23 / 44
夏の長期休暇
しおりを挟む
「ルーク様が到着されました」
「ありがとう。すぐに行きます」
学園が夏の長期休暇に入り、今日はルーク様と2人で遠乗りの約束をしていた日。
手紙で誘われてからこの日をずっと楽しみにしていた。
今までも何度か2人きりでお茶会をしたことだってあるし、街へ出掛けたこともある。なのに今回はいつもと少しだけ違っていた。
遠乗りのことを考えるだけで、ワクワクした気持ちと一緒にほんの少しだけドキドキしてしまっていたのだ。この気持ちが何なのかはよく分からなかったけど、嫌じゃないな。
「ソフィー、変なところはないかしら?」
何日も前から服を選んでいたけど、行く直前になってこの格好で本当に問題がないか気になってしまう。朝から何度鏡の前に立って確認しても、不安が拭えないわ。
「ふふ。はい。よくお似合いですし、いつも通り可愛いです」
「いつも通りじゃだめよ。今日はルーク様と2人きりなんだから」
馬に乗るからと動きやすい服装だし、少しボーイッシュにまとめすぎたかも…あぁ、いつもより可愛さが半減してる気もしてきた。ボーイッシュにしても可愛い人は可愛いのに、私は違う気がしてならない。
「まぁ…それはそれは」
「なに?」
「いえ。そうですね…では髪飾りをこちらにされませんか?」
手渡されたのは花の形をしたシルバーの髪飾り。ルーク様の髪色と同じ銀色だ。
「コレ……でもなくしたくないわ」
「大切にされていることは存じておりますが、ルーク様は身につけてほしいと思っているのではないでしょうか」
「…………」
「ではエレナ様からルーク様へ贈り物した際、大切にしているからと身に付けてもらえないとどう思われますか?」
「………気に入らなかたのかしらって思うわ」
コレは去年の私の誕生日にルーク様から頂いた髪飾り。なくしたくないのはもちろん、繊細な作りでもし落として壊してしまったら、と思うと毎日眺めるだけで中々身につけることができないでいる。
この国でも、自分の色を人に贈ったり身に付けてもらうのは婚約者や伴侶の特権。と言ってもそれは社交界デビューしてからの話だけど。もちろん普段から相手の色を纏うことはあっても、公式の場以外で身に付けている色を気にする人はほぼいない。だからルーク様も特別な理由なくこの髪飾りを贈ってくださったのだと思う……私が勝手にルーク様を思い出してしまうだけで。
「コレ…つけようかな」
「はい。きっとルーク様も喜ばれると思います」
*
「お待たせしました」
「全然待っていないよ。今日もエレナは………」
「? ルーク様?」
急に固まってしまわれた。やっぱりどこか変なところがある? 私ってお兄様と似た顔なのにボーイッシュにしすぎちゃった。不安に押しつぶされそうになった時、ふわっと、そう…ふわっとルーク様が微笑まれた。
笑顔なんて見慣れているはずなのに…こんなにも素敵だっただろうか。嬉しいって感情が伝わってくるような、ちょっとむず痒くなってしまうような笑顔。
「ありがとう」
そう言って私の髪を撫で、額に口付けられた。
あ、甘い。甘すぎる。
顔が真っ赤になっている自身があるから瞬時に俯いたけど、これ絶対耳まで赤くなってるよ。髪を一つにまとめてしまっているから、ルーク様に絶対バレてる。
恥ずかしくて顔をあげたくないのに、ルーク様が顎を持ち上げてくるから…顎クイなんて前世含め初めてだから余計に真っ赤になっちゃう。
「似合ってる」
「あ、ありがとうございます…」
さすが侯爵家の使用人達。私は甘い雰囲気に飲み込まれそう……飲み込まれているのに、みんな我関せず何も見ていませんといった顔をしている。前世の女子高生みたいにキャーとか、おばさま達みたいに若いっていいわねとか、そういう反応がほしい。いや、それはそれで恥ずかしいんだけどね?
「真っ赤で可愛い」
だめだ…完全にキャパオーバー。
髪飾りを指の腹でなぞり、少し目を細めていて、嬉しいって気持ちが伝わってくる。
顔が近すぎる。今までだってこの距離に顔があったこともあると思う…でも甘い雰囲気のせいで、この距離を意識しすぎちゃって軽くパニック状態なんですけどっ。
ん? ポーカーフェイスのルーク様が、私の事を真っ赤だって言ったルーク様が、ほんのり顔を赤くし、耳も赤くしている……ちょっと可愛いかも。
「エレナの髪に僕の色を飾れるなんて嬉しいよ」
「っ!!! あっ、えっ、その…ぎ、ぎんいろ…」
「僕の髪色に一番近い銀を選んだんだ」
う、嬉しい。自分の色として贈ってくれたんだ。
少し落ち着いたと思ったのにっ。これじゃ全然赤みが引かないよ。
髪飾り、付けてよかった。
この時の私は、嬉しさのあまり婚約者じゃないのにいいのか? と一瞬よぎった考えを無意識に頭の隅に追いやっていた。
「ありがとう。すぐに行きます」
学園が夏の長期休暇に入り、今日はルーク様と2人で遠乗りの約束をしていた日。
手紙で誘われてからこの日をずっと楽しみにしていた。
今までも何度か2人きりでお茶会をしたことだってあるし、街へ出掛けたこともある。なのに今回はいつもと少しだけ違っていた。
遠乗りのことを考えるだけで、ワクワクした気持ちと一緒にほんの少しだけドキドキしてしまっていたのだ。この気持ちが何なのかはよく分からなかったけど、嫌じゃないな。
「ソフィー、変なところはないかしら?」
何日も前から服を選んでいたけど、行く直前になってこの格好で本当に問題がないか気になってしまう。朝から何度鏡の前に立って確認しても、不安が拭えないわ。
「ふふ。はい。よくお似合いですし、いつも通り可愛いです」
「いつも通りじゃだめよ。今日はルーク様と2人きりなんだから」
馬に乗るからと動きやすい服装だし、少しボーイッシュにまとめすぎたかも…あぁ、いつもより可愛さが半減してる気もしてきた。ボーイッシュにしても可愛い人は可愛いのに、私は違う気がしてならない。
「まぁ…それはそれは」
「なに?」
「いえ。そうですね…では髪飾りをこちらにされませんか?」
手渡されたのは花の形をしたシルバーの髪飾り。ルーク様の髪色と同じ銀色だ。
「コレ……でもなくしたくないわ」
「大切にされていることは存じておりますが、ルーク様は身につけてほしいと思っているのではないでしょうか」
「…………」
「ではエレナ様からルーク様へ贈り物した際、大切にしているからと身に付けてもらえないとどう思われますか?」
「………気に入らなかたのかしらって思うわ」
コレは去年の私の誕生日にルーク様から頂いた髪飾り。なくしたくないのはもちろん、繊細な作りでもし落として壊してしまったら、と思うと毎日眺めるだけで中々身につけることができないでいる。
この国でも、自分の色を人に贈ったり身に付けてもらうのは婚約者や伴侶の特権。と言ってもそれは社交界デビューしてからの話だけど。もちろん普段から相手の色を纏うことはあっても、公式の場以外で身に付けている色を気にする人はほぼいない。だからルーク様も特別な理由なくこの髪飾りを贈ってくださったのだと思う……私が勝手にルーク様を思い出してしまうだけで。
「コレ…つけようかな」
「はい。きっとルーク様も喜ばれると思います」
*
「お待たせしました」
「全然待っていないよ。今日もエレナは………」
「? ルーク様?」
急に固まってしまわれた。やっぱりどこか変なところがある? 私ってお兄様と似た顔なのにボーイッシュにしすぎちゃった。不安に押しつぶされそうになった時、ふわっと、そう…ふわっとルーク様が微笑まれた。
笑顔なんて見慣れているはずなのに…こんなにも素敵だっただろうか。嬉しいって感情が伝わってくるような、ちょっとむず痒くなってしまうような笑顔。
「ありがとう」
そう言って私の髪を撫で、額に口付けられた。
あ、甘い。甘すぎる。
顔が真っ赤になっている自身があるから瞬時に俯いたけど、これ絶対耳まで赤くなってるよ。髪を一つにまとめてしまっているから、ルーク様に絶対バレてる。
恥ずかしくて顔をあげたくないのに、ルーク様が顎を持ち上げてくるから…顎クイなんて前世含め初めてだから余計に真っ赤になっちゃう。
「似合ってる」
「あ、ありがとうございます…」
さすが侯爵家の使用人達。私は甘い雰囲気に飲み込まれそう……飲み込まれているのに、みんな我関せず何も見ていませんといった顔をしている。前世の女子高生みたいにキャーとか、おばさま達みたいに若いっていいわねとか、そういう反応がほしい。いや、それはそれで恥ずかしいんだけどね?
「真っ赤で可愛い」
だめだ…完全にキャパオーバー。
髪飾りを指の腹でなぞり、少し目を細めていて、嬉しいって気持ちが伝わってくる。
顔が近すぎる。今までだってこの距離に顔があったこともあると思う…でも甘い雰囲気のせいで、この距離を意識しすぎちゃって軽くパニック状態なんですけどっ。
ん? ポーカーフェイスのルーク様が、私の事を真っ赤だって言ったルーク様が、ほんのり顔を赤くし、耳も赤くしている……ちょっと可愛いかも。
「エレナの髪に僕の色を飾れるなんて嬉しいよ」
「っ!!! あっ、えっ、その…ぎ、ぎんいろ…」
「僕の髪色に一番近い銀を選んだんだ」
う、嬉しい。自分の色として贈ってくれたんだ。
少し落ち着いたと思ったのにっ。これじゃ全然赤みが引かないよ。
髪飾り、付けてよかった。
この時の私は、嬉しさのあまり婚約者じゃないのにいいのか? と一瞬よぎった考えを無意識に頭の隅に追いやっていた。
4
お気に入りに追加
241
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

【完結済】政略結婚予定の婚約者同士である私たちの間に、愛なんてあるはずがありません!……よね?
鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
「どうせ互いに望まぬ政略結婚だ。結婚までは好きな男のことを自由に想い続けていればいい」「……あらそう。分かったわ」婚約が決まって以来初めて会った王立学園の入学式の日、私グレース・エイヴリー侯爵令嬢の婚約者となったレイモンド・ベイツ公爵令息は軽く笑ってあっさりとそう言った。仲良くやっていきたい気持ちはあったけど、なぜだか私は昔からレイモンドには嫌われていた。
そっちがそのつもりならまぁ仕方ない、と割り切る私。だけど学園生活を過ごすうちに少しずつ二人の関係が変わりはじめ……
※※ファンタジーなご都合主義の世界観でお送りする学園もののお話です。史実に照らし合わせたりすると「??」となりますので、どうぞ広い心でお読みくださいませ。
※※大したざまぁはない予定です。気持ちがすれ違ってしまっている二人のラブストーリーです。
※この作品は小説家になろうにも投稿しています。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。
お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。
少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。
22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる