短編集(2)(BL)

kotori

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それから三日後、アツミの謹慎は解けた。

「追試も受けさせてもらえる事になりました」
「……そっか、」

昼休みの屋上には、俺たち以外に人気(ひとけ)はない。
もたれかかったフェンスが、ぎしりと音をたてた。

「……てかさ、俺が言うのもなんだけど…なんでよりによって、あんな店で」
「それが、その…」

アツミは気まずそうな顔をした。



金の事ならすぐ親に頼るだろうという俺たちの予想は外れ、アツミは自分でなんとかしようとした。

「でも、アルバイトの探し方がわからなくて…」

それで途方に暮れ、道端で右往左往していると男に声を掛けられたらしい。

「お客さまと、お部屋でお話するだけでいいと言われたんです」
「………」

もうその時点で充分胡散臭いが、何も知らないアツミにとってはまさに神の声だった。

「それでお店に連れていって頂いたんですが…。よく考えたら、知らない人と何を話せばいいのかわからなくて…」

情けないですよね…、とアツミ。

「だけど店長さんはとてもいい人で、あんまり慣れてない方が喜ばれるから大丈夫だと言って下さって…」

いやいやいや、と頭を抱える。

「でもやっぱりご迷惑をおかけするわけにはいかないと思って、やめたんです」
「……え?」

驚いてアツミを見た。

「じゃあ、働いてないのか?」

だったら謹慎処分を受ける必要、なかったんじゃね?

「でも、そこで働こうとしていたのは事実なので」

どこまで真面目なんだよこいつは…と呆れながらも、心の底からほっとする。
そんな俺の隣りで、アツミはしゅんとして呟いた。

「ダメですね僕…」
「そうだなダメだ」
「事情を説明したら、店長さんにもそう言われました。声を掛けられても、知らない人についていったらダメだって…」

……てか店長マジいい人なんじゃね?

「……おまえ、もう一人で出歩くな」
「え」

なんだかもう色々と、恐ろしすぎる。



「……あの、」
「ん?」

床に座った俺の隣りにしゃがんで、実は…とアツミが言った。

「文化祭の時、ギターを弾いてる岩瀬くんを見たんです」
「文化祭?……あぁ、」

バンドで世話になった先輩にヘルプを頼まれて、仕方なく引き受けた。

「堂々としてて、すごくかっこよくて…」

アツミのうっとりした表情に、なんだか恥ずかしくなってくる。

「そんな、たいしたもんじゃねーよ」

すると、そんなことないです!とアツミ。

「いつかまた、見たいです」
「………。そのうちな」
「はい!」

その嬉しそうな笑顔を見て、どきっとした。

「………」
「岩瀬くん?どうしたんですか?」
「……や、なんでもねぇ」

……ってこともねえよな、これは…

「……いい天気ですね」
「……そうだな」

並んで見上げた空は、どこまでも青かった。


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