上 下
212 / 229
第38話 エクソダス 魔族編

第38-3話 怪物の行進(後編)

しおりを挟む
○ 魔法使いの依頼

「さてDTさん。お話ししたいことが何点かあります」紫が私の正面立ってそう言った。
「はあ」
「今回の依頼は魔族からです。そして依頼内容はあの怪物の破壊。もちろん弱点も教えるそうよ」
「弱点があるのなら魔族が倒せているのではありませんか?」
「魔族でもその弱点まで攻撃を通せなかったらしいし、魔族内に弱点を知られたくないらしいわ」
「なんですかその理由」
「知らないわ。弱点は、頭部にある脳だそうよ、そこを破壊すれば良いのだそうだけど」
「魔法の防壁が攻撃を阻止して、しかもこの世界では希少な固い鉄で脳を覆っていると」
「あらよくわかったわねえ」
「あれを見れば一目瞭然ですよ。ただ、体の周囲の魔法防壁の影に隠れた「何か」がわからないと破壊してはまずいのではないですか?」私はモーラと一緒に怪物を見た時に少しだけ解析をした結果を話す。
「破壊には影響がないと思いたいわね」
「それと、あそこまでどうやって巨大化させたのでしょうか。魔族が巨大化の魔法を自分で作ったのでしょうか?だとすれば、この一体だけではなく、たくさん作られていてもよさそうですし、そいつを立ち向かわせれば良いと思うのですよ」
「巨大化の魔法はよくわからなくて、魔法は誰かから教えてもらったと言っていたわね」
「おやおや。誰かから魔法を盗んでそれを応用したのでしょうか」
「その可能性はあるかもしれんな」モーラが何かひらめいたようです。ブレンダがそこで消えた。
「とりあえず、知識のある人に来てもらって、見てもらいましょうか」
 私はそう言って、現在彼がどこにいるのか考えていました。
「そう言われるかと思いまして連絡してこちらに連れてきました」ブレンダがアーカーソンさんを連れてきた。
「おや、お久しぶりです」私は、挨拶よりも、ブレンダがあまりにも察しが良すぎてちょっと恐ろしいです。
「急に連れてこられましたが、一体何があったのですかっ・・て、おお巨大だ。これはでかいですね。いやーデカいです」
 私との挨拶よりも巨大化した魔獣のキメラに目が行くアーカーソンです。さすが魔法使い。
「こんな遠くからで何かわかりますか」
「さすがにわかりませんよ。誰か私を連れて近づいてもらえませんか」アーカーソンさんは、目前の脅威を見ても心躍らせて目がキラキラしています。これだから同業者は。
「では紫さん。お願いできますか?」
「ちょうど良くエリスが来たから、彼女に頼むわ」紫が、ホウキに乗って飛んできたエリスを見て言った。
「エリスさん。彼を連れて怪獣の周囲を旋回してもらえませんか?」
「わかったわ。そうそう魔法使いの里が攻撃をするのだけれど、さらに町の魔法使い達が援軍に来るらしいわよ。まあ、理由が楽しそうだからって事だけどね」エリスが苦笑いしている。
 エリスが、アーカーソンを乗せて怪物の回りを旋回している間に少しだけ作戦を検討する。
「問題なのは延長線上にハイランディスの都市と水の神殿があります」
「正確にわかりますか?」私はメアに尋ねる。
「ハイランディスの都市はかろうじてぶつからないかもしれませんが、山や谷を通過する時に道を修正しながら進んでいます。なので、最悪ビギナギルもぶつかる可能性があります」メアが分析結果を報告した。
「その先には元魔王の里や氷の神殿もありますからねえ、近づけさせないところで倒したいですね」
 そこでエリスがアーカーソンを連れて戻って来た。
「巨大化の魔法のベースは、やはり私の魔法のようです。それよりもあの怪物の体中に設置型の爆裂魔法が大量に仕掛けられていますよ。起爆すれば周辺は吹き飛んでクレーターになるくらいの威力がありそうです」
 アーカーソンがビックリしながら状況を説明してくれた。
「さらに巨大化の魔法ですが、魔法の属性を人族の魔法から魔族の魔法に変えていますね。一体どうやってやるのでしょうか」アーカーソンが首をかしげている。ああ、変換の方法は知らないのでしたねえ。
「誰かが魔法の変換テーブルを教えましたねえ」私はブレンダや紫に顔を近づけてヒソヒソと話した。
「あの男ですか?」紫が嫌な顔をする。
「その可能性が高いですが、 証拠がありませんね」
 あの時手伝った魔法使いにしか教えていない変換魔法です。でも、惑星に移転したら、全ての魔法使いが必須となる魔法なので、今から全員が知っていてもおかしくないのです。当然誰がリークしたのか特定はできなさそうだ。
「このまま進んだらまずいのではありませんか」
「まだかなりの距離があります。とりあえず魔族領を越えるか越えないかのところで迎撃するしかないでしょう。まあ、まだ誰も住んでいないところなので、クレーターが出来ても問題なさそうです。魔法使いの里にまかせましょうか」
「確かにな。空中戦な、機動力のある魔法使いの里に任せた方が良いじゃろう」
「エリスさんお願いします」
「わかったわ」
 魔族領のライン当たりで魔法使いの攻撃が始まる。しかし当ててはいるが簡単に弾かれている。一度戻って、紫の指示を仰ぎ、再度攻撃を再開する。戦法を変えて、体中につけられた設置型の爆裂魔法を攻撃して、誘爆しない程度に魔法をぶつけて解除を始めた。
 さらに足に集中攻撃を行い、足止めをしようとするが、攻撃が通らない。防御魔法や装甲の薄い脇の下、膝裏など関節部分を攻撃するがその歩みはとまらない。
「うむ、爆発の魔法は誘爆させないように無力化したようだが足止めができないとか、どうなのじゃ」モーラが私を見て首をかしげている。
「魔法の威力より怪物の装甲が勝っているのですね。これは止められませんねえ」
「魔法使いの里からよ。何とか足を止めてくれと。可能なら倒してくれって。このままだとハイランディスの都市が最初に破壊されて、次にビギナギル。当然塔の近くのファーンやベリアルにも被害が出るわよ」
「あんたの秘密兵器の出番ね」
「本当に魔法使いの里は身勝手なのですね。使うなと言ってみたり、やっぱり使ってとか。都合がよすぎませんか」
 私は口ではそう言ったが、まあ、すでにやる気になっていましたけどねえ。
「だからといってこのままならファーンも無くなるわよ」エリスが文句を言った。
「わかっていますよ。魔法使いの里が使うなと言っても使いますけどね。でも、天界に頼んで聖なる柱とやらで攻撃してもらった方がまだいいではありませんか?」私はアンジーを見た、
「今回は、いや今回もこれからも天界は動かないわよ」アンジーはさらりとそう答える。
「族長会議の座興には簡単に使うのにですか?」私はあきれている。
「例え怪物だとしても殺さないんですって」アンジーもあきれている。
「そういうことですか。ということは、私は殺してもよかったのですかね。さて、愚痴もこの辺にして、エリスさん。魔法使いの里から正確な地図をもらってください」
「やる気ねえ」アンジーが笑って言った。
「ハイランディスやビギナギルが被害に遭ったらこれからの計画に支障をきたします」
「むしろそれを助けてこちら側につけることができるのではなくて?」紫がそう言って私を見る。
「弱みにはつけこみたくないのです」
「どこまでいっても公平なのね」紫があきれている。
「どこから狙うのが一番正確に打ち抜けますかねえ」私はメアを見た。
「頭部が弱点ですから、谷から昇ってくる時に上から狙った方が狙いはつけやすいですが、地形的にすでに無理です。できるだけ頭部の高さに近づけるのがよろしいかと思います」メアの補助脳はそう言った。
「最適な場所を言い淀むあたり交渉が難しそうなところなのですね」
「はい。ハイランディスの地方都市の城塞都市の壁の上の見張り塔が最適ですね」
「交渉は魔法使いの里にまかせて、あんたは攻撃に集中しなさい」
「さすがに我々が見られてはまずいでしょう。中に入る時に一騒動起こさないとまずくありませんか?」
 私達は、怪物を背にハイランディスの都市に向かう。
「あれ?ブレンダはどこに?」
「先に都市に潜入すると言い残して消えましたよ~」エルフィがそう言った。
「あんた、馬車で移動して、門の近くで待機するわよ」
「ええ?どうしてそこまで話が進むのですか」
「いいから急いで」
「出番も無いまま退却です」エーネが寂しそうに言った。
 全員でハイランディスの一都市のそばまで移動して、その間に私は、あるものを取りに家に戻った。

○地方都市の騒動
 ブレンダがその都市の裏の方に現れた。そして、裏の方を水を得た魚のように薄暗がりの中を歩いて行く。
 スラム街の中も動揺しているらしく、それぞれが何かをささやき合っている。その中をブレンダは歩いて行き、少しだけ厚い扉をノックして、何かの符丁を告げ、中に入って行く。
「お久しぶり。今の状況解っているのかしら?」
「ああ、逃げる算段に入っているところだ」
「逃げなくても大丈夫なのよ。何とかなるわ」
「あんな化け物がここを襲いに来るんだ。逃げるしかないだろう」
「退治してくれる人がここに来るのよ」
「本当なのか?」
「それでね?お願いがあるの。ちょっと城下で騒ぎを起こして欲しいのよ。できるかしら」
「ああ。あんたには、もめ事を収めてもらった恩があるからな。 お安い御用だ」
「門の兵士を巻き込んで、城壁を守る兵士の注意をひいて移動させてほしいのよ。ただし捕まらないでね」
「長引かせないとまずいんだろう?」
「城壁の上の見張りの塔にこの件が終わるまで人が近づかないようにしたいのよ。さらにそれを気付かれないようにしたいのね」
「なら大丈夫だ。見張りの兵士達の危機感をあおってやればそれは何とかなるだろう」
「じゃあお願いね」
 ブレンダは、その男の肩を叩いて一緒にそこから出た。別れたあと裏道に入って周囲を見回してそこから消えた。

 もうじき朝が来る。怪物の動きは単調でゆっくりではあるが確実にハイランディスの都市に迫っている。夜のためにその姿は見えないが、ほんの微かな地響きが単調に繰り返されている。
 馬車で待機していた私達のところにエリスともう一名、街の魔法使いがホウキに乗って飛んできた。
「魔法使いの里からハイランディスの国王に上申して、その都市での騒動は黙認するそうよ」
「おやあの国王、随分と弱腰になったわね」アンジーが辛口だ。
「勇者達からの進言もあったかららしいのです」エリスと一緒に来た魔法使いが付け加える。
「では、都市に潜入しましょうか」紫まで楽しそうだ。
『マイハズ様。聞こえますか?』
『聞こえています。急に消えて街の中に行ったそうですが、大丈夫ですか?』
『はい大丈夫です。もうじき混乱が起きて街の中に入れます』
『無理していませんか?』
『大丈夫ですよ。知り合いにお願いしただけですから』
 協力者達によって、都市の中に火事と喧嘩の騒動が起きて、城壁の兵士達までもそちらに引っ張られていく。
『状況は作りました。私も門のところで待っています』
 ブレンダの声に応じて、近くに隠れていた我々は、門に移動する。ブレンダが門を開けて通してくれた。
「最悪あんたが失敗したら、街の人を誘導することになるわ。私達はここで待機して準備しておくから。安心して勝負しなさい。でも絶対倒すのよ。よろしくね」アンジーがそこで手を振る。
 私、メア、エルフィ、ブレンダと紫、エリスが城壁を昇る階段、そして梯子を登って、さらに見張りの塔まで登った。私の背中には袋に入ったロングライフル、メアも同じように袋に入ったレールガンを背負っている。どちらもかなり重いんですよねえ。
「ご主人様、私が持っているのがレールガンですよね。そちらは?」
「壊れた時の予備ですよ」私は言い訳をしました。
「何もお聞きしない方がよろしいですね」メアは当然察している。
「そうしてください」
「あんたまた何か企んでいるわね」エリスが後ろから疑い深い声で言った。
「大体そんな事だろうとは思いましたけど」紫は笑っている。
「ハズ様すごいですねえ。秘密がいっぱいです」ブレンダもワクワクしている感じだ。
「何をするつもりですか~?」それでもエルフィはマイペースです。
 見張りの塔にはもちろん誰もいないので、私は自分の持って来たライフルを床に置いて、怪物の見える方向の壁を少し壊して、そこに固定する。
「では、軸線に来るまで少し待ちますか」
 私は設置した後、弾の確認とライフルの稼働確認をしています。
「前回の雨どいとは~形状が違いませんか~?」エルフィが首をかしげている。
「これはレールガンの形状とは思えませんが」メアも首をかしげている。
「私の記憶でもこれはただのライフルだと思うのですが」ブレンダもそう言った。
「レールガンの原理は電磁界を作って、そこから金属の球を打ち出すのです。このライフルは、銃身に磁界を発生させて中を球が通過している間に加速して命中精度を高めています」私は適当な事を言っています。
「ご主人様おかしいです。磁界はそんなに近づけてしまうと発生しません」メアが私をジッと見つめて言いました。
「しまったバレた」
「これはレールガンではありませんね?」ブレンダがちょっと冷たい目で見て言いました。
「はい」
「失敗したらどうするつもりですか」紫までちょっと怒っています。
「レールガンもちゃんと用意していますよ」
「それを使ってみたかったのですね?」メアが詰問口調です。
「・・・はい」私の言葉に5人とも苦笑いしている。
「怪物の足元に人がいますよ~」エルフィが叫んだ。
「大体想像つきますが、誰なのか見えますか?」私はため息をつきながらそう尋ねた。
「そんな事する人はひとりしかいませんでしょう。ジャガーさんです」メアがそう言ってため息をつく。
「ブレンダ。彼が足に攻撃をしたら回収してください」
「大変面白い人ですね」ブレンダは笑って見ている。
「まあ、あのチャレンジ精神は見習わないといけませんが、いつもやりすぎです」
 私もどう言っていいのか。というか彼はどうやって嗅ぎつけたのでしょうかねえ。
「あの方は、不死身な人にはうってつけの精神をしていますから」メアが言った。
「じゃあそばに行っていますね」ブレンダがそう言って消え、ジャガーのところに現れる。
『ブレンダ。あなたも無茶しますね』
『どんな感じの人なのか間近で見たいですから』ブレンダが私達に手を振っています。
『女模倣使いの面目躍如ですね』メアが手を振りながら言った。
『本当は危険なところに行かせたくはないのですが』
『ハズ様はブレませんね?でも、彼をすぐに回収しないで、あえて攻撃させるのですよね』
『彼の攻撃で歩みを止められるのであれば、それでも良いのですよ』
 ブレンダはジャガーの肩をトントンと叩いた。驚きもせずジャガーが振り向く。
「おや、ブレンダさんではありませんか。ここは危険ですよ」
「ハズ様からあなたが攻撃した後、回収しろと言われています」
「それは助かります。この後死んだら、フェイさんからお小言を喰らうと覚悟していました。ではよろしくお願いします」
 ジャガーはブレンダに頭を下げると、怪物に向き直り、拳を構え直す。
 やがて、怪物はジャガーの前に現れ、ジャガーは、怪物の右足が着地した瞬間、一瞬で怪物に接近して打撃を加えた。怪物はその衝撃に一瞬とまり、足下にいるジャガーを見て、踏みつぶそうと右足を上げる。ブレンダがジャガーを確保してそこから消えた。
「それでも一瞬だけ止めましたねえ」私はその様子を遠目に見ながら感心した。
「はい、どのくらいの打撃力なのでしょうか」メアも感心している。
 しかし怪物の行進は止められない。
「もどりました」ブレンダが戻ってくる。
「どうしますか」メアが私を見る。
「まあ、やるしかないですね。もう後がないので。もっともモーラも待機していますから結構気楽ですよ」
「ハズ様やる気満々ですよね」ブレンダが笑っている。
「依頼を受けたら達成しないとなりませんよ」
「なるほど」
『さて、かなり距離はありますので、モーラに乗せてもらって空中から射撃しましょうか。モーラ私を乗せていってください。そして、私の代わりに戦って・・・』
『何を言っておる。おぬしが失敗したらやってもいいがなあ。いや残念じゃ』
『ドラゴン対怪物をぜひ見てみたいので、わざと失敗しますね』
『おぬし。今ちょっと考えたな?わしが危険になったのを助けたら面白いかなとか思ったであろう。おぬしがダメだったらわしが出る事になっているではないか。順番が逆じゃ』
「残念です」ユーリ以下全員ががっかりしている。
「わしを何だと思っているのじゃ。わしは怪獣ではないぞ」
 そうして、朝日を正面から浴びながらその怪物は、都市から続く平原に怪物は出現した。
「さて行きますか。私の攻撃後、魔法使いさんたちは総攻撃してくださいね」
 私は念のため段取りを再確認した。紫さんとエリスさんよろしくお願いしますよ。
 私はまだ射程距離ではないが、ライフルを構えるために腹ばいになってみる。そこにモーラがみんなを手に乗せて見張りの塔までやってくる。不可視化しているとはいえまずくないですか?
 全員を塔に降ろして自分も塔に降りる。しかし、人が入りすぎてスペースが全くありません。
「なんだかんだとちゃっかり作っておったのではないか」
「地下室の倉庫にキャロルの鎧よりも奥にあったという事は、あの時すでに作っていたのね」
「ご主人様は封印していましたが、 試作は何回かされておりました。当然試射も」
「メアさんばらさないでください」
「相変わらずね。さてもう少しで夜が明けるわ。いけるのね」
「ええ、逆光じゃなくて助かりましたよ」
「メアさん距離お願いします」
「あと5キロ」
「エルフィ、リンクしてください」
「ラジャー」
「内圧上昇。規定値クリア電磁パルス想定以上コイル問題なしオールグリーン」
「なんかブツブツ言っていますけど。何言っているかわかりません。その、独り言は恥ずかしくないのですか?」
 エーネが素直に聞いてきた。
「まあ言わせておきなさい。自分で雰囲気作らないと盛り上がらないのよ」アンジーが笑っている。
「そういうものなのですか?周りから見ると怪しい人にしか見えませんけど」キャロルが言った。
「やめてあげて~旦那様の耳が真っ赤です~」
「だったら言わなきゃよかったのではありませんか?」ユーリが私にトドメをさした。

「2キロ!」メアが淡々と距離を告げた。私はそこでトリガーを引いた。
「発射!!」
「メアさんどうですか?」
 私はエルフィのイメージにリンクして見る。熊の頭部を覆った鉄の帽子の左半分が円形にえぐられて無くなっていた。しかしまだ動いているようだ。私は、ライフルを曲げて空の薬莢を排莢して、次弾をポケットから取り出し装填する。
「頭が半分吹き飛びました。しかしそのまま動き続けています。第2射を弱点である肩の外骨格の内側に打ち込めますか」
「誤射修正完了。て一つ」私は叫んで2発目を発射した。
「第2射命中。左肩の装甲板破壊。魔法使い達が一斉にそこに攻撃を集中させています。でもまだ動き続けています。次は足を止めるようにお願いします」
「はいはい~おっしゃー」私は調子に乗って大声で叫んで、ライフルに弾丸を込めて3発目を発射した。
「第3射命中。右足破壊。体が傾いていきます。倒れました」
「動いていますか?」
「痙攣しています。もう動いていません」
「じゃあとっておきの弾丸で」私はポケットからちょっと特殊な弾丸を取り出して、装填する。
「は?なによそれ」
「榴散弾です。いきますよー」
「第4射命中。胸部というか体全体が爆散しました」
「はい終わり~」私は、ライフルに布を巻き付けて
「ちょっと待ちなさい。最後のあれはいったいなんなのよ!」
 エリスの叫びがこだまするなか、我々はそこから撤収した。
 こうして怪物の行進は止められた。なお、遺体というか肉片は、残らず魔法使いの里が回収したらしい。

○後日談
 数日後エリスさんが家に来た。正確にはメアが伝言を頼まれたのだが、私が在宅していたので、面倒でそのまま連れてきたのだった。
「あの時の攻撃について色々聞きたいのだけれど。教えてもらえるかしら」
「ノーコメントです」
「最後に使ったあの弾はなにかしら」
「ノーコメントです」
「里にはそう言っておくわ。里としては動かないけれど、正体不明の魔法使いに襲撃されても知らないからね」
「モーラの縄張りで何か事を起こすと、どうなるかをよく考えてから行動してと言っておいてください。この場所はそういう場所です。もっとも魔法使いの里の誰かが手を出すためには理由が必要ですよね」
「はあ。あんなレールガンとも違う隠し玉をいつ用意していたの?」
「あれはここに来た当初に用心のために作っておいたものですよ。今は使う必要がないしろものです」
「不用品だというのね」
「あの時の雨どいレールガンをちゃんと作り直してみましたけど、魔法で攻撃する方がエネルギー効率はいいわ、命中精度は高いわで、あまり意味がありませんでしたからね」
「今回も使えたら活用できたじゃない」
「あそこを飛び回って攻撃していた魔法使いさんたちが魔力を集中させて一点攻撃していれば、そもそも私のライフルもレールガンも出番はありませんでしたよ」
「あえてアドバイスしなかったのは、あのライフルを打ちたかったからなの?」
「魔法使いの里にこれ以上戦闘テクニックを持たれたら、私の身が危ないですからねえ」
「ああそういうこと」
「そうです。もっとも今更なので教えても良いですよ」
「まあ機会があれば教えてあげるわ。あの魔法使い達は、馬鹿騒ぎがしたいために集まってきただけだし」
「協力し合うとか微塵も考えていない感じでしたからねえ」
「協力しあう?もっとも魔法使いから縁遠い考え方だわ」
「そうでしょうねえ」
「もうふたつだけ質問するわ」
「え一ーーー。エリスさん質問多すぎです」
「あの弾のエネルギーはどこから調達したのかしら。そう何発も作れる物ではない気がするのだけれど」
「魔族から魔鉱石を借り受けましたよ。非常に協力的でした。返しましたけど」
「そうなの。それとどうして怪物を粉々にしたの?偶然ではないわよねえ」
「それは言いません」
「良い回答だわ。ありがとう。またあんたに救われるとはねえ。ああ、豪炎の魔女が感謝していたわよ。街を守っていただいてありがとうございました。ってね」
「その言葉が一番うれしいですね」
「あんたはいつもそうなのよねえ。わかったわ。そう報告しておく。もう少し結束力をつけろとね」
「よろしくお願いします」
 そう言ってエリスは帰っていった。
「おぬしは、あの男の研究を守りたかったのであろう?」モーラが私を伺うように見ている。
「モーラにはわかりましたか。盗まれたとはいえ彼の貴重な研究をあの里には渡したくなかったのです」
「だろうと思ったわ」アンジーが笑って言った。
「もうああいうのは勘弁してほしいのですが・・・ 本当に時間がないのですよ。体が幾つも欲しいくらいなのですから」
「あんたを何体作っても、あんた以外は全員さぼるでしょうけどねえ」
「さすがの私も今回のお引っ越しだけは頑張るでしょう?もっともこれ以上は分担できないですがねえ」
「遺跡を使うのを諦めたら?」
「どうやらあれを使う事になりそうなのですよ」
「そうなの?」
「なので本格的な起動のための準備を急いでもらっていますよ」
「あとは何をしているのだったかしら」
「人族と魔族の説得の下準備ですかねえ」
「本当に力技ばかりねえ」
「引きこもりにはきついですね」
「これだけあちこち飛び回って・・・引きこもり?」
「だからつらいのですよ」
「そうじゃったか」

続く
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

最強と言われてたのに蓋を開けたら超難度不遇職

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:887

Chivalry - 異国のサムライ達 -

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:88

中途半端なソウルスティール受けたけど質問ある?

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:14

クズすぎる男、女神に暴言吐いたら異世界の森に捨てられた。 【修正版】

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:760pt お気に入り:11

実力主義に拾われた鑑定士 奴隷扱いだった母国を捨てて、敵国の英雄はじめました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,121pt お気に入り:16,603

魔剣士と光の魔女(完結)

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:16

龍魂

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:15

おちこぼれ召喚士見習いだけどなぜかモフモフにモテモテです

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:67

処理中です...