【本編完結】運命の番〜バニラとりんごの恋〜

みかん桜(蜜柑桜)

文字の大きさ
上 下
40 / 106

39.文化祭1日目④ side光琉

しおりを挟む
 
 リュウジには双子の兄のリュウイチがいる。
 ほとんど同じタイミングにてこの世に生を受けたというのに、僅差にて生まれながらに兄と弟という上下関係を押し付けられたリュウジ。
 だがそれは彼の屈辱にまみれた人生のほんのはじまりにすぎなかった。
 兄のリュウイチは容姿端麗で学業も運動も優秀。何ごともそつなくこなす優等生。毎年、バレンタインデーになると、家中がチョコレートのニオイで甘ったるくなるほどの人気者。
 弟のリュウジは容姿その他、すべてが平凡。学校の成績も赤点こそは取らないが、突出することもない。どこまでいっても可もなく不可もなく。バレンタインデー? 母親からの義理チョコしかもらったことがないよ状態。下駄箱にラブレターなんて都市伝説の類だと思っている。
 あまりにも対照的な双子。
 それゆえに周囲からはよく「リュウジはお母さんの腹の中で、リュウイチに栄養をとられすぎたんだ」なんぞとからかわれたものである。
 学年が同じである以上、どうしたってことあるごとに二人は比べられる。
 そしてその度にこう言われるのだ。

「あー、おまえ、ダメな方か」と。

 物心がついた頃から、ずっとみんなからこんなことを言われ続けているうちに、リュウジ自身も「自分は兄とちがって、ぜんぜんダメな奴なのだ」と考えるようになっていく。
 両親や親族たちですらもが、表面上はとりつくろっているものの、そうであったのだから抗うなんていう考えは、はなから思い浮かびもしなかった。
 リュウイチはいい子で、リュウジはふつう。
 光と影ですらない。
 光と道端に落ちてる石ころ。
 ではいつも褒められ期待のまなざしを一身に集めるリュウイチは、どうであったのかというと、これまたよく出来たお兄ちゃんであった。
 驕ることなく、兄として弟をたえず気遣う。
 おそらくは唯一、リュウジを双子の片割れとしてではなく、一人の人間として扱い、ちゃんと向き合い、接していたのが兄のリュウイチ。
 リュウジはそんな兄を尊敬しつつも、妬ましさも感じ、コンプレックスを拗らせつつも、どうしても嫌いになれない。
 対等に扱われるほどに、しんしんと心の内に降り積もり、ぶ厚い層となっていく劣等感。
 こんな、なんともいえない複雑な感情を抱いたまま、リュウジはふつうに成長していくことになる。

 この先もずっとそんな日常が続くのか……。
 絶望にも似た、諦めの心境にあったとき、異世界へと渡り勇者となったリュウジ。
 ギフトはタワーマスター。
 これはタワー型のダンジョンを形成し管理運営できる異能。タワー内限定にて世界を構築できるので、いわば亜空間のグレードダウン版。
 スキルは宝物錬成。
 何でも造れる便利なインチキ錬成とはちがい、金銀財宝のみを造りだせる。しかしこの能力には制約があった、それは自身のタワー内のみで錬成させることが可能というもの。
 神さまに呼ばれた際に、リュウジがこのギフトを選んだ理由は「なんとなくおもしろそう」だったから。ダンジョン経営とか、いかにもファンタジーらしいし。
 スキルに関しては、どうしてこれが発動したのかは当人にもわからない。だが制約があることからして、ギフトとセットだったのかもしれない。

 異世界に行けば、もう兄と比べられることもなく、新たにやり直せる。
 リュウジはそう考えていた。
 だが現実はちがった。
 召喚された先にて待っていたのは、またしても比較。
 同時期に召喚された勇者たちと見比べられて、品定めをされて、吟味の上に選別される。
 ちょうど戦争中であった彼の国にて求められていたのは、戦う術を持つ者。目の前の戦局を左右し、先陣に立って難局を打開できる者。
 設置型のリュウジの異能は、一部に高く評価こそはされたものの、現状の国が求めるチカラではなかった。活用次第では無限の富をもたらす打ち出の小槌だというのに、それを活かす余裕すらもなかったのである。
 戦えないごくつぶし。
 いつしかリュウジは勇者仲間たちからも孤立し、一人でいることが多くなっていく。
 異世界渡りの勇者として、周囲はそれなりに敬意は払ってくれるけれども、その瞳の奥にあったのは、かつて元の世界で自分に向けられていたものと同じであった。
 それを知ったリュウジは、何もかも放り出して逃げた。
 すっかり諦めていたところに提示された新たな世界と可能性。
 なのにそこもやはり同じだったとわかって、ついに彼の魂が悲鳴をあげたのである。
 どこをどう彷徨ったのかも忘れてしまった、ある日のこと。
 リュウジはベリドート国の荒地に流れ着く。
 そこで、ふと、思い出したのは自分のギフトとスキル。

「そういえばノットガルドへ来てから、まだ一度も試していなかったか」

 ずっとため込まれていた魔力や想いに比例するかのようにして、出現したのは千階層をも誇る超大な天空の塔。
 その塔の内部はリュウジの世界。
 タワーマスターの能力にて環境を整える作業に、彼は次第に夢中になって没頭していく。
 これがベリドート中を巻き込んだ試練の塔の誕生秘話である。

 勇者リュウジくんのわりと長いお話。
 これをわたしはグビグビお茶をのみながら聞いていた。
 そして彼の語りもひと段落ついたらしいので、率直な感想を口にした。

「赤点一個もなしで『ボクふつうだから』とかイヤミか? こちとら毎回、ニ三個が当たり前だってぇの。その都度、恥じも外聞もかなぐり捨てて、全力で先生に泣きつき媚びへつらって、追試やレポートや補習でどうにか生きてきたっていうのに……。ぜいたく言ってんじゃねえぞ、この野郎!」

 わたしの発言を受けて、リュウジくん「えー」
 ルーシーは「ふつうってムズカシイですよね」としみじみ。
 まったくもって青い目のお人形さんの言うとおり。
 毎回、テストのたんびに徹夜して頑張っても、ギリギリのわたしからすれば、赤点ゼロの学園生活とか充分に勝ち組。
 わたしだって一度くらい友だち相手に「ねえ、あんたテストどうだった?」「わたし? とりあえず赤点は回避かな」ぐらいの余裕しゃくしゃくな台詞を言いたかったよ。
 だが現実は「ヤッべー、完璧に山をハズしたぁ」だ。それどころか一度なんて「おまえ、もう、いっそカンニングでもしろよ。先生、見逃してやるから」なんて言われたことすらあるというのに。

「マジメに上ばっかり見てっからしんどいんだ。もっと下を見ろ、下を! 足下でにょろにょろしているダメな連中を眺めて、ほくそ笑み、溜飲をさげ、おおいにストレスを解消しろ。それで万事解決する」
「いや、それはさすがに人としてどうかと……」

 せっかく人生をオモチロおかしく過ごすコツを伝授してやったというのに、リュウジが不満を表明した。
 でもルーシーにはウケたらしく、お人形さんはカタカタ肩をふるわせていた。


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

王冠にかける恋【完結】番外編更新中

毬谷
BL
完結済み・番外編更新中 ◆ 国立天風学園にはこんな噂があった。 『この学園に在籍する生徒は全員オメガである』 もちろん、根も歯もない噂だったが、学園になんら関わりのない国民たちはその噂を疑うことはなかった。 何故そんな噂が出回ったかというと、出入りの業者がこんなことを漏らしたからである。 『生徒たちは、全員首輪をしている』 ◆ 王制がある現代のとある国。 次期国王である第一王子・五鳳院景(ごおういんけい)も通う超エリート校・国立天風学園。 そこの生徒である笠間真加(かさままなか)は、ある日「ハル」という名前しかわからない謎の生徒と出会って…… ◆ オメガバース学園もの 超ロイヤルアルファ×(比較的)普通の男子高校生オメガです。

花いちもんめ

月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。 ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。 大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。 涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。 「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

【完結】もう一度恋に落ちる運命

grotta
BL
大学生の山岸隆之介はかつて親戚のお兄さんに淡い恋心を抱いていた。その後会えなくなり、自分の中で彼のことは過去の思い出となる。 そんなある日、偶然自宅を訪れたお兄さんに再会し…? 【大学生(α)×親戚のお兄さん(Ω)】 ※攻め視点で1話完結の短い話です。 ※続きのリクエストを頂いたので受け視点での続編を連載開始します。出来たところから順次アップしていく予定です。

幸せになりたかった話

幡谷ナツキ
BL
 このまま幸せでいたかった。  このまま幸せになりたかった。  このまま幸せにしたかった。  けれど、まあ、それと全部置いておいて。 「苦労もいつかは笑い話になるかもね」  そんな未来を想像して、一歩踏み出そうじゃないか。

あなたは僕の運命の番 出会えた奇跡に祝福を

羽兎里
BL
本編完結いたしました。覗きに来て下さった方々。本当にありがとうございました。 番外編を開始しました。 優秀なαの兄達といつも比べられていたΩの僕。 αの父様にも厄介者だと言われていたけど、それは仕方がない事だった。 そんな僕でもようやく家の役に立つ時が来た。 αであるマティアス様の下に嫁ぐことが決まったんだ。 たとえ運命の番でなくても僕をもらってくれると言う優しいマティアス様。 ところが式まであとわずかというある日、マティアス様の前に運命の番が現れてしまった。 僕はもういらないんだね。 その場からそっと僕は立ち去った。 ちょっと切ないけれど、とても優しい作品だと思っています。 他サイトにも公開中。もう一つのサイトにも女性版の始めてしまいました。(今の所シリアスですが、どうやらギャグ要素満載になりそうです。)

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

処理中です...