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43.文化祭2日目③
しおりを挟むハイエンドペンLGマイルドが頭から敵の旗艦へ、ドカンと突っ込む。
ルーシーの操縦には一切の躊躇がなかった。
でもわたしはめちゃくちゃこわかった。
ほら、自動車の安全テストで、壁に衝突するショッキング映像があるでしょう? 木偶人形が衝撃でぐわんぐわんしちゃったり、フロントガラスを突き破って車外に放りだされたりする、アレ。
ずんずん迫ってくる船の側壁。さらにグンと加速する機体。
突撃をかます瞬間、あの映像がありありと脳裏に浮かんだね。
平気だからとか、安全だからとか関係ないの! ジェットコースターとか乗ったら誰だってこわいでしょ! あれと同じなんだから。
当然のごとくわたしはルーシーに抗議した。「だろう運転ダメ。かもしれない運転を心がけて」
すると青いお人形さんはこう言ったよ。「わかりました、次からは気をつけます」
「次もあるのかよ!」とわたしは心の中でビシッとツッコんだ。
よっこらせと機体の外へと降りれば、すでに周囲は大きなフォークみたいな槍を手にした首長族にかこまれていた。
それらを睥睨し、わたしはつぶやく。
「これがウワサのドラゴロート族か。なんか目が死んだ魚みたい」
白目の部分と黒い部分がくっきりしたドングリ眼。
だからそう称したのだが、身体的特徴についてどうこう言うべきではなかったとすぐに反省した。だって、みなさんむちゃくちゃ怒ったんだもの。
どうやらわたしは知らないうちに彼らの地雷を踏んでしまったらしい。
「ダメですよリンネさま。それはマナー違反です。彼らは空バカなんですから、よりにもよって水の中でびちびちしているのと同じにしたら、そりゃあ怒られますよ」
ルーシーにやんわりたしなめられた。
いや、あんたもさりげにヒドイこと言ってない?
でもわたしのときとはちがって、お人形さんの言葉には大きな拍手がパチパチ、口笛ヒューヒュー。
どうやら「空バカ」は彼らにとっての誉め言葉に相当するらしい。
うーん、異種族間交流ってムズかしいね。
まぁ、同じ種族同士でもケンカしまくっているから、それも当たり前か。
それはそれとして、なんか憎めないものがあるよね、ドラゴロート族ってば。
バカにされたらぷりぷり怒る。ちょっと褒められたらヒューヒュー口笛を吹いてよろこぶ。感情の起伏が明瞭というか、竹をスコンと割ったみたいな気質というか。
これが空に生き、空に恋焦がれ、空に夢中になっている空バカども。
今回はその想いがちょいと暴走しちゃったみたいだけど、そもそも飛竜とかドラゴンの面倒をちゃんとみている時点で、中味はけっこうまともだと思うんだ。
よく犬好きに悪い人はいないとか、猫好きに悪い人はいないとか言っちゃうペット愛好家っているでしょう。でもあれは正しくは「きちんとイヌやネコのお世話ができる人に悪い人はいない」だとわたしは考えている。かわいがるだけならば誰にでもできるから。
そういった理屈では、ドラゴロート族は悪い人ではないわけで……ムムム。
「ルーシー予定変更。無力化するだけで殺傷はナシの方向で」
「了解です。各員にも通達。麻痺弾とスタンガンにて対応します」
キリリと真顔にて従者に命じるわたし。
さぁ、ここから派手なドンパチの始まりだ!
なーんてことはいたしません。
だってここは船内なんだもの。つまりほぼほぼ閉鎖空間にて、これってガス類には最高の舞台。
よってわたしは右手の小指をピンと立てる。とたんに指先から大量に噴出したのは、怒れる鬼も腹がよじれるぐらいにケラケラしちゃう笑気ガス。
すぐさま乙女を中心にして広がる笑いの輪。
いい感じで場が和んだところで、床に転がり笑い死なんばかりに悶絶している面々の長い首筋に、ポンポンと判子でも押すかのようにスタンガンっぽい武器を押し当てるルーシー。
以降はこれのくり返しにて、サクサクと艦内を制圧。
そしてついにラスボスである敵の大将スコロ・ル・カーボランダムがいる部屋へと到着。
いかにもな面構えの扉をまえにして、わたしは左手の人差し指マグナムをズドンと一発。
扉に穴を開けると、そこに右手の小指を突っ込み、シューッ。
「あれ、ラストバトルは? 勇者との対決は? クライマックスシーンは?」とルーシーに言われたけど、「パス」と答えた。
だってさ、このあとにもいろいろとやることいっぱいあるでしょ。
落ちた飛竜たちやその操者とかの捜索やら保護やら、あちこちに大量に転がるゼロ戦の残骸の回収、もちろんそのパイロットたちの身柄も確保しないといけない。それから制圧したこの艦を含めてカーボランダム軍の面倒もみなくちゃならない。
とっとと戦後処理をすませて、お引き取りをしてもらわないと、いくらリスターナが食糧豊富とはいえ、これだけ大飯喰らいのごくつぶしどもを抱えていたら、すぐに干上がってしまう。こちとら辺境の小国なんだよ。大国の戦争遊戯につき合ってる暇もお金もないの。
「だから戦いません」と言い切ってから扉をあけたら、泣き笑いしながら槍をブンブンふりまわしてる男と床で白目をむいている男がいた。
寝ている方が勇者だな。笑い転げるあまり気を失ってしまったらしい。この分だとあまり戦闘向きではなさそうだね。ゼロ戦を組み上げたことからして技術チートの類かな。
で、元気な方がスコロ王さま。「おのれーっ、ヒヒヒ」「くそー、オレたちの夢はこんなところで、あはははは」とがんばっている。でも動くほどにガスの回りがよくなるから、余計に苦しくなるんだよねえ。
ほらいわんこっちゃない。
見ている前で、ついに耐えかねて槍を放り出す王さま。
続けて口から泡をふいてバタンと倒れた。びくんびくんと痙攣。なにやら危険な状態にてじきに動きをとめ、ついにピクリともしなくなった。
試しに口元に手をやったら、息をしてないっ!
どうしようと、わたし大慌て。いざとなったら人工呼吸とか心臓マッサージなんてまるで思いつけやしない。
するとルーシーが「おまかせください」
お人形さんは王さまの上に馬乗りとなり、その胸元にてスタンガンっぽいモノをバッチバチ。
これにてスコロ王さま、奇跡のカムバック。
やれやれ、最後の最後でビビらせやがって。
おかげでこっちの心臓まで止まりそうになったよ。
さて、お空の上はとりあえずこれにてひと段落。あとは地上の方か。
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