推しの悪役令嬢を幸せにします!

みかん桜(蜜柑桜)

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夏の長期休暇

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「ルーク様が到着されました」
「ありがとう。すぐに行きます」
 
 学園が夏の長期休暇に入り、今日はルーク様と2人で遠乗りの約束をしていた日。

 手紙で誘われてからこの日をずっと楽しみにしていた。

 今までも何度か2人きりでお茶会をしたことだってあるし、街へ出掛けたこともある。なのに今回はいつもと少しだけ違っていた。

 遠乗りのことを考えるだけで、ワクワクした気持ちと一緒にほんの少しだけドキドキしてしまっていたのだ。この気持ちが何なのかはよく分からなかったけど、嫌じゃないな。

「ソフィー、変なところはないかしら?」

 何日も前から服を選んでいたけど、行く直前になってこの格好で本当に問題がないか気になってしまう。朝から何度鏡の前に立って確認しても、不安が拭えないわ。

「ふふ。はい。よくお似合いですし、いつも通り可愛いです」
「いつも通りじゃだめよ。今日はルーク様と2人きりなんだから」

 馬に乗るからと動きやすい服装だし、少しボーイッシュにまとめすぎたかも…あぁ、いつもより可愛さが半減してる気もしてきた。ボーイッシュにしても可愛い人は可愛いのに、私は違う気がしてならない。

「まぁ…それはそれは」
「なに?」
「いえ。そうですね…では髪飾りをこちらにされませんか?」

 手渡されたのは花の形をしたシルバーの髪飾り。ルーク様の髪色と同じ銀色だ。

「コレ……でもなくしたくないわ」
「大切にされていることは存じておりますが、ルーク様は身につけてほしいと思っているのではないでしょうか」
「…………」
「ではエレナ様からルーク様へ贈り物した際、大切にしているからと身に付けてもらえないとどう思われますか?」
「………気に入らなかたのかしらって思うわ」

 コレは去年の私の誕生日にルーク様から頂いた髪飾り。なくしたくないのはもちろん、繊細な作りでもし落として壊してしまったら、と思うと毎日眺めるだけで中々身につけることができないでいる。

 この国でも、自分の色を人に贈ったり身に付けてもらうのは婚約者や伴侶の特権。と言ってもそれは社交界デビューしてからの話だけど。もちろん普段から相手の色を纏うことはあっても、公式の場以外で身に付けている色を気にする人はほぼいない。だからルーク様も特別な理由なくこの髪飾りを贈ってくださったのだと思う……私が勝手にルーク様を思い出してしまうだけで。

「コレ…つけようかな」
「はい。きっとルーク様も喜ばれると思います」



「お待たせしました」
「全然待っていないよ。今日もエレナは………」
「? ルーク様?」

 急に固まってしまわれた。やっぱりどこか変なところがある? 私ってお兄様と似た顔なのにボーイッシュにしすぎちゃった。不安に押しつぶされそうになった時、ふわっと、そう…ふわっとルーク様が微笑まれた。

 笑顔なんて見慣れているはずなのに…こんなにも素敵だっただろうか。嬉しいって感情が伝わってくるような、ちょっとむず痒くなってしまうような笑顔。

「ありがとう」

 そう言って私の髪を撫で、額に口付けられた。

 あ、甘い。甘すぎる。

 顔が真っ赤になっている自身があるから瞬時に俯いたけど、これ絶対耳まで赤くなってるよ。髪を一つにまとめてしまっているから、ルーク様に絶対バレてる。

 恥ずかしくて顔をあげたくないのに、ルーク様が顎を持ち上げてくるから…顎クイなんて前世含め初めてだから余計に真っ赤になっちゃう。

「似合ってる」
「あ、ありがとうございます…」

 さすが侯爵家の使用人達。私は甘い雰囲気に飲み込まれそう……飲み込まれているのに、みんな我関せず何も見ていませんといった顔をしている。前世の女子高生みたいにキャーとか、おばさま達みたいに若いっていいわねとか、そういう反応がほしい。いや、それはそれで恥ずかしいんだけどね?

「真っ赤で可愛い」

 だめだ…完全にキャパオーバー。

 髪飾りを指の腹でなぞり、少し目を細めていて、嬉しいって気持ちが伝わってくる。

 顔が近すぎる。今までだってこの距離に顔があったこともあると思う…でも甘い雰囲気のせいで、この距離を意識しすぎちゃって軽くパニック状態なんですけどっ。

 ん? ポーカーフェイスのルーク様が、私の事を真っ赤だって言ったルーク様が、ほんのり顔を赤くし、耳も赤くしている……ちょっと可愛いかも。

「エレナの髪に僕の色を飾れるなんて嬉しいよ」
「っ!!! あっ、えっ、その…ぎ、ぎんいろ…」
「僕の髪色に一番近い銀を選んだんだ」

 う、嬉しい。自分の色として贈ってくれたんだ。

 少し落ち着いたと思ったのにっ。これじゃ全然赤みが引かないよ。

 髪飾り、付けてよかった。


 この時の私は、嬉しさのあまり婚約者じゃないのにいいのか? と一瞬よぎった考えを無意識に頭の隅に追いやっていた。



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