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第2章
2.
しおりを挟む終電がなくなる前に店を出た。
人がまばらな駅のホームで、ぼんやりと空を見上げる。
帰り際、ユカリさんは俺に言った。
――ねえミケ、大事な人の前では素直になりなよ?
電車から降りると、近くのコンビニで水と食パンとカップ麺を買う。
――自分をほんとに大事に思ってくれてる人を、大事にしなきゃ
アパートに戻り、ポストからはみ出たDMを隣りのポストに突っ込んで階段を昇る。
部屋の鍵は開いていた。
「おかえり」
「……ただいま」
慣れない言葉になんだか戸惑う。
「どこに行ってたんだよ、こんな時間まで」
ほっとしたような、でも少し怒ってるような声。
「………」
「心配するだろ、」
髪に触れられて、なぜか胸がきゅうっとした。
「……別に、ちょっと借りてたもん返しに行っただけだよ」
まともに顔も、見れないなんて。
……どうしちゃったんだ、俺
「……何、またどっかで変なコトやってんじゃないかって思った?」
「………」
「なんかそういうの、ウザい」
動揺を隠すためについいつもの調子で言ってしまって、後悔する。
今日、寺嶋がバイトの帰りにここに寄ることは知ってたのに。
俺の為に飯を作ってくれたことも、帰ってきた時に(部屋に漂う妙な匂いで)気づいたのに。
「……フロ入ってくる」
なんだか気まずくて、ビニール袋を無造作に置くとそのまま浴室に向かった。
……素直になるって、どうやって?
シャワーを浴びながら、考えた。
……大事にするって、どうすればいいんだろう
「………」
……てゆうかそもそも俺、あいつが大事なの?
好きがどうかわかんなくても恋?
金貰ってても?
……なんかそれは、違う気がする…
だけどおかえりなんて言われたのは、一体何年ぶりだろう。
金を貰う以上は、あくまで客。
他のややこしいことはサービス。
そうわりきる事にして風呂から出たら、部屋に寺嶋の姿はなかった。
……帰った?
でももう、電車ないのに?
玄関に行ってみると、靴もない。
……もしかしてさっきので、怒ったとか
「………」
だからめんどくさいんだよ、こういうの。
レンアイとかコイとか、訳わかんないし。
寝る方がよっぽどわかりやすくて、楽だ。
……大体あいつ、なんで俺が好きなわけ?
それが一番わかんない。
「……あーあ」
遅くまでバイトなんかして。
部屋で待ってたりして。
変なメシまで作って。
何がしたいんだ一体。
そのままぼんやり突っ立っていると、突然玄関のドアが開いた。
「うおびっくりした。何してんの?」
寺嶋が靴を脱ぎながら言う。
「……別に。おまえ帰ったのかと思って」
「なんでだよ、もう電車ねえし。今、家に連絡した」
「………」
「泊まっていい?」
「……いいけど」
……てゆうか…なにちょっとホッとしてんだ、俺
部屋に戻って一応作ってくれていた飯(?)を食べようとしていたら、後ろから抱っこされた。
「……あのさ、何してんの?」
「テレビみてる」
「……食いにくいんだけど」
「気にすんなよ」
「暑苦しいし」
「そのうち慣れる」
……慣れねーよ
「なぁ」
「……何、」
「心臓、すげえな」
「うるせえよ」
これは別におまえがくっついてるからじゃなくて、今から食おうとするモノに対しての恐怖のあらわれだ。
「……なに、今すぐヤリたいの?」
「今はこのままがいい」
「………」
意味わかんねー。
「てゆうかさ、おまえあんまそういうこと、言うなよ」
「なんで、」
……つーか……斬新な味付けだな…
「……なんとなく」
「……ふうん」
……パスタ、なのか?これ…
でも結局、その一時間後にはヤッてるわけで。
寺嶋の(下手くそな)キスは、やっぱり優しくて。
じっと見つめられたらどうすればいいかわからなくなったけど、こっちから目を逸らすのは癪だったから我慢した。
「……ミケ、」
頬を大きな手で包まれる。
今度は深くて、濃厚なキス。
歯の並びや舌の柔らかさや僅かに残る煙草の味さえわかってしまうような、丁寧なキス。
「………」
相変わらず下手なのに、頭がぼーっとしてしまうのは、なんでなんだろう…。
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