61 / 78
第5章
2.
しおりを挟む「……なんだか、閉じ込められてるみたいだね」
視界を遮るように降り続ける雨を、ぼんやりと眺めながら美咲は言った。
寒くないかと訊ねると、平気だと答える。
けれど繋いだ手は震えていて、それは俺も同じで。
「ずっと、夜が続けばいいのに」
そんな美咲は呟きは、雨音のなかに消えていった。
雨は、明け方になってようやく止んだ。
早朝の公園は静かで、青白かった。
「……海斗、」
「……ん、」
「来てくれてありがとう。もう平気だから」
彼女はそう言って立ち上がった。
ずっと繋がれていた手が、はなれる。
「……一緒に行くよ、」
そう言うと美咲は首を振った。
「大丈夫だから」
「……だけど、」
「……あたしね、ほんとはわかってて電話したんだ。海斗なら絶対来てくれるって…最低でしょ?巻き込みたくないとか言って、こんな…」
「美咲…」
「もう嫌だったの。何も考えたくなかった。全部捨てて逃げたいって思った」
「………」
「そんなこと、できるわけないのにね」
彼女は小さく笑った。
いくら現実から目を逸らしたところで、何も変わらない。
そして逃げれば逃げるほど辛くなることを、知っているから。
「やっぱり、一緒に行こう」
そう言って、彼女の前に立つ。
それはただの自己満足なのかもしれない。
あの時彼女を助けられなかったことに対する罪悪感から、逃れたいだけなのかもしれないけど。
「………」
こつん、と小さな額が胸に当たった。
そのまま肩を震わせて泣きだした彼女は、今にも壊れてしまいそうで。
そんな彼女をいま支えられるのは、自分しかいないと思った。
泣いている彼女の背中に、腕をまわそうとしてやめた。
「……俺さ、大切な奴がいるんだ」
今言うべきことなのか、迷ったけど。
少しずつ明るくなっていく空を見上げながら続けた。
「あの時のこと、話したよ。そしたらそいつ、俺の為に泣いてくれた」
そして何も言わずに、抱きしめてくれた。
「そいつもいろいろ抱えててさ、俺もどうすればいいのかわかんねぇことばっかだけど」
悩んだり、間違えたりすることもあるけど。
それでも一緒にいるって決めたから。
「俺はもう逃げたくない。そいつの為にも」
こんな自分達を、大切に思ってくれる人たちの為にも。
強くなりたいと思う。
「美咲」
そっと手を握る。
「一緒に、乗り越えよう」
簡単じゃないことはわかってる。
怖くないと言ったら、嘘になる。
現実は自分が思っているよりも遥かに残酷で、報われないのかもしれない。
だけど明けない夜はないように。
壊せない壁はないように。
今は手探りで迷ってばかりでも、目を逸らさなければ、信じていればいつか、答えを見つけられるはずだから。
それぞれの過去と向き合って、ひとつひとつ乗り越えて。
そして今を、生きていく。
総てはきっと、そこから始まる。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
珍しい魔物に孕まされた男の子が培養槽で出産までお世話される話
楢山コウ
BL
目が覚めると、少年ダリオは培養槽の中にいた。研究者達の話によると、魔物の子を孕んだらしい。
立派なママになるまで、培養槽でお世話されることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる