小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました

みかん桜(蜜柑桜)

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※閑話※初の贈り物①

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リリーナとアルフレッド 8歳頃
初めてのバレンタイン
―――――――――――――――

「もうすぐバレンタインかぁ」
「何かあるのですか?」

 今日から2月が始まった。もちろんこの世界にバレンタインは存在しない。ただ、この国は前世の国と同じような季節感だからか、つい前世のイベントを意識してしまう。

 今までは懐かしむだけで何もしなかったけれど、今回はやろう! というか、私がチョコレートを食べたい。

 確か…14日はアルフレッド様とのお茶会があって王宮に行く日だから、アルフレッド様にもあげよう。家族は…いいや。あとはアンナと…えっ、他にいなくない!? 私、友達がいない!! お、お茶会! お茶会開かなきゃ。前世を思い出すまでは家族の愛に飢えていたから、友達なんて考えてもいなかった。今度お父様にお茶会を開きたいと相談しよう。

 とりあえず今はチョコレート!

 でも、残念なことにチョコレートという食べ物がない。カカオはあるし、ココアもある。にも関わらずチョコレートがないなんて……。
 確かココアとチョコレートは途中まで製法が同じだったはず。とはいえカカオを手に入れてもチョコレートの製造方法は分からないから、ココアで作れるチョコレート菓子を作ろう。

 そうだなぁ。チョコレートクッキーとマフィンなら材料が揃う気がする。お菓子作りは分量が大事だってよく言うけれど、これくらいならレシピを見なくてもできる気がする! もし失敗しても練習するだけの時間もあるし。

 よしっ! そうと決まれば早速厨房に行こう!

「アンナ、厨房に行くわよ」
「厨房、ですか?」
「そう。スイーツ作りをするの」
「リリーナ様がですか? それはやめていただいた方が…ご希望の品を料理長に伝えますので」

 だから厨房には行くなって言いたいのよね。でもごめんね。

「自分で作りたいの」

 初めてのバレンタインだし、作りたくなっちゃったのよね。

 ふふふ。明日の朝からある王妃教育のためにタウンハウスに来ていてよかった。家族に見つかったら公爵令嬢が厨房に入るなんて! とか言われそうだしね。

 アンナは厨房に向かう間も部屋に戻るよう何度も言ってくるけど、そんなにダメ?

「失礼するわよ」
「えっ、リリーナお嬢様!?」

 厨房に入ろうとしたら、驚いた料理長が慌てて近寄ってきて、必死に入れないようにと足止めしてくる。

「ちょっと使わせてほしいの」
「お、お待ちください。困りますっ! 厨房は危険ですし…」

 こんなこと旦那様にバレてしまったら…って言うから、言わなきゃバレないわよって説得しても中々納得してくれない。本当に大丈夫なのに。

「それで、ここに書いてある材料はあるかしら?」
「お嬢様…お願いですので」

 こうなれば強行突破するしかないわね。

「これは…一体何を作る予定なのでしょうか」
「マフィンとクッキーよ」
「マフィン?」

 あぁ、そうだった。クッキーはあるのにマフィンはないんだったわ。でもケーキもパンも存在しているし、何とかなるでしょう。

「ココアを使用するのですか?」
「ええ」

 そうなるわよね。ココアって飲み物としてしか使わないもの。

「練習するからたくさん用意しておいてね」
「練習なんてそんなっ! 私が代わりに作りますので」
「ダメよ」
「では、副料理長の…」
「ダメよ。私が作るの」

 どうしましょう。厨房に入るまでがここまで困難だとは思わなかったわ。

「大丈夫よ。危ないことはしないわ。それに作り方は私の頭の中にしかないから、私がいないと作れないわ」
「では、作り方を先にお教えください。指示通りにお作りいたしますので」
「いやよ。私自分で作りたいもの」
「お、お嬢様…」

 どうしたら入れてくれるかしら?

「アルフレッド様に作りたいの」
「第一王子殿下にですか? でしたらなお、私がお作りします」

 ですよねー。王族に変なもの食べさせるわけにいかないものね。

「でも、自分で作ったものを贈りたいの」
「………分かりました。ですが旦那様の許可をいただいてからです。ココアが大量に必要とのことですし、そちらの購入許可もいただかなければなりませんので」
「ココアの購入に許可がいるの?」
「はい。大量に購入となりますと、割り当てられた金額を超えてしまいますので。リリーナお嬢様から殿下への贈り物ですので、ココアの購入許可はすぐにいただけると思いますが」

 ココアって高級食材だったのか。ココアというよりカカオが希少食材? だからチョコレートがないし、ココアがお菓子作りにも使われていなかったのね。こういう時、公爵家でよかったと思うわ。





 ガチャガチャ

 カチャカチャ

 お父様からは今回のみ厨房に入る許可をいただけた。ただし、私が厨房に入ることは決められた数人の料理人とアンナ以外には他言無用だ、と。貴族が厨房に入るのは恥ずかしいことって固定概念がなくなればいいのに。

 ボンッ

「わあぁ!」

 オーブンの中でマフィンが爆発してしまった。分量を何か間違えてしまったのね。

「お嬢さまっ!! 大丈夫ですか。お怪我は?」

 おかしいな。刺繍が得意だから器用だと思っていたのに。

 きっとサイズの問題ね。子供用の調理器具なんで存在しないから、今の私には色々大きすぎる。
 それにオーブンも私が使っていたオーブンレンジとはかけ離れた、どう見ても業務用にしか見えない本格的なもの。焼き時間を考え直したほうがよさそうね。

 私が動く度、料理長がハラハラしながら付いてくる…ごめんね?

 よしっ! 練習してここにいるみんなの分も作ろう。ここにいない使用人の分は料理長に作ってもらったものを渡そう。マフィンは無理でもクッキーなら量産できるしね。





「できた!!」

 ギリギリ形になったものが出来上がった。もう少し形にもこだわりたかったけれど、それは諦めよう。もうバレンタインは明日だし。

 料理長が作った物はバスケットに入れて、私が作ったものは用意していた包装紙に包んでラッピングを…

「形が悪すぎるかしら?」
「その分気持ちが込められていますので、喜ばれると思いますよ」

 形が悪いことを否定しないのがアンナらいいわ。

「気になるのでしたら、メッセージを添えられてはいかがですか?」
「それってすごくいいアイデアね!」



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