迷子猫(BL)

kotori

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第1章

8.ミケside

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今までこの部屋に、他人を入れたことはなかった。
客と会うのはもっぱらホテルで、それ以外はあのトイレ。
住所を知られると後々面倒な事になる可能性があるし、唯一のプライベートな空間は確保しておきたかった。

……なのに、なんで

よりにもよって一番面倒くさそうな奴を、連れてきちゃったんだろう。

……てゆうか、勝手についてきたんだけど



「……適当に、座れば?」

寺嶋はさっきから落ち着かない様子で、部屋の中をきょろきょろと見回している。

「……おまえ、ここに一人で住んでんの?」
「うん」

冷蔵庫にあったお茶のペットボトルをテーブルに置く。

「親は?」
「さぁ」
「さぁって…」
「だって知らねーもん」

別に知りたくもないし。

「どっかで適当に生きてんじゃん?」

水を飲みながら言う。
今日はなぜか、やたらと喉が乾く。

「……どういう事だよ?」
「………」

昔の事なんて、思い出したくもない。

「……あんたさ、なんであんなバイトしてんのかって訊いたじゃん」

それはよく客にも聞かれるけど、事情を話したことはなかった。
面倒だし、相手だって本気で知りたいとは思ってないだろうし。
だからいつも適当に誤魔化していた。

「……俺さ、普通の生活をしたいんだよね。働いて、結婚して、家建てたりとかして」

他人から見たら、平凡すぎる夢なのかもしれない。

「けどさ、今時中卒でまともな仕事なんかないし?学費は奨学金でなんとかなったけど、他は自分でどうにかするしかないじゃん」

だからバイトはやめられない。

「……でも、だからって」
「大体、何が悪いわけ?別に誰にも迷惑掛けてないし」
「……いくらだよ」
「は?」
「いくら貰って、あんなことやってんだよ」
「……社会人なら三万、学生ならそれ以下」
「じゃあ俺が、おまえを買う」

……は?

「なに言って…」
「とりあえず、生活費があればいいんだな?」
「ちょっ…意味が」
「だからもう、バイトはやめろ」

寺嶋は真顔で言った。

……なんなの、こいつ…頭おかしいんじゃねーの?

「……意味わかんねーし」
「わかんなくねぇよ」
「………」

まっすぐな眼で見つめられて、なぜか俺は動揺していた。
それに気づかれたくなくて、顔を逸らす。

「……俺が何してようが、あんたには関係ねえじゃん」
「関係なくねえ」

いい加減にしろよと怒鳴ろうとした瞬間、抱きしめられた。

「……なくねぇよ」
「……!」
 


下手くそなキスだった。
強引で、不器用で、無駄に長くて。

……なんだ…そういう、

されるがままになりながら、ぼんやりと宙を見ていた。
ようやく唇が離れると、寺嶋はハッとした様子で俺の手を離した。

「……ごめん」
「………」

どんどん冷めていく心。

「俺…なんで…」
「別に、いいけど」

そう言うと、彼に近づいてベルトのバックルに手をかけた。

「……何してんだよ」

寺嶋がびっくりした顔をして、俺から離れる。

「何が?」
「何って…」
「して欲しいんだろ?」
「……は?」

戸惑っている彼の前に膝をつき、服の上からぺニスに触れた。

「……!やめ」
「いいから」

まだ柔らかいソレを布越しに掴むと、口に含んだ。

「……っ!やめろ!」

ぐい、と顔を押しのけられる。

「なんで?キスはするのにコレはやなの?」
「……っあれは」

……面倒くさい奴…

俺は小さく息を吐いた。

「……サービスしてやるから」
「な…っ、」

唖然としている寺嶋を壁に押しつけズボンの中に手を入れると、少し硬くなったペニスに直接触れる。

「……っ!」

そして取り出したソレの先端に口づけると、彼を見上げて笑いかけた。

「だからもう、俺に構わないでね?」


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