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ガールズトーク

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「やっぱ戸倉くんでしょー」
「あたしは営業の桑原さんだなぁー」

給湯室で偶然会ったのは、経理部の同期の子たち。

「ねぇねぇ、アヤは?誰かいないのー?」
「え?あ、あたしは、別に…」

いきなりこういう話題を振られると、吃ってしまう。

「総務だと、やっぱ中沢さんじゃない?」
「えー、ちょっと遊んでるっぽくない?」
「そうそう中沢さんってさぁ、広報の峰さんとつきあってるらしいよ」
「うそー!!峰さんってあの?」
「そうそう、超美人だし仕事もできる」

こういうのにも慣れないとって思ってたのは、最初だけで。

「えー、そうなんだー」

最近はもう取り敢えず話あわせて、ニコニコしとけはいいかなぁって。
その方がラクだし、余計な事を言って波風たたせたくないし。



「失礼しまぁす」

ちょうど話が盛り上がってきた時、割って入ってきたのは総務の橋本さんだった。
あからさまに眉を潜めた彼女達に気づいてないのか気にしてないのか、彼女はなんでもない顔で給湯室に入ってくる。

「……じゃああたし達、もう行くねー」
「またね、アヤ」
「……あ、うん」



――課長とデキてるらしいよ

――社内で三股かけてるって…

入社当初からあとを絶たない彼女の噂は、女子社員の間で常においしいネタになり続けていた。
あんまり話したこともないし、実際のところはよく知らないけど。

……でも、なんかわかる気がする…

なんかこの子、独特な雰囲気があるっていうか。
周りに左右されない潔さがあるっていうか。
ぼんやりとそんな事を思っている私の隣りで、彼女はソル〇ックを一気飲みしていた。

「……うぇえ、まずっ」
「……大丈夫?」

思わず声をかけると、彼女はうぅっと唸った。

「……最近ヤバイんですよねぇ、前はもうちょっといけたのにー」

どうやら二日酔いらしい。

「橋本さん、お酒好きなの?」
「好きですよー。先輩は?」
「あんまり…」

そう答えると、彼女はあーなんかそんな感じぃーと言って笑った。

「………」
「………」

……なんか

なんか、話さなきゃ。

「……あっ、あのさ」
「ハイ?」
「橋本さんは、その…気になってる人とか、いる?」
「……は?」

きょとんとした顔。

……あぁ私、何言ってんだろ…

言ったそばから後悔した。
でも、だって。
やっぱりこの子も、そういう話題の方がいいのかなって。

「………」
「……アオちゃんかなぁ」
「……え?」
「だから、気になる人?」
「あ、あぁそっか…確か橋本さんと神崎くん、同期だったよね」
「別に、オトコとしてってわけじゃないですけどぉ。あたし断然年上のがいいんでー」
「そ、そうなの?」
「だってお金持ってるしー」

あぁ…やっぱりこの子、苦手かも…。

「………。先輩はぁ、蒔田サン狙いでしょー?」
「……え?!」
「バレバレですよー」

橋本さんは笑いながら言う。

……な、なんで?!

軽いパニック状態に陥りながらも、ふと彼女の手の甲に目がいった。

「……猫、」
「え?」
「猫、飼ってるの?」
「あ、はい」

怪訝そうな表情を浮かべる彼女に、ほら、と自分の手を見せる。
そこには、うちの子に昨日つけられたばかりの引っ掻き傷が残っていた。





そういえば、今の会社に入ってから女の人にご飯に誘われたのって初めてかもしれない。
倉田さんは営業部の先輩だ。
普段はそんなに接点ないしあんまり話したことはなかったけど、給湯室で飼ってる猫の話をしたらなんだか妙に盛りあがった。

「先輩って、ああいう可愛い系が好きなんですかぁ?」

取り分けてもらったパスタを食べながら言う。

「え?」
「蒔田さんってぇ、童顔じゃないですかー」

身長はあるけど細身だし、笑った時の顔なんか歳よりもずっと幼く見えるし。

「告んないんですかぁ?」
「……ええっ?!」
「蒔田さんって結構鈍そうだし、ちゃんと言わないと気づかないと思いますよー?」
「………」
「大丈夫ですよぅ、先輩可愛いしー」

それはお世辞じゃなくて、先輩は普通に可愛いと思う。
小さくてふわふわしてて、なんだかとても女の子らしい感じ。

「……あ、あのね橋本さん、違うの」

ワイン一杯で赤くなった顔を、更に真っ赤にして先輩は言った。

「え?」
「……私ね、その…、マキちゃんは好きだけど、中沢さんも好きってゆうか…」

………。

「……それってつまり、二人とも狙ってるってことですかぁ?」

うわ、なんか意外…大人しそうな顔して…。

「そうじゃなくて!カップ…その組み合わせが、好きなの」
「……組み合わせ?」
「そう、セットで」

セットって…。

「……実はね、私…」

しばらく口籠もっていた先輩は、意を決したようにあたしを見た。

「腐ってるの…」
「……ハイ?」
「だって完璧なんだもん!見た目も関係も私的にどストライクだしあの二人が一緒にいてくれるだけでもう充分ってゆうかそれだけでご飯何杯でもいけちゃうってゆうかっ…」

…え、なんで急にご飯の話?

「そういう意味では戸倉くんも捨てがたいんだけど!むしろ王道は大好物だからきっちり押さえときたいとこなんだけど…!」
「いやなんでそこで戸倉?」

てゆうか、どうしちゃったのこの人…なんか鼻息荒いし…。

「もういっそ、総受けっていうのもアリかも…」
「……ソーウケ?」

ぽかんとするあたしに気づいて、熱弁を奮っていた先輩はハッとした顔をした。

「………」
「………」
「……引いたよね?」
「……いや、引くっていうか」

言ってること、殆ど意味不明だったし。

「……できたら、忘れてくれないかな…」
「無理ですねぇ」
「……だよね…」

がくっとうなだれる先輩。

「でも、なんかおもしろい」
「……え?」

いつもニコニコしてて大人しい先輩の、知られざる一面。

「……は、橋本さん?」

先輩は不安げな表情で、笑ってるあたしを見ている。

「……先輩、」
「は、はい?」
「続きは?」
「……え?」

さっきの話、と促すと今度は先輩がぽかんとした顔になった。

それから店の閉店時間まで、先輩は熱弁をふるっていた。
内容はやっぱりよくわからなかったけど、でね、でね、と夢中で話す先輩はなんだか可愛かった。



「ねぇ、橋本さん」

帰りの電車のなかで、先輩は言った。

「はい?」
「私、今日すっごく楽しかった。なんかこういうの、久しぶりっていうか…」

なかなかこういう話、できる人がいなくて…と先輩。
まぁ、そりゃそうだろう。

「だから、ありがとう」
「………。また、聞かせてくださいねー?」
「えっ?!いいの?」

はい、と答える。
それはいつもの社交辞令なんかじゃなくて。
今まで女の人とご飯なんて、ただ面倒なだけだと思ってたけど。

こういうのは意外と楽しいかもしれない。



end.
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