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その瞳にうつるもの(1)

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最近、あのひとから連絡がない。
代わりに彼の名前が、着信履歴を埋めるようになった。

「あっついなぁー」
「そうですね」

街のなかを並んで歩く。
彼はなんで俺みたいな、一緒にいてもなんの得にもならないような奴を誘うんだろう。
それともそういう人間を放っておけない性質(たち)なのか。
とっちにしても、変わった人だと思う。



今日は蕎麦だった。
前に連れていって貰った店と似た雰囲気だけど、ここはそんなに混んでない。
店内には出汁(ダシ)のいい匂いが漂っていた。

「……なんか気になることでもあるん?」
「え?」

顔をあげると、向かいの席に座っていた中沢さんが俺を見ていた。

「や、ずっと見とるから」
「……あ、いえ」

慌てて携帯をしまう。

「……すみません」
「ちゃうねん、別に責めとるわけやなくて」

彼女?と中沢さんは言った。

「いえ、そんなんじゃ」
「ええやん、隠さんとっても。可愛いん?」
「………」

そこでなんて答えようか迷っている俺を見て、彼は違うとり方をしたらしい。

「悪い、立ち入ったこと聞いてもうて」
「……いえ、」

なんだか意外だった。
そういう気の遣い方は、あまりしない人だと思ってたから。

「……大人の人、です」

ぽつりと言う。

「あぁ、年上なん?やるなぁ~」

茶化すように中沢さんは言った。

「……でも最近…あんまり会ってなくて」
「忙しいん?」
「たぶん…」
「会いたい、言うてみたら?」
「……言えないです。そんな…」

あのひとは優しいから、拒絶はされないだろう。
だけど迷惑かもしれないし、図々しいと思われたくない。
お互いの立場を考えると尚更だ。

「……そっか、」
「………」

言葉にしないと伝わらないってわかってるけど、やっぱり怖い。
でもきっと彼のような人にはわからないだろうと思った。

「いや俺もな、どっちかってゆうとそういうタイプやねん」
「……ええ?」
「実は結構、ビビりなんよ」

彼は苦笑いを浮かべた。

「でもそんなとこ、相手に知られとうないし。好きな子やったら特に。それにそういう事で、自分のペースを乱されたないってゆうか」
「………」
「まぁ結局、カッコつけたいだけやんな。桑原さんにもガキって言われてん」

思わず噴きだした。

「え、ちょ、なんで笑うん?」
「……いえ、」

いつも明るくて、人気があって、悩みなんてなさそうで。
だけどこうして話してみると、かなりイメージが変わる。

……でも、

「……中沢さんは、格好いいですよ」
「え?」

きっと強いんだと思う。
だから自分の弱いところを認めて、開き直ることができる。

「俺は…狡いんです」

いつも誤魔化してばかりで。
薄っぺらな硝子越しからでしか、現実を見ようとしない。
臆病で、情けなくて、どうしようもない。

「ひとの優しさにつけこむ、狡い奴なんです」

だってそうでもしないと、あのひとは俺のことをあいしてくれない。
俺を見てくれない。

「……神崎くん、」

中沢さんが何か言おうとしたその時、お待たせしました~という声と共に蕎麦が運ばれてきた。


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