39 / 51
手をつないで
7
しおりを挟む『入院?!』
電話口でリクくんは驚いていた。
『え、なんで?!』
「それが…」
ここ数日、あっちゃんは学校を休んでいた。
LINEしても既読にならないし、携帯も繋がらないので心配になって家に電話を掛けた。
そしてあっちゃんのお母さんから事情を聞いた。
その日の放課後、リクくんと病院に向かった。
受付で案内された病室の前には、巽さんが立っていた。
「淳は?」
「……寝てる」
そう答えた巽さんは、どこか疲れたような顔をしていた。
「てゆうか、神経性の胃潰瘍って…」
「………」
それを聞いた時は俺も驚いた。
あっちゃんがそこまで思い詰めるなんて、きっと余程のことだ。
そしてその原因として思い浮かぶのは。
「ちゃんと話したんじゃねぇのかよ?」
「……話す前にケンカになった」
「はぁ?なんで?」
「……俺さ、」
巽さんは言った。
「あいつと別れる」
「……は?」
唖然とした。
「……何言ってんだよ、なんで、」
「今回の件でわかった。あいつの為にもそうした方がいい」
巽さんは表情を変えずに言う。
「てか、あいつとやってける自信ねぇ」
「ちょっと待ってください!」
思わず口を挟んだ。
「どうして急に、そんな」
「……んだよ、それ」
次の瞬間、リクくんが巽さんを殴った。
「情けねぇこと言ってんじゃねぇよ!!」
そう怒鳴りながら、バランスを崩した巽さんに掴みかかる。
「てか今更だろ!あいつの性格とかわかっててつきあってたんじゃねぇのかよ?!手に負えなくなったら別れんのかよ!」
俺は本気で怒ったリクくんを初めて見た。
「……ってめぇに何がわかんだよ!」
「わかんねぇよ、おまえが考えてることなんか!」
「はいはいそこまで!!」
今にも殴りあいに発展しそうな二人を止めたのは、えらく体格のいい看護師さんだった。
散々お説教されたあと、俺たちは病院から強制退去させられた。
まぁ、病室の前であんなに騒げば当然だろう。
「……ごめんな、コウタ」
「え?」
病院からの帰り道。
リクくんと俺は駅に向かって歩いていた。
「結局見舞い、行けなかったから」
「いいよ、また明日行ってみるし」
「………」
リクくんはまだ何か言いたそうな顔をしている。
「……どうしたの?」
「……や、殴ることはなかったよなって…。あいつも悩んでんだし…」
「………」
ダメだな俺、とリクくんは苦笑いを浮かべる。
彼は、本当に優しいと思う。
「……リクくんが殴らなかったら、俺が殴ってたよ」
「………」
「でもね、この前リクくんのお姉さんの話を聞いてから、色々考えたんだ」
歩きながら俺は言った。
「確かにあっちゃん、ちょっと巽さんに甘えすぎなとこがあると思う」
勿論それは、恋人っていう前提があるからだろうけど。
「……巽も、あいつの事になると周りが見えなくなるな。それにガキっぽくなるっていうか」
好きな相手だからこそ、ずっと傍にいれば嫌なところも見えてくる。
好きだからこそ、どうしても許せないこともある。
だけどそれでも一緒にいたいのなら、相手を受け入れる気持ちが大切なんだろうけど。
「でも実際、難しいよね…」
「………」
それはあの二人だけに言えたことじゃない。
……俺とリクくんだって、
白い息を吐きながら、すっかり暗くなった空を見上げる。
星はあまり見えなかった。
「……寒いな、」
「うん」
俺たちはなんとなく、手をつないで帰った。
10
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ひとりぼっちの180日
あこ
BL
付き合いだしたのは高校の時。
何かと不便な場所にあった、全寮制男子高校時代だ。
篠原茜は、その学園の想像を遥かに超えた風習に驚いたものの、順調な滑り出しで学園生活を始めた。
二年目からは学園生活を楽しみ始め、その矢先、田村ツトムから猛アピールを受け始める。
いつの間にか絆されて、二年次夏休みを前に二人は付き合い始めた。
▷ よくある?王道全寮制男子校を卒業したキャラクターばっかり。
▷ 綺麗系な受けは学園時代保健室の天使なんて言われてた。
▷ 攻めはスポーツマン。
▶︎ タグがネタバレ状態かもしれません。
▶︎ 作品や章タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
手〈取捨選択のその先に〉
佳乃
BL
彼の浮気現場を見た僕は、現実を突きつけられる前に逃げる事にした。
大好きだったその手を離し、大好きだった場所から逃げ出した僕は新しい場所で1からやり直す事にしたのだ。
誰も知らない僕の過去を捨て去って、新しい僕を作り上げよう。
傷ついた僕を癒してくれる手を見つけるために、大切な人を僕の手で癒すために。
背中越しの温度、溺愛。
夏緒
BL
樹(いつき)はヒカルの浮気グセが治らないことに腹を立てて別れを切り出します。
もうこれで3度目です。
そのうちまたヨリを戻すに違いない。いつもそう思いながら別れるのです。
このままでいいんだろうか。この「好き」は、手放したほうがいいんじゃないのか。
ひとつ年下の友人、涼平とはカラダの関係があって、その涼平には可愛い恋人である裕太がいる。
でも涼平にも他に好きな人がいます。
ヒカルの仕事の部下である豪の誘い。
ある日突然訪れるヒカルに似た男、藤城。
何人もの人たちの間で絡まって揺れ動きながら樹は答えを探します。
BLがメインですが、女の子も出てきますので苦手な方はお気をつけくださいね。
えろいことばっかりしてますが、なんとかふんわりしたえろに押しとどめているので多分大丈夫です。
が、なにぶん回数が多いので念のためにR-18にしておきます。
【クズ攻寡黙受】なにひとつ残らない
りつ
BL
恋人にもっとあからさまに求めてほしくて浮気を繰り返すクズ攻めと上手に想いを返せなかった受けの薄暗い小話です。「#別れ終わり最後最期バイバイさよならを使わずに別れを表現する」タグで書いたお話でした。少しだけ喘いでいるのでご注意ください。
僕を愛して
冰彗
BL
一児の母親として、オメガとして小説家を生業に暮らしている五月七日心広。我が子である斐都には父親がいない。いわゆるシングルマザーだ。
ある日の折角の休日、生憎の雨に見舞われ住んでいるマンションの下の階にある共有コインランドリーに行くと三日月悠音というアルファの青年に突然「お願いです、僕と番になって下さい」と言われる。しかしアルファが苦手な心広は「無理です」と即答してしまう。
その後も何度か悠音と会う機会があったがその度に「番になりましょう」「番になって下さい」と言ってきた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる