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第38話 エクソダス 魔族編
第38-1話 DT司令塔を発見する
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○女模倣使いは活躍する
スペイパルから戻って、エルフィ、パム、レイはそれぞれの里に飛んで、説明を再開している。
「さて、メアさん、ユーリ、キャロル、エーネ。各種族の所に説明に歩かない私達は、遺跡を発掘に行きましょうか」
久しぶりに戻って来たブレンダがそう言った。
「はい」全員が嬉しそうに返事をした。
「とは言っても、メアさんのおかげでほとんど特定されているのですけどね」とブレンダ
「そうですね。問題は山の中なので、そこまで行くのが難しいかと思います」とキャロル
「では、野宿の用意をして荷物を背負って出かけましょうか」とユーリが言った。
「念のためにご主人様に連絡を入れてください」メアが言いました。
「そうですね」
『ハズ様聞こえていますか?』
『どうしました。何かありましたか?』
『たいした用事でもありませんが、家から出て山の中にいますので、事前にご連絡をと思いまして』
『どこに行くのですか?ひとりですか?』
『まったく。おぬしは本当に心配性じゃなあ。ブレンダよ。誰と何をしにいくのか話してくれ』
『はい。メアさん、ユーリ、キャロルそしてエーネと一緒に山の中にあるはずの、司令塔の場所を探しに行きます』
『そうでしたか。ぜひお願いします。見つけても触らないでくださいね』
『私も魔法使いの端くれですから、誘惑に逆らえないかもしれません』
『いや、私も一緒に中に入りたいのですが』
『であればお早くお帰りください。私達はハズ様の帰りを待ちきれないかもしれませんが』
『わかりました。見つかったらすぐに連絡くださいね』
『まあ、私の好奇心が抑えきれないかもしれませんので、できるだけ早くお戻りくださいね。マイハズ様。それでは失礼します』
ブレンダはそこで会話を終了した。
「おー」なぜか4人から拍手があがる。
「さすがですねえ。やはり私達の師匠です。かっこいいです」ユーリが感心している
「ディー様の声の動揺ぐあいが新鮮です」エーネが頷いています。
「ブレンダさん私も感動しています」メアまでがそう言った。
「じゃあ私も行こうかしら」アンジーが居間に入ってくる。
「まーたわしをのけ者にしよって」モーラも戻って来た。
「この家を見ていなくていいのですか?」ブレンダが言う。
「おぬし達を山の中に送っていってやるわ、マーカーを置いて来て夜になったら戻ってこい。ああブレンダはマーカーを使わないのであったな」
「モーラ様。今回は宝探しなのです。探検ごっこなのですよ」エーネが目をキラキラさせている。
「探検ごっこじゃと?」
「メアさんがスペイパルで発見した遺跡の地点を魔方陣の五芒星のひとつの点と仮定して、ベリアルとビギナギルの間にその円周が来た場合のシミュレーションをしてみたそうなのです。そこにファーン周辺の4カ所の遺跡の位置から小さい実験場の大きさを予測した結果とあわせて小さい円と大きい円の間にあると予想されました」
「誤差はどのくらいなのかしら?」
「100キロ平米ですね」メアが言った。
「1辺10キロの範囲でしょう?」アンジーが両手の人差し指で四角を描いて見せる。
「直径33キロの範囲ですね」メアが目の前に円を描いた。
「なるほどね。たいした距離ではないわね。だから探検ごっこなのね」アンジーが頷く。
「すぐ見つかるとは思いますので、かかっても2泊3日くらいでしょうか」ブレンダが言った。
『それなら~参加する~』エルフィ
『僕が行けば一発ですよ』レイ
『私も参加したいです』パム
『聞いていましたよ。私も行きます』私もそう言った。
『おぬしらそれで大丈夫なのか?』
『『『『『大丈夫です』』』』』
『結局全員か』
『私としては一泊でもモーラ様とアンジー様が台所をどうしてしまうのか不安でしたから、ちょっと嬉しいですけどね』メアがツッコミを入れた。
翌日早朝に全員が合流して、念のため野営の準備もして、モーラの手に乗り山の中に移動した。
「これは、結構時間がかかりそうじゃなあ」
鬱蒼とした木々に囲まれて陽もあまり射さない森の中です。陽が射さない分下草もあまり生えていないのは、歩くには楽ですけどね。
「それでは、まずここにベースポイントを置きます」私はそこにマーカーを4個置いた。
「そんなもの、迷ったら見つからんじゃろう」
「何かあったらここに飛ぶように仕掛けをするのですね」パムが言った。
「そのとおりです。まあ、モーラがいますから何かあっても大丈夫でしょうけど、自分の位置がわからないとどこに飛んできて欲しいかわかりませんからね」
「相変わらず用心深いわねえ」
「山を舐めてはいけません」私は、位置情報をセットしたブローチを全員に渡す。
「こんなもの作っておったのか」モーラがそれを持ち上げて見ている。
「ええ、何かの時に使えるかと思って」
「本当に色々な事を想定しているのですね」ブレンダが感心している。
「私は色々考える事でしか身を守る術を持っていませんから」
「よく言うわ」モーラがあきれている。
「では、お昼には一度戻れるくらいの距離ですので、まず横に3キロほどの間隔を空けます。そして、南の方向へ向かって、間隔を狭めながら15キロほど歩きます」
「いえ、広がったまま進みましょう。私の計測誤差もあると思いますので」メアが慎重です。
「では、ブローチを長押ししてください」押すとビーと大きい音がずっとしています。
「音がうるさいです」レイが本当に嫌そうです。
「ブローチ同士が近いと大きい音がします。3キロ離れると音が小さくなりますからそこまで広がったら前進しますね」
「本当に便利グッズじゃな」
『皆さんいいですか?』私達はメアを中心に横に広がった。私とブレンダが両翼にその間を皆さんが間隔を空けて立っています。
『OKです』
『メアさん合図を』
『ではパンツァーフォー』
『いやそれは違いますよ。出発進行とかではありませんか?』
『違いましたか。父が良く出発する時に使っていましたので、使ってみました』
『・・・まあいいです』
『では、パンツァーフォー』
『そういえば、ここはどんな獣がいますかねえ』
『熊とかですかね。小動物もいますが、結構獰猛ですよ』パムが言った。
『じゃあ私は襲われるかもしれないわねえ。キャー』アンジーが抑揚のない悲鳴を上げる。
『じゃあ私も。キャー』ユーリが同じようにキャーと言った。
『何をやっとる。まあ・・・キャー』モーラがしようがない感じでキャーと言った。
『付き合いますよ~キャー。旦那様~助けて~』
『そうやっていると、本物が来ますよ。キャー』私もついつい遊んでしまう。
『ディー様。こ、声が出せません。で、出ました』エーネの心細げな声がした。
『エーネ。どこ?何がでたの』キャロルが焦っている。
『し、正面におっきな熊です。ど、どうしましょう』
『何を言っているの?大丈夫だから、ちゃんと倒しなさいよ』
『いや、唸っています。こ、恐いです』
『いつも魔獣を狩っているでしょ』
『ひとりで出会ったことがありません』
『とりあえず。向かってきたらブローチを使ってください』
『あ、逃げてくれました。た、助かったー』
『おかしいですねえ。エーネの魔族の匂いに、そもそも寄って来ないはずなのですが』
『あ・・・』
『そうよねえ。不可視で匂い消しのローブ羽織っているはずないしねえ』
アンジーが意地悪な声で言った。
『モーラ様は気配を消しているのですか?』ブレンダが尋ねる。
『あ、ああ、まあな』モーラが気まずそうに返事をした。どうやらモーラも気配を消しているらしい。
『さあ、進みますよ』メアが再び号令をかける。
そうして、今度は黙々と15キロを進む。
『これで大体15キロです』メアが言った。
『皆さんお疲れ様でした。一度集合しましょう』
『ブローチは使わないのか』
『私は寂しいので』私がそう言ってメアの元に歩き出す。
『はあ?まあ良いわ。メアの所に集合ね』
『すいませんねえ』私はすまなさそうに言った。
そしてメアの所に集合して、全員の顔を見て私はちょっと安心した。
「私のせいですいません」なぜかエーネが謝っている。
「あんたは何も悪くないじゃない。なぜ謝るのかしら?」
「きっとディー様は、私が心細いのを感じたのではありませんか?」
「本当に私が皆さんの顔を見たかったのですよ」
「旦那様~寂しかった~」エルフィが私の背中にぶつかってくる。
なぜかユーリもキャロルも私にくっついている。
「おやおや」
「確かに顔が見えずに声だけだとかえって不安になるものじゃな」
全員が私の周りに集まった。
「ではスタート位置にもどりましょう」
「「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」」おやおや皆さん。心が揃ってますね。
スタート位置に戻ってきた私達は、ちょっと早めの昼食にしました。
お弁当は、不可視化と匂い消しの魔法をかけた布で、スタート位置に隠しておいたのです。
「おにぎり!おにぎり!」
エーネが嬉しそうにしています。どうやら戦争ごっこの時に食べてから、気に入ったらしくて、メアに頼んで作ってもらったようです。アンジーのお祈りのあと、食事がはじまりました。
「確かにおにぎりは、山の中でも食べやすいな」モーラが食べながらそう言った。
「外で食べるのは、いつもと違って、さらに美味しいですねえ」
私がそう言ったのですが、全員が口に食事を頬張って、モグモグさせていて誰も返事をしてくれませんでした。へこんでいる私にすかさずメアがお茶を出してくれました。熱々のお茶です。ちょっと嬉しいです。
「ごちそうさまでした」私は両手をあわせてメアさんに感謝です。
すぐにおかずもなくなり、恨めしそうにレイがおかずの入っていた空の篭を見ていますが、他の人達は立ち上がって準備運動をしている。
「腹ごなしに行くか」モーラがそう言って立ち上がる。
「そうですね」
そうして、最初と同じように横に広がって。今度は反対側に向かって歩き出す。しばらく歩くと
『ありましたよ』レイの声が聞こえる。獣化したレイが私の所に走ってきて私に飛びつく。
私は、レイを撫で回してからそこに移動する。すでにメアとパムとエーネがそこにいた。
下草の下の地面に光るものが見えた。
「何か点滅しています」パムがそう言って少しだけ後ろに下がる。
「手をかざして魔力を込めると何か起きますから」私の言葉に、パムの横にいたブレンダがそこに魔力を込める。少しだけ周囲の土が盛り上がり、動きを止めた。
「レイ、周りを掘ってください」
レイが前足で少し掘ったところ、丸いハッチのようなものが現れる。ブレンダがそこに触れて魔力を込める。ハッチのようなものが開いて、中に通じる穴が現れる。ブレンダがのぞき込む。
「梯子がありますね」ブレンダが私を見て言った。
「行けそうですか?」
「ブレンダ。私とモーラで先行するわ、あ、レイも来て頂戴」アンジーが言って、モーラとレイに目で合図をする。
「私が先に行きたいのですが」
「今回はダメよ」アンジーが私を見て言った。そしてハッチの中に入って、梯子を下りた。
『扉があったわよ』
『長命人族のところの遺跡を覚えていますか?』
『あ、開いた。上の様子は何か変わったかしら?』
『変わっていません』
『さらに階段があるのよ。降りていくわ』
『大丈夫ですか?・・・どうですか?』
『いつもどおりの広い部屋に到着したわよ。おや電気がついたわねえ。何か振動もしているわ。そっちはどうなの』
『確かに振動がひどくなってきました。おや土が盛り上がって何かが出てきますね。でかいです。ああこれが塔の基部なのでしょうか。そこから塔がゆっくり伸びていきますね。すごい高さまで伸びています』
私は実況しながら見ていました。アンジーが入った入り口は、塔の基部で、数メートル持ち上がったら停止して、その基部の中心から塔自体が100メートルほど伸びていった。
「これが司令塔ですか」ブレンダの声からワクワク感が伝わってきます。もちろん私もワクワクしていますが。
「これが制御塔なのですねえ。それにしても、元の状態に戻せるのでしょうか」私は首をかしげました。
『とりあえず、おぬしも入ってこんか。どうすればよいのかわからんぞ』
「じゃあ」私を先頭にして、ハッチの梯子を下りて、さらに奥の部屋に進みます。
「さすがに適当にスイッチ類を押す訳にもいきませんねえ」
「塔の上に行くにはどうすればいいのでしょうか」
ブレンダがキョロキョロと見回して触りたそうにしている。
「多分、部屋の真ん中にあるのがエレベーターなのでしょうねえ」
「でもここに塔の部分が収納されるのですよね」ブレンダが天井を見上げながら言った。
「ブレンダ。申し訳ありませんが・・・」私はすまなさそうにブレンダに言いかけた。
「連れてきます」ブレンダが敬礼をして言った。察しが良すぎますよ。
「私も行ってきます」メアまでが敬礼をして言いました。
「お二人ともよろしくお願いします。多分紫さんもついてくると思いますが」
私もついつい敬礼してしまいました。
そうしてしばらく待っていると、4人が到着する。
「こんなに早く見つけたんですねえ」アスターテさんがあきれている。隣で紫も同じ顔をしている。
「私には、「立ってる者は親でも使え」という座右の銘がありますので」
「座右の銘ではありませんよね」
「まあそうですが。とりあえず、周囲に見つからないように塔を収納したいのですが、できますか?」
「無理でしょうねえ。でもリッチーさんならできるかもしれません」
「わかりました。私がちょっと行ってきます」
私はそこから消えた。
「行動が早いわねえ。あまり乗り気ではなかったはずなのに」
「あるじ様は男の子ですから」ユーリが得意げにそう言った。
私はリッチーさんの遺跡に到着する。階段を昇って、リッチーさんのいる最奥の部屋の扉をノックする。
「こんにちは、リッチーさんいらっしゃいますか?」
「今、ストレッチをしておった。ちょっとまて」
扉の向こうからリッチーさんの声がした。骸骨のストレッチ、ちょっと見てみたいです。
「実は、遺跡の司令塔が見つかりまして」
「ついに見つけたのか」
「はい。部屋に入っても良いですか?」
「ああ、すまない。入っても良いぞ」
私は部屋の中に入る。中でリッチーさんが、いつものローブでは無く、普通の服を着ていた。あら、骸骨に服。ちょっと珍しい。
「そうか、見つけてしまったか。スペイパルの遺跡を見つけてすぐに見つけるとはなあ。おぬし、やることが早すぎるぞ」
「えー。だって使えるものなら使いたいじゃないですか」
「子どもじゃのう。まあわかった。すまぬがわしを連れて行ってくれぬか」
「夜の方が良いですか?」
「それは問題ない。お前は転送魔法が使えるのであろう?」
「わかりました。一度戻って・・・」
「何をしておる」
「マーカーをここに置いておきます」
「ここはやめておけ、魔法を遮断しているから、おかしな事になるかもしれぬ。入り口の所にした方が良いぞ」
「わかりました。そこまでは出てこられますね」
「ああ大丈夫だ」
そして、リッチーさんを連れて塔の中に戻った。
「わっビックリ」
リッチーさんを見てエーネが驚いている。まあそうだ。実際、リッチーに会ったのは、モーラ、アンジー、メア、パムくらいのものだから。
私は全員にリッチーさんを紹介する。
「リッチーさんお名前は」
「おぬし今更聞くのか?」リッチーさんが今更?な言い方をする。
「だって魔法使いはお互い名前は教えないって言ったじゃないですか」
「ああそうだったな。アナスタシア・コバレフスカヤかイワノビッチ・コゾロフのどちらかで呼べ」
「性別はどちらですか?」
「わしに性別はない。男の時はイワノビッチだし女の時はアナスタシアだったのでな」
「えー、男女入れ替えられるのですか」
「まあな。ほれ」リッチーさんは骸骨の上にやせぎすな男のイメージを投影する。しかし裸だ。
「おおーって裸はやめてください」
「仕方なかろう。本来はこの上に服を着るのだからな。イメージにないわ」
「わかりましたから、とりあえずローブで前を・・」
「ほれ、ついでにこっちもな」
リッチーさんはナイスバディな女のイメージを投影する。しかも裸です。ちょっとポーズ作ったりしてお茶目ですね。
「はい!そこまでです」ブレンダがそこで指を鳴らす。リッチーさんのナイスバディな女のイメージは消されてしまった。
「えーーっ」私とアスターテさんは、肩を落とした。
「旦那様の~エッチ~」とエルフィ
「幻滅です」キャロル
「ええ、最低です」軽蔑した目でメアが私を見る。
「まあ、わからないわけではありませんが最低です」とパム
「やはり胸ですか」ユーリがため息をつく
「ま、負けません・・です」エーネが悲しそうに言った。
「まあ、そうよね」
「そうじゃな」
「あ・な・た」紫の眉間に血管が浮いている。
「「ひいっ」」私達は二人揃ってその場に立ちこめる怒りのオーラに飛び上がる。
「ごほん」ブレンダが咳払いをする。
「で、どちらでお呼びすればよろしいですか?」
「まあ、コゾロフがよさそうじゃな」女性陣の視線に、リッチーさんは言った。
そうして、塔を収納するためにどうしようか考えていると、コゾロフさんが言った。
「おぬしに隠していたが、わしはここを作った時のひとりだ」
「メンバーから外されたのではなかったのですか?」
「最後の最後で外された。なので装置の使い方は知っている」
「早く言ってくださいよー」
「使わせたくなかったのでなあ」
「失敗したからですか?」
「そうじゃ。失敗した時にいなかったから、失敗した原因がわからないからな」
「魔力不足ではありませんか?」アスターテさんが言った。
「本当にそれだけだろうかな?」
コゾロフさんが首をかしげる。骸骨って首をかしげても首が落ちないものなのでしょうか。気になります。
そうして、コゾロフさんの指示で、コンソールが起動して、指示通り操作して、塔は無事に収納された。しかし基部はそのまま露出している。
「これはさすがに地下には戻せん。緊急避難的に地下に潜っていたのだから、正常な位置がこれなのだよ」
「まあ、こんな山の中まで見る人はいないでしょうねえ」
「DTよ。悪いが一度砂漠の私の家に戻ってくれぬか。資料を取りに行きたいのだ」
コゾロフさんが、私に言った。
「すぐ戻るのでしょうか?」
「ああ、せっかくだから、しばらくここで生活しようと思う」
「わかりました。持ってくる物はどのくらいですか?」
「手に持てるくらいだよ」
「わかりました」
「あのー私も一度セリカリナに戻って資料を持って来たいのですが」アスターテさんもだった。
「かまいませんよ。ってセリカリナに帰るのではないのですか?」
「研究も一段落しましたので、私もここに移動してきて研究したいのですが」
アスターテさんは、妙に生き生きとそう言った。
「あ・な・た」紫はそう言いながらもため息をついて、
「相変わらずねえ。食事とかはどうするつもりなの?」
「何とかなるさ。あははは」乾いた笑いでそう答えるアスターテさん。大丈夫ですか?
「ここは大丈夫じゃ。備蓄すれば3ヶ月は中で暮らせる」
コゾロフさんが胸を叩く。ちょっと骨の音がした。
「だそうだよパープル。いいだろう?」アスターテさんは紫に甘えるような顔をした。
「ハイハイ。せっかく一緒に暮らせるようになったのに・・・しかたないわね・たまに差し入れにくるわ」
「愛しているよパープル」
「もう!そういう時だけ調子がいいんだから」
「こやつら昼間っから何をしているのだ」モーラがあきれている。
「イチャイチャしているのですよ。お互い愛しているのですねえ」私は微笑ましく見ていました。
「両親がベタベタしているのを見るのは複雑な気分です。喜ばなければいけないのでしょうけど、ちょっと見ていられません」メアがため息をついた。
そうして、私はリッチーことコゾロフさんを連れて転移し、ブレンダがアスターテさんを連れて転移した。
「あとで遊びに行くわ」私に向かって紫がちょっとだけ睨んで転移しました。こわっ
その後は、まず食料を運び込んで、定期的にメアと紫が塔に監視しに行っています。
メアと共に戻って来た紫が私を睨んで言いました。
「あなたには責任を取ってもらいますからね」
「そう言われましても、どんな責任を取れというのですか」
「まあ、貸しにしておくから、何かの時に手伝ってもらうわね」
「私の出来ることであれば」でも紫さんは、私より魔法も使えそうですし、手伝うことはなさそうですけどねえ。
「まあ、この権利は大事に取っておくわ」そう言ってメアと目配せをしてそこから消えた。
○塔の目的
さて、あれから数日しか経過してませんが、司令塔の様子が大変気になったので塔にお邪魔しました。
「どうも。気になってきてしまいました」
「おおう来たか。遺跡自体はどこも壊れておらんようだぞ」
「そうなのですか。この遺跡の目的をもう一度おさらいしてもいいですか?」
「ああ、ここは転移の実験をする施設じゃ」
「やはりそうでしたか」
「それで小さい円の遺跡が小規模の転移実験場で、大きい円の方が本当の転移施設じゃ」
「小規模の転移実験場では何が行われたのですか?」
「そこからはわしも関わっておらんのだが、小規模の方から大きい転移施設に向けて、転移のテストをしていたようじゃ」
「それは成功したのですか?」
「わからん。拠点となる遺跡が全て自閉モードに入ったという事は、その実験が転移する前に失敗したのか、転移先に転移が出来なくて何かがあったのかはわからないのだよ」
「なるほど」
「でも小規模の方は起動できることは確認しましたよ」
「起動するのですか?」
「今起動している遺跡につながっている動力回線さえ生きていれば大丈夫です」
「起動試験してみませんか」
「なぜこの遺跡にこだわる。これは失敗作かもしれないのだよ」
「本当にそうでしょうか」
「起動は間違いなくする。じゃが事故は起きたのだ」
「私は失敗作でも良いのです。世界の引っ越しを邪魔する人たちを一網打尽にして始末したいのです」
「始末するのか?」
「始末ではなくて、もしこの施設が正常に稼働するのなら次の世界に送り込みます。それが私の考えた始末です」
「そうか。ならば私の知っている限りの事で協力しよう」
「秘密にしてくださいね」
そうして、しばらくして、家に蝙蝠が飛んできて窓を叩く。
「おや連絡が来ましたか」
私は、ひとりで塔に飛びました。
「その時の問題点はわかったぞ」
「はいわかりましたよ」
「何が原因だったのですか?」
「やはり魔力量の充填が十分でなかったのだろう。災害時に使おうとして作っていたが、想定より早く災害がきてしまって、魔力の供給が十分でないまま起動したようだ。どこに飛ぶわけでもなく、その土地を空中に浮かべるつもりだったようじゃな。ほれ、今の魔法使いの里のように空に浮かべるつもりだったのだ。しかし、魔力がなかったので、失敗したようじゃな。だから小規模の方の転移実験は成功していたようだ。じゃが今回使用するには問題がある」
「なんですか?」
「転送「位置」の固定じゃ。今回は別の世界に空間をつないで、新しい世界への位置座標を新たに作る必要があるのだろう?それはどうするのだ」
コゾロフさんは私に尋ねる。
「それと、設定の値を探した時に見つけたのですが、転移範囲を固定してから、その範囲内にいる、生物を種族別に転移する設定が見つかったのです。まああまり使えないと思いますけどね」
アスターテさんがそう付け加える。
「種族別に転移できるのですか?」
「ええ、多分人だけを抽出して転移させるつもりで設定値を作ったのでしょうけど、設定値を変更すると、人以外の種族を転移できるようにもなるみたいです。今回は、全員転移するつもりなのですよね?あまり必要なさそうですね」
「確かにあまり使えないかもしれませんねえ」
「起動実験はいつでもできるぞ。いつ始めるのかな」
「塔は目立ちますから起動試験をやってすぐたたみますね」
「ああ、とりあえず各遺跡への魔力供給テストは先行してできるが、それぞれの場所に人を置かないとならぬ。それだけは人が必要だ、もし故障していれば修理も必要だしな」
「1回だけ使用するつもりでいましたが、欲が出てきました。一度テストして、再充填までの時間がどのくらいかかるのか、試してみましょう」
「まとめて送り込むには都合の良い施設だからなあ。確実性を求めるなら試験は必要か」
「起動実験の段取りを組んでもらえませんか」
「魔法使いが10人・・・でも認識IDを登録すれば、魔法使いでなくても十分ですね」アスターテさんもノリノリです。
「認識IDを登録ですか?」
「簡単ですよ。この塔に入って作業をした人は、自動的に認識されます。魔力がなくても、エサにはなりませんよ」
「紫さんに声を掛けますね」
「ああ、もうじき来ますよ」
「え?」
「こんにちは。あら、DTさんあなたもいたのですか」
「そんな嫌そうに言わないで」
「あなたに会うと、最近あまり良い事がないのよ。大体2人の顔が輝いているところを見ると何か企んでいるのでしょう?」
「お見込みのとおりです。遺跡の起動実験です」
「ほらね。碌でもない事を考えていたわね」
「なので、何人か魔法使いを呼んで欲しいのです」
「秘密にしたいのなら、私含めて4人かしらねえ。エリス、シンカ、豪炎、秘密を守れそうなのはそれくらいねえ」
「魔法使いは私とブレンダくらいなのですよ。まあ、秘密を守ってくれそうなのは、アーカーソンさん、スペイパルのロクサーヌさんとサクシーダの魔法使いさん達くらいですかねえ、ああ、マジシャンズナインの子とリアンも大丈夫でしょう」
「私も一応魔法使いなのですが」
「アスターテさんには、遺跡に何かあった時に暴走を止めに飛んでもらいますから別枠です」
「そうね」
「わしはこの塔にいることになるかな」コゾロフさんが言った。
「DTさんあなたも飛んでもらうので、除くわね」
「・・・はい」
「私はちょっとエリスのところに行ってくるわね」
「よろしくお願いします」
そうして、大小2つの魔方陣を起動するための10カ所の遺跡の位置を確認して、すでに発掘している小さいの方の遺跡と大きい方のスペイパルを除き4カ所を発見、発掘して起動実験を行う。
それぞれの遺跡には、小さい方の魔方陣には、メア、エーネ、ブレンダ、アンジー、モーラ、大きい方にエリスとエルフィ、シンカとパム、豪炎とキャロル、紫とユーリ、スペイパルはロクサーヌとレイが配置された。事前に地下に埋設された通信装置とモニターの仕方をレクチャーされている。
「全員配置につきましたね」モニター上にランプが表示される。
「塔を起動します」私が言うと、コゾロフさんがスイッチを入れた。
装置は起動して、異常が出ている様子はない。しかし、一番遠い中原の紫と一緒にいるユーリから連絡が入る。
『遺跡内の電源が落ちました』
『閉じ込められたのですか?』
『いいえ、入り口は開いたままです。あ、電気がつきました』
『スペイパルの遺跡も電気がついたり消えたりしています』
『他はどうですか?異常がある方は連絡してください』
『・・・』どうやらなさそうです。
「コゾロフさん、アスターテさん。中原は電気が落ちて再起動。スペイパルは、電気が点滅しているみたいです」
「わかった。モニターでもそう表示されている。起動実験終了するぞ」
『全員撤収してください』
『ラジャー』
結局、全員が塔に戻って来てしまい、ギュウギュウ詰めの中、検討会が始まる。
「やはり遠い地域への魔力供給は厳しいな。範囲は・・・そうだなこの塔からヨルドムンドまでを直径とする範囲くらいなら、小規模実験場の大きさを転移できそうだ。問題は転移先の設定だけだ」
「では、塔の手前で試験場程度の範囲は大丈夫そうですね」
「ああ、誘いこむのか。考えている事がそれなら大丈夫ではないか」
「では、再度転移を実験してみましょう」
そして、再び実験を開始する。今度は遺跡には誰も配置していない。
「移転元を大規模実験場に、移転先を小規模実験場に設定して転移範囲を直径10キロとして、転移開始」
転移開始のスイッチが入れられたが、微振動が起きた程度で何か起きた感じではなかった。
「モーラお願いしますね」
「ああちょっと行ってくる」
モーラは、転移元を見たところ、大地はえぐり取られていて、移転先の森にその大地は落ちていた。
『転移したみたいだぞ』
「起動実験成功です。転移可能なのを確認しました」
「やはり魔力量が乏しい中で起動してしまったのが事故の原因か」コゾロフさんが呟く。
「災害にあわせて何とか逃げ延びようとしたのでしょうかね」
「そうかもしれんな」
「さて、遠いところの遺跡も起動しましたので、遺跡の場所を知られてしまい周辺が騒がしくなりますが、中原、スペイパルなどの遠くの遺跡は放置しておきます」
「どこまでの範囲が必要になりますか?」
「ハイランディスと塔の真下、都市のない山中それ以外はそのままでも問題ないようです。
「正直に言って陽動作戦。時間稼ぎになります。並行して小規模種族の移転が始まっていますので、そちらの行動に目が行かないようにしたいのです」
Appendix
「なんじゃと、わしに塔までの道を作れと?」
「ええ、私もブレンダも紫さんもいない時にアスターテさんが餓死しないようにするには、食料の補給路が欲しいのです」
「おぬしの馬車の前につけた例のチェーンソーでやれば良いであろう」
「モーラすみませんがよろしくお願いします」
「わしには、そんな事ばかり頼みおって」
「酒樽2つ用意します」
「なんじゃと?」
「南方で取れる果物を使って果実酒を作りましょう」
「おぬし取引がうまくなったな。仕方ないそれで手を打ってやるわ」
「ありがとうございます。果実はすぐに手に入りますので、作業はお早めにお願いしますね」
「どの辺に作ればよいのかな」
「ファーンとベリアルを繋ぐ道に降ろしてくれればいいと思います。ああ、急勾配があると馬車が登れませんので蛇行させてください」
「大体わかった」
「キャロルとエーネに収穫に行ってもらいましょう」
「「ラジャー」」
Appendix
最近、わしら出番なしやなあ。
ああ、スペイパルの時もあまり活躍できんかったしな。
でも全員で馬車を引くのもええなあ
そうやな。全員で呼吸を合わせるのも面白いなあ
でも、全力でも走りたいですよ
そやな
続く
スペイパルから戻って、エルフィ、パム、レイはそれぞれの里に飛んで、説明を再開している。
「さて、メアさん、ユーリ、キャロル、エーネ。各種族の所に説明に歩かない私達は、遺跡を発掘に行きましょうか」
久しぶりに戻って来たブレンダがそう言った。
「はい」全員が嬉しそうに返事をした。
「とは言っても、メアさんのおかげでほとんど特定されているのですけどね」とブレンダ
「そうですね。問題は山の中なので、そこまで行くのが難しいかと思います」とキャロル
「では、野宿の用意をして荷物を背負って出かけましょうか」とユーリが言った。
「念のためにご主人様に連絡を入れてください」メアが言いました。
「そうですね」
『ハズ様聞こえていますか?』
『どうしました。何かありましたか?』
『たいした用事でもありませんが、家から出て山の中にいますので、事前にご連絡をと思いまして』
『どこに行くのですか?ひとりですか?』
『まったく。おぬしは本当に心配性じゃなあ。ブレンダよ。誰と何をしにいくのか話してくれ』
『はい。メアさん、ユーリ、キャロルそしてエーネと一緒に山の中にあるはずの、司令塔の場所を探しに行きます』
『そうでしたか。ぜひお願いします。見つけても触らないでくださいね』
『私も魔法使いの端くれですから、誘惑に逆らえないかもしれません』
『いや、私も一緒に中に入りたいのですが』
『であればお早くお帰りください。私達はハズ様の帰りを待ちきれないかもしれませんが』
『わかりました。見つかったらすぐに連絡くださいね』
『まあ、私の好奇心が抑えきれないかもしれませんので、できるだけ早くお戻りくださいね。マイハズ様。それでは失礼します』
ブレンダはそこで会話を終了した。
「おー」なぜか4人から拍手があがる。
「さすがですねえ。やはり私達の師匠です。かっこいいです」ユーリが感心している
「ディー様の声の動揺ぐあいが新鮮です」エーネが頷いています。
「ブレンダさん私も感動しています」メアまでがそう言った。
「じゃあ私も行こうかしら」アンジーが居間に入ってくる。
「まーたわしをのけ者にしよって」モーラも戻って来た。
「この家を見ていなくていいのですか?」ブレンダが言う。
「おぬし達を山の中に送っていってやるわ、マーカーを置いて来て夜になったら戻ってこい。ああブレンダはマーカーを使わないのであったな」
「モーラ様。今回は宝探しなのです。探検ごっこなのですよ」エーネが目をキラキラさせている。
「探検ごっこじゃと?」
「メアさんがスペイパルで発見した遺跡の地点を魔方陣の五芒星のひとつの点と仮定して、ベリアルとビギナギルの間にその円周が来た場合のシミュレーションをしてみたそうなのです。そこにファーン周辺の4カ所の遺跡の位置から小さい実験場の大きさを予測した結果とあわせて小さい円と大きい円の間にあると予想されました」
「誤差はどのくらいなのかしら?」
「100キロ平米ですね」メアが言った。
「1辺10キロの範囲でしょう?」アンジーが両手の人差し指で四角を描いて見せる。
「直径33キロの範囲ですね」メアが目の前に円を描いた。
「なるほどね。たいした距離ではないわね。だから探検ごっこなのね」アンジーが頷く。
「すぐ見つかるとは思いますので、かかっても2泊3日くらいでしょうか」ブレンダが言った。
『それなら~参加する~』エルフィ
『僕が行けば一発ですよ』レイ
『私も参加したいです』パム
『聞いていましたよ。私も行きます』私もそう言った。
『おぬしらそれで大丈夫なのか?』
『『『『『大丈夫です』』』』』
『結局全員か』
『私としては一泊でもモーラ様とアンジー様が台所をどうしてしまうのか不安でしたから、ちょっと嬉しいですけどね』メアがツッコミを入れた。
翌日早朝に全員が合流して、念のため野営の準備もして、モーラの手に乗り山の中に移動した。
「これは、結構時間がかかりそうじゃなあ」
鬱蒼とした木々に囲まれて陽もあまり射さない森の中です。陽が射さない分下草もあまり生えていないのは、歩くには楽ですけどね。
「それでは、まずここにベースポイントを置きます」私はそこにマーカーを4個置いた。
「そんなもの、迷ったら見つからんじゃろう」
「何かあったらここに飛ぶように仕掛けをするのですね」パムが言った。
「そのとおりです。まあ、モーラがいますから何かあっても大丈夫でしょうけど、自分の位置がわからないとどこに飛んできて欲しいかわかりませんからね」
「相変わらず用心深いわねえ」
「山を舐めてはいけません」私は、位置情報をセットしたブローチを全員に渡す。
「こんなもの作っておったのか」モーラがそれを持ち上げて見ている。
「ええ、何かの時に使えるかと思って」
「本当に色々な事を想定しているのですね」ブレンダが感心している。
「私は色々考える事でしか身を守る術を持っていませんから」
「よく言うわ」モーラがあきれている。
「では、お昼には一度戻れるくらいの距離ですので、まず横に3キロほどの間隔を空けます。そして、南の方向へ向かって、間隔を狭めながら15キロほど歩きます」
「いえ、広がったまま進みましょう。私の計測誤差もあると思いますので」メアが慎重です。
「では、ブローチを長押ししてください」押すとビーと大きい音がずっとしています。
「音がうるさいです」レイが本当に嫌そうです。
「ブローチ同士が近いと大きい音がします。3キロ離れると音が小さくなりますからそこまで広がったら前進しますね」
「本当に便利グッズじゃな」
『皆さんいいですか?』私達はメアを中心に横に広がった。私とブレンダが両翼にその間を皆さんが間隔を空けて立っています。
『OKです』
『メアさん合図を』
『ではパンツァーフォー』
『いやそれは違いますよ。出発進行とかではありませんか?』
『違いましたか。父が良く出発する時に使っていましたので、使ってみました』
『・・・まあいいです』
『では、パンツァーフォー』
『そういえば、ここはどんな獣がいますかねえ』
『熊とかですかね。小動物もいますが、結構獰猛ですよ』パムが言った。
『じゃあ私は襲われるかもしれないわねえ。キャー』アンジーが抑揚のない悲鳴を上げる。
『じゃあ私も。キャー』ユーリが同じようにキャーと言った。
『何をやっとる。まあ・・・キャー』モーラがしようがない感じでキャーと言った。
『付き合いますよ~キャー。旦那様~助けて~』
『そうやっていると、本物が来ますよ。キャー』私もついつい遊んでしまう。
『ディー様。こ、声が出せません。で、出ました』エーネの心細げな声がした。
『エーネ。どこ?何がでたの』キャロルが焦っている。
『し、正面におっきな熊です。ど、どうしましょう』
『何を言っているの?大丈夫だから、ちゃんと倒しなさいよ』
『いや、唸っています。こ、恐いです』
『いつも魔獣を狩っているでしょ』
『ひとりで出会ったことがありません』
『とりあえず。向かってきたらブローチを使ってください』
『あ、逃げてくれました。た、助かったー』
『おかしいですねえ。エーネの魔族の匂いに、そもそも寄って来ないはずなのですが』
『あ・・・』
『そうよねえ。不可視で匂い消しのローブ羽織っているはずないしねえ』
アンジーが意地悪な声で言った。
『モーラ様は気配を消しているのですか?』ブレンダが尋ねる。
『あ、ああ、まあな』モーラが気まずそうに返事をした。どうやらモーラも気配を消しているらしい。
『さあ、進みますよ』メアが再び号令をかける。
そうして、今度は黙々と15キロを進む。
『これで大体15キロです』メアが言った。
『皆さんお疲れ様でした。一度集合しましょう』
『ブローチは使わないのか』
『私は寂しいので』私がそう言ってメアの元に歩き出す。
『はあ?まあ良いわ。メアの所に集合ね』
『すいませんねえ』私はすまなさそうに言った。
そしてメアの所に集合して、全員の顔を見て私はちょっと安心した。
「私のせいですいません」なぜかエーネが謝っている。
「あんたは何も悪くないじゃない。なぜ謝るのかしら?」
「きっとディー様は、私が心細いのを感じたのではありませんか?」
「本当に私が皆さんの顔を見たかったのですよ」
「旦那様~寂しかった~」エルフィが私の背中にぶつかってくる。
なぜかユーリもキャロルも私にくっついている。
「おやおや」
「確かに顔が見えずに声だけだとかえって不安になるものじゃな」
全員が私の周りに集まった。
「ではスタート位置にもどりましょう」
「「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」」おやおや皆さん。心が揃ってますね。
スタート位置に戻ってきた私達は、ちょっと早めの昼食にしました。
お弁当は、不可視化と匂い消しの魔法をかけた布で、スタート位置に隠しておいたのです。
「おにぎり!おにぎり!」
エーネが嬉しそうにしています。どうやら戦争ごっこの時に食べてから、気に入ったらしくて、メアに頼んで作ってもらったようです。アンジーのお祈りのあと、食事がはじまりました。
「確かにおにぎりは、山の中でも食べやすいな」モーラが食べながらそう言った。
「外で食べるのは、いつもと違って、さらに美味しいですねえ」
私がそう言ったのですが、全員が口に食事を頬張って、モグモグさせていて誰も返事をしてくれませんでした。へこんでいる私にすかさずメアがお茶を出してくれました。熱々のお茶です。ちょっと嬉しいです。
「ごちそうさまでした」私は両手をあわせてメアさんに感謝です。
すぐにおかずもなくなり、恨めしそうにレイがおかずの入っていた空の篭を見ていますが、他の人達は立ち上がって準備運動をしている。
「腹ごなしに行くか」モーラがそう言って立ち上がる。
「そうですね」
そうして、最初と同じように横に広がって。今度は反対側に向かって歩き出す。しばらく歩くと
『ありましたよ』レイの声が聞こえる。獣化したレイが私の所に走ってきて私に飛びつく。
私は、レイを撫で回してからそこに移動する。すでにメアとパムとエーネがそこにいた。
下草の下の地面に光るものが見えた。
「何か点滅しています」パムがそう言って少しだけ後ろに下がる。
「手をかざして魔力を込めると何か起きますから」私の言葉に、パムの横にいたブレンダがそこに魔力を込める。少しだけ周囲の土が盛り上がり、動きを止めた。
「レイ、周りを掘ってください」
レイが前足で少し掘ったところ、丸いハッチのようなものが現れる。ブレンダがそこに触れて魔力を込める。ハッチのようなものが開いて、中に通じる穴が現れる。ブレンダがのぞき込む。
「梯子がありますね」ブレンダが私を見て言った。
「行けそうですか?」
「ブレンダ。私とモーラで先行するわ、あ、レイも来て頂戴」アンジーが言って、モーラとレイに目で合図をする。
「私が先に行きたいのですが」
「今回はダメよ」アンジーが私を見て言った。そしてハッチの中に入って、梯子を下りた。
『扉があったわよ』
『長命人族のところの遺跡を覚えていますか?』
『あ、開いた。上の様子は何か変わったかしら?』
『変わっていません』
『さらに階段があるのよ。降りていくわ』
『大丈夫ですか?・・・どうですか?』
『いつもどおりの広い部屋に到着したわよ。おや電気がついたわねえ。何か振動もしているわ。そっちはどうなの』
『確かに振動がひどくなってきました。おや土が盛り上がって何かが出てきますね。でかいです。ああこれが塔の基部なのでしょうか。そこから塔がゆっくり伸びていきますね。すごい高さまで伸びています』
私は実況しながら見ていました。アンジーが入った入り口は、塔の基部で、数メートル持ち上がったら停止して、その基部の中心から塔自体が100メートルほど伸びていった。
「これが司令塔ですか」ブレンダの声からワクワク感が伝わってきます。もちろん私もワクワクしていますが。
「これが制御塔なのですねえ。それにしても、元の状態に戻せるのでしょうか」私は首をかしげました。
『とりあえず、おぬしも入ってこんか。どうすればよいのかわからんぞ』
「じゃあ」私を先頭にして、ハッチの梯子を下りて、さらに奥の部屋に進みます。
「さすがに適当にスイッチ類を押す訳にもいきませんねえ」
「塔の上に行くにはどうすればいいのでしょうか」
ブレンダがキョロキョロと見回して触りたそうにしている。
「多分、部屋の真ん中にあるのがエレベーターなのでしょうねえ」
「でもここに塔の部分が収納されるのですよね」ブレンダが天井を見上げながら言った。
「ブレンダ。申し訳ありませんが・・・」私はすまなさそうにブレンダに言いかけた。
「連れてきます」ブレンダが敬礼をして言った。察しが良すぎますよ。
「私も行ってきます」メアまでが敬礼をして言いました。
「お二人ともよろしくお願いします。多分紫さんもついてくると思いますが」
私もついつい敬礼してしまいました。
そうしてしばらく待っていると、4人が到着する。
「こんなに早く見つけたんですねえ」アスターテさんがあきれている。隣で紫も同じ顔をしている。
「私には、「立ってる者は親でも使え」という座右の銘がありますので」
「座右の銘ではありませんよね」
「まあそうですが。とりあえず、周囲に見つからないように塔を収納したいのですが、できますか?」
「無理でしょうねえ。でもリッチーさんならできるかもしれません」
「わかりました。私がちょっと行ってきます」
私はそこから消えた。
「行動が早いわねえ。あまり乗り気ではなかったはずなのに」
「あるじ様は男の子ですから」ユーリが得意げにそう言った。
私はリッチーさんの遺跡に到着する。階段を昇って、リッチーさんのいる最奥の部屋の扉をノックする。
「こんにちは、リッチーさんいらっしゃいますか?」
「今、ストレッチをしておった。ちょっとまて」
扉の向こうからリッチーさんの声がした。骸骨のストレッチ、ちょっと見てみたいです。
「実は、遺跡の司令塔が見つかりまして」
「ついに見つけたのか」
「はい。部屋に入っても良いですか?」
「ああ、すまない。入っても良いぞ」
私は部屋の中に入る。中でリッチーさんが、いつものローブでは無く、普通の服を着ていた。あら、骸骨に服。ちょっと珍しい。
「そうか、見つけてしまったか。スペイパルの遺跡を見つけてすぐに見つけるとはなあ。おぬし、やることが早すぎるぞ」
「えー。だって使えるものなら使いたいじゃないですか」
「子どもじゃのう。まあわかった。すまぬがわしを連れて行ってくれぬか」
「夜の方が良いですか?」
「それは問題ない。お前は転送魔法が使えるのであろう?」
「わかりました。一度戻って・・・」
「何をしておる」
「マーカーをここに置いておきます」
「ここはやめておけ、魔法を遮断しているから、おかしな事になるかもしれぬ。入り口の所にした方が良いぞ」
「わかりました。そこまでは出てこられますね」
「ああ大丈夫だ」
そして、リッチーさんを連れて塔の中に戻った。
「わっビックリ」
リッチーさんを見てエーネが驚いている。まあそうだ。実際、リッチーに会ったのは、モーラ、アンジー、メア、パムくらいのものだから。
私は全員にリッチーさんを紹介する。
「リッチーさんお名前は」
「おぬし今更聞くのか?」リッチーさんが今更?な言い方をする。
「だって魔法使いはお互い名前は教えないって言ったじゃないですか」
「ああそうだったな。アナスタシア・コバレフスカヤかイワノビッチ・コゾロフのどちらかで呼べ」
「性別はどちらですか?」
「わしに性別はない。男の時はイワノビッチだし女の時はアナスタシアだったのでな」
「えー、男女入れ替えられるのですか」
「まあな。ほれ」リッチーさんは骸骨の上にやせぎすな男のイメージを投影する。しかし裸だ。
「おおーって裸はやめてください」
「仕方なかろう。本来はこの上に服を着るのだからな。イメージにないわ」
「わかりましたから、とりあえずローブで前を・・」
「ほれ、ついでにこっちもな」
リッチーさんはナイスバディな女のイメージを投影する。しかも裸です。ちょっとポーズ作ったりしてお茶目ですね。
「はい!そこまでです」ブレンダがそこで指を鳴らす。リッチーさんのナイスバディな女のイメージは消されてしまった。
「えーーっ」私とアスターテさんは、肩を落とした。
「旦那様の~エッチ~」とエルフィ
「幻滅です」キャロル
「ええ、最低です」軽蔑した目でメアが私を見る。
「まあ、わからないわけではありませんが最低です」とパム
「やはり胸ですか」ユーリがため息をつく
「ま、負けません・・です」エーネが悲しそうに言った。
「まあ、そうよね」
「そうじゃな」
「あ・な・た」紫の眉間に血管が浮いている。
「「ひいっ」」私達は二人揃ってその場に立ちこめる怒りのオーラに飛び上がる。
「ごほん」ブレンダが咳払いをする。
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「まあ、コゾロフがよさそうじゃな」女性陣の視線に、リッチーさんは言った。
そうして、塔を収納するためにどうしようか考えていると、コゾロフさんが言った。
「おぬしに隠していたが、わしはここを作った時のひとりだ」
「メンバーから外されたのではなかったのですか?」
「最後の最後で外された。なので装置の使い方は知っている」
「早く言ってくださいよー」
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「そうじゃ。失敗した時にいなかったから、失敗した原因がわからないからな」
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コゾロフさんが首をかしげる。骸骨って首をかしげても首が落ちないものなのでしょうか。気になります。
そうして、コゾロフさんの指示で、コンソールが起動して、指示通り操作して、塔は無事に収納された。しかし基部はそのまま露出している。
「これはさすがに地下には戻せん。緊急避難的に地下に潜っていたのだから、正常な位置がこれなのだよ」
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「わかりました」
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「何とかなるさ。あははは」乾いた笑いでそう答えるアスターテさん。大丈夫ですか?
「ここは大丈夫じゃ。備蓄すれば3ヶ月は中で暮らせる」
コゾロフさんが胸を叩く。ちょっと骨の音がした。
「だそうだよパープル。いいだろう?」アスターテさんは紫に甘えるような顔をした。
「ハイハイ。せっかく一緒に暮らせるようになったのに・・・しかたないわね・たまに差し入れにくるわ」
「愛しているよパープル」
「もう!そういう時だけ調子がいいんだから」
「こやつら昼間っから何をしているのだ」モーラがあきれている。
「イチャイチャしているのですよ。お互い愛しているのですねえ」私は微笑ましく見ていました。
「両親がベタベタしているのを見るのは複雑な気分です。喜ばなければいけないのでしょうけど、ちょっと見ていられません」メアがため息をついた。
そうして、私はリッチーことコゾロフさんを連れて転移し、ブレンダがアスターテさんを連れて転移した。
「あとで遊びに行くわ」私に向かって紫がちょっとだけ睨んで転移しました。こわっ
その後は、まず食料を運び込んで、定期的にメアと紫が塔に監視しに行っています。
メアと共に戻って来た紫が私を睨んで言いました。
「あなたには責任を取ってもらいますからね」
「そう言われましても、どんな責任を取れというのですか」
「まあ、貸しにしておくから、何かの時に手伝ってもらうわね」
「私の出来ることであれば」でも紫さんは、私より魔法も使えそうですし、手伝うことはなさそうですけどねえ。
「まあ、この権利は大事に取っておくわ」そう言ってメアと目配せをしてそこから消えた。
○塔の目的
さて、あれから数日しか経過してませんが、司令塔の様子が大変気になったので塔にお邪魔しました。
「どうも。気になってきてしまいました」
「おおう来たか。遺跡自体はどこも壊れておらんようだぞ」
「そうなのですか。この遺跡の目的をもう一度おさらいしてもいいですか?」
「ああ、ここは転移の実験をする施設じゃ」
「やはりそうでしたか」
「それで小さい円の遺跡が小規模の転移実験場で、大きい円の方が本当の転移施設じゃ」
「小規模の転移実験場では何が行われたのですか?」
「そこからはわしも関わっておらんのだが、小規模の方から大きい転移施設に向けて、転移のテストをしていたようじゃ」
「それは成功したのですか?」
「わからん。拠点となる遺跡が全て自閉モードに入ったという事は、その実験が転移する前に失敗したのか、転移先に転移が出来なくて何かがあったのかはわからないのだよ」
「なるほど」
「でも小規模の方は起動できることは確認しましたよ」
「起動するのですか?」
「今起動している遺跡につながっている動力回線さえ生きていれば大丈夫です」
「起動試験してみませんか」
「なぜこの遺跡にこだわる。これは失敗作かもしれないのだよ」
「本当にそうでしょうか」
「起動は間違いなくする。じゃが事故は起きたのだ」
「私は失敗作でも良いのです。世界の引っ越しを邪魔する人たちを一網打尽にして始末したいのです」
「始末するのか?」
「始末ではなくて、もしこの施設が正常に稼働するのなら次の世界に送り込みます。それが私の考えた始末です」
「そうか。ならば私の知っている限りの事で協力しよう」
「秘密にしてくださいね」
そうして、しばらくして、家に蝙蝠が飛んできて窓を叩く。
「おや連絡が来ましたか」
私は、ひとりで塔に飛びました。
「その時の問題点はわかったぞ」
「はいわかりましたよ」
「何が原因だったのですか?」
「やはり魔力量の充填が十分でなかったのだろう。災害時に使おうとして作っていたが、想定より早く災害がきてしまって、魔力の供給が十分でないまま起動したようだ。どこに飛ぶわけでもなく、その土地を空中に浮かべるつもりだったようじゃな。ほれ、今の魔法使いの里のように空に浮かべるつもりだったのだ。しかし、魔力がなかったので、失敗したようじゃな。だから小規模の方の転移実験は成功していたようだ。じゃが今回使用するには問題がある」
「なんですか?」
「転送「位置」の固定じゃ。今回は別の世界に空間をつないで、新しい世界への位置座標を新たに作る必要があるのだろう?それはどうするのだ」
コゾロフさんは私に尋ねる。
「それと、設定の値を探した時に見つけたのですが、転移範囲を固定してから、その範囲内にいる、生物を種族別に転移する設定が見つかったのです。まああまり使えないと思いますけどね」
アスターテさんがそう付け加える。
「種族別に転移できるのですか?」
「ええ、多分人だけを抽出して転移させるつもりで設定値を作ったのでしょうけど、設定値を変更すると、人以外の種族を転移できるようにもなるみたいです。今回は、全員転移するつもりなのですよね?あまり必要なさそうですね」
「確かにあまり使えないかもしれませんねえ」
「起動実験はいつでもできるぞ。いつ始めるのかな」
「塔は目立ちますから起動試験をやってすぐたたみますね」
「ああ、とりあえず各遺跡への魔力供給テストは先行してできるが、それぞれの場所に人を置かないとならぬ。それだけは人が必要だ、もし故障していれば修理も必要だしな」
「1回だけ使用するつもりでいましたが、欲が出てきました。一度テストして、再充填までの時間がどのくらいかかるのか、試してみましょう」
「まとめて送り込むには都合の良い施設だからなあ。確実性を求めるなら試験は必要か」
「起動実験の段取りを組んでもらえませんか」
「魔法使いが10人・・・でも認識IDを登録すれば、魔法使いでなくても十分ですね」アスターテさんもノリノリです。
「認識IDを登録ですか?」
「簡単ですよ。この塔に入って作業をした人は、自動的に認識されます。魔力がなくても、エサにはなりませんよ」
「紫さんに声を掛けますね」
「ああ、もうじき来ますよ」
「え?」
「こんにちは。あら、DTさんあなたもいたのですか」
「そんな嫌そうに言わないで」
「あなたに会うと、最近あまり良い事がないのよ。大体2人の顔が輝いているところを見ると何か企んでいるのでしょう?」
「お見込みのとおりです。遺跡の起動実験です」
「ほらね。碌でもない事を考えていたわね」
「なので、何人か魔法使いを呼んで欲しいのです」
「秘密にしたいのなら、私含めて4人かしらねえ。エリス、シンカ、豪炎、秘密を守れそうなのはそれくらいねえ」
「魔法使いは私とブレンダくらいなのですよ。まあ、秘密を守ってくれそうなのは、アーカーソンさん、スペイパルのロクサーヌさんとサクシーダの魔法使いさん達くらいですかねえ、ああ、マジシャンズナインの子とリアンも大丈夫でしょう」
「私も一応魔法使いなのですが」
「アスターテさんには、遺跡に何かあった時に暴走を止めに飛んでもらいますから別枠です」
「そうね」
「わしはこの塔にいることになるかな」コゾロフさんが言った。
「DTさんあなたも飛んでもらうので、除くわね」
「・・・はい」
「私はちょっとエリスのところに行ってくるわね」
「よろしくお願いします」
そうして、大小2つの魔方陣を起動するための10カ所の遺跡の位置を確認して、すでに発掘している小さいの方の遺跡と大きい方のスペイパルを除き4カ所を発見、発掘して起動実験を行う。
それぞれの遺跡には、小さい方の魔方陣には、メア、エーネ、ブレンダ、アンジー、モーラ、大きい方にエリスとエルフィ、シンカとパム、豪炎とキャロル、紫とユーリ、スペイパルはロクサーヌとレイが配置された。事前に地下に埋設された通信装置とモニターの仕方をレクチャーされている。
「全員配置につきましたね」モニター上にランプが表示される。
「塔を起動します」私が言うと、コゾロフさんがスイッチを入れた。
装置は起動して、異常が出ている様子はない。しかし、一番遠い中原の紫と一緒にいるユーリから連絡が入る。
『遺跡内の電源が落ちました』
『閉じ込められたのですか?』
『いいえ、入り口は開いたままです。あ、電気がつきました』
『スペイパルの遺跡も電気がついたり消えたりしています』
『他はどうですか?異常がある方は連絡してください』
『・・・』どうやらなさそうです。
「コゾロフさん、アスターテさん。中原は電気が落ちて再起動。スペイパルは、電気が点滅しているみたいです」
「わかった。モニターでもそう表示されている。起動実験終了するぞ」
『全員撤収してください』
『ラジャー』
結局、全員が塔に戻って来てしまい、ギュウギュウ詰めの中、検討会が始まる。
「やはり遠い地域への魔力供給は厳しいな。範囲は・・・そうだなこの塔からヨルドムンドまでを直径とする範囲くらいなら、小規模実験場の大きさを転移できそうだ。問題は転移先の設定だけだ」
「では、塔の手前で試験場程度の範囲は大丈夫そうですね」
「ああ、誘いこむのか。考えている事がそれなら大丈夫ではないか」
「では、再度転移を実験してみましょう」
そして、再び実験を開始する。今度は遺跡には誰も配置していない。
「移転元を大規模実験場に、移転先を小規模実験場に設定して転移範囲を直径10キロとして、転移開始」
転移開始のスイッチが入れられたが、微振動が起きた程度で何か起きた感じではなかった。
「モーラお願いしますね」
「ああちょっと行ってくる」
モーラは、転移元を見たところ、大地はえぐり取られていて、移転先の森にその大地は落ちていた。
『転移したみたいだぞ』
「起動実験成功です。転移可能なのを確認しました」
「やはり魔力量が乏しい中で起動してしまったのが事故の原因か」コゾロフさんが呟く。
「災害にあわせて何とか逃げ延びようとしたのでしょうかね」
「そうかもしれんな」
「さて、遠いところの遺跡も起動しましたので、遺跡の場所を知られてしまい周辺が騒がしくなりますが、中原、スペイパルなどの遠くの遺跡は放置しておきます」
「どこまでの範囲が必要になりますか?」
「ハイランディスと塔の真下、都市のない山中それ以外はそのままでも問題ないようです。
「正直に言って陽動作戦。時間稼ぎになります。並行して小規模種族の移転が始まっていますので、そちらの行動に目が行かないようにしたいのです」
Appendix
「なんじゃと、わしに塔までの道を作れと?」
「ええ、私もブレンダも紫さんもいない時にアスターテさんが餓死しないようにするには、食料の補給路が欲しいのです」
「おぬしの馬車の前につけた例のチェーンソーでやれば良いであろう」
「モーラすみませんがよろしくお願いします」
「わしには、そんな事ばかり頼みおって」
「酒樽2つ用意します」
「なんじゃと?」
「南方で取れる果物を使って果実酒を作りましょう」
「おぬし取引がうまくなったな。仕方ないそれで手を打ってやるわ」
「ありがとうございます。果実はすぐに手に入りますので、作業はお早めにお願いしますね」
「どの辺に作ればよいのかな」
「ファーンとベリアルを繋ぐ道に降ろしてくれればいいと思います。ああ、急勾配があると馬車が登れませんので蛇行させてください」
「大体わかった」
「キャロルとエーネに収穫に行ってもらいましょう」
「「ラジャー」」
Appendix
最近、わしら出番なしやなあ。
ああ、スペイパルの時もあまり活躍できんかったしな。
でも全員で馬車を引くのもええなあ
そうやな。全員で呼吸を合わせるのも面白いなあ
でも、全力でも走りたいですよ
そやな
続く
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魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
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