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幸せな時間
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数日かけてようやく隣国の公爵領へと入った。明日の王女の結婚式に向け、公爵領内も、通ってきた王都の街も、お祝いムードに溢れている。私達の結婚もこのように祝福されるといいな。
「街中がお二人の色に包まれていますね」
「俺達のときもこうなるといいな」
「ふふ。私も同じことを思っていました」
それから1時間ほどして、お祖母様のご実家である公爵邸に到着した。
「リリーナ? なんだか嬉しそうだな」
「はい。幼い頃から何度か来ている国ですけど、アルフレッド様と一緒に来たのは初めてなので、ちょっと嬉しくて。それに学校を休んで来るなんて悪いことをしている気分でドキドキします」
「俺はちょっとじゃなくてすごく嬉しいよ。今回は結婚式が終わるとすぐに帰らなければいけないけど、次はゆっくり来れるといいな」
「はい。次が楽しみです」
そうアルフレッド様と笑いあっていると、私達の後に馬車から降りてきたメアリーがお兄様に話しかけている声が聞こえてきた。
「何故降りないのですか?」
「行くところがあるんだ」
「私も一緒に行きます」
馬車の中でもお兄様に素っ気なくされていたのかしら。どこにでもついて行きたがるメアリーを久々に見た気がするわ。
「長旅で疲れただろう。明日の結婚式に備えてゆっくり休むといい」
「疲れていません!」
確かにメアリーを連れて行くことはできないわよね。隣りにいるアルフレッド様も呆れた顔をして二人を見ているわ。
本当はあまり私達に関心を持たないでほしいけれど、今日を逃せばお兄様と一緒に帰国ができなくなるし、仕方ないわね。
「アルフレッド様。お兄様もメアリーもどこかへ行くようですし、私達も二人で出かけましょう? 幼い頃に一度行ったことのある、とても綺麗な場所をアルフレッド様にも見せたいのです」
「ちょっと! 移動中も二人で過ごしていたんだからもういいでしょう」
私がアルフレッド様と二人だけで馬車に乗っていたことを相当怒っていたから、きっと反応すると思っていたわ。
その隙にお兄様は御者に指示を出し、馬車が目的地に向かって動き出した。
「婚約者なのだから二人で過ごしたっていいじゃない。メアリーにとやかく言われる筋合いはないわ」
*
*
公爵家の皆様に挨拶を終え、再従兄弟にお祝いの言葉を贈り、割り当てられた客室でのんびり過ごしていると、お祖父様とお祖母様が部屋に訪ねてこられた。
「殿下もいらしていたのですね。少しお邪魔してもよろしいですか?」
「構わない」
まだ結婚していない私達は別々の部屋が用意されている。けれど着いてからもずっと一緒にいるアルフレッド様は、案内された部屋に一度も入られていない。
アルフレッド様が私の横に移動され、対面のソファーにお祖父様たちが腰を掛けた。
「リリーナ。これを」
お祖母様に差し出されたのは、昔メアリーに壊されてしまったもの。
「これは………」
「壊れた物を修復する技術を持つ者がこの国に現れたのよ。もしかしたら直してもらえるのではないかと思ってね」
「旅行を兼ねるために先に出たのではなかったのですか?」
「もちろん旅行も兼ねているわ。結婚式が終わっても私達はしばらくこっちに滞在するもの」
でもあんなに早く先に出発したのは、これを直そうと思っていたからなんて。
直ったそれを胸に抱き、嬉しさからくる涙が堪えきれずにいるとアルフレッド様が背中を撫でてくださった。
しばらくして落ち着くとお祖母様の目にも涙が溢れていた。私をずっと愛してくれていた私の家族。二人に会うと少し子供っぽくなってしまうのは、無条件に愛してくれたおかげかもしれない。
夕食までゆっくりするといいとおっしゃって、お祖父様とお祖母様は部屋に戻られた。
*
*
「それは単なる贈り物ではなさそうだね」
「はい。初めていただいたのに、使う前に半分に折れてしまったんです」
「もしかして…」
「でもまだ幼い頃の話です。それにこうして手元に戻ってきましたし」
メアリー5歳の誕生日に兄妹それぞれが貰ったガラスペン。目の色と同じガラスで作られたそれが、少しだけ様変わりして戻ってきた。半分に折られたあと、慌ただしくて回収しそこねたそれを、大事に持っていてくれた事実だけでもすごく嬉しい。
「それに接続部分を見てください」
「? ……きん、いろ?」
「もし私の心が折れることがあっても、アルフレッド様が修復してくださる。そういったメッセージが込められている気がします。それにお兄様のガラスペンと色がとても似ていますし、私はこっちの方が好きです。折られてよかったのかもしれませんね」
*
*
*
*
翌日、再従兄弟の結婚式が公爵領にある教会で行われ、その後公爵邸で披露宴が開かれた。最後は家族と近しい間柄の人だけでのガーデンパーティーで、夜空の下で踊る二人が幸せに溢れキラキラと輝いている。
そんな二人を見つめる家族の目は、とても暖かい目をしていて。
「私もこんな家族がほしいです」
「一緒につくろう」
「お祖父様とお祖母様のような親に私はなれますか?」
「なれるよ。リリーナは誰よりも優しくて愛に溢れているから」
アルフレッド様に言われると本当にそうなる気がする。
この幸せがずっと続くといいのに。
「街中がお二人の色に包まれていますね」
「俺達のときもこうなるといいな」
「ふふ。私も同じことを思っていました」
それから1時間ほどして、お祖母様のご実家である公爵邸に到着した。
「リリーナ? なんだか嬉しそうだな」
「はい。幼い頃から何度か来ている国ですけど、アルフレッド様と一緒に来たのは初めてなので、ちょっと嬉しくて。それに学校を休んで来るなんて悪いことをしている気分でドキドキします」
「俺はちょっとじゃなくてすごく嬉しいよ。今回は結婚式が終わるとすぐに帰らなければいけないけど、次はゆっくり来れるといいな」
「はい。次が楽しみです」
そうアルフレッド様と笑いあっていると、私達の後に馬車から降りてきたメアリーがお兄様に話しかけている声が聞こえてきた。
「何故降りないのですか?」
「行くところがあるんだ」
「私も一緒に行きます」
馬車の中でもお兄様に素っ気なくされていたのかしら。どこにでもついて行きたがるメアリーを久々に見た気がするわ。
「長旅で疲れただろう。明日の結婚式に備えてゆっくり休むといい」
「疲れていません!」
確かにメアリーを連れて行くことはできないわよね。隣りにいるアルフレッド様も呆れた顔をして二人を見ているわ。
本当はあまり私達に関心を持たないでほしいけれど、今日を逃せばお兄様と一緒に帰国ができなくなるし、仕方ないわね。
「アルフレッド様。お兄様もメアリーもどこかへ行くようですし、私達も二人で出かけましょう? 幼い頃に一度行ったことのある、とても綺麗な場所をアルフレッド様にも見せたいのです」
「ちょっと! 移動中も二人で過ごしていたんだからもういいでしょう」
私がアルフレッド様と二人だけで馬車に乗っていたことを相当怒っていたから、きっと反応すると思っていたわ。
その隙にお兄様は御者に指示を出し、馬車が目的地に向かって動き出した。
「婚約者なのだから二人で過ごしたっていいじゃない。メアリーにとやかく言われる筋合いはないわ」
*
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公爵家の皆様に挨拶を終え、再従兄弟にお祝いの言葉を贈り、割り当てられた客室でのんびり過ごしていると、お祖父様とお祖母様が部屋に訪ねてこられた。
「殿下もいらしていたのですね。少しお邪魔してもよろしいですか?」
「構わない」
まだ結婚していない私達は別々の部屋が用意されている。けれど着いてからもずっと一緒にいるアルフレッド様は、案内された部屋に一度も入られていない。
アルフレッド様が私の横に移動され、対面のソファーにお祖父様たちが腰を掛けた。
「リリーナ。これを」
お祖母様に差し出されたのは、昔メアリーに壊されてしまったもの。
「これは………」
「壊れた物を修復する技術を持つ者がこの国に現れたのよ。もしかしたら直してもらえるのではないかと思ってね」
「旅行を兼ねるために先に出たのではなかったのですか?」
「もちろん旅行も兼ねているわ。結婚式が終わっても私達はしばらくこっちに滞在するもの」
でもあんなに早く先に出発したのは、これを直そうと思っていたからなんて。
直ったそれを胸に抱き、嬉しさからくる涙が堪えきれずにいるとアルフレッド様が背中を撫でてくださった。
しばらくして落ち着くとお祖母様の目にも涙が溢れていた。私をずっと愛してくれていた私の家族。二人に会うと少し子供っぽくなってしまうのは、無条件に愛してくれたおかげかもしれない。
夕食までゆっくりするといいとおっしゃって、お祖父様とお祖母様は部屋に戻られた。
*
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「それは単なる贈り物ではなさそうだね」
「はい。初めていただいたのに、使う前に半分に折れてしまったんです」
「もしかして…」
「でもまだ幼い頃の話です。それにこうして手元に戻ってきましたし」
メアリー5歳の誕生日に兄妹それぞれが貰ったガラスペン。目の色と同じガラスで作られたそれが、少しだけ様変わりして戻ってきた。半分に折られたあと、慌ただしくて回収しそこねたそれを、大事に持っていてくれた事実だけでもすごく嬉しい。
「それに接続部分を見てください」
「? ……きん、いろ?」
「もし私の心が折れることがあっても、アルフレッド様が修復してくださる。そういったメッセージが込められている気がします。それにお兄様のガラスペンと色がとても似ていますし、私はこっちの方が好きです。折られてよかったのかもしれませんね」
*
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翌日、再従兄弟の結婚式が公爵領にある教会で行われ、その後公爵邸で披露宴が開かれた。最後は家族と近しい間柄の人だけでのガーデンパーティーで、夜空の下で踊る二人が幸せに溢れキラキラと輝いている。
そんな二人を見つめる家族の目は、とても暖かい目をしていて。
「私もこんな家族がほしいです」
「一緒につくろう」
「お祖父様とお祖母様のような親に私はなれますか?」
「なれるよ。リリーナは誰よりも優しくて愛に溢れているから」
アルフレッド様に言われると本当にそうなる気がする。
この幸せがずっと続くといいのに。
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