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まだ気付かない恋心

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 入学式は特に問題が起きることもなく終了した。私が入学するまでの1年間で何もないといいけど…。念の為、帰ったら漫画の内容を書き留めているノートを確認して、できる対策はしっかりしておかなきゃ。

 って思っていた日もあった。

 対策なんて、実際学園にいない私ができることなんてなかったのよね。まぁ…2人の距離を縮めるイベントが起こるのが、今年よりも来年以降の方が多いってのが唯一の救いね。

「はぁぁぁ」
「大きな溜息ですね」
「だって暇なんですもの」

 飛び級するつもりでお兄様と同じだけ勉強を進めてしまっていたから、今は家庭教師の先生が来ても軽く復習するだけで授業が早く終わってしまうのだ。

「クッキーでも作ろうかしら。ちょうど今週末に孤児院へ行くし」
「いえ。それは私から料理長へ用意しておくよう伝えておきますので、エレナ様は刺繍の練習をなさってください」
「ソフィー、それってとっても酷いことだわ」
「旦那様にくれぐれもと命を受けていますので」

 最近はバザーで出すお菓子を作る時以外は厨房に中々入れてもらえないのよねぇ。侯爵令嬢だからって言うより私の刺繍の腕がイマイチなのが原因なのだろうけど。それなりにはできるようになったんだから大目に見てほしいわ。

「では、ルーク様にお手紙でも出されてはいかがですか?」
「ルーク様に?」
「えぇ。ルーク様への贈り物でしたら、クッキー作成も旦那様の許可がいただけるかと」

 なぜルーク様? 確かに仲良くしてくださってはいるけど…

「そういえばルーク様ってなぜまだ婚約者がいないのかしら?」
「……………それ、本気で仰ってますか?」
「? ええ」

 はぁぁって大きな溜息を付いて、ルーク様が可哀想だとか、鈍感にも程があるとか私に聞こえない声量でごにょごにょ言った後、とりあえずさっさと手紙を書いてくださいと言って部屋を出たソフィー。

 仕事が忙しくて疲れているのかしら? 今度まとまった休みが取れるようお父様にお願いしておこう。

 手紙ねぇ…学園の見学に行く時はルーク様に案内を頼むつもりだったから、そのお願いをしようかな。こんなに早くお願いするつもりではなかったけど、まぁいっか。

 クッキーはどんなのにしようかなぁ。りんごのクッキーがお好きだからそれは外せないとして、後は型抜きとスタンプとを使ってシンプルなものにしようかしら。あっ! お兄様とニーナ様と3人で食べてくださいと、パウンドケーキも作っちゃおう。

 そういえば主人公…ナターシャとお兄様の距離って縮んだのかな? 結局あの一瞬では転生者かどうか判断できなかったし。見学に行った際に確認するチャンスがあればいいけど。

 ………もちろん婚約者がいる身で良くないことだし、前世と違って好きな人と結婚できる環境じゃないって分かってるけど…もしお兄様がナターシャを好きになったら、私はお兄様を応援すべきなのかしら。

 ニーナ様の幸せは願っているけど、だからってお兄様の幸せを願ってないわけじゃない。

 ここで悩んだところで、お兄様って私ラブすぎて恋愛なんてまだしたことないんだろうけど…って、私も人の事言えないわね。

 こんな事を手紙に書いたら困らせちゃう? ってもう書いちゃったんだけどね。なんとなくこのモヤモヤをルーク様に伝えたいって思ったからか、迷いなく書いてしまったわ。まぁ…ナターシャ、なんて個人名は出していないしこのまま送っちゃおうかな。


 書き終わった手紙をソフィーに手渡し、そう言えばルーク様に婚約者ができたら、こんな風に個人的に手紙を書いたり、お菓子を贈ったりできないのかと思うと、ほんの少し胸がチクッとした。




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