【本編完結】運命の番〜バニラとりんごの恋〜

みかん桜(蜜柑桜)

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87.俺の夢

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 1日目は特に問題……宇都宮はもちろん、もしかしたら光琉達の姿を見れるかもと、シフト時間中はずっと満員御礼だったけど、問題なく終わった。

 2日目の今日は、シフト時間以外光琉と2人、ずっと音楽文化会館にいた。だから宣伝は全く出来なかったけど…一般来場者がいる中目立ちたくなかったし、許してほしい。

「展示じゃないから、去年ほどは回れなかったね」
「そうだな。でも、店番も楽しかった」
「うん。昨日の店番中の日向、すごく楽しそうにしてて可愛かった」

 そういえば光琉、ちょこちょこスマホをいじってた気がする。まさか…写真を撮ってたのか!?

「まぁいっか」

 文化祭中の俺は寛大だからな。

 それに今日は後夜祭があるんだ。今年は絶対に光琉と参加したいから、余計なことをして光琉の琴線に触れ…閉じ込められたりして、今年も参加出来ませんでしたっていうのは避けたいし。


 そろそろシフト時間だからと教室に戻ると、調理場にしているパーテーションの後ろが騒がしい。

 俺達よりも先に戻ってきていた蓮と稜ちゃんに、何があったのか聞いてみた。

「えっ! 生クリームがなくなった!?」
「あとはここに残ってる分だけだって」
「まじか…」

 机の上に残っているのは、既に色付けしホイップ済みの生クリームのみ。

「配分には気をつけていたはずなんだけど…」

 しっかり者でリーダーシップがある松本さんも、狼狽えてしまっている。

「仕方ないよ。何か代案を考えよう」

 いちごジャムとブルーベリージャムが残っているから、ジャムはかけるとして…抹茶パウダーもふりかければいいよな。

 問題はペーストを使い切ってしまったかぼちゃ。黄色はどうするか……

「あっ!」

 黄色、というには少し物足りないかも知れないけど、許容範囲のはず。

「何か思いついた?」
「うん。スポンジケーキの材料、残ってたよな?」
「家庭科室にあるけど…」

 良かった。

「カスタードが作れるかも!」
「本当に!?」
「結構簡単に作れるし、俺、作ってくるよ」

 一応レシピを確認しながら向かおう。

「助かる! ありがとう」
「待って日向、俺も行くよ」

 カスタード以外の案を伝え、俺は光琉と一緒に家庭科室へと向かった。

 残った材料を出してみと…うん、これだけあれば量も問題なさそうだ。

 よしっ。早速作っていくぞー!

「そうだ。抹茶も混ぜよう」
「抹茶?」
「うん。抹茶カスタードにしよう。ほらっ、レシピも出てきた」

 できるなら抹茶もふりかけるんじゃなく、ケーキに添えたいしな。




「なんとかなって良かった」
「日向の機転のおかげだね」
「えへへ」

 光琉に褒められると嬉しい。


 俺、将来の夢が見つかったかも。


 修学旅行で行った和菓子体験でも少し感じたこの気持ち。元々スイーツ好きなのも影響していると思うけど、俺、スイーツ作りが好きだわ。

 誕生日やイベントで光琉のために作ったり、普段光琉が作ってきてくれるお返しにと、たまに俺も手作りのものを返したり。少しずつ俺の生活にスイーツ作りが溶け込んできて。

 和菓子体験で職人技術の凄さを目の当たりにした時も、カッコいいって目が離せなかったんだ。俺も、もっと凝ったものを作れるようになりたいって、そう思った。

 それにいつも光琉が喜んでくれるけど、昨日今日と食べに来てくれた、全然知らない人が俺の作ったケーキを美味しいって笑ってくれるのも、また別の嬉しさがあるって気付いたしな。

 ………俺の作った、は言い過ぎか。

 でも。

 急遽思いついたカスタードも好評で、クラスのみんなにも最初からカスタードにすればよかったと、そう言ってもらえるくらいの代案を思いつけたのが、嬉しくて。

 なにより…カスタードのレシピはネットで見つけたものだけど、時間がない中慌てて作らないといけなかったけど、作ってて楽しかったんだ。

 光琉のためにはもちろん、誰かのために料理…スイーツを作って、それがその人の幸せの一部になったらいいな。

「………」

 隣にいる光琉を見上げると、安定的に目が合う。

「どうしたの?」
「いや…光琉のおかげだなって」
「??」

 光琉に贈るためにとお菓子作りを始めなければ、俺は今も夢を見つけることができなかったから。

「あのさ。俺、夢が見つかったかもしれない」
「聞かせて」
「うん。光琉には一番最初に聞いてもらいたい」



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