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しおりを挟むそれから三日後、アツミの謹慎は解けた。
「追試も受けさせてもらえる事になりました」
「……そっか、」
昼休みの屋上には、俺たち以外に人気(ひとけ)はない。
もたれかかったフェンスが、ぎしりと音をたてた。
「……てかさ、俺が言うのもなんだけど…なんでよりによって、あんな店で」
「それが、その…」
アツミは気まずそうな顔をした。
金の事ならすぐ親に頼るだろうという俺たちの予想は外れ、アツミは自分でなんとかしようとした。
「でも、アルバイトの探し方がわからなくて…」
それで途方に暮れ、道端で右往左往していると男に声を掛けられたらしい。
「お客さまと、お部屋でお話するだけでいいと言われたんです」
「………」
もうその時点で充分胡散臭いが、何も知らないアツミにとってはまさに神の声だった。
「それでお店に連れていって頂いたんですが…。よく考えたら、知らない人と何を話せばいいのかわからなくて…」
情けないですよね…、とアツミ。
「だけど店長さんはとてもいい人で、あんまり慣れてない方が喜ばれるから大丈夫だと言って下さって…」
いやいやいや、と頭を抱える。
「でもやっぱりご迷惑をおかけするわけにはいかないと思って、やめたんです」
「……え?」
驚いてアツミを見た。
「じゃあ、働いてないのか?」
だったら謹慎処分を受ける必要、なかったんじゃね?
「でも、そこで働こうとしていたのは事実なので」
どこまで真面目なんだよこいつは…と呆れながらも、心の底からほっとする。
そんな俺の隣りで、アツミはしゅんとして呟いた。
「ダメですね僕…」
「そうだなダメだ」
「事情を説明したら、店長さんにもそう言われました。声を掛けられても、知らない人についていったらダメだって…」
……てか店長マジいい人なんじゃね?
「……おまえ、もう一人で出歩くな」
「え」
なんだかもう色々と、恐ろしすぎる。
「……あの、」
「ん?」
床に座った俺の隣りにしゃがんで、実は…とアツミが言った。
「文化祭の時、ギターを弾いてる岩瀬くんを見たんです」
「文化祭?……あぁ、」
バンドで世話になった先輩にヘルプを頼まれて、仕方なく引き受けた。
「堂々としてて、すごくかっこよくて…」
アツミのうっとりした表情に、なんだか恥ずかしくなってくる。
「そんな、たいしたもんじゃねーよ」
すると、そんなことないです!とアツミ。
「いつかまた、見たいです」
「………。そのうちな」
「はい!」
その嬉しそうな笑顔を見て、どきっとした。
「………」
「岩瀬くん?どうしたんですか?」
「……や、なんでもねぇ」
……ってこともねえよな、これは…
「……いい天気ですね」
「……そうだな」
並んで見上げた空は、どこまでも青かった。
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