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第一章:廃校!? 保望《ほもう》高校編
4話:ユウの憂鬱
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【ユウの憂鬱】
みんなの決起集会(?)を終えて、しょんぼりとしている俺にレイがいぶかしげな視線を向ける。
「ユウちゃんって、どうしてそんなに女装を嫌がるの? ヘンよ」
「いや。常識的に考えて、ヘンなのは絶対にキミらのほうだと思うけど……」
俺はただ、普通の男子校生活を過ごしたいだけなんだ。
きっちりとした、あこがれの黒い詰め襟学制服。
その袖に手を通す日が、もうすぐやってくる――そう思っていたのに。
それなのにこのザマだ!
俺が次に通うことになるのは、日本有数のお嬢様学校だそーじゃないか。
本当は男子校に通いたい俺がなぜ女子校に?
はんっ! とんだお笑い種だ。
これもそれも全部俺の【家】が悪い……。
俺は、自分の生い立ちを恨んだ。
理不尽な家。理不尽なしきたり。
悲しい過去!
そう。俺には悲しい設定がある……。
「俺の家ってさ、ちょっと色々とうるさくてさ。しきたりとか――」
「ねーねー。シオンちゃん。マックに寄ってかない?」
「いいですね! ボクえびフィレオセットがいいなー!」
……聞いちゃいねえ。
「お前ら、人の話聞けよ」
俺はちょっとキレぎみに言った。
★ ★ ★
結局俺たちはマックにやってきた。
んで、話の続きをした。
「ふーん。しきたりって……見かけによらずユウちゃんって良いとこのお嬢さんだったんだね」
フィレオフィッシュをかじりながらレイは感心したように言う。
俺はチキン竜田を頬張りながら片眉をつり上げた。
「見かけによらずは余計だし、俺はお嬢ちゃんじゃないよ……。性別的にね」
そして気を取り直して話を続ける。
「でさ、そのしきたりの中に『成宮家の男子は成人するまでの間は女の姿で過ごすべし』みたいなのがあってさ」
そんなわけで、生まれた時からずっと女の格好をさせられていたのだ。
もちろん俺はそのことをずっと不満に思っていた。
「さっぱりワケがわかんないよ。このしきたりにいったいどんな御利益があるのか――」
少なくとも建設的な意味があるとはとても思えない。
いかにも『苦行をするのが偉い』といった、いにしえの悪しき精神論的風習なのは誰が見てもあきらかだろう。
「俺は――この呪いを断ち切りたい!」
つまり、女装なんてやめちまいたい!
心の底からそう思う。
そう思っていたのだが。
そのときレイが、『ちょっと待った』と言わんばかりに、冷静に俺の言葉を遮った。
「けどさ、ユウちゃん。もしそうだとしたら」
「うん」
「たとえ受け入れ先の学校が男女共学でも、ユウちゃんは女装をし続けなければいけないんじゃない? そのしきたりがあるかぎり」
「……」
たとえ男女共学でも女装をし続けなければならない。そのしきたりがあるかぎり。
そのしきたりがあるかぎり……。
しきたりがあるかぎり……。
あるかぎり……。
「……っ!」
レイとシオンはびっくりした様子で俺の顔を見た。
やめろ。そんな目で見ないでくれ……。
「て、天然……!? もしかしていままで気付かなかったの!?」
うう。何も言い返せない。
氷水をぶっかけられたような気分だった。
通う高校が男子校だろうと女子校だろうと関係なんてなかった。
そんなことは関係なく、俺は個人的に大人になるまでずっと女装をし続けていなければならなかったんだ。
頬が熱くなり、耳まで熱くなり、全身から湯気がでるほどの熱気が立ちのぼった。
俺はバカだ。バカだった。
恥ずかしくて何も言えない。
★ ★ ★
「ああ……。そうだ。俺はどのみちこの格好で大人になるまで過ごさなきゃだめだったんだ。どうしてこんなことに気づかなかったんだろう」
俺が落胆していると、シオンが可愛らしい手で肩をなでなでとしてくれた。
「ユウちゃん。落ち込まないで。ボクたちもいるじゃないか」
「そうよそうよ! あたしたちはどんなことがあっても友達よ」
「女装もみんなでやれば怖くないさ!」
「レイ、シオンちゃん……」
俺は涙を流した。
美しい男の友情。
いや、この場合は女の友情になるのか……。
……。
「うれしいんだけどうれしくない……」
涙を流しながらこぼす俺の言葉にレイは、
「失礼ねっ!」
と、すかさずツッコミを入れてくるのだった。
みんなの決起集会(?)を終えて、しょんぼりとしている俺にレイがいぶかしげな視線を向ける。
「ユウちゃんって、どうしてそんなに女装を嫌がるの? ヘンよ」
「いや。常識的に考えて、ヘンなのは絶対にキミらのほうだと思うけど……」
俺はただ、普通の男子校生活を過ごしたいだけなんだ。
きっちりとした、あこがれの黒い詰め襟学制服。
その袖に手を通す日が、もうすぐやってくる――そう思っていたのに。
それなのにこのザマだ!
俺が次に通うことになるのは、日本有数のお嬢様学校だそーじゃないか。
本当は男子校に通いたい俺がなぜ女子校に?
はんっ! とんだお笑い種だ。
これもそれも全部俺の【家】が悪い……。
俺は、自分の生い立ちを恨んだ。
理不尽な家。理不尽なしきたり。
悲しい過去!
そう。俺には悲しい設定がある……。
「俺の家ってさ、ちょっと色々とうるさくてさ。しきたりとか――」
「ねーねー。シオンちゃん。マックに寄ってかない?」
「いいですね! ボクえびフィレオセットがいいなー!」
……聞いちゃいねえ。
「お前ら、人の話聞けよ」
俺はちょっとキレぎみに言った。
★ ★ ★
結局俺たちはマックにやってきた。
んで、話の続きをした。
「ふーん。しきたりって……見かけによらずユウちゃんって良いとこのお嬢さんだったんだね」
フィレオフィッシュをかじりながらレイは感心したように言う。
俺はチキン竜田を頬張りながら片眉をつり上げた。
「見かけによらずは余計だし、俺はお嬢ちゃんじゃないよ……。性別的にね」
そして気を取り直して話を続ける。
「でさ、そのしきたりの中に『成宮家の男子は成人するまでの間は女の姿で過ごすべし』みたいなのがあってさ」
そんなわけで、生まれた時からずっと女の格好をさせられていたのだ。
もちろん俺はそのことをずっと不満に思っていた。
「さっぱりワケがわかんないよ。このしきたりにいったいどんな御利益があるのか――」
少なくとも建設的な意味があるとはとても思えない。
いかにも『苦行をするのが偉い』といった、いにしえの悪しき精神論的風習なのは誰が見てもあきらかだろう。
「俺は――この呪いを断ち切りたい!」
つまり、女装なんてやめちまいたい!
心の底からそう思う。
そう思っていたのだが。
そのときレイが、『ちょっと待った』と言わんばかりに、冷静に俺の言葉を遮った。
「けどさ、ユウちゃん。もしそうだとしたら」
「うん」
「たとえ受け入れ先の学校が男女共学でも、ユウちゃんは女装をし続けなければいけないんじゃない? そのしきたりがあるかぎり」
「……」
たとえ男女共学でも女装をし続けなければならない。そのしきたりがあるかぎり。
そのしきたりがあるかぎり……。
しきたりがあるかぎり……。
あるかぎり……。
「……っ!」
レイとシオンはびっくりした様子で俺の顔を見た。
やめろ。そんな目で見ないでくれ……。
「て、天然……!? もしかしていままで気付かなかったの!?」
うう。何も言い返せない。
氷水をぶっかけられたような気分だった。
通う高校が男子校だろうと女子校だろうと関係なんてなかった。
そんなことは関係なく、俺は個人的に大人になるまでずっと女装をし続けていなければならなかったんだ。
頬が熱くなり、耳まで熱くなり、全身から湯気がでるほどの熱気が立ちのぼった。
俺はバカだ。バカだった。
恥ずかしくて何も言えない。
★ ★ ★
「ああ……。そうだ。俺はどのみちこの格好で大人になるまで過ごさなきゃだめだったんだ。どうしてこんなことに気づかなかったんだろう」
俺が落胆していると、シオンが可愛らしい手で肩をなでなでとしてくれた。
「ユウちゃん。落ち込まないで。ボクたちもいるじゃないか」
「そうよそうよ! あたしたちはどんなことがあっても友達よ」
「女装もみんなでやれば怖くないさ!」
「レイ、シオンちゃん……」
俺は涙を流した。
美しい男の友情。
いや、この場合は女の友情になるのか……。
……。
「うれしいんだけどうれしくない……」
涙を流しながらこぼす俺の言葉にレイは、
「失礼ねっ!」
と、すかさずツッコミを入れてくるのだった。
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