【本編完結】運命の番〜バニラとりんごの恋〜

みかん桜(蜜柑桜)

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74.発情期④

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「おはよう」
「おはよ……日向! 今すぐ荷物持ってきて」

 荷物? 今日は体育祭だから、体操服さえあれば問題ないはずだよな?

「早く。今すぐホテルに向かうから」
「はっ? 学校は?」
「残念だろうけど欠席ね。匂いが強くなってるから危ない」

 うそだろ…。俺的にはいつもと何も変わらないから、体育祭に参加できるって嬉しかったのに。それに一応発情期用の抑制剤は服用しているから、問題も起こらないはずだ。

 名ばかりの補欠だから、競技に参加することは出来ないけど…。でも応援はできるし、体育祭の雰囲気を楽しめる。何より3年間参加は無理だろうと諦めていたからこそ、余計に嬉しかったのに。

 恨みがましい目を光琉に向けてみるも…

「睨んでるのも可愛いね」

 と全く効果なし。

「はぁ…」

 万が一発情し、薬も効かず、ヒートテロなんか起こしてからじゃ遅いしな。

 諦めるか。

「取ってくる」

 挨拶しておきたいと言った光琉を、母さんがいるリビングに残し、重い足を引きずって部屋へと逆戻り。制服から楽な格好に着替え、一応数枚の下着を鞄に詰めた。

 光琉に借りている服も入れてっと。……本人がいるけど一応な。

 今回は一緒に過ごすからか、発情期用に服を貸してくれなかったんだ。だから安眠用にと借りている服を数枚。

 おっと、忘れるところだった。枕の上に敷いている光琉のシャツも入れ、準備おっけー。

「お待たせ」
「行こうか」

 流れるように俺の荷物を持ってくれ、玄関へと向かう。イケメンは違うなぁ。なんてのほほんとしていたら、母さんの前なのに手を繋がれてしまっていた。

「あらあら。まぁまぁ」

 反応がおばさん臭いってことは黙っておいてやろう。

「………行ってきます」
「仲良く過ごすのよ~」

 どこに行くかを知っていてそのセリフ。恥ずかしいわ!



 いつもと同じ車内。お互い手を離すことはないけれど、緊張しているのか無言のままホテルに着いた。チェックインを済ませ、エレベーターに乗りこみ…

「ん?」

 高層階のボタンしかないんだけど! 今思えばフロントも高級感があった気がする!

「ボタン少なくない?」
「低層階と高層階でフロントもエレベーターも別だからね」
「こっちはアルファと過ごす棟って…」
「アルファにも色々いるから」

 さすが上位アルファ。いやこの場合は親が凄いのか? でも光琉バイトしてるしな。なんてどうでもいいことを考えていたら、部屋の数が圧倒的に少ないフロアにたどり着いた。光琉に腰を抱かれながら案内された部屋へと足を進め…

「ここだね。日向、中に入って」
「お、う…ありがと」

 入口から違いすぎる。

「ひっろ! え? 光琉、これってスイートルームってやつ?」
「ジュニアスイートだよ」
「へ~すげぇ~。めっちゃ景色いいじゃん」

 ソファーもでかいし。

「わぁ!」

 ふっかふか! ここで寝れる。

 ん? こっちはなんだ?

「それはランドリーシューターね」
「映画で見たことあるやつだ! でもこれって部屋に備え付けられてるんだな」
「このホテルは特別ね。ヒート中の番がいるのに、他の人間を部屋に入れたいアルファなんていないから」
「な、なるほど…///」

 シーツ交換も自分でやるのか。正直できる気がしないけど、光琉もいるからちゃんと交換しよう。

「大丈夫。シーツ交換も俺がするから」
「いいのか? 助かる」

 薬が効いているタイミングでやるしかないよなって思ってたから……

「って、良くないわ! 俺、自分でするから」
「ふっ。そう? じゃあ俺が寝てしまった時はお願いするよ。その代わり、日向が寝てしまってたら俺が交換するね」
「おっけ」

 ベッド1つしかないけどどうするんだ? 一緒に寝るのか? 俺はソファーでもいいけど、こんな高そうなソファー汚せないし…。

 最後までしないって、どこまでするんだろう。確実にキスは…舌、入れるよな。

「うわぁ///」
「日向?」
「なっ、んでもないから!」

 これから発情期が終わるまで、ずっと光琉といるのかと思うと急に緊張してきた。

「せっかくだし、探検…探検しようぜ!」
「ふっ。いいよ」
「/// キッチンが備え付けられてるホテルとか俺初めてだ」

 冷蔵庫を開けてみるとフルーツやゼリー、水といった手軽に食べられる食材が沢山詰まっていた。常温保存の食料もたくさんある。

「あっ…俺、母さんが買っておいてくれた非常食、持って来るの忘れた…」
「それなら俺が預かってきたよ」
「ありがと」

 そういえば光琉、荷物多くないか?

「何持ってきたんだ?」
「見たい?」
「見たい!」

 開けていいよとキャリーケースの鍵を渡され、ワクワクしながら鍵を回し、開けた瞬間ブワッと溢れ出したバニラシナモン香り。

「これ…」
「好きに使っていいよ」
「/// その…あり、がと」

 光琉の服だ。服だけじゃなく、ブランケットや枕カバーなんかも入っていた。

 さっそくブランケットは肩にかけさせてもらおう。

「安心する」
「かっ…」
「か?」

 蚊? 

「急にどうしたんだよ!」

 ぎゅうぎゅうと抱きしめるから、せっかく落ち着いたのにまた緊張してきたじゃん。

 この流れでキスもするのかな? と思ったらあっけなく離されてしまった。ちょっと残念。

 食材を出したり仕舞ったりしながら、これが好きとか苦手とか話したり、2人並んでテレビを見たり…昼はお互い持参したお弁当を食べ、片付けている最中にそれはやってきた。

「ひ、かる…」
「大丈夫。俺が付いてるから」

 そう言って俺の頬を撫でてくれる。

 気持ちいい…。

「どうしてほしい?」
「ぎゅってして…」

 はぁ…これこれ。この匂い最高。

 思いっきりバニラシナモンの香りを吸い込み、その匂いに酔いしれる。

 やばい…ちゃんと抑制剤飲んだのに。頭では、蓮お勧めの曲を流そうとか、冷たい水を飲んで体を冷やそうとか、対処法が色々浮かんでくるのに、もっともっとこの匂いに包まれたくて、光琉の腕の中から動けない。



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