上 下
8 / 43
本編

第2話 俺様の初仕事と家出ヌコの事情(3)

しおりを挟む
黒猫について路地裏を行く。途中で少し話を聞けた。

家出したチェルシーとは顔見知りらしい。部屋に閉じ込められたチェルシーと窓越しにいろんな話をしたんだとか。
食べて寝るだけの生活で、飼い主のようにでぷでぷになってしまう、いつかは外に出るんだといつも言っていたらしい。
探すのが気の毒になってきたな。

「お前が探さなくても、臭いハンター連中が来たら捕まっちまう。やつらに縄張りを荒らされるよりお前の方がマシだ。出来れば、ほっといてやりてえがな」

運河の橋を越えて細い通りを2つほど抜けたら少しボロっちい家の庭先にたどり着いた。
いや、畑かな? 作物の影に潜り込む。

「この辺りにいるばすだ。ここはガキが多くてな。見つかったらすぐに逃ないとダメだ」

この家は親のない子ども達が沢山暮らしているらしい。子ども達にオモチャにされて大変な目にあったのだとさ。
でも、家出したチェルシーは子ども達と平気で遊んでるらしい。ヌコの性格もいろいろだからな。

そんな話をしながら庭(畑?)を眺めていると、明るいグレーの毛並みのヌコがやって来た。

「黒のだんな、ここには近づかないはずだったのでは?」

こいつがチェルシーか。ちょっと丸っこいけど、上品そうなヌコだな。
垂れ耳が野良ネコをやるのは無理があるかもなあ。

「こいつがお前に用があるってよ」

「新顔の方ですね。はじめまして、自分はチェルシーです。よろしく」

上品に挨拶されてしまった。
お金持ち家ってのはヌコまで上品になるのかい? びっくりだな。
俺様も負けずに自己紹介してやるか。

「俺様の名前は”みー”だ。すきな食べ物はマグロ。嫌いなものは、みかん。こたつにみかんを置いてあると殺意をかんじるね」

チェルシーも黒猫も、首を横に倒して不思議そうな顔をしている。

あれ? 何か変だったか?
そういえば、ずっとイエネコだったからネコ同士の挨拶なんてしたことなかったな。

「みーさんは、異国のお生まれで? なにやら珍しい毛並みのご様子。マグロというものは自分も食べたことがないですね。さぞ、美味しいのでしょうね」

まさか、挨拶だけで敗北感を感じるとはな。悔しいけど、すごくイイやつ。
それから話が弾んで、俺様が住んでいた部屋や家族の話しをしてやったら、チェルシーと黒で面白そうに聞いていた。

「ああ、やはり世界は広いのですね。こんなにも珍しいお話が聞けるなんて」

家出してよかった。そう言うチェルシーに俺様は何も言えなくなった。
俺様にもこいつの気持ちは解る。

そうすると、黒がジロリを俺様をにらんでフンと鼻を鳴らした。そして、チェルシーに向かって言った。

「お前、屋敷に帰れ」

「いやですよ、あんな場所にもどったら、また部屋で閉じ込められて一生あのまま。自分はもっと世界を見てみたいんです」

「気の毒だがな。帰ってもらわねえと、こっちが困るんだ」

黒が言うには、以前にも家出したヌコが居たらしい。
その時も、飼い主がハンターギルドに依頼を出して、臭い人ハンター達が何人かやってきた。
まだ、若い連中だったと言ってるから駆け出しって呼ばれてる人たちだろう。

見境なく、鍋を叩いてヌコ達を追い詰め、なんとか逃れたと思ったら強烈な臭いの煙で追い出され、
路地裏に罠までしかけられて、何匹かのヌコが犠牲になったらしい。

それでも、仲間だからと何日かは皆でかくまってやったそうだけど、最後には捉えられて連れて行かれたと。
残ったのは、そこらじゅうに染み付いた煙の臭い。

「みーは、あの臭いハンター連中の仲間だ。こいつが帰ったらあの連中がくるぞ。この辺りは戦場になる」

チェルシーは、がっくりと肩を落とし、深く溜息をついた。

「そうでしたか、みーさんは、あの臭い方々の使者ということで・・・」

いや! ちがうから! あの臭い人ハンター達と一緒にしないで! たのむから!

それから、チェルシーは「明日になったら必ず帰るから」と言った。
世話になった子供達に贈り物をしたいのだという。夜になったら隣の建物の地下に捕りに行くのだそうだ。

「そうだ、みーさんも、となりの建物を見ていきませんか? 人が言う「女神様」の像がありまして、なかなかに綺麗な方ですから」

チェルシーが帰ってくれるなら、俺様の仕事は終わったようなもんだ。ついでだから見ていくか。
黒は興味ないから帰るというので、建物の前で別れた。

建物の裏手の窓に飛び乗って忍び込む。ひんやりとした廊下を進むと大きなホールにでた。
チェルシーに案内されて、壁の彫刻を足場にして壁から突き出たステージのような場所まで上がっていく。

「下から見上げるより、この辺りから見たほうが お顔がよく見えていいんですよ」

ふーん、これが女神様ってやつか?
チェルシーが自慢げに話しているけど俺様はネコだから、人間の女には興味ないんだけどな。
説明を聞き流しながら、どっかで見た顔だなと思っていると、窓からスッと光が差し込んで女神像を照らした。

あれ? と思うと、いつぞやの白い場所に居た。
俺様の前に あの金色の変な女の子アリシア

「みーちゃん、元気にしてた? 来てくれて良かったわ。あの時は 私も訳が解らない事が多くてさ、説明も不十分だったし 心配してたのよ」

なんでも、この金色のは人間担当でマニュアルも人間用のやつしかなかったらしい。
どうして俺様がまぎれこんだのかは、今でも調査中らしい。
どこかからクラッキング? スタックオーバーフローでコードインジェクション? そんな話しをネコにしてどうするねん? ちゃんとセキュリティパッチいれとけ! 俺様はネコだから知らん。

「それで、みーちゃんのスキルなんだけどね」

人に与えるスキルは、ネコに適合しなかったから、色々と変則的になっているらしい。
この世界のどこに飛ばされるかさっぱりわからなかったから、護身用のスキルを着けようとしたら、おまけアイテムの「こたつ」についちゃった?
危なくなったら、こたつに逃げ込めば、だいたい何でも防げるかもしれない? 1度試してみて? ただし、制限があって、暑い夏場だと、さらに暑くなるから熱中症に注意だと? そこだけは納得できた。

人間用の基本パッケージだったのは、無限収納と言語理解。
無限収納は、荷物を何でも収納できて欲しい時に取り出せる。ごはんを大量に詰め込んでくれたらしい。
前に出てきた猫缶はそれだな。飢える心配がないから大変ありがたい。

言語理解は、人の場合は読み書き自由にできるらしいけど、ちょっと適合不十分で喋るのはエラーだとさ。
いや、俺様はネコだから、喋りたいとは思わんよ?
その代わり他の動物の言葉もわかるかも? 一度試してみてだって?

最後に「女神アリシアの加護」 
ここでやっと、金色の変な子の名前がアリシアだってわかった。

俺様をナデナデしてる時に、うっかり加護が付いちゃったらしい。
うっかりつけちゃったから、「すごい加護なのか、たいしたこと無いか良くわからない効果」だそうだ。
つまり、気にするなってこと?

「実は、その加護もちょっと安定してなくてね」

人に比べて体が小さいから、少し漏れてる時があるらしい。
お漏らしするネコなんて恥ずかしいだろ!
その影響で他の人に伝染うつるかもしれないから気をつけて?

あと、もう少しシステムが安定したら、オンラインアップデートがとか言い出した。
俺様はなんとなく寒気を感じて、ちょっとそれは遠慮しといた。
と言うか、説明長くない??

「まあ、だいたいこんな感じかな。また何かあったら、この教会に来て」

そう言って、また俺様の頭をナデナデしてきた。うーん、これまたちょっと気持ちいい。
背中と・・・ゴロンと転んで、お腹も・・・

「じゃあ、元気でね」

女の子がそう言うと、俺様の隣で、チェルシーの説明が続いてた。
こいつの説明の方が長かったか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

ちょっと間違えた異世界移転

春廼舎 明
ファンタジー
なんかいろいろ間違えた気がする異世界移転。 尻餅ついて勢い余って異世界移転物語。 ハラハラドキドキはありません。頭空っぽにして、脱力してサクッと読める短めのお話です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

アルジュナクラ

Merle
ファンタジー
 バーラータ大陸の辺境・グプタ領を治める若き領主アルジュは、隣領マガーダの領主ウルゥカから、妹リシュナを嫁に差し出すように要求されて困り果てていた。  ウルゥカとリシュナでは、親子を通り越して祖父と孫娘ほどにも歳が違う。そんな結婚、兄として認められるわけがないが、突っぱねれば領民が飢えかねない。  一体どうすれば……と悩むアルジュに解決策を提示したのは誰あろう、求婚されているリシュナ本人だった。  ――魔物を統べる王、魔王となった青年アルジュを軸にして、魔王と聖者が覇を争った時代を描くファンタジー戦記。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...