した人間たちに復讐しようとしてるらしい。
曰く、そのためにまずは霊力の強い土地が多い京都から手中に収めようとしているらしい。
どれもここ数年、陰陽師の間でまことしやかにささやかれている噂である。
しかし噂はあくまで噂、実際にその目で九尾の狐を確認したものはいない。
念のため警戒しておけという通達が流れる程度の軽い与太話。
だがこの男、大黒真は九尾の狐と言う存在に並々ならぬ感情を抱いている。
その噂を聞いた時から京都にある大学に進学を決め、京都に住むようになってからは一日たりとも散策を欠かさない程である。
雨が降ろうと、雪が降ろうと、台風が来ていようと、体が高熱に侵されている時であろうと探すのをやめた日は無かった。
交通事故に遭い足を骨折した時でさえ、病院を抜け出して街に繰り出し、主治医に大層怒られた。
確かかどうか分からない噂のために、そこまで身を削る恐るべき執念。
そして三年の月日を費やした九尾の狐探索、その努力がとうとう結ばれる日が来た。
月明かりしか光の無い人気の少ないくらい路地裏、そこで大黒は出会った。
獣を思わせる切れ長の瞳、日本人ではありえない銀髪、女にしては高い身長、性別関係なく誰もが振り返るであろう整った顔。服装は現代風だったが、その服を押し退けて腰の付け根から伸びているのは九本の尻尾。
(間違いない、やっと、やっと出会えた……!)
大黒はその身を震わせながら、その人物に近づいていく。
「あれ? 貴方もしかして私の事が見えてますか? おかしいですね……、しっかりと隠形していたはずなのに……」
その人物が何かを言っていたが、長年の目標を目の前にして昂ぶった大黒には聞こえていない。
九尾の狐はそんな大黒を訝しげに眺めながら考える。
魑魅魍魎が跋扈していた平安の世と違い、現代では妖怪が実在していると知っている人間は少ない。
転生してから数年、現代の事を調べている内にそれは理解している。
そんな世の中で今の自分の姿を見て、怯えたり逃げたりしない人間とは何者か。
決まっている、陰陽師だ。
昔から妖怪退治を生業としている人間たち。
妖怪と同じくそれを知っている人間は少なくなったが、今でも確かに存在している。
(ふう、せっかく気持ちよく尻尾を伸ばしている時にタイミングが悪い。やはりいつの世も陰陽師というものは忌々しいですね)
目の前の人間を陰陽師だと判断し、九尾の狐は少しずつ自分の方に近づいてくる大黒に対し警戒態勢をとる。
大黒は九尾の狐の様子が変わった事にも気づかず、ただ本能の赴くまま足を前へと進める。
「止まりなさい。それ以上近づくと敵対する意思があると判断し、迎撃します」
九尾の狐は自分の周りに火の玉を巡らせながら大黒を威嚇する。
さすがにその姿を見て、大黒も少し冷静さを取り戻し、足を止めた。
冷静になったことで頭が働くようになり、九尾の狐と会った時に言おうと決めていた言葉を思い出す。
大黒は勢いのまま、その言葉を九尾の狐にぶつける。
「ずっと前から好きでした! 俺と結婚して下さい!」
……………………
「えっ?」
それが出会い、陰陽師の家系に生まれ落ちた大黒真と過去様々な国を混乱に陥れた大妖怪である九尾の狐の恋の物語の始まりであった。
曰く、千年近く前退治された九尾の狐が長い時を経て転生したらしい。
曰く、その狐は自分を退治した人間たちに復讐しようとしてるらしい。
曰く、そのためにまずは霊力の強い土地が多い京都から手中に収めようとしているらしい。
どれもここ数年、陰陽師の間でまことしやかにささやかれている噂である。
しかし噂はあくまで噂、実際にその目で九尾の狐を確認したものはいない。
念のため警戒しておけという通達が流れる程度の軽い与太話。
だがこの男、大黒真は九尾の狐と言う存在に並々ならぬ感情を抱いている。
その噂を聞いた時から京都にある大学に進学を決め、京都に住むようになってからは一日たりとも散策を欠かさない程である。
雨が降ろうと、雪が降ろうと、台風が来ていようと、体が高熱に侵されている時であろうと探すのをやめた日は無かった。
交通事故に遭い足を骨折した時でさえ、病院を抜け出して街に繰り出し、主治医に大層怒られた。
確かかどうか分からない噂のために、そこまで身を削る恐るべき執念。
そして三年の月日を費やした九尾の狐探索、その努力がとうとう結ばれる日が来た。
月明かりしか光の無い人気の少ないくらい路地裏、そこで大黒は出会った。
獣を思わせる切れ長の瞳、日本人ではありえない銀髪、女にしては高い身長、性別関係なく誰もが振り返るであろう整った顔。服装は現代風だったが、その服を押し退けて腰の付け根から伸びているのは九本の尻尾。
(間違いない、やっと、やっと出会えた……!)
大黒はその身を震わせながら、その人物に近づいていく。
「あれ? 貴方もしかして私の事が見えてますか? おかしいですね……、しっかりと隠形していたはずなのに……」
その人物が何かを言っていたが、長年の目標を目の前にして昂ぶった大黒には聞こえていない。
九尾の狐はそんな大黒を訝しげに眺めながら考える。
魑魅魍魎が跋扈していた平安の世と違い、現代では妖怪が実在していると知っている人間は少ない。
転生してから数年、現代の事を調べている内にそれは理解している。
そんな世の中で今の自分の姿を見て、怯えたり逃げたりしない人間とは何者か。
決まっている、陰陽師だ。
昔から妖怪退治を生業としている人間たち。
妖怪と同じくそれを知っている人間は少なくなったが、今でも確かに存在している。
(ふう、せっかく気持ちよく尻尾を伸ばしている時にタイミングが悪い。やはりいつの世も陰陽師というものは忌々しいですね)
目の前の人間を陰陽師だと判断し、九尾の狐は少しずつ自分の方に近づいてくる大黒に対し警戒態勢をとる。
大黒は九尾の狐の様子が変わった事にも気づかず、ただ本能の赴くまま足を前へと進める。
「止まりなさい。それ以上近づくと敵対する意思があると判断し、迎撃します」
九尾の狐は自分の周りに火の玉を巡らせながら大黒を威嚇する。
さすがにその姿を見て、大黒も少し冷静さを取り戻し、足を止めた。
冷静になったことで頭が働くようになり、九尾の狐と会った時に言おうと決めていた言葉を思い出す。
大黒は勢いのまま、その言葉を九尾の狐にぶつける。
「ずっと前から好きでした! 俺と結婚して下さい!」
……………………
「えっ?」
それが出会い、陰陽師の家系に生まれ落ちた大黒真と過去様々な国を混乱に陥れた大妖怪である九尾の狐の恋の物語の始まりであった。
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