【本編完結】運命の番〜バニラとりんごの恋〜

みかん桜(蜜柑桜)

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4.主治医が決まりました

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 暗い雰囲気の中夕食をとっていると、母さんが明日学校を休むようにと言ってきた。

「なんで休むの?」
「隣の市にある大学病院の予約を取ったからよ」
「大学病院?」
「オメガ科があるの」

 オメガ科…

「いつもの病院は?」

 熱が出た時にいつも行く近所の病院。確か内科でも抑制剤を処方してもらえるって…ネットで見た。

「あそこは内科でしょ。専門医に診てもらった方がいいに決まってるじゃない」

 それはそうかも知れないけど…チラッと隣で夕食を食べている姉ちゃんを盗み見ると、肩をすくめ話しに参加しだした。

「私も専門医に診てもらうのに賛成。発情期が来たら体に一番合う薬を見つけた方が良いらしいし」
「姉ちゃんのは漫画情報だろ」
「ちゃんと調べたわよ、失礼ね。私が漫画ばっかり読んでるみたいに言わないでよね」

 ……事実じゃん。

「なんにせよオメガ科のある病院には行った方がいいって」

 そうかもしれないけどさ…。

「学校、休む必要ある?」
「こういう事は早い方が良いのよ」

 母さん…健康診断の結果をもらった次の日に学校休むとか、オメガ疑惑でるじゃんかよ。

「予約は11時だからね。それと、お母さんも一緒に行くから」
「は? 1人で行けるし」

 中3にもなって母親と病院とか恥ずかしいし。そりゃあ今年の始め、インフルになった時は付き添ってもらったけどさ。あの日はしんどかったからで明日は1人で行けるから。

「1人で外出なんてダメよ。何かあったらどうするの」
「別に今まで何もなかったじゃん」
「それはオメガ判定される前の話でしょ」

 意味わかんね。今日の俺と明日の俺、何も変わんねーっての。

「そもそも小6の時にオメガだって言われてたし。それをずっと受け入れなかったのは母さんじゃん」
「それは…」
「もういいよ。病院行けば母さんは満足するんだろ」

 あーあ、風邪引いたってことにして2.3日学校休みたい。





 翌日、予約時間に病院へ行くと、必要なことだからとまずは検査室へと連れて行かれた。検査後、診察室の前で順番を待っていると、当たり前のように隣に座る母さん。

「岩清水さーん、岩清水日向さーん、診察室へどうぞ。あっ、お母さんですか? ご一緒にどうぞ」
「ありがとうございます」
「………」

 看護師さんに呼ばれて、これまた当たり前のように診察室に付いてくる母さん。俺1人でいいのに。

「初めまして。担当医の西井戸です」
「よろしくお願いします」

 西井戸先生はベータだけど、学生時代からオメガ科の専門医になるために勉強してきたらしい。

「一応検査結果を報告すると、日向くんはオメガでした」

 だろうね。俺が答える前に母さんが先生と話しだした。

「先生、私も主人も互いの両親もベータしかいないんです。ベータ家系で息子がオメガなんてことあるんでしょうか」
「少ないですがいらっしゃいますよ」
「母さん…」

 オメガ科に連れてきた時点で受け入れてくれたんだって思ってたのに。

「ベータ人口が一番多いですからね。アルファやオメガと接する機会のない方は多いですし、お母さんが戸惑ってまうのも仕方ないと思います。ですがオメガだからと悲観する必要はありませんよ」
「ですが…」

 先生が言うには、オメガの人権はあってないような時代もあったけどそれは過去のこと。年々薬も改良され、アルファに囲われ家に入るのが当たり前だったのに、近年は社会に出るオメガの方も多いと。

 オメガ公表してる芸能人も多いもんな。

「でも無理やり番にとか」
「今はアルファの方もアルファ用の抑制剤を服用している方がほとんどです。無理やり番にしたアルファもしっかり法で裁かれますよ。もちろん、法で裁かれたって番解除ができるわけではないです。でも裁かれるようになったからこそ、横暴なアルファも減ったんですよ」

 それって裁かれなければ今でも無理やり番にするアルファがいるってことなのか? それは…ちょっと怖いかもしれない。

「それでもお母さんは心配ですよね。日向くん、ネックガードは持っているよね?」
「はい、国から支給されたものが」
「じゃあ今日家に帰ったらすぐ着けるようにしようか」
「もうですか? 発情期まだなんですけど」

 えぇ…着けないといけないのは分かってたけど…昨日の今日で着けないといけないなら、もっと前から流行りに乗ったふりしておけば良かった。

「今の日向くんはいつ発情期が来るかわからない状態。外で、首を晒した状態で発情期が来たら危険であることに変わりないからね」
「………はい」
「あの先生? 国から支給されたものではアルファなら簡単に突き破れますよね?」

 えっ、そうなの!?

「それも一昔前の話ですね。残念ながらデザイン性はありませんが、今の支給品は頑丈にできていますよ。仮に傷がついても役所に行けば新しいものを受け取れます」

 というか支給品じゃないとだめなのかな?

「支給品ってオメガしか手に入れられないですよね? バレますよね…?」
「日向くんはオメガだって隠したいのかな?」
「その…俺全然オメガに見えないから…」
「そうかな? でもオメガであることを隠すのは先生も賛成かな」

 やっぱり俺がオメガっぽくないから隠した方が良いって先生も思ったのかな?

「勘違いしないでね。隠すことに賛成したのは、無闇矢鱈にオメガであることを主張する必要はないからだからね」

 ネックガード、学ランなら制服で隠れるから安心して大丈夫だって言われた。でもそれってブレザーなら隠れないってことじゃんか。行きたい高校、ブレザーなんだよなぁ。
 ちなみに休日はハイネックやタートルネック、ストールで隠している人が多いらしいし、俺も真似させてもらうことにした。

「日向くん、間違ってもアパレルショップで売っているネックガードなんて着けないでね。あれは流行りに乗ったベータ用のもので、首を守ってくれるものじゃないから」
「………分かりました」

 やっぱそうだよな。前に売ってるやつを手に取ってみたことがあるけど、支給品に比べてペラペラだったし。

「初診だから…緊急用の抑制剤と、避妊薬、最初の発情期用に数種類の抑制剤を処方しておくね。発情期が来たらどの薬が合うか試してほしい。内服する順や服用方法は薬剤師から説明があるからよく聞くように」

 ひ、避妊薬!?

「避妊薬…いりますか?」
「念のためね。緊急用の抑制剤と避妊薬は、日向くんを守るお守りだと思って常に持ち歩いてほしい」
「お守り……分かり、ました」
「うん。首から下げるタイプのピルケースも調剤薬局で売っているから、見てみるといいよ」
「はい。そうします」

 教えてもらったピルケース、普通のピルケースよりお値段するみたいだけど、母さんの希望通り学校休んで病院に来たし、それくらい我儘言って買ってもらおう。



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