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第36話 大演習とある騒動

第36-1話 大演習1

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○ 模擬試合
 他種族が動揺している中、人族は割と平和である。辺境の魔法使い・・・じゃない、DTが生きていた。その事を知った3組の勇者パーティーは、連絡を取り合い、辺境の魔法使いと会いたいがために無茶な提案をしてきた。

「拠点防衛をしていただいて、私たちがそれを打ち破るというシミュレーションをしたいのですが、いかがですか」
 イオンが薬局の魔法使いを通じて、パムに連絡を取ってきた。
「という提案がありましたが、どう思いますか」パムが私に聞きました。
「そういえば、まだ人族にはこれからの事を話していませんでしたから、勇者達も魔族と戦う事を念頭に置いていますねえ。それにこれからもまだ戦闘する可能性はありますから、そのためにも必要かもしれませんね」
 そう言った私は、ちょっとだけズルい顔をしていました。
「どうせ復活した事に疑いを持つ国王たちが真偽のほどを確認しろとでも言ってきたのではないか?」
 お茶を飲みながらモーラが言った。
「そんな気がするわねえ」アンジーも目をつぶって、お茶の香りを楽しみながら言った。
「ぬし様のお考えをまだ教える段階にないのであれば、その事を隠すためにも、この際ですから一度戦ってみるのも良いのではないかと」
 パムが言った。まあ、ちょっとだけパムのワクワク感が伝わってきます。
「これから拠点防衛戦も想定されていますからねえ」私はさりげなくそう言った。
「そうなのですか?」メアが席に着いてお茶を手に取りながらビックリしたように言いました。
「あくまで可能性の話です。経験はあった方が良いかもしれません」
「どこでやりましょうか?」キャロルまでも目を輝かせている。
「兵士を連れてきてもらいませんか?」ユーリが言った。
「ああ、本格的な集団模擬戦闘ですね」ブレンダが言った。
「ふむ。そうですね」私は顎に手を当てて考える。
「おぬし今何を考えた?」
「サバイバルゲームの死亡判定ですね」
「なんじゃそのサバイバルゲームとは。おぬしの想像したのは、変なまだら模様の服を着た者たちが眼鏡をして飛び道具を持って走り回っておるぞ」
「私の世界の陣取りゲームですね。生死のかかっていない」
「それで死亡判定か」
「殺されたのにそこから立ち上がってはリアリティにかけますからね」
「なるほど。生死をかける訳ではないのか。それでいつどこでやるのというのかな」
「そんなに急に集まれるのかしら。私らはいつでもいいけどねえ」
 他人事のようにアンジーがお茶を飲みながら言った。
「せっかくですから、天界とかにも告知して、この戦争ごっこを観戦してもらいましょうか。まあ天界も魔法使いの里もドラゴンも私の都合で振り回しましたから、人のゲームを観戦すれば少しは息抜きにはなるでしょう」
「おぬしにとっては、人間は娯楽か」モーラがあきれている。
「あの人達にとっては、私達は息抜きですよ。さて、やるなら例の平原にしましょう。こちらはその中央に陣取りましょうか。全周囲から攻撃してもらいますね」
「なるほどな。裸の王様ならぬ裸の王城か」その童話、モーラに話していましたっけねえ。私は、お茶を飲みながらふと記憶をたどりました。あれ?
「城の構築はモーラにお願いしますね」
「そうか。面白そうじゃな」
「皆さんもやりますか?」
 私の言葉に全員が頷く。全員からウキウキ感が伝わってきます。
「先に城を建てて中を見られるようにして、相手に攻略を考えてもらいますね」
「かなり考えておるな。すでに作戦まで考えているのか?」
「そんな事まではねえ」

 そうして、こちらからの条件をイオンに送った。
・勇者側の勝利条件は、城内にいる我々の全員死亡。もしくは、首領の王冠の奪取。
 首領は玉座に座っている。モーラは戦闘に加わらない。アンジーは回復のみ。
 2人の死亡判定はどんな傷でも死亡。城内にいるそれ以外の者達は、胸か頭にかすり傷で死亡とする。
・こちら側の勝利条件は、勇者チーム3組全員の全滅。死亡判定は、胸と両腕に攻撃が当たった場合とする。
 それ以外の兵士は、こちらから死亡を通知する。城に侵入して捕まえた場合は、人質とするし、解放する。
 ジャガーは不死身なので1日1回は死亡しても復活は可能。1日の単位は日が昇ってから夜が明けるまでとする。
・籠城する時間は48時間。開始時間は太陽が中天にある時から。
 ただし開始して翌々日の昼まで、城を攻めあぐねた場合は、籠城する側から反撃を開始する。
 それまでは、城側は防戦に徹して、城の周囲までしか出ないし、深追いはしない。
・夜戦も当然あり。
・剣は原則何でもあり。こちら側のハンデは、弓は1本ずつ連射。
 魔法攻撃は、こちらは威力を減らして当てるか、何らかの死亡判定の印をつける。
 さらに詠唱にリキャストタイム3秒つき。全体魔法はリキャストタイム10秒つき。など。

○ご褒美
 イオンからは、この条件で了承と連絡があり、すぐにでも戦いたいという事になりました。
「勝利条件は、城内にいる我々の全員死亡。もしくは、首領の王冠の奪取としましたよ」
 私は全員を見る。全員が頷く。
「首領は誰か?おぬしがやるのか?」モーラが私を見た。
「そりゃあ王様と王妃は決まっていますよ」全員が、モーラとアンジーを指さした。
「わしとアンジーか」
「戦わないのですからそのくらい活躍してくださいね」
「ちょっと待て、わしは里に交渉してくるわ」
 そう言って、モーラが玄関から出て行った。
「おやおや、やる気ですねえ」私はあきれている。
「あんなのに暴れられたらすぐ終わるじゃない」アンジーがアホかという感じで呟く。
 モーラがあっという間に帰ってきました。もちろん肩を落としながら扉を開けて。
「戦ってはならんとさ。とほほ」ションボリしていますが、当たり前です。
「当たり前でしょ。ほらこれかぶるのよ」
 アンジーが王冠をモーラに渡す。金色に塗って宝石がちりばめています。
「王冠か。これはよいなあ」
 モーラが嬉しそうに受け取った。ああ、ドラゴンは光り物が好きでしたねえ。
「勝利したらもらえるって」
「なるほど。みんなには頑張ってもらうか」
 モーラが頭に載せてそう言った。大きさが合わずちょっとだけ傾いています。でも気に入ったようで、ガチで欲しいみたいです。
「そもそも負けるとは思っていないわよ」アンジーも何か考えているようです。
「さて小さいなりとはいえ一国一城を持ちました。どう守りますか?」
「私は相手側の戦力を確認して参ります」パムが嬉しそうに言った。
「人数が確認でき次第、そう多くなければ正面の面制圧は私が」とエーネ
「であれば裏は私が守りましょう」メアが言った
「両サイドは私が守るね~。でも~ご褒美が欲しいな~」エルフィが私を見て言った。
「じゃあ夜のデートで」さらりと私がそう言いました。
「夜?夜、夜~?」変な口調でエルフィが踊っています。ユーリとキャロルエーネ、レイと・・・おやブレンダさんまで踊らされています。恥ずかしがっているところが萌えですね。
「はい。大人のデートですね」
 お茶を飲みながら私が言うと、全員の動きが止まりました。そして全員私を見て目を輝かせています。
「ご主人様良いのですか?」
 メアがちょっとだけ引いています。昔は皆さんと一緒に目を輝かせていたのに。少し寂しいです。
「当然周りは阻止に走るでしょうからそれを期待します」
 私は目を閉じてお茶を飲んでいます。
「それは協定を結んで・・・」キャロルがみんなに目配せをして言いかけました。
「それを言っちゃダメでしょ」アンジーが絶句している。
「協定破りはダメですよ」私も念のためそう言いました。
「ちぇーっ」エルフィが口を尖らせています。レイとエーネは真似をしないように。
「ああ、あの協定ですね。隷属した時に聞きましたけど」ブレンダが首をかしげている。
「そうよ、こいつを「襲う時」の協定よ」アンジーがお茶を飲み干しながら言った。
「襲っても拒まれたら終わり、こいつは同意しても邪魔が入ったら終わりという感じでしたね」
 ブレンダが再確認している。
「それでは、戦争ごっこが、終了した日の翌日から1人ずつデートをして、その夜は、私とふたりきりで一緒に寝ましょうか」
「!」全員がガタリと席から立ち上がりかける。そして座り直す。おお、気合いが感じられます。
「頑張りましょうね」
「「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」」おお、心が揃っていますねえ。少し邪な感じはしますが。

 開催の日程が簡単に決まりました。そして、パムが偵察から戻ってきました。
「情報では、総勢9千ほどですね。大国が2千人ずつと小国が1千人ずつです。空の支援はありません。間に合わなかったようです」
「飛竜を飼いだしたと聞きましたが、さすがに間に合いませんでしたか」
「はい。あと魔法使いの里に属さない魔法使い達が傭兵として多数参加しています」
「この世界にはまだ娯楽がありませんからねえ」
 魔法使いさん達はここぞとばかり魔法をぶっ放す気ですねえ。
「ですので、城を作る時にもそれなりの工夫が必要かもしれません」
「まあ、空中戦では来ないでしょう。地上戦がメインならば簡単そうですねえ」
「勇者たちの扱いが問題ですね。特に不死身の勇者が」メアが言いました。
「最初は私が相手をします」パムがにやりと笑って言いました。
「イオン王女のところはどうしますか?」
「最初は私が迎え撃ちましょう。宣託の勇者は私と戦いたくないと思います」とユーリ
「じゃあ僕が宣託の勇者を迎え撃ちます」レイが言った
「キャロルとエーネは、申し訳ないですが残りの兵士たちをお願いしますね」
「良いのでしょうか?」エーネが少し不安そうだ。
「殺さないようにお願いしますね」
「兵士はすぐ倒せそうなら、二人とも私に連絡をちょうだい。たぶんその戦闘の間に上空から暗殺者を送って私たちを殺すつもりでくると思うの」
「了解しました」キャロルとエーネが揃って敬礼をしています。誰が教えましたか?

○勇者側の作戦会議1
 作戦会議のために勇者パーティーが勢揃いして会議を行っている。
「最初にお話しがあります。相手の人数についてです」
 私が送った条件を見ながらフェイが言った。
「今更のような気がしますけど。マジシャンズセブンだから8人ですよねえ」サフィが首をかしげる。
「今回の条件に「城内にいる我々の全員死亡」というのがあります。現在あの方の所は、全員で10人のはずです」
「全員で10人だと?8人ではなくて?」イオンが驚いている。
「マジシャンズセブンでは、なくなったのですか」ライオットも驚いている。
「はい。その事を念頭に置いて作戦を組み立てないといけません」
「なるほど。相手は最初から惑わすつもりだったのだな」イオンがそう言って頷いた。
「私たちは、以前一緒に戦っていてその事を知っているので、最初からその2人は頭数に入れていました。それを知っているはずなのですが、どうも書き方が不自然です」
 フェイがちょっと考え込んでいます。
「それは、あなた達が解決した、巨大ワームの事件の事を言っているのでしょうか」
 ジョアンナが珍しく尋ねる。
「はい」
「その2人はどのような戦闘をするのだろうか?」今度はサヨリナが興味を示しています。
「白き閃光と黒き迅雷と言えばわかりませんか?」
「東西の盗賊達が恐れていると噂の2人ですね」忍者ダイアンが呟くように言った。
「やはり皆さんご存じでしたか」
「でも、最近はなりを潜めていると聞いているが」イオンが首をかしげる。
「その名前は、何年か前にお二人で旅をしている時に自ら名乗っていたらしいのです。女性の二人旅なので、盗賊が目をつけやすく、簡単に襲われて、出会った盗賊を手ひどく退治していたらしいのです」
 フェイがそう話した。
「それは盗賊も災難だな」イオンが苦笑いをして言った。
「おかげで盗賊の数は減りましたが、盗賊も慎重に相手を見定めるようになって、より悪質になったとも言われています」
「それはそれで問題だな」
「そんな話は余計でしたね。一人は魔法剣を使います。ユーリ様とは違い細い剣を使って手数で勝負をする方です」
「それは、あの方の元で研鑽を積んだあの子ではないか。あの時は隷属の話はしていなかったと思うが」
「はいそうです」
「もう一人は?」
「もう一人の方の素性は知りません。ただ魔族です」
「魔族だと?あの方はついに魔族まで家族にしているのか」
「隷属している事は、その本人から聞きましたので間違いありません。ただ今回のDT様側の魔法に関する制限は、その方の能力を限定する意味もあるそうです。あまりにも魔法の威力が高すぎるので」
「なるほどな。元々あの方のそばにいる方は、ただならぬ人たちばかりだからそれは納得するが、魔族まで家族しているとは」
「兵士に漏れますと動揺しますので、勇者様達だけの秘密にされますように」フェイが念のためにそう付け加える。
「確かにそんな魔族が相手であれば、今後の魔族との戦いに支障が出そうだな」
「やはりあの方は勇者にはならないのですよ。魔族さえも仲間にしているのだから」
 ライオットがそう言って頷いている。
「そうですね。魔族と戦う勇者が魔族を仲間にしているのはありえません」
 サフィがそう言った。
「私もそれは思うのだ。あの方はこの世界の調停を行っていく人なのではないかと思うがな」
「それも陰ながら。ですね」フェイが嬉しそうに言った。

○陣地の構築
 私達は全員で中原に立っていた。周囲には勇者達が並んで立って見ている。ブレンダは不可視化の魔法をかけて、近くに立っていた。
「モーラ作れますか?」
「おぬし、何かイメージを見せるがいい」
「スペイパルの城くらいしかちゃんと見ていませんけど、こんな感じです」
 私はイメージを思い浮かべる。
「ではいくぞ!地上3階建ての城の構築じゃ!」
 モーラのかけ声と共に地鳴りがして、土の中から城が作られていく。正方形、3階建てでその上に鐘楼があり、東西南北に壁があり、4つの壁の中央に門が作られている。
「とりあえず中に入りましょう」
 門をくぐると、1階には壁が無く、2階と3階のためにかなり太い柱が均等に並んでいる。2階の床と1階の天井は、四方の柱が支えている。だだっ広い空間の中央に階段があり2階に続いている。
「ただ広いだけですねえ」天井もかなり高く作ってある。
「戦いやすいです」
「壁は門の所だけなのね。普通は壁を登って入って来たら1階の壁があるじゃないの。これじゃあ簡単に中に侵入できるじゃない」
「城の壁との間に建物の壁を作るとそこに潜まれるのですよ。それを嫌いました。これだと侵入者がすぐわかりますから。もっとも2階と3階を1階の柱で支えることになりますかあ、柱だけは強化しておかないと、2階3階部分が崩れますからねえ」
「普通の人間なら壊せないだろうが、勇者だからなあ。強化しておいてくれ」
「判りました」
「2階に行きましょうか」
 私がそう言うと、レイが真っ先に階段を上っていく。
 階段を上りきると、正面にまた階段がある。柱は1階と同じレイアウトだ。そしてがらんどうである。2階には壁もあり、ちゃんと窓も用意してあるが、穴が開いているだけで簡単に侵入できるようになっている。
「もう少しレイアウトを考えなさいよ。このレイアウトじゃ、1階の階段を上ったら真っ直ぐ3階まで行けるじゃないの」
「行かせるつもりはありませんよ」
「これは罠を仕掛けるつもりか」
「兵士は引っかからない。勇者だけ引っかかる奴を用意しましょうか?」私は笑って言った。
 さらに3階に進む。3階への階段を登ると、正面の玉座に続く階段がある。2階より一回り狭い部屋になっていて、穴の開いた壁も同じように作ってある。
「鐘楼まではどう登るのかしら」
 アンジーが窓の所までいって見上げているが、屋根があるのでそこからでは見えない。
「3階の左右に梯子をつけてそこから登ります」
「つまり、上空から降りてきて梯子を降りたらすぐ玉座なのね」アンジーがため息をついた。
「そうですよ」
「梯子いらないでしょう?」
 3階の屋根は、四角錐の形で、部屋よりやや張り出している。オーバーハングをよじ登るのはちょっとつらいかもしれません。
「片方だけ残しましょう。屋根から縄梯子を垂らして、勢いをつけないと3階に入れないようにしましょうかね」
「みんなはちゃんと昇り降りできるのかしら」アンジーが全員を見回す。
「登るのは、見張り役の魔法使い系とレイだけですよ」
「自信ありません」エーネが手を上げて言った。
「あんたなら登らなくてもいいでしょうが」
「ああ、そうですね」
 そして、色々と修正をした後、勇者達に中を見せる。門は4門とも開けたままにして、各階を見回っている。
「外で見ていたが、さすが土のドラゴン様だけの事はありますね」
 イオンが感心している。
「そうですね。これはすごいです」
 そうして、フェイやダイアン、サフィは細かく確認した後うなずき合っていた。

○勇者側の会議2
 翌日に開戦を控えて3組の勇者パーティーは会議をしている。
「どう攻めますか」ライオットが、簡単に書かれた平面図をテーブルに開いて言った。
「長期戦は無理だと思う」ダイアンがそう言うと全員が頷く。
「1日目は、最初に攻めたあと一旦引いて、定期的にこちらに被害が最小限になるよう襲撃して、相手の疲労を誘いましょう」フェイがそう地図をなぞりながら言った。
「問題は夜だが」イオンがそれを見ながら考え込んだ。
「夜半すぎに月が隠れるようなら月が落ち初める頃に。だめなら月が落ちきる頃、薄暮の頃に攻めましょう。昼間は太陽を背にして相手が逆光になる方向から、決してこちらが太陽に向かわないような方向から攻撃します」
 フェイが方角のとおりに作られている門を指さして説明している。
「私の魔法で、地上に設置した魔法を検知して浮かび上がらせますので、それを避けて移動して、魔法使いのうち半分は相手を、半分は地上に設置した魔法を破壊してください。それを繰り返して、全方位を進攻可能にするまでが第一段階です」サフィがそう説明した。
「あの方の性格からして、それでもまだ地下に埋設している可能性があります」フェイがそう指摘する。
「フェイさんそれは本当ですか?」サフィがちょっと半信半疑で尋ねる。
「あの方が間者を行方不明にしたと噂される遊園地は、人の心理を巧みに操って罠へと誘い込みます。ですからそれを知っている私をさらに超える罠を仕掛けてくると思われます。戦いの前からあの方は準備を怠らない方です」
 フェイはニッコリ笑ってそう言った。
「私が兵士と共に進軍した時も当然のように事前に罠を張っていたからな。しかし、場所はあの方が指定したが、ここに城を構築した時には私たちが見守っていたのだぞ。それさえも読んでいたと?」
 イオンがそう質問した。
「作ったのはあの方達ですから。私たちは城を作っている過程も完成した城も見ていましたが、全部を見ていた訳ではありません。知った後にすぐ地下に魔法を設置してから城を作ったかもしれないのですよ」
 フェイがそう力説する。
「どうだ?」イオンはサフィを見た。
「あり得ます。フェイ様の考えすぎとも思えない訳ではありませんが、多分可能性は高いかと」
 サフィも顎に手を当てている。
「そうか。ならば最初の攻撃の時には、それを見ていないふりでかわせばよいのだな」
 イオンがそう提案する。
「むしろその浮かび上がった魔法を誰かが踏んでみるのが一番わかります」
 フェイが誰かと言った時にはジャガーを見ている。
「ならば私が」ジャガーが手を上げる。
「ジャガー様ですか?」パトリシアがビックリしている。
「ああ、体の頑丈さなら私でしょう。踏んで飛ばされても戦い続けられます」
「お願いできますか?」
「正面の門に向かって真っすぐ進みます。それが一番近道でしょう」
「もしかしたら正解ルートかもしれませんね」サフィが笑っている。
「あの方ならやりかねませんね」フェイもふふっと笑う
「その次の手だが」
「夕方に一度仕掛けて状況を確認して一度休憩しましょうか。お食事を交代で取りましょう。相手には食事をさせないように攻撃の手を緩めずに」フェイが邪悪な微笑みを浮かべている。
「食事をとらせないのですか?」パトリシアがつい口を出した。
「はい、取ろうとすると攻撃をします」
「タイミングがわかりますか?」
「煙があがりますよ。つめたいご飯は嫌でしょう?」そう言ったフェイの目は冷たく笑っている。
「なるほど。それもあの方の考えを読めばそうなりますね」サフィが笑っている。
「もっとも交代で食べているかもしれませんが、こちらがそういういやらしい戦術で攻めている事を印象付けませんとね」フェイがそれとなく言った。
「なるほど、次に何をしてくるかわからせず、精神的に相手をすり減らすのですね」
 サフィが感心している。
「太陽が落ちてからもしばらくは続けます」
「やりますねえ」ユーがそこでにやりと笑った。
「それくらいしないと、あの方は崩せませんよ」フェイがユーを真剣な目で見て言った。
「夜はどうするのかな」ダイアンが言った。
「間者が近づくふりを交代でして、相手に緊張を継続させますね」
「相手を休ませないという事ですか」デリジャーがちょっと引き気味です。
「はい、こちらは交代で休憩を取ります。あちらからは攻撃してこないと宣言されていますから」
「そうか」イオンもちょっと引き気味だ。
「そして、太陽が昇りかける少し前に東門に向かって攻撃を始めます」
「えげつないなあ」ユージがあきれている。
「それが戦争ですよ?」フェイはユージに対してちょっと怒っている。
「アンジー様といいあなたといい。天使様というのは性格が悪くありませんか?」
 ライオットがちょっとだけひいている。
「もちろんそうですよ。でなければ天使などやっていられないと母は申しておりました」
 さらりとフェイは言った。
「なるほど」複雑な表情を浮かべてパトリシアは頭を抱えた。多分天使のイメージが崩れたのだろう。

○戦闘開始
 当日になりました。私達は朝から城内に入り、椅子やらテーブルやら寝床やらを作っていました。太陽が中天を過ぎた頃、周囲は静かになり、周囲の緊張感が私達にも伝わってきました。
「そろそろ攻撃してきますかねえ」
「まあそうじゃろうなあ」
『第1陣来ました~』レーダー役のエルフィが鐘楼から連絡を入れてくれました。
『誰が来たの?』
『ジャガーさんです。正面の南門に向かって真っ直ぐ走ってきます。すごい砂煙を上げて走ってきますよ。周囲が全然見えません』
『予想通りですねえ。パムさんお願いします』
『任せてください』パムがすでに南門の方に走っていきました。
『同様に右の西門には王女様、左の東門には俺様勇者が動きました~』
『では行きますか』ユーリがレイと頷きあってから両側に走って行く。
『でも後ろの北門は動いていませんね~』
 メアが立ち上がって北門に向かいました。
『私は怪しい動きを捉えましたのでそちらに集中します。問題が出たらお願いしますね』
 そうして戦闘は開始されました。

○正門(南門)の攻防
 砂塵をあげて一気に城との距離を詰めたジャガーは門の近くまで来て、速度を落とす。門が開いて人が出てきたからだ。
「おうパム殿ですか。是非一度手合わせしたいと思っておりました」
 ジャガーは足を止めて、門から出てくるパムを待っている。
「そうですか。では」
 パムは、腰に巻いていた剣を伸ばして、ジョーの所に走って向かい、真っ直ぐ上から下へ切りつけるが、十時にクロスさせた両腕がそれをがっちり受け止める。
「鋼を切れるこの剣を受け止めますか」パムが驚いています。
「はい、DT様からお作りいただいた魔法防御付きの鉄甲の肘当てです」
「そういえばぬし様はあなたにお渡ししていましたねえ」
 そう会話をしながらも、パムは右に左に剣を振り分けているが、ジャガーは、ことごとく腕で跳ね返している。
「おかげでキズ一つ受ける事がなくなり、フェイさんのお世話にならずすんでいます」
「そうでしたかそれは良かったですね」
 パムは、間断なく剣を切りつけている。
「さすがに受け切れても反撃が出来ない」
「それでも、以前より格段に動きが鋭くそして速くなりましたね」
「あの時パムさんとユーリさんの訓練の動きを見て覚えました。なので、あなたの動きはだいたいわかります」
「覚えているのですか」あの速度の動きを覚えられるのか?と、パムが驚いている。
「はい。私は頭が悪いので、イメージがないと覚えられないのです。実際動いて戦って初めてそれを経験として覚えることができます。なので今が一番動きがいいと思います」
 余裕のあるジャガーの動きと言葉にパムが苦笑いしている。
「次回はだめなのですか?」
「何回か戦えば体が動くでしょうが、こうやって戦える人が周りにいませんので」
 ジャガーが寂しそうに言った。
「そうでしたか。さすが今回はすごいですね」
「自分でもそう思います。あなた達の動きを真似しているだけなのにこれだけ動けてしまいます」
「では、新しい動きもお見せしましょう」
「ぜひ」
 そこで互いにいったん離れて間合いを取る。
「魔法攻撃開始!」その声に、パムを含めてその周囲に魔法の弾幕が壁際に沿って綺麗に等間隔に打ち込まれている。
「おや、さすがですねえ。この攻撃を指示したのはフェイさんですね」
「DT様の性格の悪さをよくご存じでしたよ」
 構えを崩さず、ジャガーが笑って言った。
「ですが甘い」
 パムが剣を振り上げて振り下ろす。何射目かの魔法攻撃からその魔法を反射し始める。
「これは?」
「魔法攻撃を自動で打ち返す魔法です。さすがに直接相手に返してしまうと死んでしまうかもしれませんので、工夫してあるそうですよ」
 反撃された魔法が、魔法使いに届いた時に、本人にぶつかる直前に紙になり、その紙は額に張り付いています。紙には死亡通知と書いてあります。
「ははっ。あの方らしい」その様子を見ていたジャガーは思わず笑った。
「二列目、ジャガー様の周囲を狙って打て!」
 フェイの容赦ない指示に魔法使い達は即時反応して攻撃を開始する。そんなに魔法使いの数はいないはずなのにどうやって調達したのでしょうか。
 パムは魔法攻撃が始まると、ジャガーに近付き、盾にするように自分の体を隠す。
「その一帯には地雷はない。兵士すすめ」
 兵士達は走り出しているが、ちょっと勢いがない。足下には魔方陣が現れて発動しているが、兵士に影響はない。次第に3列くらいで進み、ジャガーの後ろまで迫ってきた。
『ではお願いします』パムは心の中で叫んだ。
「出番ですね」
 そう言って白と黒のゴスロリが門の中から飛び出す。上空からは光の矢が飛んでくる。
「城の裏側から矢が飛んでくるとかありえない」
 兵士達が降ってくる矢を見て、驚いて歩みを止める。
「大丈夫です。こちらも城の裏に潜んでいた魔法使い部隊と弓兵がエルフィさんに攻撃を開始しているはずです」
 フェイが言うと弓矢の弾幕は止まり、シールドを外した兵士達は抜剣して、白と黒のゴスロリの2人に迫る。
「あの二人の服は場違いに見えるがなあ」「ああ、とても戦場で見る衣装ではない」
 兵士達がその姿に動揺しつつも陣形を崩さずに二人に向かっていく。
 キャロルはレイピアを抜剣して、顔の正面から剣を上向きに掲げて、「行きます」と叫んで兵士の中に突っ込んでいく。その後ろにエーネがついて走り、杖を横に払って雷撃をキャロルの打ち漏らした横の敵に打ち込んでいる。次々と倒されていく兵士達。キャロルとエーネは、兵士を倒しながらジャガーとパムのところに到着する。
「ジャガー引いてください」
 その声にジャガーは、驚異的な跳躍力で後ろに飛んで、一瞬でパムからかなりの距離を取った。
「まずい」パムは叫んだが、3人が立っている場所に魔方陣が現れて3人を包むような網に変化した。
「1,2,3,はっ」
 距離を取った時からエーネはカウントを始めていて、網に変化した時には、すでsに杖を地面に突き立ててその魔方陣を黒い霧にして無効化してしまう。
「パムさん引きましょう」
「そうですね」
 キャロルの言葉にパムが頷き、そうして3人は交代で少しずつバックステップをして門のところに到着して門を閉じる。
 正面の南門の第1戦はそこで終了した。


続く
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交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。 僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。 僕の夢……どこいった?

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