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第四章:燃えつきろ! 男女大競演舞会編

25話:知力体力時の運

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【玄武に白虎】


 雛菊は教室で一人ぼうっとしていた。

「男女大競演舞会……」

 思わず口について出たのは、明日の男子との決戦についてのこと。
 トレビアンの門をくぐってから三年目にして初めて開催されるこの演舞会。
 かつては毎年行われていたそうだが、名前の華やかさに反してあまりに過酷な内容からいつしか行われなくなったと言われている。
 その伝説の祭典を目の前に控え、雛菊は武者震いを禁じ得なかった。
 そんな彼女に、

「ヒナちーん」

 と、気安く話しかけることができるのは、トレビアン広しと言えども白虎姫こと西倉宇奈しかありえないだろう。
 雛菊は軽薄に近寄ってくる宇奈をめんどくさそうに一瞥して、

「宇奈か……。どうしたの?」

 と言った。宇奈はぱっちりとした目を意地悪そう細める。

「男子達と戦うのが怖いかい?」

「別に。私はただ見てるだけよ。戦うのは妹たち」

「まあ、玄武姫は男子アレルギーだからねー。戦いたくても戦えないか」

「う、うるさいな……」

 雛菊はうっとうしそうに視線をそらす。

「宇奈。あなた、いったいなにしに来たの? 冷やかし目的なら申し訳ないけど、やめていただけないかしら」

「ふっふーん。ちがうちがう。そんなに尖らないでよ」

 宇奈は『敵意なし!』と、両手を軽くあげて苦笑を浮かべた。

「私はあなたを助けに来たのさ」

「助けにですって?」

 いかにも胡散臭そうな顔をする雛菊。しかし宇奈はまったく気にした様子もなく、

「戦力は大丈夫? 玄武ってたしか、体育会系の子が少なかった気がしたけど」

「ばかにしないで。ウチは精鋭ぞろいよ」

 と言いながらも、雛菊の一番の不安材料は、今まさに宇奈に指摘されたところだった。
 基本的に文学系の玄武組は、正直、体力勝負には自信がない。
 痛いところを突かれて、内心雛菊は舌打ちをした。
 そんな雛菊を見透かすように宇奈は意地悪く笑って、

「私の愛子、貸しましょうか?」

 と言った。
 思わず宇奈の顔を見つめる雛菊。
 如月愛子――詩天王白虎姫直属の戦闘員。第三妹頭。
 その能力は雛菊も充分に伺い知るところだ。

「そりゃあ、あんな強い子がいたら心強いけど。いいの?」

 宇奈は玄武姫が食いついてきたのを心から楽しそうに眺めながら、

「むしろ使ってほしいわ。あの子、保望に因縁の相手がいるみたいでね。ぜひ戦ってみたいって言ってたんだ。妹の願いを叶えてやるのが姉のつとめだから、ね?」

 宇奈はウィンクをし、最後にこう付け加える。

「あとね。たぶんそっちの方がより面白くなりそうじゃない?」

 悪くない話だった。
 トレビアンの重戦車と恐れられる如月愛子がいれば百人力。本人もそう望んでいるのなら、これを利用しない手はない。

「ふん。借しだなんて思わないでよ」

 交渉成立。
 宇奈は満足そうに笑って、

「いーよいーよ。互いの利害の一致ってことで」

 と言った。


【肩入れ】


 成宮ユウと出会って、男にも良い人はいるのだと開眼した新村舞は、なんとかしてトレビアンと保望の全面衝突を回避させようと思っていたが、何の影響力もない彼女がそんな大それたことなんて出来るはずもなく、自分の無力さに落ち込んで途方に暮れているところだった。

「お姉さま。保望の方達とどうしても戦わなくてはいけないのでしょうか……」

 玄武組直下の末端妹に位置する舞は、直属のお姉さまである真実に、意を決してたずねてみた。

「それが宿命よ」

 さも当然であるかのように真実は言う。

「あの人達、そんなに悪い人じゃない……と思うのですが」

 滅多に自分の主張を口にしない、大人しいと思っていた舞が、姉の言うことにこれほど食い下がるのも珍しい。
 舞の、吸い込まれるような真っ黒な瞳を見つめながら真実はたずねた。

「ずいぶんと肩入れをするのね」

「あ、いや。そんなことは……」

 そんな舞を見て真実はピンとくる。
 女の勘というやつだった。

「……もしかして保望の人たちの中に誰か好きな人でもできた?」

「そ、そんなことはありません!」

 舞のあまりの慌てように確信した真実は、さらに意地悪く聞いてみた。

「ほんとに?」

「……」

 舞は頬を赤らめて、真横に視線をそらしながら、

「ほ、ほんとです」

 と言った。
 そのあまりの可愛さに、思わず抱きしめたくなる衝動を抑えながら、真実は苦笑を浮かべる。
(ほんとに正直な子)
 けど……。
 ごめんね。舞。

「悪いけど、戦いは避けられないわ。悲惨な結果にならないように祈っていなさい」

 姉のその言葉に、舞は顔を曇らせて「はい……」と言うしかなかった。
 成宮さん、ごめんなさい……。
 私の力では、お姉さま方を止めることはできません。
 自分の無力さに、さらに落ち込む舞であった。


【センバツ】


 俺たちは明日の大演舞会に出場する選手を決めていた。
 アキラがその場のみんなの顔を見回して、

「知力、体力、時の運……。こっちからは誰が出ます?」

 と言った。
 まずは元気よく挙手するシオン。

「体力はボクでっ」

「そりゃそうだわな」

「知力は私がいきましょうか」

 と、続いて手をあげたのは横峯センパイだった。

「妥当なところですね」

 アキラはシャーペンを顎に当ててうんうんとうなずく。
 そして。

「時の運は……」

 と言ったところで、みんなの視線が自分に集まっていることに気づくアキラ。

「な、なんで私を見るのよ」

 俺は言った。

「だって、運の固まりみたいなレイは欠席だし。それに、アキラ、おまえは他に取り柄がないから見せ場を作ってあげないと」

 本音を言えば、俺は自分が選抜されたくない一心でアキラを推しているのだが、他の二人もおおむね同意をしてくれたようで助かった。

「というワケで、運しか取り柄のないアキラくん。よろしく頼むよ。はい、決定!」

 俺はこの調子で、とにかくゴリ押しで話を進めた。

「な、なんで私が……っ」

 アキラは納得のいかない様子で、この件に関しては最後の最後まで不満をたれていた。
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