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第四章:燃えつきろ! 男女大競演舞会編

29話:センパイの男気

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【男気】


 真実は、ゆっくりと目を見開いた。
 あたりは砂埃にまみれていた。
 視界はゼロだったが、自分の体が無事なことだけは、さすがに理解ができる。体中をさすりながら、真実は怪我の有無を確認した。

「わ、私、生きてる……?」

 あの規模の落石で無傷だなんて考えられない。
 そう思って見上げてみると、そこにはぼんやりと誰かの――。
 ――横峯センパイの背中が見えた。

「せ、センパイ!?」

 真実はすべてを理解した。
 なぜ自分が無事だったのか。無傷だったのか。
 先を行っていたはずのセンパイが戻ってきて、真実の盾となって落石をすべて受け止めてくれたのだ。
 埃にまみれ、擦り傷だらけになって、センパイはいまなお、軽自動車ほどもある大きさの岩石を両手に抱えている。

「い、いってぇ……。これって、下手すると本当に死人が出ちゃうわよ」

 地の声なのか、わずかに低い男らしい声でそう言って、センパイは一息つくと、「よいしょっ!」と、力いっぱい岩石を遠くに放り投げた。
 ものすごい――腕力だった。
 あまりの力業にレイは思わず感嘆のため息をつくほどだった。

「さすがチートセンパイ。あんな岩をも吹き飛ばすなんて」

「そ、そういう問題か?」

 俺は思わずツッコミをいれた。
 怪力にもほどがあるだろう……。

   ★ ★ ★

「はぁ……さすがにしんどいわ」

 自分の肩に手を触れて、コキコキと首を鳴らす横峯センパイ。

「せ、センパイ……。どうして」

 息をつきながら、真実は震えの止まらない体を両手で強く押さえた。

「か、勝ってたのに……」

「勝ってた? こんなトラップで脱落するのなんてナシでしょ」

 センパイはこともなげに言ってのける。
 その一言で真実は察した。

「くっ。トラップごときで自爆されるより、自分の手でコテンパンにしたい。そういうことですか。たしかに、センパイにはその権利がありますわ」

「……」

「さあ、好きにするがいいです!」

 真実は目を閉じ、身体を広げて、横峯センパイに差し出した。

「センパイにやられるのなら……本望です」

 目尻にうっすらと、涙がにじむ。
 それを見て横峯センパイはちょっと考える仕草をして、

「やーめた」

 と、巨大鉛筆を肩の後ろに放り捨てた。

「私の負けでいいわ」

「えっ!?」

 驚く真実に、センパイはこうつけ加える。

「涙を浮かべる女の子を負かすなんて、私にゃできないわ」

 センパイの言動にとまどいながらも、冴子先生はマイクを持って近づいた。

「負かすことができない? ……と、申しますと?」

「棄権しまーす」

 センパイはマイクで大きく宣言した。

「えええええええっ!」

 その場の誰もが――敵味方関係なくおどろき戸惑った。
 しかし、本人がそう言ってるからしょうがない。
 冴子先生は真実の方へ近づくと、彼女の腕を高く持ち上げて、

「で、では、勝者。真実さん!」

 呆然としたまま勝利宣言を受ける真実。しかし、やがてじわじわと怒りがこみ上げてきて、立ち去ろうとする横峯センパイの後ろまで駆け寄り、呼び止めた。

「横峯センパイ!」

「ん?」

 言ってやる言ってやる。ビシッと言ってやる――。

「いい気にならないでくださいね。私は女しか愛せない身――」

 真実はビっとセンパイを指さして、

「あなたに……ほ、惚れたりなんかしないんですからねっ!」

 と言い放った。

「はーい。肝に銘じとくよ」

 横峯センパイはそれだけ言って、選手観覧席へと戻っていった。


【ごめーん】


 みんなの所に戻り、まず横峯センパイは謝罪を口にした。

「ごめんね。みんな」

 しかし、そんな彼女をみんなは許さなかった。

「ホントですよ! なにも負けることなかったじゃないですかっ!」

「そーよそーよ!」

 レイもアキラもキーキーと言っている。

「よ、予想以上のブーイング……」

 センパイはたじろいで、思わず、するつもりのなかった弁明をしてしまうほどだった。

「も、盛り上がったんだし、ここは『よくやった』とか『かっこよかった』とか『私でもそうしてた』とか『女の子に手をあげるなんてできないよね』とか言ってくれてもいいんじゃない?」

「だって……」

 アキラは唇をつきだしてふてくされる。

「女の子に手をあげなくても、回答ボードに答えを書きさえすれば終わってた勝負じゃないですか」

「……はっ!」

 センパイの笑顔が凍り付いた。

「そ、そういえばそういう勝負だったね……」

 あまりにマッチョな展開だったため、途中からガチ勝負の様相を呈していたが、よく考えると、あの勝負は知力の戦いだったのだ。

「知力よ! 知力の勝負だったのよ!」

「ご、ごめーん」

 センパイは両手をあわせて、素直に頭をさげた。そして軽く唇をかみしめて、困ったような笑顔を浮かべて、きゅんと肩をすぼめる。
 その天使のようなスマイルに、レイは手を前にかざし、まぶしげに目を細めて、

「く……っ。に、憎めない」

 と言った。
 怒るに怒れないこの微妙な心境に、アキラも苦い表情を浮かべて、

「この笑顔は反則ね」

 と、ため息をつくのだった。
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