【本編完結】運命の番〜バニラとりんごの恋〜

みかん桜(蜜柑桜)

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61.バレンタイン③

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 光琉に渡すバレンタインチョコに、バニラとシナモンを使ったのはやりすぎたかもしれない。

 元々りんごとチョコのタルトを作るつもりだった。バレンタインだし、りんごを使うにしてもチョコメインにしたいなって思ったから。

 でも…俺の好きな味はバニラシナモンで、光琉はりんご。バレンタインだし、お互いの好きな物を合わせてみようかなって軽い気持ちでパウンドケーキを作り始めてしまい…レシピ通りだと納得のいくものが出来ず、母さんにアドバイスを貰いながら試行錯誤してたら、タルトのことなんてすっかり頭から抜けちゃったんだ。


「そういえばチョコタルトはやめにしたんだね」

 大学から帰ってきた姉ちゃんが、出来たばかりのパウンドケーキに手を伸ばしながら聞いてきた。

「姉ちゃん! 勝手にたべるなよな」
「うん。美味しい。どうせ練習なんだから良いじゃない。それより、すっごい独占欲ね」
「はぁ?」

 独占欲ってどういう意味だよ。

「だってりんごは日向のフェロモンの香りでしょ?」
「そうなの? ってか何で姉ちゃんが知ってるんだよ。オメガフェロモン感知しないくせに」

 そもそも抑制剤飲んでて光琉にしか…

「光琉くんのお姉さんから聞いたのよ」

 え…それって光琉が話したってことだよな?

 俺のフェロモン…………りんごの香りなんだ。

「///」
「顔真っ赤だけど。えっ! もしかして本当に知らなかったの?」
「うん」
「光琉くんの好きな食べ物りんごだって言ってたじゃん」

 それ関係なくないか?

「言ってる意味分かんないって顔してるけど、好き合うアルファとオメガは、互いのフェロモンに似た匂いも好きになるって、漫画でもよく描かれてるわよ」
「あっ……」

 姉ちゃんの漫画、受験勉強中から全然読んでなくて忘れてた。

 中3の時にふと感じるようになったバニラの香り。恐らく運命の番の香りを知って、そこから好物がバニラに変わったんだ。光琉だって同じ頃に俺のフェロモンの匂いを感じ、好物になった可能性に何故気付かなかったんだろう。

「バラしちゃってごめんね~」

 と全く悪いと思ってない謝罪をしながら、姉ちゃんはリビングを出ていった。


 俺は光琉と会ってからますますバニラ好き、正確にはバニラシナモン好きになったけど、それって光琉も?

 運命なんて関係なく、光琉が好きだと自覚してから、ますますその匂いも味も好きになったけど、光琉は?

 このパウンドケーキ、好きな物ではなくお互いのフェロモンを合わせたものになってしまったけど、これを食べたら光琉はどんな反応をするだろう。

 もう練習する日数がないからと自分に言い訳し、バレンタインの贈り物は変更しないことにした。





――バレンタイン当日

 完全に調子に乗ってしまった。

 やっぱり光琉は自分のフェロモンがどんな香りか知っていたんだな。知った上で俺にバニラシナモンが好きってからかってきてて……そういえば光琉からもらうスイーツ…必ずバニラかシナモンが使われてる。

 どういう意味で使っていたんだろう? 俺がバニラ好きだから? 光琉のフェロモンに似ているから?


 どんなに好きでも匂いがダメで別れる人もいる。改良前の抑制剤を使用していた一昔前は、匂いから好きになる一目惚れ…一匂い惚れ? も、よくある話だったと聞いたこともある。

 それくらい、アルファとオメガにとって、お互いの匂いが恋愛感情に大きく関係してくるんだ。

 だからずっと自分のフェロモンがりんごに似ていたらって思っていた。

 でも願いが叶ったのに、叶ったら叶ったで…運命の番は必ずお互いの匂いを好きになるものなのか、新しい問題が出てきてしまった。

 運命じゃなければ、匂いから好きになってもらったのかもって素直に…はなれないけど、ここまで悩まずに済んだ? それとも好きなのは匂いだけだろって思ってる?


 運命の番ってなんなんだろう。


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