【本編完結】運命の番〜バニラとりんごの恋〜

みかん桜(蜜柑桜)

文字の大きさ
上 下
50 / 106

49.新しいネックガード

しおりを挟む
麗夜たちと戦った公園、家族の思い出があった公園。
 そこから作戦は始まった。

「僕の能力で遠くから見守るってことでいいんだよね」

「あぁ、マリーの奴には傷ついてるフリをしてもらう事になってる」

 事前に幹部達へと正確な場所を伝え、数十分が経過していた。
 亮人たちの影から無線機代わりのマリーのコウモリが顔を出し、周りの様子を伺っていた。
 深夜の東京。
 公園の修理は追いつかず、遊具は壊れたままの状態。
 公園を照らすのは月夜の光だけ。
 物陰に隠れるようにマリーは蹲っているような素振りを続ける。
 空を見上げる亮人は小さく息を吐く。
 白く靄が掛かるように飛んでいく白い息は次第に霧散し、消えていく。
 体に羽織っているコートは皮膚を刺すような冷たい空気から身を守る。
 袖から出る手へと伸ばされた礼火の小さな手に自然と握られる。

「寒いね……」

「そうだね」

 見上げた空、その光景はこれから戦うとは思えない程に綺麗なものだった。

『これから戦うと思うと緊張するわね』

『シャーリーもドキドキしてきたよ』

「みんなで帰るからね」

「『『うん』』」

 四人で空を見上げている、静かな時間は終わる。

「来たっ!!」

 守護の視線の先、建物の屋上を駆けるように黒いマントの三人組がマリーのいる公園へと飛んでいく。

「俺らの出番はまだ後だ……今はマリーを信じて、後をつけるぞ」

 亮人ら五人は麗夜の後についていく。
 黒いマントの三人組が向かっていく方向へ。

  ♂     ×     ?

『お父様……必ず助けますわ』

 静寂の中で口にする言葉は暖かくも、一瞬にして消え去る。
 深夜の寒空の下、数十分の中で考え、思い出していた過去。
 初めは残酷で哀しむしかなかった記憶。誰も信じられなかった十年間は心が常に冷たいような感覚があった。
 城から投げ出された時の父親の表情。優しく微笑みかけた姿を鮮明に思い出すと目尻から一滴に涙が頬を伝っていく。
大きく呼吸を吸い、大粒の涙を拭うマリーは亮人たちが待機している方向へと視線を向ける。ただ、振り向いた時の表情は悲しげなものではなく、力強く不安を感じさせないものに変化していた。

『今日で終わらせますわ……』

 胸の前で握り込まれる拳から流れる血は地面を濡らす。

「来たっ!!」

 耳元から聞こえる守護の言葉に顔を上げる。

『やっと来ましたわね…………』

 手のひらから滴る血は一瞬にして止まり、傷も瞬時に治る。

『お父様を返してもらいますわ……』

 街灯もない公園の中、マリーの足元に広がる闇は形を持つように揺らめく。
 足を引きずるような動作をしながら、歩く度に地面の影は水面のように波紋を広げていく。
 物音が一切しない公園の中、それは唐突に始まる。
 一瞬にしてマリーの横に現れた巨漢の男はマリーへ一振りの拳を入れた。

『ガッハっ!!』

 予想以上の衝撃と共にマリーの体は地面を数回バウンドし、壁へとヒビを入れるほどに衝突する。
 連続するように一瞬にして距離を詰めてくる巨漢は再び、マリーの顔面へと拳を叩き込む。
 恐ろしい程の速度と威力に辛うじて避けたマリーは自分の影の中へと逃げ込み、一度距離を離した。
 視線の先、マリーがいた壁はたった一振りの拳によって粉砕されていた。

「中々……すばしっこいな」

 首の骨を鳴らす巨漢は大きく深呼吸をし、動きを止める。

『何を……休んでるんですの』

「……………………」

 フードで見えない巨漢の表情。だが、息一つとして乱していない様子はマリーが想定していた以上のものであった。

 油断してるつもりはなかったですけど…………ちょっとまずいかもしれませんわね。

 胸を右手で押さえれば、肋骨が折れているのが分かる程だった。

「っつ!!」

「よそ見をしている暇はないですよ」

『っ!!』

 耳元で囁かれた声と同時に、マリーの腕からは激痛が走る。
 背中から翼を生やし、空へと逃げる。
 視線を左手へと向ければ、爛れている皮膚がそこあった。まるで強酸で溶かされたかのように爛れた腕は痛々しい状態となっていた。
 マリーの後ろに突如現れたガスマスクの男の腕は粘液が垂れるかのようにぶら下がっている。

「普通なら、これだけで踠き苦しむんですが…………いやはや、さすが貴族とでも言っておきますか、最後のヴァンパイア」

 俯いていたガスマスクの男は勢いよくマリーへと視線を向ければ、液状の腕を勢いよく振り回し、液体を飛ばす。
 散弾のように放たれた水滴を避けていくマリーだが、動かしていた翼は時間が止まったかのように動かなくなった。そして、マリーの体自体も空中で留まり続ける。

『なんで、動けないんですのっ!?』

 驚愕が襲うと同時に動かない的となったマリーの体は細かい水滴が幾つも付着していき、皮膚を溶かしていく。
 苦痛で歪む表情は声を押し殺す為に唇を噛み締める。

「空を飛べるのが貴方だけだと…………思わないでください」

 箒に跨る女はマリーの首へと手を掛け、力を込める。
 異常に細い女の腕に込められる力は見かけとは掛け離れた力がある。

『あんた達…………何なのよ』

「私たちは怪物たちを殺す者だよ」

「我々の悲願にお前が必要」

「だから、私たちは…………貴方を連れて行かないといけないの」

 女は小さく何かを呟くと、巨漢がいる足元から鉄製の十字架が現れる。
 身動きが取れないマリーは何かに固定されたように十字架へ磔はりつけられる。
 巨漢は100kgを超えるであろう十字架を担げば、重さを感じさせない動きで走り去っていく。
 三人は再び、静寂に包まれた闇夜の街へと消えていく。
 ただ、マリーが不敵に笑っていることを知らずに。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

王冠にかける恋【完結】番外編更新中

毬谷
BL
完結済み・番外編更新中 ◆ 国立天風学園にはこんな噂があった。 『この学園に在籍する生徒は全員オメガである』 もちろん、根も歯もない噂だったが、学園になんら関わりのない国民たちはその噂を疑うことはなかった。 何故そんな噂が出回ったかというと、出入りの業者がこんなことを漏らしたからである。 『生徒たちは、全員首輪をしている』 ◆ 王制がある現代のとある国。 次期国王である第一王子・五鳳院景(ごおういんけい)も通う超エリート校・国立天風学園。 そこの生徒である笠間真加(かさままなか)は、ある日「ハル」という名前しかわからない謎の生徒と出会って…… ◆ オメガバース学園もの 超ロイヤルアルファ×(比較的)普通の男子高校生オメガです。

花いちもんめ

月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。 ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。 大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。 涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。 「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

【完結】もう一度恋に落ちる運命

grotta
BL
大学生の山岸隆之介はかつて親戚のお兄さんに淡い恋心を抱いていた。その後会えなくなり、自分の中で彼のことは過去の思い出となる。 そんなある日、偶然自宅を訪れたお兄さんに再会し…? 【大学生(α)×親戚のお兄さん(Ω)】 ※攻め視点で1話完結の短い話です。 ※続きのリクエストを頂いたので受け視点での続編を連載開始します。出来たところから順次アップしていく予定です。

幸せになりたかった話

幡谷ナツキ
BL
 このまま幸せでいたかった。  このまま幸せになりたかった。  このまま幸せにしたかった。  けれど、まあ、それと全部置いておいて。 「苦労もいつかは笑い話になるかもね」  そんな未来を想像して、一歩踏み出そうじゃないか。

あなたは僕の運命の番 出会えた奇跡に祝福を

羽兎里
BL
本編完結いたしました。覗きに来て下さった方々。本当にありがとうございました。 番外編を開始しました。 優秀なαの兄達といつも比べられていたΩの僕。 αの父様にも厄介者だと言われていたけど、それは仕方がない事だった。 そんな僕でもようやく家の役に立つ時が来た。 αであるマティアス様の下に嫁ぐことが決まったんだ。 たとえ運命の番でなくても僕をもらってくれると言う優しいマティアス様。 ところが式まであとわずかというある日、マティアス様の前に運命の番が現れてしまった。 僕はもういらないんだね。 その場からそっと僕は立ち去った。 ちょっと切ないけれど、とても優しい作品だと思っています。 他サイトにも公開中。もう一つのサイトにも女性版の始めてしまいました。(今の所シリアスですが、どうやらギャグ要素満載になりそうです。)

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

処理中です...