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クラーク公爵家

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 今日はニーナ様に誘われ公爵邸にお邪魔している。もちろんうちの屋敷も大きいけど、公爵家の屋敷はそれ以上の大きさと広さで、それになんかとっても豪華…。私でも尻込みしてしまうくらいだ、付いてきてくれているソフィーの顔は青ざめていた。

「なにか粗相をしてしまったら…」
「ちょっ、ソフィー怖いこと言わないでよ」

 ここでお待ち下さいと通されたサロンまでに通ってきた廊下も、サロンにある一つ一つの家具も全てが高価だと分かるもので、侯爵と公爵でここまで違うのかと思ってしまうほど。

「待たせてごめんなさい」
「ニーナ様。本日は…」
「堅苦しい挨拶はやめて?」

 あぁ、その微笑みもなんて美しいの。せめて手カメラで脳内に…ってそうだった。ルーク様に手カメラは僕と一緒の時だけねって約束させられたんだった。

 他の人の前ではやっちゃダメだよって…確かにカメラなんてないのにそんなポーズをとったら怪しいだけだしね。ルーク様のアドバイスのおかげで推しに変なところを見せずに済んだわ。

 そんなことを思っていたら、いつの間にかお茶やお菓子が目の前に準備されていた。あれ? 今ニーナ様指示を出していたっけ? それとも事前に指示していたのかしら? なんだろう、何か違和感があるような?

「これ…ねぇ、なんでこの茶葉を選んだの?」
「本日のデザートに合わせて選ばせていただきました」
「そうかしら? 私は合わないと思うのだけど」
「申し訳ございません。すぐに取り替えます」

 えっ!? 感じた違和感を隅に追いやって、茶葉まで香りが全然違うわ~なんて思ってる場合じゃなかったわ。

「エレナ、ごめんなさいね」
「あのっ、私はこれで……」
「いえ。すぐに新しいものをお持ちしますので」

 変えなくたっていいのにカップを下げられてしまった。きっとさっきのお茶は捨てられてしまうのだろう。それってものすごく勿体ない。

 チラッとソフィーを見ると私と同じように何かを感じているようす。目が合うと軽く首を横に振られ、昨日お兄様と一緒に作ったクッキーは出さない方がいいと言われている気がした。せっかく推しの家でのお茶会なのに全然楽しめない。

「お待たせしました」
「ありがとうございます」
「っ!! い、いえ。とんでもございません」

 ?? 驚かせるようなこと言ったかしら?

「なぜ使用人なんかにお礼を言うの?」
「えっ?」
「今、お礼を言ったでしょう? 彼女はただ自分の仕事をしただけで、お礼を言われるようなことはしてないわ」

 う、嘘でしょう!? 悪役令嬢が悪役令嬢になる前に出会えたのだと思っていたのに、実はすでにその片鱗が出てきていたの!?

 お兄様達とみんなで会っている時はそんなことなかったのに。

 あぁ、そうか。お兄様の事が好きだから猫を被っていたのね。私にも優しいのはいずれ義妹になるから? 

 どっちの姿が本当のニーナ様なのか分からなくなっちゃう。

 確かに新しく持ってきてくれたお茶の方がお菓子に合っていて流石だとは思った。けど終始笑顔で話してくださる姿を見ても、写真に収めたいなんて思う余裕なんてないし、ずっと楽しみにしていたお茶会なのに今は早く帰りたくて仕方ない。

 悪役令嬢を幸せにしたいって思っていたけど、たったこれだけで動揺する私にできるのか不安になってきた。





「相談って何かあったの?」
「実はニーナ様のことでして…」

 あの日の帰り道、ソフィーは私はマーリン侯爵家で働けて幸せですと言ったきり黙ってしまった。
 誰に相談することもできず、そこで私が頼ったのはルーク様。お母様同士の仲が良いと言っていたし、何か知っているかもしれないと思って。

「どっちのニーナ嬢も本当の姿だと思うよ。エレナに良くしているのも、ライナスの妹だからって理由じゃない」
「でも…」
「ならさ、エレナはなぜお茶を変えてくれた使用人にお礼を言ったの?」

 それは日本人だったからで……本当にそう? 私は前世を思い出す前から言ってたわ。それはお兄様はもちろん、お父様やお母様がそうしているからで…お礼なんてタダなんだから言えばいいのに。って思うのは間違ってる?

「ニーナ嬢も同じだと思うよ。貴族って色々いるからね。マーリン家のように使用人に対しても、してもらったことへ感謝を伝える家もあれば、クラーク家のように使用人なんだから当たり前だと思う家もあるんだ」
「そんな…」 
「産まれたときからそういう環境だとそれが当たり前だと思うだろう? だからニーナ嬢はお礼を言った理由が本当に分からなかったんだよ」

 私の家も先に用意してくれる事がほとんどだけど、お茶が欲しかったら欲しいって言う。でもニーナ様の家では言われる前に主人の意図を汲むのが絶対ってこと? しかも間違いは許されなくて……ソフィーはそれに気付いたからうちで良かったと言ったのね。

「ルーク様の家は?」
「うーん、ちょうど間くらいじゃないかな?」

 仕方がないのかもしれない。でももし私が侯爵令嬢じゃなかったらニーナ様の態度が違ったってことだよね? 高位貴族か下位貴族かでも態度が変わるならそれってやっぱり悪役令嬢…。

「私、ニーナ様のこと大好きなんです」
「だろうね」
「お兄様も大好きなんです」
「うん」

 推しへの思いはそんな軽いものじゃない。ちょっと動揺してしまったけど元々悪役令嬢である推しを悪役令嬢にしないために動こうと決めていたじゃないか。

「2人には幸せになって欲しいんです」
「エレナは優しいね。ねぇ、じゃあさ? 2人が幸せになるよう僕達で協力しようよ」
「えっ?」
「うん、そうしよう。きっとその方が二人を幸せにできるよ」

 んんん? 確かに協力者がいるのはありがたい。でもなんだか協力しない方がいいって直感が働くんだけど…。

「クッキー、渡せなかったんだよね?」
「はぁ、まぁ」
「なら今度は4人で作ろう。ライナスと2人で抜け駆けなんかしちゃだめだよ?」
「? はい…?」

 なんだかよく分からなくなってきた。想定外に動揺してしまったのはこの体の年齢のせいだろうと気付けたけど、ちょっと頭の中を整理したい。



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