22 / 32
その瞳にうつるもの(1)
しおりを挟む最近、あのひとから連絡がない。
代わりに彼の名前が、着信履歴を埋めるようになった。
「あっついなぁー」
「そうですね」
街のなかを並んで歩く。
彼はなんで俺みたいな、一緒にいてもなんの得にもならないような奴を誘うんだろう。
それともそういう人間を放っておけない性質(たち)なのか。
とっちにしても、変わった人だと思う。
今日は蕎麦だった。
前に連れていって貰った店と似た雰囲気だけど、ここはそんなに混んでない。
店内には出汁(ダシ)のいい匂いが漂っていた。
「……なんか気になることでもあるん?」
「え?」
顔をあげると、向かいの席に座っていた中沢さんが俺を見ていた。
「や、ずっと見とるから」
「……あ、いえ」
慌てて携帯をしまう。
「……すみません」
「ちゃうねん、別に責めとるわけやなくて」
彼女?と中沢さんは言った。
「いえ、そんなんじゃ」
「ええやん、隠さんとっても。可愛いん?」
「………」
そこでなんて答えようか迷っている俺を見て、彼は違うとり方をしたらしい。
「悪い、立ち入ったこと聞いてもうて」
「……いえ、」
なんだか意外だった。
そういう気の遣い方は、あまりしない人だと思ってたから。
「……大人の人、です」
ぽつりと言う。
「あぁ、年上なん?やるなぁ~」
茶化すように中沢さんは言った。
「……でも最近…あんまり会ってなくて」
「忙しいん?」
「たぶん…」
「会いたい、言うてみたら?」
「……言えないです。そんな…」
あのひとは優しいから、拒絶はされないだろう。
だけど迷惑かもしれないし、図々しいと思われたくない。
お互いの立場を考えると尚更だ。
「……そっか、」
「………」
言葉にしないと伝わらないってわかってるけど、やっぱり怖い。
でもきっと彼のような人にはわからないだろうと思った。
「いや俺もな、どっちかってゆうとそういうタイプやねん」
「……ええ?」
「実は結構、ビビりなんよ」
彼は苦笑いを浮かべた。
「でもそんなとこ、相手に知られとうないし。好きな子やったら特に。それにそういう事で、自分のペースを乱されたないってゆうか」
「………」
「まぁ結局、カッコつけたいだけやんな。桑原さんにもガキって言われてん」
思わず噴きだした。
「え、ちょ、なんで笑うん?」
「……いえ、」
いつも明るくて、人気があって、悩みなんてなさそうで。
だけどこうして話してみると、かなりイメージが変わる。
……でも、
「……中沢さんは、格好いいですよ」
「え?」
きっと強いんだと思う。
だから自分の弱いところを認めて、開き直ることができる。
「俺は…狡いんです」
いつも誤魔化してばかりで。
薄っぺらな硝子越しからでしか、現実を見ようとしない。
臆病で、情けなくて、どうしようもない。
「ひとの優しさにつけこむ、狡い奴なんです」
だってそうでもしないと、あのひとは俺のことをあいしてくれない。
俺を見てくれない。
「……神崎くん、」
中沢さんが何か言おうとしたその時、お待たせしました~という声と共に蕎麦が運ばれてきた。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
溺愛プロデュース〜年下彼の誘惑〜
氷萌
恋愛
30歳を迎えた私は彼氏もいない地味なOL。
そんな私が、突然、人気モデルに?
陰気な私が光り輝く外の世界に飛び出す
シンデレラ・ストーリー
恋もオシャレも興味なし:日陰女子
綺咲 由凪《きさき ゆいな》
30歳:独身
ハイスペックモデル:太陽男子
鳴瀬 然《なるせ ぜん》
26歳:イケてるメンズ
甘く優しい年下の彼。
仕事も恋愛もハイスペック。
けれど実は
甘いのは仕事だけで――――
冷徹上司の、甘い秘密。
青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。
「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」
「別に誰も気にしませんよ?」
「いや俺が気にする」
ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。
※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる