15 / 65
入学式当日
しおりを挟む
入学式が始まった。
アルフレッド様が生徒会長の挨拶をされている際は随分多くの令嬢たちが顔を赤くして見惚れていたし、少しの間騒がしくなりそう。
それより彼女はいるのかしら?
立って見渡すことも出来ないし、なかなか探しにくいわね。
「それでは新入生代表、ルーシー・ホワイト」
「はい」
っ!!!
おぉ。期待を裏切らないピク色の髪。ちょっと遠くて分かりづらいけれど瞳の色もピンクに見える。
新入生代表挨拶をするってことは、首席入学したってことよね。
貴族は全員入学が必須の学園だから落ちることはないけれど、クラス分けを行う入学試験は難易度が結構高かったはず。それを首席を取れるだけの頭の良さを持ち合わせているならまともな令嬢なのかしら?
*
*
*
*
*
「首席入学の方、可愛らしい令嬢でしたね」
入学式が終わり、生徒会室で雑務をこなしながらルーシーをどう思ったかアルフレッド様にそれとなく訊ねてみたけれど、特に記憶には残っていない様子。
「それより妹のメアリー嬢の制服が気になったんだが」
「はい。私も今朝まで知らず、後程ご相談しようと思っていました」
新入生にも暗黙の了解として伝わっているため、私達と全く同じ制服を着たメアリーはとても目立っていた。気になっていた生徒も多くいたようで、同じ生徒会役員でもある側近の皆様が困った顔をしている。
「メアリー嬢に変更を頼めないのでしょうか。お二人に憧れ、一点だけでもと同じものを身につける生徒が多くいます。お二人が変更されるのは避けていただきたいのですが…」
それができたらいいのだけどね…。
メアリーに頼むのは難しいとそれとなく伝え、ボタンの変更を提案してみたけれど、結局は元々自由だったブローチを二人の色を使って特注で作ることで解決した。
*
*
*
*
*
ドンッ
「いったぁい」
生徒会の仕事を終え、アルフレッド様や生徒会の皆様と馬車停車場に向かって廊下を歩いていると、角から誰かが飛び出してきた。
「リリーナっ! 大丈夫か?」
咄嗟に腰を支えてくれたアルフレッド様。頬に手を添え怪我をしていないかと確認してくれる。
「ありがとうございます。大丈夫です」
アルフレッド様のおかげで転ばずに済んだけど、相手は私とぶつかった拍子に転んでしまったよう。大丈夫かと目を向けたらそこにいたのはルーシーで………こんなテンプレ展開が待っていたなんて。驚きのあまりアルフレッド様の腕を強く掴んでしまったわ。
「あのっ! 私ルーシー・ホワイトって言います。実家は男爵でし…」
「まずはぶつかったことに謝罪を。実家は男爵位ですか。下位とはいえ貴族ならば立場をわきまえなさい」
「え? わざとじゃないのに?」
「わざとかどうかは関係なくてですね」
本来身分が下の者から声をかけるのは失礼に当たる。そもそも廊下を走るべきではないし、公爵令嬢にぶつかっておいて謝りもしないなんて以ての外。もちろん私が公爵家の人間だと知らなかった、なんて言い訳も通用しない。ルーシーを立たせながら貴族なら知っていて当たり前のことを側近のダニエル様が説明しているも、ルーシーは理解できないって顔をしている。
「構わないわ」
「ですがっ」
「私はただ寮に帰りたいだけなのに迷ってしまって…」
誰が見てもここにいる全員がルーシーより身分が上だって分かるのにこの態度。この一瞬で分かるほどメアリータイプの彼女に何を言ったって無駄ね。悪いなんて思ってないんだから絶対に謝らないでしょう。
「あっ! 会長様! 入学式のスピーチ、とっても素敵でした。まさかここで会えるなんて…迷ってよかったかもしれません」
驚くほど話を聞かないのね。アルフレッド様がずっと黙っていらっしゃることに気付いてないの?
転生者だとしたら最近前世を思い出して感覚が前世寄りになっている、とかかしら。そうでないのにこの態度なら、男爵がしっかりと教育をしてこなかったってことね。
「殿下、ここは私が…」
「殿下? わぁ! 王子様だったんですね」
わぁお! 白々しい。仮に今まで顔を知らなかったとしても、生徒会長が第一王子だってことを知らない生徒はいないし、そもそも金色の目は王族しか持たない色なのに何を言ってるのかしら。
「確か…アルフレッド様、でしたよね。素敵なお名前です」
わぁ。名前は知っているのね。
「他の方に頼んでいただけるかしら。私達、帰るところなの」
タウンハウスを持っていない貴族のためにある学園の寮。生活空間だから少し校舎と離れてはいるけれど、同じ敷地内だし寮までの道もしっかり整備されている。迷いようがないほど分かりやすいのに、どうすれば迷えるのか逆に教えてほしいくらい。半ば呆れつつルーシーに伝えるも、またもテンプレ展開になってしまった。
「そんな…酷いです。ぶつかったのだってわざとじゃないって言ってるのに。王子様なら助けてくれるかなってちょっと案内をお願いしただけで…あなたは冷たい方なんですね」
そう言い泣き出したルーシー。
「なっ! 何も泣かなくても…」
ルーシーの涙にダニエル様は焦りだしたみたいだけど、アレ、嘘泣きよ? 顔を手で覆い隠す前に、悪意のこもった目を私に向けてきたの、見逃さなかったわよ。それにしても、女の涙に弱いって言うのは異世界でも共通なのね。
「ダニエル。彼女を寮まで送ってやれ」
「……承知しました」
あの場をダニエル様に任せ漸く馬車までたどり着くことができたけど、随分と個性的な令嬢だったな、と言うだけでさほど怒っている様子のないアルフレッド様に、私はほんの少しだけ不安を覚えた。
アルフレッド様が生徒会長の挨拶をされている際は随分多くの令嬢たちが顔を赤くして見惚れていたし、少しの間騒がしくなりそう。
それより彼女はいるのかしら?
立って見渡すことも出来ないし、なかなか探しにくいわね。
「それでは新入生代表、ルーシー・ホワイト」
「はい」
っ!!!
おぉ。期待を裏切らないピク色の髪。ちょっと遠くて分かりづらいけれど瞳の色もピンクに見える。
新入生代表挨拶をするってことは、首席入学したってことよね。
貴族は全員入学が必須の学園だから落ちることはないけれど、クラス分けを行う入学試験は難易度が結構高かったはず。それを首席を取れるだけの頭の良さを持ち合わせているならまともな令嬢なのかしら?
*
*
*
*
*
「首席入学の方、可愛らしい令嬢でしたね」
入学式が終わり、生徒会室で雑務をこなしながらルーシーをどう思ったかアルフレッド様にそれとなく訊ねてみたけれど、特に記憶には残っていない様子。
「それより妹のメアリー嬢の制服が気になったんだが」
「はい。私も今朝まで知らず、後程ご相談しようと思っていました」
新入生にも暗黙の了解として伝わっているため、私達と全く同じ制服を着たメアリーはとても目立っていた。気になっていた生徒も多くいたようで、同じ生徒会役員でもある側近の皆様が困った顔をしている。
「メアリー嬢に変更を頼めないのでしょうか。お二人に憧れ、一点だけでもと同じものを身につける生徒が多くいます。お二人が変更されるのは避けていただきたいのですが…」
それができたらいいのだけどね…。
メアリーに頼むのは難しいとそれとなく伝え、ボタンの変更を提案してみたけれど、結局は元々自由だったブローチを二人の色を使って特注で作ることで解決した。
*
*
*
*
*
ドンッ
「いったぁい」
生徒会の仕事を終え、アルフレッド様や生徒会の皆様と馬車停車場に向かって廊下を歩いていると、角から誰かが飛び出してきた。
「リリーナっ! 大丈夫か?」
咄嗟に腰を支えてくれたアルフレッド様。頬に手を添え怪我をしていないかと確認してくれる。
「ありがとうございます。大丈夫です」
アルフレッド様のおかげで転ばずに済んだけど、相手は私とぶつかった拍子に転んでしまったよう。大丈夫かと目を向けたらそこにいたのはルーシーで………こんなテンプレ展開が待っていたなんて。驚きのあまりアルフレッド様の腕を強く掴んでしまったわ。
「あのっ! 私ルーシー・ホワイトって言います。実家は男爵でし…」
「まずはぶつかったことに謝罪を。実家は男爵位ですか。下位とはいえ貴族ならば立場をわきまえなさい」
「え? わざとじゃないのに?」
「わざとかどうかは関係なくてですね」
本来身分が下の者から声をかけるのは失礼に当たる。そもそも廊下を走るべきではないし、公爵令嬢にぶつかっておいて謝りもしないなんて以ての外。もちろん私が公爵家の人間だと知らなかった、なんて言い訳も通用しない。ルーシーを立たせながら貴族なら知っていて当たり前のことを側近のダニエル様が説明しているも、ルーシーは理解できないって顔をしている。
「構わないわ」
「ですがっ」
「私はただ寮に帰りたいだけなのに迷ってしまって…」
誰が見てもここにいる全員がルーシーより身分が上だって分かるのにこの態度。この一瞬で分かるほどメアリータイプの彼女に何を言ったって無駄ね。悪いなんて思ってないんだから絶対に謝らないでしょう。
「あっ! 会長様! 入学式のスピーチ、とっても素敵でした。まさかここで会えるなんて…迷ってよかったかもしれません」
驚くほど話を聞かないのね。アルフレッド様がずっと黙っていらっしゃることに気付いてないの?
転生者だとしたら最近前世を思い出して感覚が前世寄りになっている、とかかしら。そうでないのにこの態度なら、男爵がしっかりと教育をしてこなかったってことね。
「殿下、ここは私が…」
「殿下? わぁ! 王子様だったんですね」
わぁお! 白々しい。仮に今まで顔を知らなかったとしても、生徒会長が第一王子だってことを知らない生徒はいないし、そもそも金色の目は王族しか持たない色なのに何を言ってるのかしら。
「確か…アルフレッド様、でしたよね。素敵なお名前です」
わぁ。名前は知っているのね。
「他の方に頼んでいただけるかしら。私達、帰るところなの」
タウンハウスを持っていない貴族のためにある学園の寮。生活空間だから少し校舎と離れてはいるけれど、同じ敷地内だし寮までの道もしっかり整備されている。迷いようがないほど分かりやすいのに、どうすれば迷えるのか逆に教えてほしいくらい。半ば呆れつつルーシーに伝えるも、またもテンプレ展開になってしまった。
「そんな…酷いです。ぶつかったのだってわざとじゃないって言ってるのに。王子様なら助けてくれるかなってちょっと案内をお願いしただけで…あなたは冷たい方なんですね」
そう言い泣き出したルーシー。
「なっ! 何も泣かなくても…」
ルーシーの涙にダニエル様は焦りだしたみたいだけど、アレ、嘘泣きよ? 顔を手で覆い隠す前に、悪意のこもった目を私に向けてきたの、見逃さなかったわよ。それにしても、女の涙に弱いって言うのは異世界でも共通なのね。
「ダニエル。彼女を寮まで送ってやれ」
「……承知しました」
あの場をダニエル様に任せ漸く馬車までたどり着くことができたけど、随分と個性的な令嬢だったな、と言うだけでさほど怒っている様子のないアルフレッド様に、私はほんの少しだけ不安を覚えた。
63
お気に入りに追加
442
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ
こな
恋愛
公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。
待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。
ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

異世界で悪役令嬢として生きる事になったけど、前世の記憶を持ったまま、自分らしく過ごして良いらしい
千晶もーこ
恋愛
あの世に行ったら、番人とうずくまる少女に出会った。少女は辛い人生を歩んできて、魂が疲弊していた。それを知った番人は私に言った。
「あの子が繰り返している人生を、あなたの人生に変えてください。」
「………はぁああああ?辛そうな人生と分かってて生きろと?それも、繰り返すかもしれないのに?」
でも、お願いされたら断れない性分の私…。
異世界で自分が悪役令嬢だと知らずに過ごす私と、それによって変わっていく周りの人達の物語。そして、その物語の後の話。
※この話は、小説家になろう様へも掲載しています

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します
天宮有
恋愛
私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。
その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。
シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。
その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。
それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。
私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

【完結】婚約破棄されて処刑されたら時が戻りました!?~4度目の人生を生きる悪役令嬢は今度こそ幸せになりたい~
Rohdea
恋愛
愛する婚約者の心を奪った令嬢が許せなくて、嫌がらせを行っていた侯爵令嬢のフィオーラ。
その行いがバレてしまい、婚約者の王太子、レインヴァルトに婚約を破棄されてしまう。
そして、その後フィオーラは処刑され短い生涯に幕を閉じた──
──はずだった。
目を覚ますと何故か1年前に時が戻っていた!
しかし、再びフィオーラは処刑されてしまい、さらに再び時が戻るも最期はやっぱり死を迎えてしまう。
そんな悪夢のような1年間のループを繰り返していたフィオーラの4度目の人生の始まりはそれまでと違っていた。
もしかしたら、今度こそ幸せになれる人生が送れるのでは?
その手始めとして、まず殿下に婚約解消を持ちかける事にしたのだがーー……
4度目の人生を生きるフィオーラは、今度こそ幸せを掴めるのか。
そして時戻りに隠された秘密とは……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる