【本編完結】運命の番〜バニラとりんごの恋〜

みかん桜(蜜柑桜)

文字の大きさ
上 下
91 / 106

89.バイト

しおりを挟む
「バイトがしたい」

 蓮と2人オメガ用更衣室で着替えながら、最近の悩みを聞いてもらっている。

「欲しいものでもあるの?」
「もうすぐ光琉の誕生日じゃん? プレゼント買いたいんだよね」
「ケーキ作るって言ってなかった?」
「うん。ケーキは食べるとなくなっちゃうじゃん? もちろんケーキも作るけど、形に残る物も買いたいんだ」

 去年はケーキしか贈れなかった。光琉は去年も今年も、スイーツと形に残る物と2つくれたんだ。俺も形に残る物をプレゼントしたい。

「でも香坂くん、日向がバイトするとか許可しなさそうだけど」
「だよなぁ。俺もそう思ってまだ言えてなくてさ。それに親も説得しないといけないし」

 俺にネット販売出来るような技術が、何かあればなぁ…

「正直に話す…のは喜ぶだろうけど、その気持が嬉しいってバイトはさせてもらえなさそうだね」
「うん。はぁ…。どうやって説得しよう」
「いい案が思いついたら伝えるよ」
「ありがとな」

 一樹にも相談してみるか。

 今日の体育はテニスだから…恐らくアルファはアルファ同士で試合をするよな。その時に一樹にも相談してみよう。



 よしっ! いい情報を得られた! どうやら、よく行くいつものカフェがバイトを募集しているらしい。一樹が昨日の部活帰りに寄った際、募集広告が張り出されていたのを見たそうだ。

 カフェと言っても学校内にあるから、生徒と学校関係者しか利用できない。あそこなら許可をもらえるかも!

 ………って思ったんだけどな。

「ダメ」
「いいじゃん」
「ダメ」
「学校内だし」

 教室に戻りながらお願いし、戻ってからもお願いし…さっきからずっとコレの繰り返し。

「なんでバイトしたいの?」
「それは……欲しいものがあって」
「なに?」
「え?」
「何が欲しいの?」

 光琉の誕生日プレゼント、なんて言えるわけないだろ。

「えっと……内緒」
「なんで」
「内緒だから」

 うーん、どうしよう。光琉の機嫌がどんどん悪くなってきた。

「買ってあげるから」
「いい。自分で買う」
「日向の欲しいものは全部俺が買う。何が欲しいのか教えて」
「だから言わないって言ってるだろ」

 大体、何を買うかなんてまだ決めてないし。

「言わないならバイトも許可しないから」
「嘘つき」
「え?」
「光琉、俺がやりたいことやっていいって」

 自由を奪いたくないって言ったくせに。

「それは進路の話」
「その先に就職があるじゃん。俺、働くつもりでいてるし」
「分かってるよ。でもそれは…」

 と言って黙ってしまった光琉。

「なんだよ」
「いや…それより、バイトはダメだからね。危険だから」

 何かはぐらかされた気がする。

 それより危険ってなんだよ。いつも行くカフェだし、危険なことなんてないのに。

「短期でいいから! お願い」

 光琉の目をじっと見上げ、念を込めてみる。

「うっ…かわっ……日向、それわざとでしょ」
「なにが?」
「ーー無自覚って…たち悪すぎだろーー」

 小声で呟いた後、俺から少し距離をとり、頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。 

「なぁ、ひ~か~る~」

 肩を揺すって何度もお願いしてると、良いこと思いついた! と言わんばかりの笑顔の光琉。

「俺も一緒にバイトする」
「は? 募集人数1人だからダメ。一緒に受けたら絶対光琉が受かっちゃうじゃん」

 それに光琉がバイトとか…光琉目当てのお客さんがたくさん来ちゃうじゃないか。

「なら日向も諦めて? 日向の欲しいものは全部俺が買うから。むしろ俺に全部買わせて」
「なっ!」

 本当に買いそうなのがなぁ。

 この間も買い物デートって言うから光琉の服を買うんだと思ってたのに、俺の服ばっかり買ってたし。こんなにいらないって言ったら、俺が買った服を着て欲しいとか言ってくるしさ…

 って、それは今どうでもよくて。
 
「これだけはダメ。自分で買う」
「なんで」
「ダメなものはダメだから」


 結局今日は説得することが出来ず…もう無視して勝手に応募してやろうかな。

 でも光琉が嫌がることはしたくないしなぁ。

 何か説得する方法ないかなぁ?



しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

王冠にかける恋【完結】番外編更新中

毬谷
BL
完結済み・番外編更新中 ◆ 国立天風学園にはこんな噂があった。 『この学園に在籍する生徒は全員オメガである』 もちろん、根も歯もない噂だったが、学園になんら関わりのない国民たちはその噂を疑うことはなかった。 何故そんな噂が出回ったかというと、出入りの業者がこんなことを漏らしたからである。 『生徒たちは、全員首輪をしている』 ◆ 王制がある現代のとある国。 次期国王である第一王子・五鳳院景(ごおういんけい)も通う超エリート校・国立天風学園。 そこの生徒である笠間真加(かさままなか)は、ある日「ハル」という名前しかわからない謎の生徒と出会って…… ◆ オメガバース学園もの 超ロイヤルアルファ×(比較的)普通の男子高校生オメガです。

花いちもんめ

月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。 ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。 大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。 涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。 「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

幸せになりたかった話

幡谷ナツキ
BL
 このまま幸せでいたかった。  このまま幸せになりたかった。  このまま幸せにしたかった。  けれど、まあ、それと全部置いておいて。 「苦労もいつかは笑い話になるかもね」  そんな未来を想像して、一歩踏み出そうじゃないか。

【完結】嬉しいと花を咲かせちゃう俺は、モブになりたい

古井重箱
BL
【あらすじ】三塚伊織は高校一年生。嬉しいと周囲に花を咲かせてしまう特異体質の持ち主だ。伊織は感情がダダ漏れな自分が嫌でモブになりたいと願っている。そんな時、イケメンサッカー部員の鈴木綺羅斗と仲良くなって──【注記】陽キャDK×陰キャDK

【完結】もう一度恋に落ちる運命

grotta
BL
大学生の山岸隆之介はかつて親戚のお兄さんに淡い恋心を抱いていた。その後会えなくなり、自分の中で彼のことは過去の思い出となる。 そんなある日、偶然自宅を訪れたお兄さんに再会し…? 【大学生(α)×親戚のお兄さん(Ω)】 ※攻め視点で1話完結の短い話です。 ※続きのリクエストを頂いたので受け視点での続編を連載開始します。出来たところから順次アップしていく予定です。

あなたは僕の運命の番 出会えた奇跡に祝福を

羽兎里
BL
本編完結いたしました。覗きに来て下さった方々。本当にありがとうございました。 番外編を開始しました。 優秀なαの兄達といつも比べられていたΩの僕。 αの父様にも厄介者だと言われていたけど、それは仕方がない事だった。 そんな僕でもようやく家の役に立つ時が来た。 αであるマティアス様の下に嫁ぐことが決まったんだ。 たとえ運命の番でなくても僕をもらってくれると言う優しいマティアス様。 ところが式まであとわずかというある日、マティアス様の前に運命の番が現れてしまった。 僕はもういらないんだね。 その場からそっと僕は立ち去った。 ちょっと切ないけれど、とても優しい作品だと思っています。 他サイトにも公開中。もう一つのサイトにも女性版の始めてしまいました。(今の所シリアスですが、どうやらギャグ要素満載になりそうです。)

処理中です...