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第36話 大演習とある騒動

第36-2話 大演習2

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○西門の攻防
 西側の門では、イオンが率いた軍が待機して、正門の動きを待っていた。伝令が叫ぶ。
「正面動きました!」
「こちらも動くぞ!」
 兵士を5列縦隊にして前進させる。門が開いてユーリが出てくる。
「気をつけろ!姫騎士だ」そう言って進軍を中止して様子を見ている。
「残念ですが手加減できません」
 ユーリが大剣を馬上にいるイオンに向けて言った。
「する必要はない」
 そう言ってイオンが馬で駆けつける。
「この者の相手は私がする。構わず進軍せよ」
「させませんよ。ちなみにこの周囲には、あるじ様が仕掛けた魔方陣が多数あります。注意しないと引っかかりますよ」
「それはあなたも同じでしょう。ならば真っ直ぐには通れるはず。私が道を開く」
「できますか?」
「できる」
 そうしてイオンとユーリの戦いは始まった。
「通りたければ私を倒してからにしてください」
「私が相手をする。その間に門にたどり着け」
「ふん!」ユーリが剣に魔法をまとわせ、横に薙いだ。炎の壁が兵士の前に作られ、しばらくして消えた。
「通れば火を放ちます。ですから私を倒したら通れますよ」
 ユーリはイオンを見ながら言った。
「わかった。本来の戦いではないが、隙をついて兵士が通っても問題ないな」
「構いません。焼かれたければそうしてください」
「なるほど。余裕があるのか」
「いいえ、多分魔族と戦っても同じようにそう伝えるでしょう。腕に覚えのある方ならこの誘いに必ず乗ってきます。それで時間が稼げるのならばそのほうがいいので」
 ユーリはイオンの目に剣を向けてそう言った。
「なるほど。そういう考えもあるのか。これまでは何も考えたことはなかった。そうやって足止めをすることもできるのだな」
「私はこれまで魔族とも戦ってきました。それはあなたも同じですよね」
「ああそうだ」
「私は一対一が多かったのです。そのおかげで成長できました。この戦いでも成長したいと思います」
「全力でくると」
「あなたもそのつもりですよね」
「今回は私の成長を見て欲しいと思っているのだ。あなたを討ち取るつもりで行きます」
「ならば手加減はできません。いきますよ」
「こちらも動く!」
 イオンは華麗に馬上から飛び降り、マントを使ってユーリの目を攪乱しながら間合いを詰めてきた。
 イオンは、柄に返しの握りのある剣を使っている。その方が変化に富んだ剣さばきができるからだ。上下から急に左右への軌道変更などを使って剣を打ち下ろす。
 おかげでユーリは防戦一方になっている。その隙をついて兵士たちがじわじわと前進を始める。 それでもユーリは、王女の剣をかわしながら、兵士達の手前に炎や氷を打ち込み、動きを阻む。しかし戦っている2人を中心に左右から動いているために徐々にではあるが兵士は進んでいる。
「手数が多いのはそのためでしたか」
「ああ、まともに戦ってあなたに勝てるとは思えません」
「その気持ちがすでに負けているとは思いませんか?」
「なにを」
「こうして私を抑えていられる。それだけの実力がついているのに、負けるかもしれないと思って動きが縮こまっているのですよ。負けるのが怖いですか?」
 ユーリは挑発的な言葉を投げかける。
「なるほど。確かに怖いさ。きっとあなた達家族と戦って誰一人に対しても勝てると思っていない」
「本気を出すのも怖いのでしょう?」
「本気も出しているし、怖くもない。一体何を言っているのだ」
 イオンはユーリの言葉に困惑していた。
「あなたは幼少の時からずっと、相手を傷つけそうになると自分をセーブしているのです。それでも何とかなってきた。でも、それではこれからは戦い抜けません。と、あるじ様が言っておりましたよ。私も同意見です」
 そこでユーリは、イオンの剣の動きを止め、いままでぶつけ合っていた剣をいなして、イオンの体勢を崩した。
「そして」
 ユーリは、イオンがのけぞる体勢になり、首にかけていたネックレスが肌から離れた瞬間、そのネックレスのチェーンを切り、足下に落ちたブローチ部分を踏みつけた。
「あ、そのネックレスは・・・よくも踏みにじったな」イオンの顔が怒りに醜くゆがんだ。
「戦いの場にこのようなものは不要」
 ユーリはさらにそのブローチを踏みつけて粉々にした。
「あなただってしているではありませんか!」
 悲痛な叫びをあげるイオン。
「これは緊急脱出用の防具です。この装飾品からは何も感じられませんし、そもそも取られるようでは意味がないでしょう」
 ユーリはイオンに剣を突きつけてそう言った。
「そうであっても、 踏みにじる必要がありますか?」
「さて舞台は揃いました。あなたの憎しみが、やっとあなたの本気に火をつけたようですね。 周囲は邪魔ができません。では行きましょうか」
 ユーリは、そう言って、すり足でジワジワとイオンに迫る。
「あなたなら私のこの怒りを全力を受け止められると言うのか!」
「もちろん。そうでなければ挑発しませんよ。やりましょうか。 殺し合いを」
「わかりました。いやわかった。いくぞ!」
 先ほどとは1段階速い戦いが始まる。剣を3合ほども打ち合った時には、イオンに怒りはすでになかった。この速度と攻撃のやりとりは、イオンにとってとても高揚感があったのだ。
 そうか本当に戦った時にやっとわかるのか。だが、「相手を倒してこそ」なのはわかっている。ここからさらにもう一段速い剣速に持っていく。
 そこで相手が防御一辺倒になっているのがわかる。だが一撃が出せない。相手を圧倒しているはずなのに切り札がない。そうだった、自分には決定打がないのだこれまでも必要がなかった。しかし同時に、この人をどうしても倒したい。そう思った瞬間から、心に湧き上がる何かが自分の中に生じ始めた。
 ああ、魔法を使えというのか。魔法に頼るのは何か違うと感じていた。しかしそれでは、全力はまだ出していなかったのだと。握っている片手に魔法を貯めて、握ったまま相手に打ち出す。しかしかわされる。何度も何度も打ち出しているが、迷いがあるからなのか、相手には当てられていない。そこに一筋の光が見えた。魔法の呪文が自分の中に湧き上がる。
「バーニングブレイズ!」
 イオンはそう叫び、剣を炎でまとい、相手を突く。相手はそれを剣で受けて、かなり後方へ飛ばされていた。
「だめか」それでもイオンの戦意は衰えない。さらに相手に向かって進もうとする、
「イオン様お待ちください!」その声にイオンは一瞬で我に帰る。
「サフィ止めるな。あの宝石はお前がくれたものだ。私の大事な宝物が壊されたのだ」
「それは偽物です。それに」
「それになんだ?」
「剣をご覧ください」
 サフィに言われて剣を見る。炎に負けたのかボロボロになっている。この剣はDT様が私のために何本も試作を重ねた剣のはず。どうしてこうなったのか。
「そうか、魔法に耐えられなかったか」
「一度お戻りください」
「わかった。全軍一度戻れ」イオンの言葉に全軍が自陣に戻って来る。
 自軍に戻りイオナはサフィに叩きつけるようにこう言った。
「私をだましていたのか」
「そうです」
「あの方はどこまでも・・・そうか。そこまでわかっていられているのか」
「いいえ私が話しました。まだ越えられる壁があると」
「それでこの茶番か」
「はい」
「本当は感謝しなければならないのだろうな」イオンは、折れた剣を見ながらそういった。
「これを」サフィが別の剣を差し出す。
「この剣は?」折れた剣が手からこぼれ落ち、その剣を受け取る。
「今の魔法にも耐える剣だそうです。これで私を全力で倒しに来なさいと、DT様からの言伝です」
「本当にあの方は賢者ではなく師匠なのだな。ああ、先生というのが一番ぴったりくるな」
「確かにそうですね」
「さて気持ちを切り替えて作戦を練り直そうか」
「はい」

 城の中にユーリが戻ってくる。門の所には私が待っていた。
「あまりこういうこういう形では戦いたくなかったのですが」
 ユーリは、私を見ずに寂しそうにそう呟いた。私はユーリの肩を軽く抱く。
「あの子からお願いされましたからねえ。伸び悩んでいると」
 私はユーリの頭をしばらく撫でていた。
「相変わらず甘いわねえ」 アンジーも同じように現れた。
「いい感じに成長していると思います。上級魔族とも戦えるところまで来ていると思いますよ」
 ユーリが魔法攻撃を受けた剣を見ながらそう言った。
「慢心しなければ良いのですが」
「大丈夫だと思います」
「そうですか。同じ頃に始まった、反対側はまだ終わりませんか?」
「戦いが終わるのが早すぎましたか」
『正面に第2波です』
「パムさん疲れていませんか?行けますか?」
「もちろんです」

○東門の攻防
「中央南門も西門も動きました!」伝令が叫ぶ。
「我々も行くぞ!」ユージがそう叫んで、進撃を開始しようとする。
「ここから先は行かせませんよ!」
 いつの間にか、レイが扉の前にいる。門は開いていない。壁から飛び降りたようだ。いや、跳躍して壁を飛び越えたようにも見える。
 兵士たちは、勇者一行を先頭にして進んでいる。周囲の魔法陣を警戒しながら進んでいる。しかし、進む速度は遅々としている。先頭の勇者達がゆっくり進んでいるからだ。
「怖がっている?あの人がですか?」
 ライオットがパトリシアにそう言った。
「はい。勇者と言われて頑張ってはいますが、その根底にあるのは恐怖です。色々な恐怖がありますが、たぶん一番恐れているのは孤独かもしれません」
 パトリシアが冷静に言った。 
「そして今は、特訓を受けた時に見た、3人の訓練の様子を思い出しているのです」
 パトリシアがユージを寂しそうに見て言った。 
「あれから我々もその速度域に達していますよ」
 ライオットが言った。
「彼は不安なんだよ。自分の実力を信じ切れていないんだ。だが越えてもらわなければならない」
 ダイアンがそばに現れて行った。
「そうです。私は信じていますよ、彼を」
 パトリシアがそう言って頷く。
「兵を止めてください。これ以上前に出ると兵士がけがをしますよ」
 レイは、そう言ったあと、獣化してその場から消えた。進軍する兵士たちの前の地面に深い溝がいつの間にかできている。多分レイが土を蹴り上げながら兵士達の前を走り抜けたのだ。
「さて、勇者さん行きますよ」
 左端の兵士のところで、獣化を解いたレイは、そう言ったあとそこから消える。あっという間に距離を詰め、勇者の構えた剣に到達する。しかし勇者は、それを目でとらえ、そしてレイが繰り出した右腕を剣でいなした。
 そこからレイは、繰り返し消えては、勇者を攻撃している。勇者は最初へっぴり腰だったが、徐々にその速度に慣れて剣で切り返すまでになった。
「あんたの親方様だっけ?すごいよなあ。俺たちに武器や装備まで提供して訓練までしてくれた。おかげで魔獣を簡単に倒せるようになったんだが、今度は相手がいないんだよ。だから今回は助かった。全力を出してもビクともしない相手。こっちが怖くなるくらい強い相手。こうでなければ戦いじゃない。勇者になった意味もない。もっともっと高みに昇りたいんだ。戦わせてくれ。まだ先があるのだろう?遊んでないで、俺にもっと恐怖をあじあわせてくれよ」
「そうですか。親方様の了解も取れましたので行きます。あと、この服はもう魔法を吸い込みませんから、魔法を打ちたければ存分にどうぞ」
 レイは、獣化もせず獣人のまま、戦闘の姿勢を取る。
「聞いたか?俺たちは舐められているなあ。全力だ・・・まあ明日もあるからそこそこでいいぞ、だが俺は全力でいく」
 そうユージが言った瞬間、レイは消えてユージに拳をぶつけようとする。ユージとの距離から見てもさっきよりも速度が上がっているのがわかる。しかし、ユージはそれを剣で受け止め、いなして体制を維持したままレイの方を見ている。
「おっと、もっと速くてもいいぜ。 死んでもいい。 これだこの感覚だ」
 ユージはなぜか恍惚とした表情になっている。ハイになっているのかもしれない。
 レイは跳躍して門の前に戻る。すかさずデリジャーとライオットが魔法を使うがレイは簡単にかわしている。
「魔法攻撃は無駄になりますか」
「そうだな、俺とぶつかって、動きが止まった時に打て。こちらから誘いかける」
 そう言って挑発的にレイに向かって手をこまねく。
 当然レイは挑発に乗ってユージに突進する。
「全員でかかるぞ」
 レイの攻撃をユージが剣で受け、動かなくなったところで、女剣士が横からレイを攻撃する。それを左足で受けるレイ。そこに忍者の短剣が襲う。レイは一度地を蹴って少しだけ後ろに着地する。
「いけるぜ」
「ああ、いける」
 じりじりと全軍が前進を始める。しかし、レイがひいていたラインを越えた時に上空から弓矢が襲い、兵士たちは混乱してしまう。
「兵士どもあせるな。バラバラに打ってきているだけだ、ラインより後ろに戻れば大丈夫だ」
 しかしすでに兵士たちは後ろに後退を始めている。
「私達も一度、下がりましょう」
「悔しいがその方が良さそうだ。だが次はいける」
「そうですね」ライオットの声に勇者パーティーも全員下がり始める。
 その様子を見て、レイは壁を越えて城内に戻っていった。
「レイよく我慢しましたね」
 戻って来たレイの頭を撫でる。嬉しそうにまとわりつくレイ。
「でも、親方様の言う通り徐々に速度を上げていきましたけど、僕の速度に追いついてきていましたよ。彼はやっぱりすごいですよ」レイがユージを褒めた。
「あれから一生懸命訓練したらしいですからねえ」
「僕も負けていられません」
「まだ、余裕だったでしょう?」
「でも負けたくありません」
「そうですね。にしても裏門が静かすぎませんか?」

○裏門の攻防
 北の裏門にはメアがいる。遠くから戦闘の音が響く中、ここの兵士たちは動けずにいる。
 3 国から来た寄せ集めの集団なので統率も何もない。しかし、その中にスペイパルも参加していて、スペイパルの兵士だけ士気があがっている。指揮官はヤクドネル。あの時の王子だ。
 そしてその次にヨルドムンドの指揮官一人だけが気合が入っている。
「正面も動き始めました。いきましょうか」ヤクドネルが他の3人の指揮官に声をかける。
「どうしますか」3人のうち1人は行くそぶりを見せているが、他はそうでもない。
 悩んでいるところにメアが門との扉から出てくる。
「相手が一人しかいないのですから、当初の打ち合わせどおり精鋭 10人を先行させて、 周囲の魔法陣を探索しながら進むしかないでしょうね。危なくなったら引くということで」
 ヤクドネルがそう言った。
「では行きましょうか、えーっとスペイパルの方お名前は?私はヨルドムンドのエディと言います」
「私はヤクドネルです。あなた自ら行かれますか」
「そうしないとうちの兵士は動かないでしょう」苦笑いしながらエディは言った。
「確かにそうかもしれませんね。では私も行きましょうか」
「お互い損な役回りですねえ」
「でも楽しみでもあります」
「魔法部隊用意」ヤクドネルが声を掛ける。部隊に緊張感が走る。
「砲撃開始」その声と共に魔法の雷撃火炎氷塊が打ち出されて、兵士達の前にある地雷魔法を撤去にかかる。弾着は正確で、魔法使いの練度は相当のものだ。一斉射の後静かになる。
「吶喊!」ヤクドネルの率いる部隊は進軍を開始して、その両翼にエディの部隊が続く。しばらく接近した後、ヤクドネルが手を上げて、部隊は停止した。そこからヤクドネルと10人の兵士達が、メアに近付いて行く。
「さて、私への魔法攻撃はあまり意味がないのですし、壁に砲撃も効果がありませんよ。そうですか、地雷除去が目的だったのですね」
 メアが笑って状況を独り言で行って、ゆっくりと前に進む。
「では皆さんのお手並み拝見させていただきます」
 メアはそこでスカートの裾を持ち上げて華麗にお辞儀をする。
 メアは10人を相手にいなし、かわし、敵の体勢を崩しながら、手に短剣は持っているが、剣を受けることなく、ヒラリヒラリと兵士の剣ををかわして、兵士たちの中心でくるくる回っている。まるでダンスを踊るように。
 それでも途中で拍子を変えて、相手のタイミングを狂わせながら相手のリズムに乗らないように常に相手側をリードして戦っている。そこに魔法攻撃が降ってくる。ああ、3国のうち残り1国の兵士が放ったものらしい。メアはそれを飛び上がって蹴り飛ばして爆散させました。
「仲間割れは死罪!」
 メアはそう叫んで、その国の指揮官の元に行って頭を鷲掴みにして持ち上げる。
「あなたの指示ですか?」
「違う。兵士が勝手に」
 たぶんデューアリスの指揮官なのだろう。怯えて震えている。
「本当ですか?」
 メアは横の兵士を見てそう尋ねる。横にいた兵士は震えながら頷いた。
「わかりました。練度の低い兵士を持つと大変ですね。気を付けないとあなたが責任を取らされますよ」
 メアはそう言って、指揮官の頭から手を離して、そこから移動する。呆然と見送る兵士たち。
「メアさんこちらの士気を落とさないでください」
 ヤクドネルが苦笑いしながら戻ってくるメアにそう言った。
「今の攻撃で、あなた達も巻き込まれて死に損でしたが、それでよかったのですか?」
「それについては助かりましたが。さて一度引いて作戦を立て直します」
「作戦はうまくいっていたと思いますよ」
「あ、ありがとうございます」
「では失礼します。一度戻りますが、体制を立て直したら、すぐ再攻撃してきてもかまいませんよ」
 メアはそう言ってその場にとどまる。
「はあ。そうですか」
 メアは、全軍が引き上げるのを確認してから門から中に戻った。

 私は門の所でメアを待っていた。
「戻りました」メアが頭を下げる。
「さすがに仲間割れまでは想定できませんでしたねえ」
「そうでしょうか」メアが首をかしげている。
「正面南門に魔法攻撃が始まりました。特に壁面へ攻撃が集中しています」
「魔法使いは見えますか?」
「長い草の中に潜んでいるようです」
『エルフィ、映像をお願いします』
「は~い」
「では、地雷魔法発動!」
 私の言葉に、城の外側では、地響きと地揺れが起こった。
 外では、突然土地が陥没して、隠れていた魔法使い達が土砂崩れに巻き込まれて全滅していた。
「なんだと、あんな遠くに魔法が埋設してあったというのか」
「地上をスキャンしても見つからないなんて・・・」
 サフィがビックリしている。しかし、考えていてハッと気づいた。
「そうか。土の下に埋めて土を爆発させる。確かにそれでは被害がほとんどない。さすがあの方ですねえ。おっと伝令を送らないと皆さんまずいですね」サフィが他の3軍に伝令を飛ばした。
「さらに地下に埋設していたのか?我々はここの監視を怠ってはいなかったぞ」イオンが叫ぶ。
 魔法使いによる電信で相互に連絡を取り合っている。
「あの方ならやりそうですねえ」
 フェイが考えながら言った。
「どういうことだ?」ジャガーもわかっていないようだ。
「土で城を作った時にその土はどこから集めたのでしょうか?」
 フェイが考えながらそう言った。 
「周辺からだろう。あ、もしかして、その土は周囲の地下から持ち込んだのか。この下に空洞があるのか?」
 イオンが答える。
「もう埋め戻しているかもしれませんが、集めた時に空洞を作ってその中を移動して魔法を設置して他の所から土を持ってきたと考えられますね。でもそれは、土のドラゴンだからできる芸当ですよ。通常の戦闘では使えないと思います」
 パトリシアが答える。
「土を使える魔法使いなら同じことができるであろう。しかもそのままにしておけば、陥没して一気に兵を葬れるではないか」
 イオンがそれに答える。フェイのそばではバーナビーがいて、頷いています。
「そういえばそうですね。なぜしなかったのでしょうか?」
 パトリシアが首をかしげている。
「あの方の事だから色々教えるつもりなんだろうな」
 イオンが自分でそう言って、あきれている。
「先生ですからね」フェイもため息をついた。
「念のために土の中に空洞がないかどうか確認してくれ」イオンはそうサフィに指示した。
「急ぎます」

 私は外の様子を伺っていましたが、設置型陥没魔法に気づいたようで、各軍は、魔法使いの位置を移動していた。
「さすがイオナさん気付きましたか。 良きかな良きかな」私はニンマリと笑っています。
「なんじゃ。とっておきがバレたか」暇なモーラが玉座から降りて、窓際にいる私に声をかける。
「これで第一波の魔法使いはほぼ全滅ですから、補充が来るまで近接戦で来るしかありませんよ」
「最初からやればよかったじゃない」アンジーも玉座から降りてくる。
「事前に気付いて欲しかったのですがねえ」
「あるじ様はいつでも意地悪です」ユーリが怒っています。
「さてそろそろ夕暮れです。お食事にしますか」メアがそう言ったので、全員が1階に移動する。
 おっと、監視にはエルフィが残っています。
「ご飯~お腹すいた~」叫んでも我慢するエルフィでした。

○初日夕方
 魔法使いの全滅から各軍が体制を立て直すのに時間がかかり、第2波は、南門の攻撃だけで夕暮れになり、戦闘は一時膠着する。
 フェイの予想通り、城の中では食事の煙が上がり、そのタイミングで魔法攻撃、物理攻撃が波状攻撃されています。
「どうやらこれもフェイさんですねえ」
 私は外の様子を気にしながら、メアの手伝いをしています。
「我々の行動パターンを良く知っていますから」パムが感心している。
「あちらは交代で食事ができますが、こちらはそうは行きませんからねえ」
「守備位置を交代しながら食べましょう」
 メアがそう言って、おにぎりを作り始める。おや。お米じゃ無くてもできるものですか?
「最初のローテーションはどうしますか。東側が騒がしいですが」
「私が行きまふでふ、モグモグ」
 エーネが手にもったおにぎりを頬張りながらそう言いました。
「ちゃんと加減するのよ」キャロルが心配そうだ。
「ふぁ~い」エーネがそのまま立ち上がった。
「エーネ!口に物を入れながら話さない!メイド長に何度怒られたのですか」
 エーネは食べかけのおにぎりを置いて、逃げるようにそこから消えた。
「さあその間に食事をしましょうか」
「反対側の西側も騒ぎ出しましたよ~」
「私が行きます」キャロルがそう言って立ち上がる。
「後ろの陣が動かないのだけは楽ですね」
「今度は正面です」
「私が行きます」メアが椅子から立ち上がる。
「私がシールドを張ればいいのでしょうけど、それでは模擬演習になりませんからねえ」
「わしが張ろうか?」
「それもまずいでしょう。約束は守らないとね」
「さて、私はエルフィと交代してきますね」
「旦那様~一緒に食事できないのですか~」
「北門と全体の監視は私とレイがします」
 ユーリがレイのつなぎに魔法を打ち込んでいます。なるほど。そうして魔法を打てば良いのですねえ。
「ユーリ、レイちゃんありがとう~」
 多分交代場所に到着したのでしょう、そう言ったあとエルフィが戻って来て、私にピッタリくっついている。
「おぬしが全周囲に撃てばよかろう」
 モーラが暇そうにおかずを食べている。ほっぺにご飯粒がついてますよ。可愛いですね。モーラが顔を赤くしています。あら、照れたのではなく、喉つまりですか。お水をどうぞ。
「それもなんか違いますよ~」
「さてエルフィ、すいませんがエーネと交代してきます」
 私は、エルフィが戻って来てしばらくしてからエーネと交代しました。
「は~い、いってらっしゃい~」
「人手が足りないと、こうやって体力と魔力と精神を削られるのね」アンジーが嫌そうだ。
「確かにそうですね」パムが準備運動を始めました。今回は魔法使いが相手なので、活躍できなくて暇なのでしょう。それでもキャロルと交代するために
「良い経験かもしれぬ。もっともその経験を活かせる機会があるかどうかは別じゃがな」
「確かにそうね」
「戻りました~あれ?ここに食べかけがあったはずですが一」
 エーネが自分が置いていったおにぎりを探している。
「あ、残したのかと思って食べちゃった。ごめんね~。私のあげるね~はいあ~ん」
 エルフィが自分の食べていた食べかけのおにぎりをエーネの口元に持っていく。
「あ、あ~ん。なんかおいしいです」嬉しそうに食べるエーネ。
「エーネちゃん。こんな事で泣いちゃだめよ~」
「また泣いているの?お姉ちゃん」戻って来たキャロルがエーネを見て言った。
「あ、キャロル~泣いてない~お姉ちゃん呼ぶな~」
「キャロルの後は誰が?」
「パムさんが行ってくれました。攻撃が落ち着いたので」
「さて、監視にもどるわ」
 アンジーがそう言って立ち上がる。
「どこにいくのじゃ」
「高いところにね。この陽動には必ず裏があるわよ。第3波が来たら要注意と思っているわ」
「さすがじゃのう。わしには戦いのノウハウはないからな」
「エルフィさんはレーダーを封印しているのですか?」
「レーダーは使っているけど~話さない事にしているの~じゃあ行ってくる~」
 エルフィも立ち上がって階段を昇って行く。
「頼んだ」
「うちは、あやつの言う「チート」ばかりが集まっているからなあ、制限だらけで戦いづらいだろうに」
 モーラは、制限されて、そもそもすることがありませんね。
「このおにぎりおいしいです。モグモグ」
 エーネは結構食べている気がしますが。楽しいのですねえ。
「そろそろメアさんと交代してきなさい」
 キャロルがエーネに言った。
「はーい」
『じゃがそのおかげで、逆にわしらの結束が高まっておる。いい雰囲気じゃ』
『そうね、いい傾向だわ。おっとモーラそろそろ来るから、玉座にいてちょうだい』
『わかった。しかしアンジーの予想通りというのもなあ』
 次の攻撃は、西日も落ち、ほとんど灯りがなくなった時に起きた。空を滑空するグライダー。魔法により風の加護を受けて滑るように飛んでくる。しかも速い。
『城内に侵入させますか~?』エルフィが聞いてきた。
『一度目はOKよ。たぶん陽動だわ。それだけでは終わらずにさらに来ると思うわ』アンジーがそれに答える。
『周辺の監視を変えずに、中は白き閃光と黒き迅雷に任せましょう』
『わかりました。エーネ殺しちゃだめよ』キャロルが言った。
『わかってますです』
『冷静にやれば殺さないんだから。決して慌てないでね』
『来ました』
『ちょっと!自分まで闇の沼にはまってどうするのよ』
『か、解除~』
『そのまま通常戦闘に移るわよ。私の背後を守って』
『はい』
『あーなんかキャロルの後ろだとホッとする』
『ちゃんと魔法の力を加減するのよ』
『はいぃ』
『第1次侵攻防衛終了です~』エーネが報告をしてきた。
 でもねえ、ほとんどが壁づたいに降りたから、私達も簡単に対応できたの気もします。
『変ねえ、必ず何か仕掛けてくると思ったのに』アンジーの声に、はてなマークが混じっている。
『死体が起き上がりました!これ、ゾ・ゾンビです』
 エーネの声がちょっとビビっています。いやあんた魔族でしょう。なんでビビるのでしょうか?
『やるわね。あの子に声をかけたのかしら』
 アンジーが、ほらやっぱりと言う感じで嬉しそうだ。確かにネクロマンサーがそんなにいるとは思えない。彼との接点はないはずなのにどうやって知り合ったのでしょうか。
『燃やしても良いですか?』
 キャロルがどう対処していいのか判らず、不安げな声だ。
『盛大にやっていいわよ』
『えい』
 1階の壁に沿って周囲に火が上がる。
『空から第2波来ます。今度は直上です』エルフィが連絡してくる。
『あら、作戦参謀がいい仕事しているわね。それは気づかれにくいわ』
『なかなかやるのう』
『これはかなり厳しくなってきたわねえ』その言葉とは裏腹にアンジーの声にはちょっとだけ楽しそうな感じが混じっていました。



続く

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