上 下
228 / 229
第41話 大団円?

最終話 辺境の魔法使い この世界で安寧を得る

しおりを挟む
○ 日常
 私は、朝日の当たる自分の部屋で目覚める。
「ダー様おはようございます」私が少しだけ動いたのに気づいたのか、キャロルが目をこすりながら私を見る。
 私は「おはようございます。キャロル」そう言って、彼女の頬にキスをする。
「もうダー様ったら、背中に嫉妬に燃えた目が見ていますよ?」キャロルが笑いながら私の背中ごしに光る目を見て言った。
「ああエーネ。おはようございます」私は振り返って、半身を起こして私を睨んでいるエーネの頬にキスをする。
「お、おはようございます。ディー様」エーネはたちまち真っ赤になってうつむいていしまう。そんな所もエーネは可愛いですね。その私の心の声を聞いて、ますますエーネは縮こまる。
「ダー様あんまりエーネを虐めないでくださいね」キャロルはそう言って私の背中に抱きついた。
「エーネは本当に可愛いですね」私はそのままエーネを抱きしめる。
「ダー様ズルいです。私も抱きしめてくださいね」キャロルは私の耳元で囁く。

「はい!そこまで!妄想はそこまでよ。早く起きなさい。みんながあんた達を待っているわよ」
 私の耳元でアンジーが最大ボリュームでそう叫んだ。おおう夢か。リアルな夢だったなあ。
「ダー様半分は夢ではありませんよ」
「はい。・・・です」
「もったいない事をしました」
「そうですね」
「です」
「あんた達!いい加減起きなさい!」
「「「はい」」」

 そうして、キャロルとエーネは自室に戻って行き、私は、二度寝しないように監視しているアンジーに見守られながら服を着替える。
「しかし、どこからが妄想かわかっているのかしら?」
「残念ながらどこからが妄想でどこまでが現実だったのでしょうか」
「聞きたいかしら?」アンジーが赤い顔をして私に問う。
「やめておきます。思い出は美しい方がいいですからね」
「そうしなさい。あんたは、「けだもの」か」
「まあ、完全復活していますからねえ何もかも」
「節度を持ちなさいね節度を」
「無理ですねえ。皆さん可愛いですから。ねえアンジー?」
「ちょっとあんたおかしいわよ。人間のくせに発情期なのかしら」
「そうかもしれません」
「とりあえずみんなに報告してくるわ」
 アンジーは私の部屋から飛び出して、階段を駆け下りた。

 居間には、全員が揃っていて、アンジーの報告を聞いている。
「やっと発情したのですね。でも僕が発情していません。どうしよう」レイが嬉しそうだ。
「今夜は私が一緒に寝るので、可能性はありますね」メアが指を両手を胸の前にくんで指をボキボキ鳴らしている。
「皆さんおはようございます」
 私が居間に入っていくと、全員が私をジッと見ています。おおう、俺ってセクシー?
「あやつの雰囲気がおかしい」
「旦那様が変です~」
「こんなはずではありませんでした」ブレンダがちょっとまずいと思っているようです。
「ブレンダおぬし何をした」
「ちょっとだけ魅了をかけてみたのですが。魅了が効かずに変な事になったようです」
「あやつは、あの吸血鬼の魅了でさえ跳ね返していた男じゃぞ、かかるわけないじゃろう」
「そういえばその頃はまだ、EDだったじゃない?」アンジーが嫌な事を言います。
「確かにその後くらいから、少しずつ無能から有能に戻って来たような気がします」メアが補助脳と会話して確認しているようです。
「じゃあ、ようやく魅了が効いてきたということなのかしら?」
「魅了の効果が出てきたのでしたら、吸血鬼の方に惚れているのではありませんか?」パムがなんか違うと気付いたようです。
「確かに違うわねえ」アンジーが考え込む。
 キャロルとエーネは、真っ赤になってモジモジして会話に参加していません。
「キャロルとエーネは一体どうしましたか?」パムが二人の様子を見て言いました。
「いや、あの、体がちょっと・・・恥ずかしくて言えません」
 キャロルは椅子に座って足の間に手を入れてモジモジしている。
「です。です。何か変です」
 エーネも同じようにしている。レイが二人の匂いを嗅いでいます。
「ちょっとレイさん、それは・・・」キャロルがちょっと言い淀む。
「レイさん匂いを嗅がないで、です」エーネも慌てている。
「お二人は発情しています。僕にはわかります」レイが胸を張って言いました。
「はあ?」
「「レイさーん」」二人はそう言って、部屋に駆け出して行きました。
「おぬし、どう思う」
「どう思うも何も、ブレンダが私にかけた魅了が反射されてお二人にかかったのですよ。はっはっはっ」
「あんたにも何か影響が出ているじゃない。ブレンダ!もしかして魅了じゃなくて・・・」
「ああ、バレましたか。実は催淫作用のある魔法をかけました」
「こいつがそれを弾いて、二人にかかったと?」
「そうです」ブレンダが胸を張って言いました。
「よりにもよってあの二人の時にかけんでも良いじゃろう」
「あの子達が、無理して背伸びしているのが可愛くてつい」
「嘘です」ユーリが言った。
「ユーリなぜ断言できるのですか?」パムがユーリを見た。
「だってそれなら私にもかけるはずです。単に自分の時に使う前に試したのではないかと」
「確かにあなた達は私を師匠と呼びますからね。全員一緒にかけるべきでした」
「では、やはりお試しでしたか」
「あの二人と私はかなり後から隷属されました。私はその距離感をあきらめていましたが、二人は距離を縮めようと焦っていたのです。だから、まあアドバンテージを作ってあげたかったのです」
「アドバンテージも何も最初から全員何もないわよ。キスしたくらいしかねえ」
「あっはっはっ、そのとおりです。ヘタレですいません」
「こいつのこの状態はどうしてなのじゃ」
「魅了も跳ね返すと聞いていたので、匂いでと思ったのですが、変な風に効果がでましたねえ」
 ブレンダも首をかしげいてる。
「ああそうか。3国騒乱の時に匂いの魔法にも耐性をつけておったが、それが干渉したか?」
「マインドガード」アンジーがそう言ってから「パン」と柏手を打った。
「はっ私は何を?うわっ恥ずかしい。ブレンダさんなんて事してくれたんですか」
「あ、戻った」
「私はちょっと二人のところに行ってきます」ブレンダが逃げだそうとするが、メアとパムに両腕をガッチリと拘束されました。
「うわ、転移できない」ブレンダがビックリしている。その間にアンジーが二人の元に駆け出した。
「当たり前です。こういう事もあろうかと事前に対策してあります」メアが睨んでいます。
「しまった。悪気はなかったのです」
「だったら逃げなければ良かったであろう」
「でも・・怒られそうだったし」
「まあ、非難はされるわな。でも、以前こやつは実験と称してユーリを光らせておるしなあ。本当に二人とも魔法使いじゃなあ」
「実験した訳ではありませんが」
「事前に言ってからやるがいい」モーラがちょっとオーラを出している。ブレンダもさすがにビビっている。
「はい」
 そこにアンジーが戻って来た。
「二人は大丈夫よ。本当に人騒がせねえ。ブレンダ。そういう事をする時は事前にちゃんと話しておきなさいよ」
「え?」
「ちゃんと本人から了解取りなさいと言っているの」
「言っていることがわかりません」
「魔法は試して見ないとわからないのだから、試したくなる気持ちもわかるの、でも事前に了解取りなさいね」
「それっておかしくありませんか?」
「なにがよ」
「魔法を試すのを了解が取れればかけていいのですか?」
「ちゃんと言って了解がもらえればね」
「ブレンダ。うちの家族は寛容なのですよ。もっともそれだけ家族を信頼しているのです。だから今回の事も事前に言っていれば笑い話で終わりますよ」
「なんともはや」
「あの二人にはちゃんと謝るのよ」
「はい」

 そして、何事もなかったように、少し遅い朝食は始まった。
「さて、今日ですが、私は薬草の育成状況を確認してからファーンに行きます」
「わしは、縄張りの範囲を見回ってくる。その後は特にないな」
「私はメアと一緒に孤児院の状況を確認して買い出しね」
「はい」
「荷物運びのお手伝いはいりますか?」ユーリが聞いた。
「あんた達は、コンビネーションを改良しなさい。メア抜きでブレンダ入れてね」
「ブレンダさんが全部持っていきますよ。女模倣使いなんですから」
「あら私?じゃあ、私相手に戦えば、ハズ様に勝てるようになるかもしれないですよ」
「無理にきまっているじゃないですか。あの魔法使いの里との戦闘を見せられては・・・あっ」
 ユーリがしまったと思ったのか口に手を当てた。
「どうして見ているのですか?」私はブレンダをちょっと睨みます。
「家族が心配していたので、特別に中継していました」
「恥ずかしいところを見られてしまいましたねえ」
「あれを恥ずかしいと言いますか」パムがあきれている。
「だって、かなり苦戦していますよ?」
「旦那様~謙遜しすぎは~かえって~かっこ悪い~」
 エルフィが椅子に座ったまま両手を前にして手だけを揺らして踊っている。全員が嫌そうに同じ振り付けで踊っている。流行していますか?それにしては嫌そうですが。
「お師匠様・・・紫さんが、あの戦闘の後に「本気は見られなかった」と言っていましたよ」
「ちゃんと戦っていたのですがねえ。ワイヤーもほとんど使い切らされてしまいましたし」
 私が苦戦したのは本当なのですが。
「どうせ何かの縛りをかけていたのであろうが」
「・・・・」あえて私はコメントしません。
「ですから、私達はブレンダさんとも戦いたくはありませんよ」パムまでもがそんな事をいう。
「じゃあ、訓練で私が強化魔法をかけましょうか」
「やめておきます。きっと訓練終了と共に筋肉が断裂しそうです」レイがビビっている。
「ちゃんと薬草で治せるから。ね?」
「痛いの嫌ですよ」
「私の印象が悪いのね」
「さっきのあれがかなり影響していますよ」
「さて、話を戻しましょうか。訓練以外は何もないのですか?」
「宴会の~お誘いが~皆さんに~来てますよ~」
 エルフィがさっきと同じように手を揺らしている。
「ああ、そういえばそうじゃったなあ」
「今夜は外食ね」
「メアさんお金は大丈夫ですか?」
「大丈夫です。ご主人様が飛び回っている間は、皆さんが稼いでくれていましたから」
「皆さん本当にありがとうございます」
「そう思うのなら、今日は2階の大部屋にみんなと一緒に寝てもらうからね」
「ああ、是非とも。念のため言っておきますが、ブレンダは余計なことはしないように。次にやったら、みんなと一緒に寝られなくなりますからね。もちろん私とも」
「わかりました。今回は我慢します」
「今回は、ですか?」パムが独り言を言い、ブレンダは舌を出した。
 そんな話も笑い飛ばして、私達は、その日の日課を始めました。

「日課と言っても、薬草の管理はほとんど自動化されてしまったのですよねえ」
「でも~量を増やさないと~家族も増えましたからね~」
「そうですね。収量を増やさないとなりません」
 それでも薬草は確実に売れているそうです。魔素の減少によって、怪我の治りが悪くなっていたのです。だから早く作れと矢のような催促がエリスから飛んできています。
「さて、次の育成ブロックまで行きますか」
「はーい」エルフィの声を聞きながら。ちょっとだけ嬉しくなっている。この薬草を育てた時の事を何度でも思い出している。焼かれたて心が折れた事、そしてエルフィが私に内緒で再起させた事なんかを思い出す。
「も~恥ずかしいから思い出さないで~」そう言ったエルフィの後ろ姿を見ると、耳が真っ赤になっている。
「エルフィ。愛していますよ」私はエルフィを抱きしめる。
「ちょっ、もー旦那様~今日は本当に変ですよ~」エルフィは振り向いて私を抱きしめる。私は胸に埋もれて死にそうだ。いやむしろ、今死んでもいい。
「死んじゃダメ~」エルフィはそう言って私を離して、今度は私の手を取って次のブロックへ向かった。
 薬草の管理も終わって、家に戻る。厩舎の前で戻って来たアンジーとメアに会った。
「あ、帰ってきた。もう脳内通信機は使えるのよねえ」アンジーが私に聞いてきた。
「距離が遠くて魔素のないところは無理ですよ。近距離なら大丈夫ですが、最大距離は測ったことはありませんね」
 私の言葉にアンジーはゲンナリしている。
「詳しい話は良いのよ。使わないのが当たり前になっていたから。でも使えないような気がするのよねえ」
 アンジーが私の脳内通信機を指さす。私はスイッチを長押ししてみた。
「ああ、魔鉱石の充填不足ですねえ。そういえば、自分の体の魔力が一定程度になった時にその通信機に使った魔鉱石からも補充できるようにしてましたからねえ」
「逆も出来たはずですが」メアが私に聞く。
「モーラとかアンジーとかには体の魔力から充填出来るようにしてありましたがねえ」
「私のも使えないみたいですね~」エルフィもスイッチを入れてみたようです。
「これは少し調べてみないとなりませんねえ」
『脳内通信自体は使えているから、機械の故障じゃないかしら』アンジーがあえて口を動かさずに脳内通信をしてくれた。確かに機械の故障なのかもしれませんが、こんなに一気に全部が故障するでしょうか?
「それよりもそろそろお昼です。皆さんがお腹を空かせて戻って来ます」
「そうですねえ」私は気になり始めるとちょっと手がつかなくなりますからねえ
 そして、全員が揃って昼食を取っている。
「エリスに聞いてみたらどうじゃ?」
「そうですね」
 午後はみんなで家の掃除だ。今日はメアがアンジーに同行していたので、いつもは午前中に済ましている洗濯が午後からになった。家の裏手の物干し場に洗濯の終わったシーツなどをみんなで干している。
「最近は晴れの日が続いているなあ」
「でも、北の方に雲が発生しています。明日にはもしかしたら雨かもしれません」メアが空を見上げながら言った。
「わかるのか?」
「もしかしたら程度ですが」
「今日は大丈夫なのね」
「にわか雨があるかもしれませんが」
「え?大丈夫なの?」
「取り込めば良いのですから」
 一度みんなは家に入り、気象観測班としてエルフィとエーネとレイが屋根の上に昇った。
「にー良い眺め~」
「ですです」
「雨が近づいています」レイがクンクン匂いを嗅いでいます。
「レイちゃんわかる?」
「エーネさんの尻尾がちょっとだけ動きが鈍いです」
「え?それでわかるのですか?」エーネが自分の尻尾を前の方に動かしてジッと見る。
「とパムさんに言われました」
「あはは。それは冗談ね~」
「あんまりレイちゃんがエーネちゃんの尻尾を舐めるからやめさせたかったのかな~」
「そうです。舐めないでくださいね」
「ごめんなさい。つい動いていると、かまいたくなります」レイは今もエーネの尻尾をいじりたくてウズウズしています。
「雲の動きがはやいです」エーネがそう言った。
「これはきそうね~」エルフィが立ち上がり、レイとエーネも2階の屋根から1階の屋根に飛び降りて、2階のベランダ入り口から入って、階段を降りる。
「雨が来るかも~」
「ですです」
「雨ー」
 全員で家の裏に向かう。1階の部屋の奥の窓を開けて搬入準備を完了させて、雨を待つ。
「来た!」急に黒雲が流れてきて、ポツポツと雨が降り出す。その時にはすでに干してあった物は家の中に移動されて、脱衣所に干されている。
「しかし、なんで雨が降るまで待つのじゃ?」
「雨が降らないで雲が通過する時があるのですよ。そしたらお日様の匂いがするシーツになります」
「そうだったか」
 そうやってバタバタしている間に夕暮れが近づく。
「では、ファーンに向かって出発ー」レイの号令で馬車は出発する。5頭立ての馬車だ。号令をかけたはずのレイが嬉しそうに獣化して走って行く。
「小さい方で良かったのではありませんか?」パムがエルフィに尋ねる。
 御者台のエルフィは、
「この前、2頭だけで馬車が来たけど~他の3頭とケンカしたみたい~だから公平に全員で送迎してくれることになったみたい~」
「みんな走りたいですからねえ」
「今朝は、アンジー様とメアさんが馬車に乗っていかれましたが、誰が曳いていたのですか?」パムが結構突っ込んで聞いてきた。
「私とアンジー様の時はカイと誰かですね」
「こいつがあんまり乗ってやらないからね」アンジーが私を見た。まあ、その色々ありまして。
「あとは、専用の馬ですからねえ」
「レイとエーネとブレンダの馬が必要ですかねえ」
「あのー私は飛べるので問題ありませんよ」
「私もそうね。どうしてなのか馬とは相性が悪いのよね」
 そこでレイが走るのが飽きたのか馬車に戻ってくる。
「レイも専用の馬はいりませんね?」
「いらないです。馬に乗っている獣人って変じゃありませんか?」
「確かにねえ」
「ファーンに到着しますよ~」
 私達は、馬車を停車させるところに預けて、全員で居酒屋に向かおうとする。すると、町長を中心にして十数名が私達を待っていた。
「おおちょうど良い。居酒屋に行くのであろう?ちょっとこっちに寄っていけ」
「仕事ですか?」
「ああ、簡単なアドバイスが欲しい」
「そう言って、いつも長くなりますよねえ・・・」
 私がそう言いっている間に、顔なじみの事務員さんが私を両側から抱えて、引きずるように連行された。
「すまんが少し借りるぞ」町長は私の家族にそう言って私の後を追った。
「全く、相変わらずねえ」アンジーがため息をついていると、アンジーの肩を叩く者がいる。
「何かしら?」アンジーが振り向くと、そこには、げっそりとやつれたナナミさんとその後ろで嬉しそうにレイと遊んでいるダヴィさんがいた。
「お願いします。アンジーちゃん。じゃなくてアンジー様。ぜひインスピレーションを・・・」
「今回は何か見返りがあるのかしら」アンジーがため息をつく。
「デザイン料として、孤児院に寄付を・・・」
「わかったわ」即決のアンジーでした。
「おぬしも相変わらずじゃなあ」
「モーラちゃんもお願いしますね」ナナミさんの鬼気迫る顔にさすがのモーラもたじろいだ。
「お、おう」そう言って周囲を見ると、家族は誰も残っていなかった。
「みんなどこにいったのですか?」ナナミさんが周囲を見回すが、全員どこかに行った後だった。
「カンバーック」ナナミさんの声が周囲に響いた。

「逃げ出してよかったのですか?」
 キャロルはブレンダに聞いた。キャロルとエーネはブレンダに抱えられ、その横をユーリが走っている。
「私の危機察知能力が逃げろと言ったのよ」ブレンダの顔が青い。水着の試着のあと、もしかしたら何かあったのかもしれない。キャロルは聞くのが恐かったので、あえて聞かないことにした。
 同じようにメアとエルフィとパムとレイも逃げ出していた。
「メアさんはなぜ逃げているのですか?」パムがメアに尋ねる。
「あの表情のナナミさんは、大変危険です。そして、アンジー様とモーラ様がメインであるのは間違いありません。お二人には申し訳ありませんが、他の方達の安全を確保することを優先しました」
「どう危険なのですか~」エルフィは危機をイメージできないようです。
「服飾デザインの修羅となっているので、全ての事象において服飾デザインが優先されるのです」
「わかりません~例えはありますか?」
「以前、あの状態のナナミさんとお会いしたところ、いつの間にか私はミシンかけをさせられておりました。どうしてそうなったのか一切不明でした。もしかしたら洗脳されていたのかもしれません」
「それは恐いですね。おや、エルフィもレイもいつの間にかはぐれてしまいました」パムが周囲を見回す。後ろを見ると、エルフィはエルフの人達にひきずられ、レイは獣人達に拉致されたようです。パムも立ち止まっていると、肩を叩かれ、ドワーフの人達についてくるよう言われて、そのままいなくなり、最終的にメアはひとりになった。
「さて、私はモーラ様とアンジー様の様子でも見に行きましょうか」
 そして誰もいなくなった。

 しばらく後、居酒屋には私がテーブルにへばっていました。
「他のみんなはどうしたんだい?」居酒屋の女将さんに尋ねられた。
「良くわかりません。私は町長に連れていかれたので、別れた後どうなったのかわからないのです。その後、脳内通信で呼んでも反応がないのです」
 私も皆さんが命の危険にさらされていないのは、隷属のおかげでわかります。しかし、精神的に危機を迎えているのは間違いありません。
「あーいた。ダー様」居酒屋の入り口で元気に手を振るキャロル。そして中に入ってきて私の隣に座った。
「皆さんどこに行っていたのですか」私はキャロルに尋ねる。
「ダー様が町長に拉致された後、すごい形相のナナミさんとダヴィさん現れて、モーラ様とアンジー様を誘拐していきました。私とエーネとユーリさんは、ブレンダさんのおかげで難を逃れたのですか、いつの間にかはぐれてしまったのです」
「今までどこにいたのですか?」
「露天商のところで、売り子をしていました」
「エーネやユーリ、ブレンダはどうしましたか」
「エーネは小路を入ったところでいなくなりました。ああ、少しだけ別の場所に行くと言ってました。たぶん魔族の相談を受けていたと思います。ユーリさんは傭兵団長が直々に連れに来ましたし、ブレンダさんはエリスさんのところに逃げ込んで何か話をしているはずです」
「メア達はどうしました?」
「わかりませんナナミさんに会ったところで別々になってしまったのです」
「あーずるいです」エーネが居酒屋に入ってくるなり叫ぶ。後ろにはユーリとブレンダが一緒にいた。
「ずるいも何も集合はここにしていたでしょう?」
「キャロルさすがにしたたかねえ。居酒屋の前でと言ったつもりだったけど」ブレンダが笑っている。
「そうですよ。約束はちゃんと守りましょう」ユーリはそう言いながら、私の隣に座る。
「みんな必死ね」ブレンダが微笑んでいる。だが、エーネはそうではなかった。キャロルの腕を引っ張ってなんとか割り込もうとする。エーネは諦めて私の背中に抱きついて私の肩に胸を乗せる。
「あー楽ちんですです」エーネが幸せそうに目を細める。
「「ぐぬぬ」」私の両隣の人達が悔しそうに唸った。
「皆さんはどこにいたのですか?」私が言うと、エーネは諦めたのか、キャロルの隣に座り、ブレンダはユーリの隣に座った。
「私は、傭兵団長に兵舎に連れて行かれて、訓練プログラムの見直しを手伝わされました。これで何度目の修正をささせられたか」ユーリはゲンナリしている。
「私はエリスさんのところで薬草の効能を変える方法ががないか試行錯誤させられていました。まあ、直しようがないので、最後は愚痴をきかされていたのですが」
「教えてあげなかったのですか?」
「ええ、お師匠様からも教えないように言われていましたので」
「なぜですか?」
「ハズ様ならその変えた部分をさらに変えられなくしてくるからイタチごっこになるだろうと」
「確かにそうなりますねえ」
「なので愚痴を聞いていました」
「エーネは?」
「魔族の方がこの町に来たのですが、なじめなかったらしくて何とかして欲しいと言われました。魔族のいる里の方が良いのではないかと説得していました」
「なるほど。皆さん町に出て来たら来たで大変なのですねえ」
「居酒屋に逃げ込んでも多分連れて行かれますね」ブレンダが言ったが、あなたは別に大丈夫でしょう。
「そうなのですが、まあ昔のしがらみがあって、たまに来るのですよ、悪いお誘いに・・・」ブレンダが申し訳なさそうに言った。
「やっぱりここに居たわねえ」アンジーがモーラを引きずって居酒屋に入ってくる。
「一番の被害者が到着ですか」
「私は仕方がないのよ。孤児院に寄付という条件があったからね」アンジーは引きずってきたモーラを抱き上げて、私の膝に乗せる。
「ええっどうしてここに置きますか」モーラが私を跨ぐ形で座らされています。
 私は、左右に倒れそうになるモーラを抱き抱えています。本当にぐったりしていて、まるで赤ちゃんのようです。ユーリとキャロルとエーネは、その様子をうらやましそうに見ている。重いだけですよ。
「だってまったり空間発生装置に置いておけば、癒やされて早く目が覚めるでしょう?」アンジーがそう言うと、モーラが目を覚ます。
「おう、わしはもうだめじゃ勘弁してくれ。ああ、堪忍。堪忍じゃ」モーラはそう言いながら空中に両手を動かしている。
「アンジー一体何があったのですか?」
「何もないわよ。ただただ着替えさせられて、サイズを合わせて、服のタックを変えたり戻したり、そして着替えさせられての繰り返しよ」アンジーはそう言いながら肩を揉みながら腕を回している。
「そんなに重労働なのですか?」
「そうね。モーラは特に巻き添えを食った形だからねえ。メアはもうちょっとで戻るわ」
「メアさんもとばっちりを?」
「そうよ。私達を置いて逃げ切れば良かったのに、わざわざ戻って来たからね。案の定、ミシンかけをやらされているわ。でももう少しで終わると思うわよ」
「あら来ましたよ」ブレンダが居酒屋の入り口を見て言った。ヨレヨレになったメアが杖をついて入って来た。
「皆様お揃いで」メアが珍しくヨレヨレだ。メイド服がしわになり、埃にまみれているのを見たことがない。
「大変でしたねえ」
「でも、裁縫のスキルが上達しましたから、良かったです」
「あんた、なんで戻って来たのよ」
「それは、お二人が心配だったからです」
「ありがとうね。感謝しているわ」
「痛み入ります」
 そこに、エルフィ、パム、レイがこれもグッタリして入って来た。
「あちらも大変だったみたいですね」
「それぞれの種族の皆さんに拉致されていましたから」
「エルフィ、パム、レイお疲れ様でした」
「何も~聞かないで~」エルフィが疲れているのはわかる。
「私も聞かないでください。くだらないことで長々と拘束されていただけです」
「僕もです」
「皆さん。ため込んだ愚痴や不平不満を聞かされて大変でしたね。でも、それもまたあなた達だから受け止めてあげられるのです。ただ皆さんが受け止めて貯まった不平不満はは、お酒で洗い流しましょうね」
「旦那様~」「ぬし様・・・」「親方様・・・」3人とも目をウルウルさせて私を見ています。
「あんた本当に中間管理職ねえ」
「私もそう思います。前の世界の悲しきサラリーマンですね」
「そう言わないでください」
「おう、なんかまったり出来たと思ったらおぬしの胸か・・・なんじゃこの格好は」
 モーラは目を覚まして、置かれている状況に驚いて大声を出した。
「モーラよだれを拭いてくださいね」
「いやその前に、どうしてわしはおぬしの胸に抱かれておる?わしは店長とナナミに拉致されて・・・いかん記憶が飛んでいる。一体何があった」モーラが頭を抱えてブツブツ言い出した。
「モーラ大丈夫よ。何もされていないわ。ただただ着替えさせられていただけよ」
 アンジーの言葉にモーラは冷静さを取り戻した。
「おおうそうであった。しかしこの格好は?」
「私が引きずってきてそこに置いただけよ」
「なんでじゃ?」
「モーラには癒やしが必要だったからよ」
「それはすまない」
「そう思うなら早く降りてくれませんか?」モーラは意外に重いんですよ。
「やかましいわ」モーラはそう言って降りるかと思えば反対向きに座り直した。ええっ私はモーラの頭を見ることになるじゃありませんか。邪魔です。ええ、邪魔です。私が怒りのままにそう思ったため、全員が笑っている。
「わかった降りるわ」モーラは渋々降りて空いている私の反対側にすわる。つまり一番遠い席だ。
「この風景も新鮮ですねえ」私はちょっと嬉しかった。いつもは両隣がモーラとアンジーなのです。
「全員揃ったようだから、飲み物と注文を聞こうか」女将さんが声をかけてくる。
「とりあえず飲み物を注文しましょう。食べるものは飲み物が来た時にお願いします」メアが仕切っている。
 全員が飲み物を注文して、その間に食べ物を決めている。女の子が飲み物を持って来て、食べ物を注文して、ようやく飲み物を手にする。
「平穏な日常に乾杯」
「「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」」 ああ、心が揃ってますね。
そこからは、食べ物をそこそこ食べた後、居酒屋の皆さんといつもの他愛ない話を繰り返し、私はひとりで珈琲屋に抜け出す。
 でもエルフィはもう泣かない。だって、私の気配は消えないのだから。それでも酔い潰れて寝てしまったエルフィ。
『おぬし、エルフィのあれが始まった。戻ってこい』
『ええ?エルフィにも私の場所はわかっているのでしょう?』
『今日は飲みすぎじゃ、メアが起こそうとしたがだめじゃ、早う戻ってこい。お開きじゃ』
『了解です』

「戻るのか?」
「ええ、戻ります。今度は平日の昼間に来ますね」
「うちはカウンターバーだからな。別に夜でもいいんだぞ」
「そうでした。そうします。ではまた」
「ああ、またのお越しをお待ちしています」
「では失礼します」

 エルフィを抱き抱え、拍手に見送られて全員で居酒屋を出る。荷馬車を取りに行き、全員で家に戻る。
「幸せですねえ」私は、そう言って、馬車の中でボーッとしている。
「降りなさい。今日は寝るわよ」
「お風呂はなしですね」
「そうよ。あんた達、慣れない人達と話して、いつもは使わない頭を使って疲れているでしょう?」
「ひ、ひどいです」
「エーネ。風呂で寝てあんたの大事な人に素っ裸で部屋に連れて行かれてもいいのね」
「は、恥ずかしいです。でもちょっと良いかもです」
「じゃあみんなで寝られなくてもいいのですね」メアが言った。
「それは、意地悪です」
「いいから早く寝るわよ」キャロルがエーネを連れて部屋に向かう。
 メアはすでに2階の部屋を片付けているようだ。
 全員で毛布と布団を持ち寄って雑魚寝をする。さすがに10人では私の体は取り合えません。私の隣を争ってじゃんけんをしています。その時私はすでに船を漕いでいました。
「仕方がないわねえ」アンジーが私を寝かせて、その隣に寝たようです。どうやら勝者はアンジーとモーラだったようです。
「本当に幸せそうに寝ているわねえ」
 だって本当に幸せなのですから。


Appendix 夢
 私の前には、ひとりの女性が立っていた。ああ、これは夢なのだ。だってその女性はもう死んでいるのだから。
「これまでよく頑張ってきたわね。偉い偉い」
 その女性は、背伸びをして私の頭に手を伸ばし、私の頭を撫でる。私は頭を少し下げて黙って撫でられている。
 私は涙を流している。
「アキ姉さん」私は彼女の名前を呼ぶ。
「あんたねえ。男は簡単に泣くもんじゃないわよ。まあ、泣き虫だったけど、土壇場では絶対泣かなかったわね。よく頑張ったわね。よしよし」
「やっぱり姉さんだったんですね。 怖くて聞けませんでした。私のこの世界に来た時の願いは叶えられたのですね」
「泣かないで。私の願いも叶えられたのだから。おんなじね」
「そうだったのですか。良かった。頑張ったかいがありました」

 そう、それは夢だ。姉さんは死んでいるのだから。

 このおとぎ話は、ここで終わる。
 そう、おとぎ話の最後の言葉、

 「最後は、みんな幸せに暮らしましたとさ」

   で締めくくられた。


終わり


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

最強と言われてたのに蓋を開けたら超難度不遇職

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:71pt お気に入り:887

Chivalry - 異国のサムライ達 -

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:88

中途半端なソウルスティール受けたけど質問ある?

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:14

クズすぎる男、女神に暴言吐いたら異世界の森に捨てられた。 【修正版】

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:997pt お気に入り:11

実力主義に拾われた鑑定士 奴隷扱いだった母国を捨てて、敵国の英雄はじめました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,093pt お気に入り:16,602

魔剣士と光の魔女(完結)

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:16

龍魂

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:15

おちこぼれ召喚士見習いだけどなぜかモフモフにモテモテです

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:67

処理中です...