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しおりを挟むそして二時間後、眠っていた祐希が目を覚ました。
しばらくの間ぼんやりと、宙をさまよう視線。
その瞳は俺を映した瞬間、見開かれた。
「……なんで…っ、つっ…」
勢いよく起き上がったせいで傷が痛んだのか顔をしかめた祐希は、慌てて腕を伸ばす浩介を睨みつけた。
「……っ呼ぶなって言ったじゃん、バカっ」
「バカはおまえだろうがっ」
思わず大きな声をだすと、祐希の肩がびくっと震えた。
「……どういうことか、説明しろ」
「………」
「祐希」
「……ヤキいれられたんだよ。俺、カワイイから妬まれて…」
「本気で怒るぞ」
「………」
祐希の表情が固まる。
けれどすぐに眼を逸らして、皐月には関係ないと呟いた。
布団の上に置かれた痣だらけの腕が、小さく震えている。
「………。病院、行くぞ」
「……っやだ!!」
勢いよく振り払われた手。
「……どうして」
「………」
俺を見上げるその眼は今、すべてを拒んでいる。
まるで警戒心を剥き出しにした猫だ。
「……祐希くん、」
それまで黙っていた浩介が口を開いた。
「……もしかして家で、何かあった?」
「……は?」
「だから病院に行きたくないの?」
「……なに、言って…」
祐希の表情がみるみる強張っていく。
「……違う、そんなんじゃ…ただの喧嘩だってば」
「……ただの喧嘩で、なんで火傷なんかするんだよ」
それに倒れていた祐希は携帯以外何も持っておらず、裸足だったらしい。
「………」
浩介が部屋を出ていっても、祐希は俯いたまま顔をあげない。
静かな室内で、時計の音だけが響いていた。
「……別に、ちょっと揉めただけだから」
「………」
「ほら、反抗期だしさ」
その声は白々しいほど明るくて、まるでなんでもないように笑う祐希に胸が締めつけられる。
……なんで、
「それに見た目ほど痛くないし、別に平気だから」
痛くないはずがない。
平気なわけがないのに。
……なんで、笑えるんだよ
「……皐月?」
泣き虫で甘ったれなくせに。
いつもワガママばっか言って、困らせるくせに。
肝心なことは何も言わないで。
「……なんで俺に、嘘をつくんだよ」
「え…」
「なんで俺を頼らないんだよ」
……なんで俺じゃないんだよ
なんの為に、おまえは俺と一緒にいたんだよ。
「………。だって、心配かけたくなかったから…」
消えいるような声で、祐希は言った。
「巻き込みたくなかったし…き、嫌われたくなかったから…」
祐希の眼から透明な涙が溢れる。
「……皐月はこういう面倒くさいこと、嫌いだと思ったから…」
俺は、言葉を失った。
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