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回想1
しおりを挟む目を覚ますと、真っ白な天井に光がゆらゆらと揺れていた。
それがあまりに綺麗なのでぼんやりと見入っていると、おはようございますという声がした。
「……え」
「頭、痛くないですか?」
跳ね起きると同時に、こめかみ辺りに鈍い痛みを感じる。
「……っ、」
「どうぞ」
差し出されたのは、なみなみと水が入ったグラス。
「……戸倉?」
「いらないですか?」
「……いる、けど」
グラスを受け取ると急激に喉の渇きを覚えて、それをいっきに飲み干した。
「まだ飲みます?一応薬も、ありますけど」
「いや、大丈夫…。 ここ、戸倉んち?」
改めて辺りを見回しながら言う。
「そうですよ」
……え、なんで?
疑問が顔に出ていたらしい。
戸倉はまじまじと俺を見た。
「……覚えてないんですか?」
「ええっと…」
昨日は確か忘年会の二次会で桑原さんと話してて…。
「……そうだ、アヤちゃんは戸倉が…」
「は?」
思いだした。
「……なんで睨むんですか」
「うるせぇよイケメンが」
「……まだ酔ってるんですか?」
「酔ってねぇよ!って、」
……あぁ、そういうことか…
「……ごめん、介抱してくれたんだよな」
またやってしまった…と自己嫌悪に陥る。
普段飲む機会が多いにも関わらず、あまり酒に強くない俺は酔うと寝てしまう癖がある。
しかも一度眠ると、余程の事がないと起きないらしい。
「……てか、中沢あたりに押しつけてもよかったのに」
「……中沢さん、ですか?」
「そうそう、あいつ俺担だから」
本人が聞いてたら憤慨するだろうけど、家が一番近いし慣れてるし。
「……仲がいいんですね、」
「まぁ、同期だし…」
部署は違うけど、飲みに行く時はたいがい一緒だ。
「………」
「……戸倉?」
「……あ、お腹空いてませんか」
「え?」
「今ちょうど、朝食を作ってたんです」
言われてみれば確かに、部屋にはいい匂いが漂っている。
「……でも、」
昨日散々迷惑をかけた挙げ句、飯までご馳走になるとか…さすがに図々しくないか?
……そんなに親しいわけでもないし…
「……すみません、馴れ馴れしかったですか?」
「……え?!いや別に、そういうワケじゃ…」
正直、腹は減ってるけど…。
「……じゃあ、迷惑じゃなければ…」
勿論です、と答えた戸倉は珍しく笑顔を浮かべていて、それまで無表情のこいつしか知らなかった俺はちょっと驚いた。
「すげぇ…」
お浸し、だし巻き、ひじきの煮物に焼き魚…純和風で至ってシンプルな内容だけど、一人暮らしが長い自分にとってはかなり豪華だ。
「これ全部、戸倉が作ったのか?!」
「はい。あ、納豆もありますけど食べます?」
「……なんかおまえって、こと如く予想を裏切る奴だよな…」
「……?そうですか?」
イケメンが納豆って…なんかシュールすぎるだろ…。
「……しかも旨いし!」
箸が止まらない俺に、よかったですと戸倉は笑う。
「蒔田さんは、朝は洋食なんですか?」
「や、なんかその辺にあるもんを適当に…お菓子とか」
「お菓子…ですか」
お茶を淹れてくれながら、戸倉は微妙な顔をする。
「てかマジうまいわ…特に味噌汁…なんか母さんの飯、思いだすってゆうか…」
「褒めすぎですよ」
「いやすげえよ、マジで」
感激した俺は、ついおかわりまでしてしまった。
「昨日は本当に悪かったな」
「いえ、気にしないでください」
「朝飯までご馳走になって…詫びに今度、奢るから」
するとあの、と戸倉。
「ん?」
「そういうのは、いいので」
「や、でも…」
「また、食べに来てくれませんか?」
「……え?」
「次は、夕食でも」
「……や、それは…」
嬉しいけど、でもそれだと詫びにならないっていうか…。
「……俺、蒔田さんのことをもっと知りたいんです」
「……え?」
「蒔田さんさえ、迷惑じゃなければ」
その時は、なんで?って思ったけど。
「……わかった」
笑ってそう答えたのは、いつも無表情で無口な後輩が少しだけ、必死な様子を見せたから。
たぶん、親心みたいな感じだったような気がする。
だからその時は、思ってもいなかった。
そのことがきっかけで、二人の関係が大きく変わろうとしているなんて。
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