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推し友の入学

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 あれから特に何か起こることもなく、平穏に日々が過ぎ去った。

 いや…平穏って言ってもルーク様と2人きりの時間が増えて心臓は全く平穏じゃなかったけどね。

 私は学年が上がり、クラスに大きな変更もなく2年生になった。
 ちなみにお兄様もルーク様とニーナ様、ナターシャと引き続き同じクラスで、お兄様とニーナ様の関係も相変わらず、だそう。これは推し友情報。

 それから相変わらずナターシャはお兄様に絡んでいるようだけど、見慣れたクラスメイトはいつものことだと誰もナターシャを止めないらしい。もちろんこれも推し友情報。

 そう…ニーナ様とはこれこそ本来の推し活というか、本当に遠くから眺めることばかりで、満足な推し活ができていないの。推しがいるのは画面の向こう側とか、舞台の上とかじゃないし、回数が減ったとはいえお兄様達と4人でなら会えるけど……全然ラッキーだって分かってるけど、圧倒的に供給量が足りない!!

 お兄様達のクラスに行くことも止められて……スマホがあれば…スマホさえあれば今までのデータで我慢できたのに!! 友人に撮影を頼めたのに!! 誰か作ってくれないかしら。

 なんて、そんな幸せが足りない日々を過ごしていた私だけどっ! 今日の私にはやらなければならないことがある。

 何を隠そう、推し友と推し友を紹介する日なのだ。

 私以上に推し活に力を入れている友人はきっとオーランドを気に入るはず! ついでだからセオドア様も紹介してあげよう。

 王女殿下からの呼び出しも全然ないし、きっと私は無能だと判断されたんだろう。今年はもう少し推し活に力を入れてもいいよね。

「ふふふ」
「エレナ? 急に笑い出さないでよ」




「それでそれで?」
「美味しいって喜んでくれました」
「いいなぁ」

 学年が変わる前の休暇中、公爵家でニーナ様がどのように過ごされていたのかオーランドから情報を得ている私達。

 セオドア様は姉上に興味なんてないから知らないって、何も教えてくださらないからね。

 ニーナ様が気に入られた紅茶の茶葉を私も手に入れなきゃ。侯爵家でも準備しておいたほうが良いわよね。

「私もクラーク公爵家で働きたいわ。……違った、卒業したらマーリン侯爵家よね。エレナお願い、口利きしてよ」
「もう、冗談はやめてよね」
「ふふ。でも…一度でいいから夫婦になった2人を近くで拝みたいわ」
「分からなくもないです」

 あら? オーランドもカップル推しだっけ?

「セオドア様…」
「俺に聞くな。知らない」
「ちょっと察しがよすぎて怖いですよ」

 さすが私達の推し活話をずっと聞いていただけあるわ。

「もう俺行ってもいいか?」
「では、私も…」
「「えっ!?」」
「はぁぁ。分かったよ。もう少しいればいいんだろう」

 オーランド自身が男爵令息で、この学園にも貴族子息として入学しているんだけど、セオドア様の侍従であることに変わりはないから側を離れることができないのよね。

 それに今日はオーランドと話したいからと高位貴族専用サロンを予約したんだもの。時間いっぱい楽しまなきゃ。

「エレナとライナス様はもちろんだけど、エレナとオーランド、エレナとセオドア様、セオドア様とオーランドも良いわよね」

 わぁぉ。驚くことに、友人の推し活範囲が広がっているじゃないか。

「やめてくれ。それを聞いたルーク様が何というか」
「あら、言っても良いのですか?」
「言ったってエレナは理解しないよ」
「?? 何の話?」
「セオドア様はエレナとルーク様推しだって話よ」

 そんな話だったっけ?

「それなら私もエレナ様とルーク様推しですよ」
「ちょっとオーランドまでやめてよね。私じゃなくてニーナ様よ、ニーナ様! 私はお兄様はどちらでもいいのだけど、お兄様と一緒のニーナ様が一番素敵よね」
「分かります」
「それはそうね」

 何でもいいってセオドア様は呆れているけど、いつものことだから気にしない。

 その後も散々話してから、使用していたサロンを後にした。

「オーランドを紹介してくれてありがとう」
「ふふふ。楽しかったでしょう?」
「ええ。でも次はいつ話せるかしらね」
「セオドア様が良いって言っても、オーランドは人目がある場所で同じ席に座ろうとしないものね」

 貴族ってこういうところが面倒だよなぁと呑気に廊下を歩いていたら、向こうからナターシャがものすごく怖い顔をしてこちらに向かってくる。

 どうしたんだろう? 心なし睨まれている気がするのは気のせい?

 どんっ!

「いたっ」

 えっ!? 今の絶対わざとぶつかってきたよね? 身分を振りかざすのは好きじゃないけど、私、年下だけど侯爵令嬢だよ? えっと、ナターシャは伯爵令嬢よね?
 そもそも身分とか関係なく人にわざとぶつかるって…ただの当り屋じゃない。

「エレナ大丈夫?」
「あなたが悪いのよ」
「な、なにが?」
「ふんっ。自分で考えなさいよ」

 えぇぇ…。

「ちょっと、あなたねぇ! あっ! 待ちなさいよ」
「もう、いいから」
「でもっ」

 疑問が大き過ぎると怒りって湧いてこないものなのね。初めて知ったわ。

 私の何が気に食わなかったのだろう? 嫌われるほど接点なんてないし…もしかして王女殿下と接触した? それで本来いないはずの私がいるから、お兄様と上手く行かないとでも言われた?

 ルーク様に相談案件かなぁ。せっかく久しぶりに思う存分推し活を楽しめて気分が良かったのに。



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