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星の見えない夜に
しおりを挟むキッチンから、はなうたが聞こえてくる。
「……蒔田さん、」
「んー?」
男にしては華奢な背中と、少し茶色くてクセのある髪。
「なんだか楽しそうですね」
「そうか?」
皿を洗っていた彼に手伝いましょうかと言うと、あっさりと断られた。
「いつも飯、作ってもらってるし」
蒔田さんは言う。
「してもらってるばっかじゃ悪いしさ。俺に出来る事って、これくらいしかないから」
「………」
そんなこと気にしなくてもいいのに、と思う。
もっともっと頼ってくれればいいのに。
俺に甘えてくれればいいのに。
「……戸倉?」
背後から抱きしめると、彼は少し戸惑った顔をして俺を見た。
そして洗剤が付いた手を洗ってタオルで拭くと、身体を捩るようにして向き直る。
「どうした?」
「……いえ、」
向けられた真っ直ぐな視線に何も答えられずにいると、彼は笑って俺の頭を撫でた。
……俺は、
あなたが傍にいてくれるなら、もうそれだけでいい。
他には何も望まない。
「あ、そうだ」
しばらくして蒔田さんは身体を放すと、冷蔵庫を開けた。
「おまえさー、この間コンビニスイーツ食ったことないって言ってたじゃん?」
ほら、とテーブルに置かれたのは、見るからに甘そうなプリンとエクレア。
「食ってみろよ、結構うまいから」
「ありがとうございます。でも今は蒔田さんが食べたいです」
「……おまえそういう事をさらっと言うなよ」
てゆうか無理、と蒔田さん。
「明日朝イチで会議だし」
「………」
「おまえ絶対一回じゃ終わんないし」
「………」
「……あのなあ、幾らなんでも毎日はありえないだろ!!」
「……若いので」
「喧嘩売ってんのか」
ったく、と蒔田さんは溜め息をつく。
「せめて週末まで待て」
「無理ですね」
「俺も無理だ!」
実はこの押し問答、ほぼ毎日どちらかが折れるまで行われていたりする。
ちなみに俺が負けた事は殆ど無い。
そして、今日も。
「……しつこい男は嫌われるぞ」
「あなたに好きでいてもらえるなら別にいいです」
「だからそういうことをさらっと言うな!」
恥ずかしそうに俯く彼は、俺の腕のなかにいる。
end.
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