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第38話 エクソダス 魔族編

第38-6話 魔族の説得(肉体言語)2 

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○3戦目
 私はレイをユーリの膝に移して、立ち上がりました。するとメアがウォーミングアップを始めています。
「メアさん、今回は・・・」
「どうやら相手は、私に因縁のある方のようですので、私が行って参ります」
 そう言ってメアは、相手のベンチを見ている。
 そこにはに立ち上がっている蛇の体の女がいた。しきりにメアに向かって叫んで挑発しているようだ。
 開始線にメアと蛇の体の女が対峙する。
「よくも私の娘に容赦ない攻撃をしてくれたな」
「そちらの無礼な発言の方が問題ありませんか?」メアは多分補助脳が話をしている。
「私の娘が無礼を働いただと?ありえないわね」
「なにを吹き込まれたかはしりませんが、それが真実だと思っているのであればそうなのでしょうね」
「なんだと?」
「反省を促しましたが、しつけができていませんでしたよ」
「反省を促す?腕を折っただろう?」
「はい。それでもその後ちゃんと治療しましたし」
「じゃあ同じ目にあってもいいんだね」
「私が何かお気に触る事でもしましたか?」
「その態度が気に入らないねえ」
「それは失礼しました。どのような態度をとればよろしいでしょうか?」
「あんたの存在自体が気に入らない。消えてもらうよ」
「残念ですが、それはできませんね」
「なら無理矢理にでも消してやるわ」
「あなたには無理でしょうね」
「ふん」
 両者の雰囲気にアナウンサーもちょっと戸惑っている。
「それでは第3戦の開始だ。静謐なる戦闘メイド、メアさん。そして、対するは緑青鱗のナーガリア」
 魔族側も対して盛り上がってはいなかった。あまり有名ではないらしい。
「では、両者試合開始!」
 戦いは始まった。ナーガリアは、上半身を伏せて地を這い、体をうねらせながら近づいてくる。メアは動きは見えているが、攻撃の狙いがつけられない。ナイフを投げてみるが、跳ね返している。雷撃も炎も効いた様子がない。決定打のないまま接近をゆるしてしまう。
「つかまえた」体に巻き付いてその魔族は顔を見合わせて笑った。しかしメアは表情を変えていない。
「まずは、その服を破こうかね」嬉しそうな表情で爪を伸ばしてエプロンドレスの肩ひもを切り裂いた。メアの表情が一瞬だけゆがみ、無表情にもどる。
「おやあ、一瞬だけ表情が変わったわね。身動きもできず、私のなすがままじゃないかい。 あんたそんなものなのかい?つまらないねえ」
 メアは、自分の体に力を入れて両腕を少しだけ自由にして、手を魔族の体に当てて赤熱させる。肉の焦げる匂いがして、その魔族はメアから離れる。
「わざと巻き付かせたのか」
「ええ、手を当てないと使えない技もありますから」
 メアの手が赤熱している。
「私の魔法防御は完璧のはず」焦げている自分の体を見ている。
「私の服に密着するという事は、あなたの纏っている防御魔法の魔力を吸われるという事ですよ。自分の娘からその事を聞いていなかったのですか?まったく学習しませんね」
「吸われた箇所に魔法を使ったという事か」
「魔法防御の一部分を一時的に無効化しただけですから今は元に戻っていますよ。あなたの防御が無効化されたわけではありません」
「そんな事まで教えていいのか?」
「あなたが不安そうでしたから。それでは全力で戦えないでしょう?」
「なめられたものだな」
「なめているわけではありませんよ。フェアに戦いたいだけです」
 そして、メアは両手にナイフを構える。ナーガリアは、一瞬魔法の詠唱をして、雷撃をメアに打ち出す。
 メアは、ナイフを投げて雷撃にぶつけて中和させた。
「なんだと?ナイフに雷撃が吸われたのか?」ナーガリアは、その様子を見て今度は炎を打ち出す。メアはそれを避けながらナーガリアに近付いて行く。しかし長い尻尾でメアを牽制しながら次々に氷、雷を打ち出し、メアは近づけずに回避を続ける。メアは、回避をしつつ、相手にナイフを投げるが、それも避けられている。
 しばらくは単調な攻防が続き、両者は一度停止する。
「魔法を撃ってこないのかい?」ナーガリアは、両手を背中に隠してメアを見る。メアはナイフに雷撃を込めて、ナーガリアに投げた。
「なんだそのやる気のないナイフは!」怒り出すナーガリア。そして、そのナイフを少し動いてかわそうとする。しかし、ナイフがナーガリアに方向を変えた。
「なんだと?」ナーガリアは、さらに横に動くが、ナイフはさらに軌道を変えてくる。しかし、最接近した時にかわすと横をナイフがすり抜けていく。
 メアはすでに次のナイフを投げていて、今度は避けきれずに左の脇腹の横ギリギリをナイフが通過した。そこでナイフは、背中に張り付いて爆発をする。ナーガリアは、背中に衝撃を受けて前のめりになった。しかし、被害はそうんなにない。
「こけおどしか?」背中を気にしながらナーガリアは、メアを睨む。
「今のは確かにそうですね」
「近接戦闘に変更だ」ナーガリアは、背中に隠していた3本の棒をつなぎ合わせて1本の槍にする。
「なるほど、いつ出そうか考えていたのですね」
「魔法だけで倒せないとわかったからな」
「これでやっと、私もナイフを使えますね」メアは雷撃を込めたナイフをナーガリアに投げる。
「そんなもの槍で落とせるわ」ナーガリアはそう言って、槍でナイフで弾く。しかしナイフは地面にたたき落とされた反動で飛び上がりナーガリアを襲う。
「なんだと?」ナイフを槍で弾けば弾くほどナイフが向かってくる。あきらめてかわすと、今度は体に張り付いて爆発をする。
「これでは、一方的すぎますが、仕方ありません」
 メアは今度は太い針のような武器を手にする。そして、それを真正面からナーガリアに打ち込む。
「それしき」ナーガはその針を槍で弾こうとするが、逆に槍が弾かれる。真っ直ぐにナーガの胸に突き刺さり、まだ振動している。
「なんだこれは?」
「倒せませんでしたか。残念ですが威力が足りなかったようですね。それは振動する針です。本当ならあなたの体に潜り込み肉を引きちぎる予定でした」
「ふん、そこまで見抜いていたかい」
「何も見抜いていませんよ」
「そうかい?」ナーガリアは、そう言って全身に力を込め、体が一回り大きくなり、上半身も鱗で覆われ顔をやや龍のように変化した。
「じゃあ再開だ」そう言って、メアの体に尻尾が飛んでくる。メアはかろうじてかわすがガッチリと体に巻き付かれれて、さきほどとは違い、メアは苦しそうにしている。
「さて、魔力を吸収する素材と私があんたの魔力を吸収するのとどちらが早いかねえ」ナーガリアは、笑いながら、メアの表情を見ている。
 メアは、少しだけ動かせる手を使って、さっきの太い針をナーガリアの体に打ち込もうとする。しかし、できない。
「私の体は龍ほどでは無いが、固いからねえ、さっきの魔法程度では焦がすこともできないよ」ナーガリアは、鼻で笑っている。
「そうですか。なら」メアは袖口から太いナイフを出し、柄についているスイッチを入れて高速振動するナイフの刃をナーガリアの硬い皮膚に押しつける。ナイフは、簡単にその鱗の中に深々と刺さって、そこから勢いよく血が噴き出し始める。ようやく痛みに気づいたのか慌ててメアの体を離して、ナーガリアは、メアから離れる。
「なんだそのナイフは」ナーガリアは、メアが手に持っている自分の血がついたナイフを見て言った。
「超振動ブレードのナイフです。使う機会はありませんでしたが、固い物を切る時には有効ですね」
「うぉぉぉ!」ナーガリアは、槍を使った攻撃に転じる。しかし、メアは槍をかわしてナーガリアの死角に回り込む。そこには尻尾が待ち受けていて、尖端でメアを攻撃し始める。それをかわすと槍が、槍をかわすと尻尾が攻撃をしてくる。攻撃が単調になり、メアが動きを止める。
「まだ何か隠してますね?」
「わかるかい?そろそろおしまいさ。まあ、一方的にいたぶれなかったのは残念だが、殺せれば満足だしねえ」
「ではどうぞ?」メアはそう言って両手をだらりと下げて相手を挑発する。
「じゃあいくよ」ナーガリアは詠唱して、自分の尻尾全体を光らせた。ナーガリアは、詠唱が終わると槍で攻撃をして、メアの行動を制限している間に、メアの周囲に尻尾を這わせてメアを囲んだ。
 メアの立っている地面に魔方陣が浮かび上がる。
「これは」メアはその魔方陣を見て、声を出した。
「あんたを拘束してしかも魔力を吸収する魔法さ。あんたを研究して倒すために考えたんだよ」
「なるほど、頭を使ったのですね」拘束されたメアが、無表情に答える。
「あんたがホムンクルスで魔力で作られていると聞いたからねえ。戦っている最中に魔法の効果を確認してみたのさ」
「それはすごいですね」メアはそれでも表情を変えない。
「あとどの位持つのかねえ」
「そうですね。この魔方陣なら1時間くらいですか」メアは周囲を見ながら言った。
「そんな事がわかるのか」
「魔力の吸収する力が大体わかりましたから」
「なら、もう少し効力を上げようか」ナーガリアは、嬉しそうにそう言って、魔方陣がさらに眩しく光り出す。
「ただ、私が反撃しなければですが」メアは目を閉じてそう言った。
「その拘束魔法は、あんたの力じゃ到底破壊できないし、魔法自体も外から解除しないと無理だ。反撃なんてできなきるわけがない。虚勢を張るなよ」ナーガリアは、嘲笑しながら言った。
「あなたが私の事を調べていたように、私も戦闘中にあなたを調べて、仕掛けていましたよ」メアは目を閉じたままそう言った。
「そんな事が出来る訳がない」
「わかりませんか?あなたが今立っている場所は、最初の攻撃の場所です。そこに戻ってきていますよ」メアが目を閉じたままあごで位置を示した。
「だからなんだ?」
「私のナイフはどこにあるでしょうね?」メアは目を閉じたまま笑って言った。
「は?」ナーガリアは、驚いた。そして周囲を見回す。
「では、反撃します」
 メアはようやく目を開いて指を動かした。周囲にばらまかれていたナイフは地面に立ち上がり、そして地面に刺さる。ナイフはナーガリアを囲んでいて、ナーガリアを中心に魔方陣を形成する。電磁波の檻。体の生体電流を無効化して動きを封じている。
「こんなものここから逃げれば」そう言ってナーガリアは、メアを囲んでいる尻尾をそのままに体を魔方陣から動かそうとする。しかし、体が動かない。
「拘束魔法もかかっていないのになぜだ?」ナーガリアは、驚いている。
「さてどうしてでしょうねえ。ではそのまま雷に焼かれてくださいね」
「私には炎だって雷だって効かない。鱗が固いからな」ナーガリアは、自信を持ってそう言った。
「そうなのでしょうねえ。ただ、えぐられた傷がまだ癒えていないのではありませんか?」
「なに?」ナーガリアは、メアに傷つけられた場所を見る。確かに傷が癒えていない。
「治癒が遅れている?」
「はい、光の属性を付与して攻撃してあります。じゃあ、少しは焦げてくださいね」
「そんな程度の傷で・・・なんだと?」ナーガリアは、その傷がドンドン変色していくのを見た。
「あなたは今、マイクロ波という電磁波の中にいます。血が沸騰し始めているのがわかりますか?」
「だが、おまえの魔力が無くなれば私の勝ちだ」
「残念ですが私の魔力を吸収するには時間がかかりすぎますね、あなたはあと十数秒で内側からはじけ飛びますよ」
 メアの目は冷たくナーガリアを見ている。ナーガリアは、手の血管を見つめ、頭にも手を当てそして理解して絶望した。
「わかった。私の負けだ」
 ナーガリアは、うなだれてメアの魔方陣を消した。メアは同時にナーガリアの周囲の魔方陣を消した。
 ナーガリアは、メアを見たあと自分の手を見て、何も言わず審判の方に向かう。
「勝者メア!」そのレフェリーのコールを聞いて、メアはお辞儀をしてから、こちらに戻ってくる。
「メアさんよく頑張りました」倒れそうになったメアを私は抱きとめて、頭を撫でる。
「ありがとうございます。頭を撫でてもらったのは初めてかもしれませんね。とても新鮮です」
「もっと撫でましょうか?」
「ご主人様。さすがに魔力が切れそうですので、ここで棄権します。よろしいですか?」
「ああ、補助脳にバトンタッチするくらいに自閉モードなのですね」
「はい、あちらでエルフィ様に回復してもらいます」
「エルフィに回復できますか?」
「魔力変換を覚えたみたいですよ」
 そして、メアもそこで次の試合を棄権した。

○第4戦
 メアがエルフィの膝で眠り始めたのを見て、パムがウォーミングアップのストレッチを始めた。
「さて。ここまで来たのですから、4戦全勝してぬし様につながないと英雄ドゥーワディスの血を引く者としては、その誇りを賭けて戦わないといけません」パムが独り言を呟いた。
 私は立ち上がって、パムを軽く抱きしめてその両肩を叩く。
「ぬし様どうしてそれを」パムが驚いている。それはドワーフの戦いの前の祈りの儀式だそうだ。
「ある人から教えてもらいました」
「そうでしたか。では行って参ります」
「絶対無理をしないように」
「わかっています」
 パムは私に背を向けて、右手を上げてから開始線に向かう。
 相手側のベンチからは、パムが歩いてくるのを見て、一人が立ち上がって開始線に向かって歩いてくる。
 二人は開始線に立つ。パムは剣をすでに手にしている。そして相手は真っ赤な髪の虎顔の魔族。
「さあ第4戦は、すごいことになった!伝説の豪腕ドゥーワディスの孫、豪腕の戦乙女パムと」
「対するは、魔族5傑の中でも最強とうたわれる。無敗を誇る炎のたてがみ、炎の虎レオン!!」
 そこで魔族からものすごい歓声が沸いた。「レ・オ・ン」「レ・オ・ン」のコールが巻き起こる。それを聞いて嫌そうな顔をするレオン。
「パムよすまないな。たぶん3戦とも負けて期待もあるのだろう。俺としてはあんたとやるのを楽しみにしていただけなんだ」
「いいえ、ぬし様からは、敵地で戦う時は四面楚歌が当たり前と言われていましたので」
「シメンソカ?」
「ええ、敵陣に孤立した時に周囲から敵の歌う歌が聞こえ、その位味方がいないと言うことわざだそうです」
「そうなのか。だが、私としては正々堂々と戦いたい」
「そう言っていただけてありがたいです」
「それでは、第4戦開始!!」
 二人は剣を向け合った。しかしレオンからある提案がされる。
「あんたの事は知っている。俺はドワーフにも知り合いが多くてな。さっき言ったとおり一戦交えるのが楽しみだったのさ。俺としては、最初にあなたと戦ってみたい勝負がある。どうだい?」
「そうですか、内容を聞いてからでないとお答えしようもありませんが」
「ひとつは、ドワーフの里では、互いに素手で戦っていたと聞いている」
「ああ、ストローネですか。一応ルールは何段階かありますが」
「アルティメットとかいう制限のないやつに決まっているじゃないか」レオンはそう言って笑う。
「いいのですか?私はあの戦いでも負けたことはありません」
「どういうものかやってみたいのだよ」
「じゃあそれは前哨戦という事でもいいですよ。私の方にかなり有利なので負けられませんが」
「じゃあやろうか」
 レオンは、直接対峙してみるとパムの2周りも大きい。パムは、いつもどおりの体格のままだ。そして、持っていた剣を地面に刺し、さらに腹に巻いている鎖状になった剣を取り外して柄を握り、一振りして魔力を通して一本の直刀に戻して、それも刺す。
「面白い剣だな、さっきの剣士の話を聞いていたが、それもあの魔法使いが作ったのか」
「はい、私の日頃の行動パターンを考慮してぬし様に作っていただいた剣で非常に気に入っております」
「気に入っているからと言って相手に通用するとは限らないだろう」
「確かにそうですね。でも、使い勝手が良いのです」
「ならば何も言うまい。やろうぜ」
「はい、一応、確認しますが、何でもありで良いのですか?」
「ああ、これは殺し合いだ。何でもありだ」
「魔法や薬や爆薬や毒でもいいのですか?」
「俺に使って効果があるのならな」
 そうして、レオンも剣を突き立て、お互いに素手で両手を前に出して構える。
 両者ガッチリ肩と肩をぶつけて組み合う。そして相手を転がそうとしたり、体勢を崩して蹴りを入れようとしたりする。
「さすがだな。私の体勢が簡単に崩されそうになる。だが、それだけではダメだ」
 レオンは、パムを簡単に持ち上げようとする。しかし、パムは持ち上がらない。
「なるほど、腰の落とし方と、腕の力の抜き方にコツがあるのか」
「力で勝てないなら速度で、速度で勝てないなら技術で、技術で勝てないのなら経験で勝つしかありませんよ」
 そして、対峙する2人は、どちらも動かない。しかし、パムの体がゆらりと揺れた途端、その姿が消える。そして、相手の懐に入ろうとして、相手の腕に止められる。
「そりゃあ無理ってもんだ。遅すぎるからなあ」
 相手の腕をすり抜けるつもりができずにいる。そこでパムは、一度力を抜き後ろに下がる。レオンの体勢を崩し、後ろに回り込もうとする。しかしそれも防がれる。少し離れて立ち向かう。
「こちらから行くぜ」
 レオンは、パムを捕まえようと手を出す。しかし、パムはその腕を捕まえ腕に体を巻き付けてその腕を折ろうとする。すかさず魔族は、腕からパムを引き離そうと地面に打ち付ける。パムは打ち付けられる前に手を離し、後ろに下がる。しかし、さらに向かってくるレオン。パムを抱きかかえるように両腕で抱きしめるように捕まえる。だが、体をすぐ離す。脇腹に指で開けたような穴ができている。
「なるほどな、触られるとやっかいなのか」
「そうですね。あなたの体に触れられるならそこは攻撃できますね」
「わかった。ありがとう。これはさすがにつかみ合いでは敵わないな」
「わかっていただいてありがとうございます」
「剣になるか」そう言ってレオンは自分の剣を刺した場所に戻る。パムは、突き刺していた剣のうち一本だけを手にして構える。
「そっちの剣は使わないのか?」
「あなたと先程戦った時にあなたの体のしなやかさにこれを巻いたままでは動きが鈍りそうでしたので」
「なるほどな」
「もっとも使うかもしれませんよ?」パムは笑った。
「ああ、私も自分の剣が折れたら使うとしよう」
「では参ります」パムは青眼に構えて、レオンは上段に構えて互いにジリジリと間合いをつめ始めた。
 間合いは、レオンの方がリーチが長いので早く到達する。レオンは剣をパムに向かって上段から一気に振り下ろした。剣速は早い。それでもパムはギリギリでかわして、剣を真っ直ぐレオンに向けたまま懐に入る。そこにレオンの左拳がパムを襲う。レオンは構えた時には両手で握っていたが、途中から片手で振っていたのだ。
 パムは、冷静にその拳を剣でレオンの左にいなす。振り下ろされた剣はパムの頭を目指して横に薙いでくるが、それをパムは首をかしげてかわすと、傾いた体の下からレオンの右足が蹴り上げられた。
 パムはその膝頭を自分の左足でいなして、レオンの左足に剣を振り下ろす。レオンは左足でバックステップして後ろに下がった。
「面白いなあ。あんたみたいな剣技は今まで見たことがない」剣を上段から青眼に構え直してレオンは言った。
「あそこまで懐に入り込めたのに一撃も入れられませんでした。さすがですね」
「では参る」レオンが地面を蹴った。簡単にパムの前に現れる。しかしパムもすでに左横にかわしていて、そのレオンの右胴に剣を突き出す。しかし、それをかわされてレオンに後ろに回り込まれ、パムは右手でレオンの剣をいなして、レオンの正面に回り込む。
 そこからは、ただただ、レオンが連撃し始めて、パムは防戦一方になる。力の差が大きい。それでもパムは徐々に剣の打撃を受けられるようになっていく。そこでレオンは、剣の動きに変化をつけ始める。両手で剣を打ち込んだと思えば、片手でリーチの長くなった分パムの横から薙いでみたり、深く踏み込んで突きを入れてみたりしている。
 最初は戸惑ったパムも二撃目からは対応をしてそれを予測してしのいでる。ただしのげているだけだ。
「すごいよ。ここまでついてこられる者はいなかった」
 レオンが感心している。そう言いながらも剣で攻撃を続ける。
「そうですか。まだ魔法を使ってきませんが、使わず勝てるとお思いですか?」
 パムは息を上がらせながらも、そう返事をしている。
「挑発するのかい?肩で息をしているようだけど。じゃあそろそろ全力で行かせてもらうよ」
 レオンが馬鹿にされたと思ったのかそう返事を返す。
「最初から来て欲しかったですねえ」パムが剣を受けながら言った。たしかにスタミナが切れてきたのだろうか。
「私のウォーミングアップもかねていたんだよ。最近戦っていなかったのでね。それは謝るよ」
 レオンは、まだ魔法を出してこない。
「そのまま倒しておけば良かったですね」パムは笑った。
「君はそんな事しないだろう?」
 レオンも笑った。そこには戦い続けたいという気持ちが互いに入っていたのかもしれない。
「そうですね。それで勝っても言い訳されそうですし」パムがそう言うと、レオンの剣が止まった。
「じゃあやろうか」レオンも少しだけ舌をだして、呼吸を整えている。
「はい」パムも呼吸を整えている。ふたりが同時に息を吐き出した時に第2ラウンドが始まった。
 レオンは、剣を握りながら炎を拳と剣に纏わせて、剣を薙ぐ時には炎も飛ばし、パムが懐に入れば拳から炎をそして、蹴りにも炎を纏わせていて、近づいて攻撃するためには、炎の攻撃を受けなければならない。
 それでもパムは、その技をかわしながら、レオンの胴に足に手に、切り傷を負わせては離れるという一撃離脱の戦法で攻撃をしていた。パムは、近づいては離れて攻撃をしているため、どうしても運動量が多くなっている。普段は決して見ることのないパムの汗がジワジワと肌の上に滲んでくる。それでも動きを止めないパム。レオンはその動きに何かあると感じて、一度剣を横に薙いで、距離を取る。
 パムが肩で息をしているのを見て、レオンは魔法詠唱を始めて、さらに腕、足に強化魔法をかけたようだ。何も言わず見ているパム。そこにレオンが魔法で加速した攻撃を再開する。強くて早い剣撃にパムも後ろに下がりながら受けている。猛攻は続くが、パムが境界線を気にして少しだけ回り込みながら剣を受け続けている。それを感じたのかさらに剣速をあげ打撃力もあげて襲いかかる。ついには、拳と蹴りで魔法攻撃まで繰り出してきて、パムは焼け焦げが出来始めている。それでも致命傷になる攻撃は喰らわずにパムはしのいでいた。
 やがて、レオンも攻撃を止めた。さすがに肩で息をしている。パムは細かい傷ややけどが全身を覆っている。
「何を企んでいる?」業を煮やしたレオンがパムに尋ねる。
「何も企んでいないとは言えませんが、まずはあなたの剣をしのいでみたいと思いました。思いのほか単調ですね」
 パムはそう言って笑った。
「なんだと?」レオンは馬鹿にされてちょっとだけ怒りの表情を出し、すぐに元の顔に戻った。
「必殺技があるのかと思いましたが、何もないのですねえ」
「なるほどな。それが見たかったと」
「ええ、業を煮やして繰り出すかと思いましたが、実はないのではありませんか?」
「ならば出そう。いつ出すかは言わないがな」レオンは剣を握り直す。
「ではお待ちします」そう言ってパムは剣を構え直す。間合いの差を考えてあまり近づかないパム。レオンの間合いにはまだ遠い位置にいる。ついっとレオンが前に出た瞬間、レオンは消え、パムの後ろにいた。
 そしてパムの顔に一筋の傷がついている。
「残念。首を切れなかったか」レオンが振り返ってそう言った。
「切らなかったのではないのですか?」パムはそう聞き返した。
「そうだよ。君はちゃんとかわしたじゃないか」残念そうにレオンは言った。
「バレましたか」パムが笑っている。
「さて、技量の差はここでわかったよ。君が私の本気を見たかった理由もね」
「理由?」
「君が負けた時にできるだけ私の手の内を知りたかったのだろう?」
「それはありましたね。でも、手加減していた訳ではありませんよ。精一杯でした」
「だが、私の必殺技は見切っていた」
「あれを戦いの途中で出されていたら負けていましたよ。随分、剣速に慣れさせてもらいましたから」
「そうかい。では、やっとここで最後のステージだ」
 レオンはそう言って体を大きくした。
「ようやくですか。こちらは疲労困憊なのですが。ではやりましょうか」
 そして最終ステージが始まる。レオンは剣をまるでおもちゃの剣を振るように軽々と振っている。しかし、力の加減が出来ずにたまに地面の土を削っている。それでもそのパワーで切られたら一刀両断になるほどの破壊力だ。しかも剣速はさらに上がっているため、かわすのに精一杯だ。パムはかなり焦っている。
「どうしたい?私はまだ必殺技も出していないよ?」
「では、こちらも参りましょう」パムは筋力増量して立ち向かう。そして、レオンは魔法を使い始める。
 炎の威力もかなり上がっている。当たって焦げるだけではすまなさそうだ。一撃を入れることもできずにパムはかわすだけで精一杯になってきた。
 レオンは、拳に魔法を集中させ、パムを剣で体勢を崩してそこに打ち込んだ。パムは膝を崩しながら何とかかわしたが、後ろの地面は深くえぐれている。炎では無く氷の魔法のようだ。
 さらにレオンの猛攻は続く。パムは段々いなせるようになっていく。パムは久しぶりに筋力増量したために体をうまく動かせなかったようだ。そして、パムは剣に魔力を込め始める。
「やっと本気か」レオンは悔しそうに言った。
「いいえ、タイミングですよ」パムはついつい返事をしてしまう。
 しまったという顔をしながら、レオンの上段からの剣をかわして、最初の攻防と同じように剣を真っ直ぐレオンに向けた状態で懐に踏み込んだ。当然、レオンから確実に当たる左の拳の炎が打ち出されて、パムはそれをいなす。しかし威力と範囲が上がっているためパムを直撃するはずが、炎が消える。パムはそのままレオンの固い胸板に剣をねじ込む。しかし、深く鋭い傷はつけたが、はじき返され、炎を纏ったレオンの右足がパムを襲う。パムははじき返された時に左手を離していて、左手で右足を握り、そこに魔法を打ち込んだ。左手は左腕と共に炎で黒焦げになる。右足を掴まれ体勢の崩れたレオンはそれでも右手の剣を横に薙いでパムの頭を刈ろうとする。パムは右手でレオンの右腕をつかみその腕に魔法を打ち込む。当然パムの右腕も炎で黒焦げになる。それでもパムはレオンの右腕を掴んだまま引っ張り、レオンを這いつくばらせて背中に乗り、右腕を固めてさらに魔法を打ち込みながら右腕を折った。
 パムは立ち上がって、レフェリーを見た。レフェリーはレオンに駆け寄り、レオンが気を失っているのを見て首を振り、宣言した。
「勝者パム」
 観客は、何が起こったのか解らず沈黙していた。魔族の最強が倒されたことを信じられないのか。信じたくないのか、ただ沈黙していた。
 パムは、私達のところに戻ってきて、ベンチに座った。エルフィがパムの両腕の回復を始める。
「パムさん~無理しすぎ~でもこれは完治するから大丈夫だよ~」
「エーネ。申し訳ないがレオン様のところに薬草を届けてもらえないか」パムがエーネに声をかける。 
「はい」エーネは薬草を持ってかけ出した。レオンはすでに起き上がっていて、エーネがそれを右足と右腕にあてていた。相手側から魔族が来て、肩を貸して戻って行った。
 観客はザワザワとざわめいていたが、我々に対する敵意のこもった視線が増え、そして観客から我々へのヤジが飛び始めた。
「正々堂々戦った私が宣言する。お前達のヤジは私を侮辱するものだ、文句があるなら負けた俺に言え。そして俺と戦え。そうすれば相手の強さがよくわかるだろう。魔族は強さが正義だ。それだけだ」
 レオンの叫びが会場内に響き渡る。そうして、私達への敵意は変わらずとも、ヤジは収まった。
「パムさん大丈夫ですか?」
「ちょっとやりすぎました。つい本気を出してしまったのです。最後のあれはストローネの技なのです。さきにあんな事をしていなければ、あそこまでやらなかったのですが。ついつい嬉しくなってやってしまいました。里では一度もあんな技使えなかったのですよ」
「戦えてうれしかったのですね」
「でもこれです」パムがやっと動くようになった黒焦げの腕を少し上げて見せ、エルフィに止められている。
「エルフィ。レフェリーに棄権すると言ってきてもいいですか?」
「あとは旦那様の薬草でも大丈夫ですよ~でも腕は動かさないでくださいね~」
「ちょっと棄権しに行ってきます」パムは痛みをこらえながら笑ってレフェリーに向かって行った。
「治療して直れば次の試合もできるのではないのか?」モーラが言った。
「ダメですよ~せっかくつながった筋肉や神経がまたちぎれてしまいます。到底無理です」
「あの時に作った薬草なら大丈夫だったですかねえ」
「あの即効性が半端ないやつでしょう?」アンジーが言った。
「それでも、魔力やスタミナまで回復できる訳ではありませんから」ブレンダが言った。
「知っているのですか?」
「ええ、一度だけ見たことがありますよ。本当に瀕死の人が一瞬で回復するのです」ブレンダが感心している。
「さて、もう皆さんが怪我をするのを見なくても良さそうですね」
 私はそう言って、立ち上がった。

Appendix
「そういえば、メアが使った魔法だけど、あれは電子レンジの応用よねえ」
「はい。実は、ある国では暴徒鎮圧用にすでに考案されていて実戦配備までされているのですよ」
「そうなの?暴徒鎮圧用って事は、非殺傷兵器なのよね」
「まあ、使い方を誤ると拷問装置に早変わりするらしいので、問題視されてもいますが」
「さっきの蛇女は手を見ていたけど、どういうことなの?」
「マイクロ波の周波数の加減が適当だったので、もしかしたら本当にヤバかったかもしれません」
「もしかして、血液が沸騰して中から破裂する感じだったの?」
「相手が早目に気づいてくれて助かりました」
「死んでいたらどうするともりだったのよ」
「さあ」
「あんたねえ」

続く
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