迷子猫(BL)

kotori

文字の大きさ
上 下
53 / 78
第4章

9.海斗side

しおりを挟む
 
その日は週の中日だったせいか、客が少なかった。

「寺やんさぁ、なんか最近楽しそうだよねぇ」

洗い物をしていると、上原が絡んできた。

「そうっすか?」
「しかも、なんか日焼けしちゃってるしー」
「あ、海行ってきたんすよ、先週」

洗い終わったグラスを布巾で拭きながら、ふぅんと上原は言った。

「彼女とー?」
「あぁ、まぁ…そっすね」

今度は二人で行くのもいいかもな、と思った。
あいつ、喜んでたし…海だけじゃなくて、もっといろんなとこに連れてってやりたい。
そんなことを考えていると、春日さんの声がした。

「ちょっと上原さん!暇なら上、手伝ってください」
「……え~~」

お疲れっす、と言いながら振り返ってぎょっとした。

「春日さん…それ、」

彼女はあぁ、と呟いて恥ずかしそうに笑った。

「この前ちょっと、焼きすぎちゃって…」

小麦色に染まった肌。
それはそれで、彼女に似合ってはいるけれど。

「えー、春日っちの水着姿、俺も見たかった!勿論ビキニだよね?」

上原に茶化されて、彼女は僅かに頬を赤らめる。 

「なに言ってんですか、もう」
「ふぅーん、いいなぁ寺やん」
「……は?」

意味深な視線を投げられて、どうやら致命的な勘違いをされている事に気づいた。

「いや、違いますよ?」
「いやいや、いいと思うよ?俺は」

いやいやいや、なに勝手に納得してんだよオイ。

「だから、そうじゃなくて…」
「まぁ、仲良くやんなさいよ」

上原はにやりと笑ってぽんと俺の肩を叩くと、キッチンから出ていった。

「………?」

春日さんは意味がわからない、という顔をしている。

……うまくいかないなぁ…

俺は苦笑いを浮かべつつ、皿を洗うことに専念することにした。

今日のバイトは七時までだ。
そのあと、ミケと一緒にユカリさんのお店に行くことになっている。
可奈さんは仕事が終わり次第、合流するとのことだった。
ユカリさんのお店がどういうところなのか興味はあったし、ミケと待ち合わせなんてちょっと新鮮なので楽しみだ。




 
交代間際にタイミング悪く客が増えてしまい、待ち合わせた場所には少し遅れて到着した。
姿が見えないので辺りを見回せば、こともあろうか男にナンパされている。

おいコラ、と割って入る前に、ミケが俺に気づいて走りよってきた。
その時ちょっとした優越感?を抱いてしまった自分も、どうかとは思うけど。

……油断できねえ…

海での事といい…今更だけどミケは男にモテる。
俺は意外と普通な感じのナンパ男を睨みつけながら、ぽこんとミケの頭をハタいた。

「なにしてんだよ」
「なんにもしてないよ。アイツがいきなり話しかけてきて…、てゆうかあんたが遅いから」

ミケは少しムクれた顔で言った。

「今日で補習、終わりだったんだろ?お疲れ」
「……うん」

携帯を出しながら、小さく頷くミケ。

「可奈さん、九時頃になるって」
「そっか」

夜の街を、並んで歩きながら話す。

「てゆうかさ、ユカリさんの店ってどんなとこ?」
「……行ってみれば、わかると思うけど…」

ミケの返答は、どことなく歯切れが悪い。



「………」
「………」

そもそもその店って、どこにあるんだ?
駅から結構、歩いたけど…。

……てゆうか、ここはどこだ?

周囲には瞬くネオン、そして客引きのお姉さん達。
そこは普通の高校生にはあまり縁がない、アダルティーな世界…。
だけどその時俺は、ある意味とんでもない事に気がついた。
聞こえてくる笑い声が、お姉さんじゃない。
ぎょっとして周辺を注意深く観察してみれば。

……男がいっぱい…

年齢層は様々だけど、まったくと言っていいほど女がいない。

「………」

俺は愕然として、標識を探した。

……てゆうかそうだよ、ユカリさんってあきらかに…

ちょうどその時、ミケが立ち止まった。

「……ここだよ」



そのお店の表には、周囲の店のようにネオンや写真のパネルはない。

……一見、普通のバーに見えるけど…

俺はごくりと息を飲みながら、おそるおそる木製の扉を開けた。

「あら、いらっしゃい。さっそく来てくれたの?」

カウンターのなかで、ユカリさんが笑顔で言った。

「……あ、こんばんは」

なんとか挨拶をしたものの…笑顔は引きつっていたと思う。
そんな俺の様子に気づいたのか、ユカリさんは慌てた表情になった。

「ごめんね海斗くん、びっくりしたわよね。もうミケっ、ちゃんと話しておきなさいって言ったでしょう?」
「……だって、」

ミケが口を尖らせる。

「あのね、海斗くん。ここは全然いかがわしいお店じゃないから。健全な、ゲイバーだから」

……ゲイバーって…

まじかよとミケを見ると、彼は気まずそうな顔をして目を逸らした。

「ええと…とりあえず何か飲む?アルコールは駄目だけど」

笑顔で言ったユカリさんは、相変わらず綺麗だった…。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

誕生日会終了5分で義兄にハメられました。

天災
BL
 誕生日会の後のえっちなお話。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

男子学園でエロい運動会!

ミクリ21 (新)
BL
エロい運動会の話。

狐に嫁入り~種付け陵辱♡山神の里~

トマトふぁ之助
BL
昔々、山に逃げ込んだ青年が山神の里に迷い込み……。人外×青年、時代物オメガバースBL。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

処理中です...