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第34話 DT秘密の帰還
第34-2話 DTは確認する
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○4者会議の前にし忘れた事
「4者会談は都合がついたぞ。いつでも良いとさ。始祖龍様も魔法使いの里もな」
「ガブリエル様もルシフェル様もいつでも良いそうよ」
地下室に戻って来たときに扉に張られたメモにそう書かれていた。私はモーラの洞窟に飛ぶ。
「モーラいませんか?」
「なんじゃここに来たのか。どうした」
「モーラにお願いがあります」
「うむ、なんじゃ改まって」
「例の件でちょっと。いや、かなり大規模な作業をお願いしたいと思いまして」
「そうか」
「同時に草木のドラゴンさんとドリュアディスさんと一緒にお話がしたいのですが」
「まあ、頼みの内容は大体わかるが、直接話すつもりなのか?」
「確認したい事があります。ですからお二人同時にお会いしたいのです」
「わかった。3者で話す場を設けよう、もちろん内密になのだろう?」
「はい。ですから草木のドラゴンさんの縄張りに行きませんか」
「ああそれが一番効率がよいな」
「はい」
「さて、わしが草木に会いに行く理由はどうするのじゃ」
「まあ、黒い霧の処遇についての情報交換と例の城の地下の地脈の様子を見に来たとかですかねえ」
「まあ妥当な線か。ドリュアデスはどうするのじゃ」
「呼べば出てきてもらえそうです」
「ふむ、ではちょっと行ってくるかのう」
「明日にしてもらっていいですか。いろいろと下準備をしておきます」
「わかった。明日の日が明ける頃でよいか?」
「はい。現地で会いましょう」
翌日私は、草木のドラゴンの縄張りであるスペイパル王国の草原に立っていた。
上から音も無くドラゴンが降りてくる。モーラである。
「まったく。そのフードをかぶっていたらどこにいるかわからんではないか」
「ならどうしてここにいるんですか」
「まあ、上から見たら草原のど真ん中に変な形の洞窟があったからなあ。さすがにすぐわかったわ」
「さて、草木のドラゴンさんがお見えになった時に私がいてはまずいので、この先に作った洞窟の中でお待ちしています」
「ドリュアディスはどうする」
「もうお話ししています」
「なるほど、段取り済みか」
「では、先に行っています」
私は洞窟の中に入った。モーラはドラゴンの姿のまま飛び立って、草木のドラゴンに声をかける。
「見ておるのであろう?わしじゃ。モーラじゃ」
「その名前が通り名になったのかい?」そう言って草木のドラゴンが現れた。
「あ、しまった。最近土のドラゴンと呼ばれ慣れておらんからなあ」
「それもどうかと思うけどね」草木のドラゴンがあきれている。
「おう久しぶり。どうじゃ縄張りの様子は」
「まあまあかな。それより里では、お前の話でもちきりだったよ」
「あ?どうせ良い噂ではないな」
「世界に干渉しすぎだとさ。古参どもが喚いていたよ」微笑みながら草木のドラゴンが言った。
「まあなあ。確かに肩入れしすぎていることは否定できんな」気にした風でもなくむしろ自慢げにモーラは返した。
「別の噂では、何か企んでいるのではと言われているぞ」探るような茶化すような目で草木のドラゴンが言う。
「そうか」
「そんな中で俺が呼ばれただろう?お前に呼ばれたのをみんな気付いているし、どこかで見ているはずだ。実際のところどうなんだ?世間話をしに来たわけではないだろう。辺境の賢者様?」今度も茶化すような感じで言った。
「おぬしがそれを言うな。恥ずかしいわ」
「そうか?俺は感謝しているし、これまでのお前の動きは世界のためになっている。俺達ドラゴンは世界に対して基本不干渉だとは言え、どうやったって関わり合いにならなければならない。特に俺やお前なんかはな」
急に真面目な顔で言った。
「そうじゃな」
「少なくとも俺のところにわざわざ来るくらいだ。何かあるのだろう?」
「お願いがあって話をしに来たんじゃ。話を聞いてもらって断られても良いのだが、里に話されると困る話なんじゃが・・・」
「ああ大丈夫だ。話すつもりもない。これまでのお前を見ていると、それが一番正解だと思う。そこは心配するな」
「そうか。それならあの洞窟へちょっと来てもらえぬか」
「おや?あんなところにあんな洞窟あったかな。まあいい行こうじゃないか」
二人とも人の形に変化して、空からゆっくりとその洞窟に降りていく。
「こんにちは。初めましてですね。私は・・・」
「名乗らなくてもいいよ。そして、やっぱり生きていたんだな。おっとその前に、あの城の天使を救い、そして土地を崩落させずにうまく立て直してくれた事。あの時の様子は全部見ていたんだ。俺に感謝される筋合いでもないだろうがお礼を言いたい。あの時はありがとう」草木のドラゴンさんに頭を下げられてしまった。
「草木のドラゴンさんに感謝されたことは心に刻みます」私は丁寧に一礼する。
「もうよいか?」
「ああ。それで俺に何の用だい?」
「ドリュアディスさんも一緒に話を聞いても良いですか」
「あ?ああかまわないよ」草木のドラゴンの声とともに私の隣にドリュアディスさんが地面から文字通り生えてくる。
「お久しぶりです。草木のドラゴン様」ドリュアディスさんが深々とお辞儀をした。
「改めてお前にも苦労をかけたな。ありがとう」草木のドラゴンは軽くだがお辞儀をした。
「そんな、あなた様には過大なる恩恵をいつもいただいております。でもほんのわずかでもお返しできたのであれば幸いです」再びドリュアディスさんが頭を下げる。
「いや本当にありがとう。さて、前置きが長くなってすまんな。本題に入ってくれ」
「わかりました」
私は、これからの計画について話ししました。
「なるほど、そこまで深刻だったのか」
「私も最近の植物の成長については危惧しておりました。特に魔族が現れてからの植物の成長度合いは不安を感じるものでした。お話は納得がいくものです。ぜひ協力させてください」ドリュアディスさんが真剣な顔でそう言った。
「で、わしらに何をさせるつもりじゃ」モーラは知っていながら初めて聞くフリをしてそう言った。
「それでは、これからお連れするところをご覧ください」
私は、ガラスのように透明な立方体を作った。洞窟の壁面にその立方体をつなぐアンカーを装着している。
「お入りください」私は、その中に入り3人を誘導する。
ガラスの底には少し穴があけてあり、ドリュアディスさんが土の中に伸ばした蔓がつながったままになるようにしてある。
全員が箱に入ったので、私は、洞窟の壁面に空間を開いて立方体を移動させて空間を少しだけ閉じる。アンカーの鎖とドリュアディスさんの蔓が空間から出ている形になる。
出てきたのは宇宙空間。上下左右前後、全周囲が星々に囲まれ、はるか彼方に細かい星の群れが見えている。そして、間近に一番大きく輝いている恒星が見える。大きさがここからでは判断できないが、膨大なエネルギーを感じる。
「この恒星の周囲に生存可能な惑星を作っています」
私がそう言って、一瞬で違う位置に移動した。星の位置がいきなり違って見えている。
「そこの小さく回転している赤い塊が惑星になります」
私が指さした先に、恒星の光によって、半分だけ明るくなっていて、かなりのスピードで自転しながら楕円軌道を回っていて、進行方向に浮かんでいる周囲の石を吸い込むように取り込んで徐々に大きくなっている。
「ふむ、あれに土を入れて草花を生やすという事か」
モーラがそう言った。
「そんなこと可能なのか?」草木のドラゴンが怪訝そうな顔で尋ねる。
「一応、惑星の地表がある程度冷えたところで、魔素を集積した魔鉱石を打ち込む予定です」
「わしはそれを使って大地を作るのだな」
「あとで、水も大気も必要になりますが、とりあえず、惑星の表層を作らないとなりません。モーラにはそれをお願いします」
「草木や微生物の発生はどうするつもりなのですか」ドリュアディスさんが私を心配そうに見て言った。
「それは別の人が用意しています。それを蒔いた後に強制的に急成長させなければなりません」
「それをやってほしいというわけか」
草木のドラゴンが私を見て言った。
「はい」
「なぜわざわざ見せたのだ」
「話だけでは、実際の大きさや作業の規模をイメージするのは難しいかと思いまして。さらに夢物語だと笑われるのでは無いかとも思いましたので」
「確かにな。見せられていてもそう感じてしまうくらいだからな」
草木のドラゴンが引きつった笑いをしている。
「ここから見ているだけではスケール感がわかりづらいのです。実際にそばに寄りますね」
大地の近くに移動する。
「回転していないように見えるのはなぜじゃ」
「もうじき恒星の影に入りますし、周囲の星を見ればわかります。でもこのままでいると中心部分に取り込まれてしまいます」
「この状態でもかなり大きいな。水平線がまっすぐに見える」
「大きくしておかないと今後の移住に支障をきたしますので」
「戻りますが、何かありますか」
「・・・・」
そしてあの洞窟に戻り、立方体から出ると立方体とアンカーは消えた。
「いかがでしたでしょうか」
「言葉も出ぬわ」モーラが深いため息をついた。
「ああそうだな。とんでもないものを見せられた気がする」
「本当に言葉もありません」
「いきなりでは、頭がついていきませんか」
「おぬしのやりたいことはわかった。協力もしよう。しかし、せっかく作ったのに移住を拒否するという事は考えられぬか」
「実際には、この世界とほとんど違わない生活環境が作られると思いますので、大丈夫だとは思いますが、一つだけ問題点があります」
「何があるのじゃ」
「魔素かな?」草木のドラゴンが考えつつそう答える。
「草木のドラゴン様ご賢察です。体内の魔力を使ってしまうと、魔力が貯まるまでに時間を要すことになります。それを避けるためには、できるだけ生活に必要な最小限度の魔法を使って生活する必要があると思われます」
「飛ぶことはできるが魔法が使えないのか」
草木のドラゴンが何か考えている。
「威力のある魔法は使えないと思ってください」
「うむ、それは厳しいかもしれぬな。特に魔族は、まあ体力的にも優位だし問題ないじゃろうが、天使たちはどうなのじゃ」
「光属性はまだましなほうですね。光もありますから飛べますし。ある程度は魔法を使えます」
「ドリュアディスはどうなのだ」
「私達はほとんど支障ないと思います。なぜなら草花自体がネットワークしているのであまり魔素を必要としていません。実体化している時もほとんど使っていませんから。もっとも成長が少しだけ遅くなるかもしれませんね」
「ふむ獣人族もエルフもまあ、そんなに必要ないか。となると、魔法使いの里が一番影響を受けそうじゃなあ」
「今回のエクソダスをするにあたっては、神界、ドラゴン族 魔族 魔法使いの里のすべての魔力を使って移動することになります。ですから移動した後、魔力量が維持できないでしょう」
「それが道理だな」
「お話しできることは、今のところこのくらいですね」
「段取りを整理しよう。もう一度手順を教えてくれ」
「私は、先ほどの惑星が恒星の周りを周回しながら、周囲の衛星を取り込んで大きくなってから、徐々にその速度を落として恒星への周回軌道を安定させて、さらに惑星の公転速度も私達の生活に支障ない速度に安定させます」
「ふむふむ」よくわかっていないはずですがちゃんと聞いてくれています。
「その後、モーラに大陸を隆起させてもらい、大気と水を用意します。そして魔力を充填した魔素を地表面にばらまきます。それから、水と氷、そして土、さらに風を起こして空気の対流を作ります」
「あやつらに頼むのじゃな」
「はい。水と大気が安定したあと、こちらの動植物の箱庭を作っていますので、そこに設置します」
「そこで、草木のドラゴンさんとドリュアディスさんにお願いして、その箱庭を元に惑星全体に繁殖してもらいます」
「なるほど。そういう手順ですか」
「最後に完成した惑星を見せて自分の意見を言う事ができる全種族に対して説明して、納得のうえで移転してもらいます」
「それは壮大すぎるわ」
「最後に一つ教えてほしい。なぜこの段階で俺とドリュアディスにこのことを話したのだ」草木のドラゴンが私を見つめて言った。
「それについては、私も同じ意見です。なぜその箱庭を作った後で話さなかったのですか」私の隣に立っていたドリュアディスさんが私をのぞき込むように見てそう言った。
「私は、お二人が今のこの世界を愛していると思っているからです」
「愛していると言われるのですか?」ドリュアディスさんがぽかーんとしている。
「人や魔族や神界、獣人達ではなく、この大地を、草花を、この世界を、です」
「言っていることがわからんな」モーラが首をかしげている。
「そうでしょうね。私はひねくれていますので、お二人がもしかしたらこの世界を何とか修復して存続する事にこだわるのではないかと思ったのです」
「確かにそれはあるかもしれないな。こだわりが無いわけではない」草木のドラゴンさんは考え込んだ。
「固執するという言い方にもなりますね」ドリュアディスさんも同様に下を向く。
「なるほど。この世界が壊れるのならともに朽ちるつもりかと言いたいのじゃな」
モーラが私を見て言った。
「そうだとしたら、もしかしたら協力してもらえないかもと思ったのですね?」ドリュアディスさんが言った。
「それもあります。もちろんお話をしたからと言って後から断られることもあります。でも、どうしても最初にお話しておきたかったのです」
「本当におぬしはひねくれ者じゃな。この世界を愛している者がいないならそもそも切り捨てるつもりじゃったのか?」
「切り捨てるなんてとんでもない。全員で滅びるつもりでしたよ。私も含めてね」
「あんた、それはおかしいだろう。言っていることが矛盾している。この世界の定義がおかしいだろう。魔族や獣人や人がいてこその世界じゃないか」
草木のドラゴンさんが私を見て言った。
「そうでしょうか?私は、動物たちと植物たちだけで、この世界は十分だと思いますが」
「確かにそれを否定しないが、それでも、この今の世界は彼らを含めて成立しているだろう」
草木のドラゴンさんがあきれている。
「私もそう思います。例えば、獣人や人、魔獣が移動して歩くことで、 植生が変わっていきその植物の生態系が変化していくことを私は好ましく思っています。もちろんそれによって弱い植物が淘汰されていくこともありますが、むしろそうやって植物は強く育っていくのですから」
ドリュアディスさんも私を見てあきれている。
「わかりました。それでは、星が一つできたら連絡しますので、その時に気が変わらなければ手伝いをお願いします」
私はお二人にそれぞれお辞儀をした。
「わしは少し残って話をしていくわ」
「わかりました。それでは」
私はそこから消えた。
「あの魔法使いはどういう思考の持ち主なんだ?まるで・・・そうだな、すべてのものを憎んでいるというか」
「動植物以外は・・・ですね」
「意志を持つもの全てじゃな」
「ああそうなのか。それでいてできるだけ公平に扱おうとしている。自分の感情は抜きにして、というところか」
「それはどうなのでしょう」
「どうでしょうとは?」
「あの方は、この世界のためになるのでしょうか?」
「わしにはわからん。あやつの発想力もその考え方も突飛すぎてな」
そうして3人はその洞窟からでて、それぞれ帰って行った。
○ 天使が生まれた日
私は、アンジーに連絡を取って、二人きりで話をしたいと告げた。
「アンジーさん。天使が作られたときのことを知っていますか」
「ああ、そんなことを知りたいの。なら教えてあげるわ。もっとも豊穣の天使から聞いた話ですけどね」
「教えてもらえますか」
「この世界に突然現れたというわよ。人が作られて、しばらくしてからね」
「そうなのですか」
「ええそうよ。神に作られたと言っていたわ。私たちは人々と共に在ると言っていたわねえ」
「普通は逆ですよねえ」
「神を模して人は作られたと言いたいのね」
「はい、私の世界ではそうでしたねえ」
「そうよねえ・・・おっと。姉さまに直接聞いてみたいのかしら?もっとも私が話した事と一緒だと思うけどね」
「同じ話でもニュアンスが違うかもしれません。念のため聞かせてもらってもいいですかねえ」
私の言葉にアンジーは鏡を使ってルミネア様とコンタクトを取ってくれた。
「ルミネア様お久しぶりです。実はお尋ねしたいことがありまして」
「おや、死んだとされていた魔法使いさんですね。何かしら。お答えできることなら良いですよ」
「天界ができた時の話をお聞きしたいのですが」
「そうですか。私は、天界ができたと同時にそこにいましたよ」
「同時にですか?」
「はい。アンジーは、中の人が入れ替わりましたから知らなかったかもしれないわね」
「それは初耳です」
「まあ、話していませんからね。あなたの前の人は心が折れたらしいのよ。そして自殺したの。霧になってね」
「そうなのですか」
「話がそれましたね。いつから存在しているかわかりますよ。私たちが作られたのは人が生まれてからしばらくして、人々が災害に遭った時なのです。人を救うために作られました」
「その事をはっきりと理解しているのですか?」
「はい、神が私たちを作りました。そして人を見守れと」
「最初からこの人数なのですか?」
「人の数が増えるごとに増えていきましたねえ。災害があって人が死んでも天使の数は変わらず、減りもしませんでした。なので、今は、人が増え続けていますが、天使の数は多いのでまだ増えていませんね」
「なるほど。そういうことですか」
「参考になりましたか?」
「ええ、ありがとうございました。私にできることは何かありますか?」
「あの子にお伝えください。たまに神に祈るようにと、祈ればお話もできますが、折ってくれないと会えません。少し寂しいです」
「わかりました。私はまだ死んだままですので、アンジーに頼んで連絡しておきます」
「こうでもしないと連絡してこなくなったのですよ。プンプン」
「そうですか。ご協力ありがとうございます」
「あとですね。最近は、私の豊穣の力も及ばなくなってきています。何か異変が起きていますか?」
ルミネア様は心配そうにそう言った。
「それは、天使の力が届いていないということですか?」アンジーがビックリして聞き返した。
「わずかですけど・・・そんな感じがします」
「なるほど、異変の兆候でしょうか。調べてみますね」
「よろしくお願いします」
そうして、アンジーの鏡を使った会話を終了した。
「私も改めて知ったわ。意外と自分のことは知らないものなのねえ」
「そうでしたか。私は、この事実にビックリですよ」
「確かにね。作られた時期までわかっているとはね」
「そうですよ。これはすごいことです」
「少しは役にたったようね」
「はい」
「あんた、今回の話は、4者会談で話す時の裏付けに使うつもりなのね」
「まあ、そうですね」
「考えすぎるとハゲるわよ」
「おっと。さてそうなると、他の種族や人が生まれたのがいつなのかも聞きたいですね」
○ドラゴンの起源
「モーラ様、お願いがあります」
「なんじゃ改まって」
「始祖龍様にお会いして、この世界の歴史をお聞きしたいのですが」
「そうか、それはかまわぬだろう。少し待て、聞いてくるから」
そう言ってモーラはドラゴンの里に飛び立ち、すぐに戻って来た。
「むしろ会いたいそうじゃ。もっとも場所は里ではまずいから近くの山になるがな」
私は、モーラに連れられて高い山の上に連れて行かれた。そこには人の形をした始祖龍様がすでにおいででした。
私は降り立つと同時に始祖龍様の前に跪いた。
「初めまして始祖龍様」
「こやつから色々聞かされて、なぜか会っていた気持ちでいたが、これが初めてなのだな。そうかそうか。立つが良い。この姿の時は人と同じじゃ、そこに座る場所を今作るから待っておれ」
始祖龍様は、そう言って、その場所に畳を20畳ばかり作った。始祖龍様は反対側に座り、私とモーラは向かい合うように靴を脱いで畳に上がり、モーラがあぐらをかいたが、私は正座した。
「さすが異世界の者じゃな。作法をわきまえておる。膝を崩すがよい」
そう言われて私は、あぐらをかいた。
「ふふ、なかなか様になっておるな」始祖龍様が妙にご満悦です。
「さて、尋ねたい事があると言っておったが、なんじゃ」
「ドラゴンはいつ、どうやって生まれたのかをお尋ねしたいのですが、教えていただけますか?」
「かまわぬよ。わしはなあ。最初ひとりじゃった。卵から生まれ、周囲に誰もおらず、しばらくは飛べずにその場所にいた。後から知ったのじゃが、そこは、そびえ立つ山の山頂近くでな。当然誰も来られず安全じゃった」
始祖龍様は目をつぶり思い出すように話し始める。
「ある程度成長して、ある日目を覚ますと隣に卵があった。どうやらわしが産んだらしい」
「その時、神から「仲間を増やしたければ、卵を産んで増やせ」と言われたのだよ」
「神からですか」
「そう神からじゃ。わしらは単性生殖じゃ。性は未分化のまま成長するが、本人の意志でどちらにでもなれる。今のところ、わしと水風氷士はメス、光火草木金間がオスじゃ。しかし、何度でもどちらにでも変化できるので、メスになれば卵が産める」
「はあ」
「わしが最初に産んだのは、初代の土のドラゴンでな。それから水、風、火が続いた。ああ、モーラおぬしは2代目でな、初代の土属性は、おぬしを産んで死んだ」
「わしの先代は、わしを産んで死んだのか」
「そうじゃ」
「始祖様が生まれた時には、ほかの種族がいましたか?」
「さあなあ、飛べるようになってもしばらくは、次々とドラゴンが生まれてきて、それどころではなかったからなあ」
「なるほど」
「よく考えると新たな種族が発生したのは災害とかが起きた時だな。これまで数回災害があった。そのたびに種は増えていったぞ」
「ドリュアディスとホピット、スノーク、エルフ、ダークエルフ、ドワーフは、わしらが発生する前には存在していたと思う。わしが周囲に飛び立てるようになり、災害が起き、水が様子を見に飛び回った頃には、すでに争っていたからな。そういえば氷もその時くらいだな。人族の時に金が、天界が出来た時に光が、魔族の時に闇と言う具合だ。もっともその間もいろいろなドラゴンが生まれているのだが、死んだりしていてなあ。今は、60柱くらいかのう」
「ああ、災害はそのあともあったな。そして魔法使いが生まれた」
「そういえば、魔法使いの里ができた時には、ドラゴンが結構たくさん生まれておったなあ」
「ドラゴン様方の縄張りはどうお決めになったのですか」
「最初の火水風土氷とわしの6柱になったときに、お互いが気になりだしてなあ。成長が早い順に飛び立っていったわ。その時は、勝手に住み着いたところを縄張りにしていた気がするな」
「増え始めてからは、トラブルが増え始めたので、ルール作りをしたな。おぬしの先祖がそもそも土だからなあ。土地のトラブルは土の役目だと、うやむやのうちにやらされておった。しぶしぶ線引きはやっておったようじゃ。そういえば土の奴は縄張りを持っていなかったな。自分が持つのは公平ではないと言って、わしのところにおったぞ」
「わしが縄張りを持てたのは、どういう経過じゃ」
「最初はそれぞれ縄張りを持ってそこに住んでいたのじゃが、人が増えるところにおったドラゴンは、嫌になったのか縄張りを捨てて里に帰ってきて住み始めてなあ。そんなドラゴンが多くなってきて、里が手狭になったので人型を模して暮らし始めたのじゃ。まあ、生活コストがかからんからな。そんな時におぬしが生まれて、体のいい暇つぶしに使われて遊ばれていたからなあ。おぬしも早々に出たがっていたようだし意をくんだのじゃ。助かったであろう?」
「まあ、確かに助かったことは助かったわ。しかし、ほかの思惑もあったのであろう?例えばあの町とか」
「さすがじゃなあ。あのファーンの村の事に気付いておったか。あそこの村だけは、ほかと異質でなあ。隣の町もそうだが、災害の後に突然できたのじゃよ。確かに災害前の町の残骸もあったが、壊滅的な被害にあって、人は誰もいなかったのじゃよ。そこに突然生活するものが出たので、どうやってそんな遠いところまで移動して、ほとんどーから村を作ったのかが不思議だったのでなあ。まあ、人が暮らし始めたという事はドラゴンが嫌がらなければそこを監視していたほうが良いので、ちょうどいいと思ってな」
「ドラゴンも縄張りにしていなかったような人のいない土地になっていたということか」
「そうじゃ。もっとも何もなく穏やかな村ではあったがな」
「面白そうな話ですが、お生まれになった時に最初にいたのは、動物とホビット、オーク、 ゴブリンあたりかと思いますが、そのほかの種族は見ましたか」
「わしらも実際見ておらんのでなあ。前後してエルフとダークエルフ、ドワーフが生まれたのではないかと思う」
「災害は起きませんでしたか」
「そうじゃな、水害が起こったような気がする。動物たちは山の上に逃げていて、水が引いたころには、森の形が変わっていたような気がするな。もっともわしらはまだ里に住んでいたから、周囲を見に行った水のやつと土のやつが見回っていた話しか聞いておらぬ」
「水の方に聞けばわかりますかね」
「世代交代しておるからのう」
「最初の方々はもういらっしゃらないのですか」
「わし以外は、全員世代交代しておるのう。もっとも火水土じゃからなあ」
「ありがとうございました。大変参考になりました」
「何がわかったのか教えてくれぬか」
「ドラゴンと魔法属性は関連があるようであまりないこと」
「ふむ」
「魔法を頻繁に使い出したのは、魔族と人間と天界が増えてきたからということですね」
「なるほど魔素を大量に消費しだしたのは、ここ千数百年くらいのことだというのかな」
「そうなりますね」
「なるほどな。神というやつは、そこを変えたいと思っているということか」
「はい。でも失敗しました」
「確かにそうじゃな」
「ありがとうございました」
「話ができてうれしかったぞ。昔話ができて久しぶりに楽しかったしなあ」
「ありがとうございます。ですが、この先この世界のためにご協力をお願いすることになろうかと思います」
「ふむ、この世界のためにとなあ。まあ今はまだ話せぬのであろう。わし「ら」にできることなら協力しよう」
「ありがとうございます。それではまたお会いさせてください。失礼します」
「ああ、また会おう。それとモーラ」
「はい、なんでしょうか」
「この最果ての魔法使いは、わしの客人とみなす。今後は、里へ連れてくることを許そう」
「ええっ良いのですか?」
「ああかまわん。里にはわしが話をつける。緊急時には事前連絡なく連れてきても構わぬ」
「わかりました。そのように致します」
「まぁ、普段は、事前に連絡をくれないか、食事を用意するのでな。ではまたな」
「ご足労いただきありがとうございました」
私は正座をして頭を下げた。始祖龍様は、畳から出て、そこから消えた。私とモーラも畳から出たところで、畳は消えた。
「ホッとしました」
「いやいや、あんな事を言い出すとはなあ」
「お客様ですか」
「まあ、礼節にこだわるのは側近たちだから、礼を失したとしても問答無用に殺されはしないが、始祖様の機嫌の悪い時には、あまり連れて行きたくないのう」
「殺されますかねえ」
「おぬしは殺されそうになっても防げるじゃろうが。まあ一触即発にはなるやもしれんな」
「あまり行かないようにします」
「招待されなければ大丈夫だろう。さて、始祖様とは、意思疎通していたようだが、魔素が足りなくなってきているのか」
「モーラもさすがですねえ」
「おぬしの転生にまつわる一連の出来事はこういうカラクリの元に動かされていたという事か」
「そうなりますね」
「供給が追い付かなければ、どうなるのじゃ」
「この世界は崩壊します」
「なるほどな。魔族を殺せば魔素は減らず、魔素がなくなれば世界が滅ぶか。おぬしいったい何を考えておる」
「まあ色々と。本当は、魔族を殺すより人間を殺したいのですがねえ」
「おいまさか」
「いえいえ。人間を殺しても魔素の使用量はそんなに減りませんよ」
「なるほどな。だめならこの世界ごとなくなればよいのか」
「それは嫌ですねえ。少なくとも家族を路頭に迷わすのは嫌ですよ」
「自分達だけどこかに逃げようとは考えないのか?」
「それも嫌ですねえ。町の人も色々な地方の知り合いもみんな大切ですからねえ」
「その余裕たっぷりな感じは、何か考えているのだな」
「自信はないのですが、この世界の皆さんの協力があれば出来そうな気がします」
「よい案を待っているぞ」
「はい」
○セリカリナにて
私は、これからの作業のためセリカリナに飛んだ。あの地下研究所に到着して、階段を降りて、研究室の扉を叩く。
「アスターテさんお久しぶりです。さっそくですが、進捗状況はどんな感じですか」
扉が勝手に開いたので私は中に入った。正面の机にアスターテさんは座っていて、そこで私に手招きする。
「できていますよ。これが試作品です」
アスターテさんは、私に少し大きめのガラスの箱を丁寧に持ち上げて見せてくれた。
「このアクアリウムですか」私は自分では手に取らずにその箱の中を見ている。箱の中は、海岸を海面下数メートルまで切り取ったジオラマのようになっていた。
「もう一つ。これがビオトープ。「箱庭」です」私に見せていた大きめのガラスの箱を静かに置いたあと、私に小さい箱の方を見せる。
「この中で生命が循環しているのですか」
「ええ、この世界の植物をそのまま移植してあります」
「これを持ち込めばいいのですか?」
「持って行って安定させてから開放すれば大丈夫です。もちろん魔素は必要になりますよ」
「砂漠も川もありますか?」
「これの応用ですから作る事はできますが、川の場合はもう少し循環系の規模を大きくしないとできませんので、まだ試作さえできていません」
「どのくらいの規模が必要ですか」
「直接現地に行って、作ったほうが早いですね」
「わかりました。ではこちらも行動開始します」
「そうですか、それは楽しみです」
○見回り
「他には何か手伝えることはないのかしら」
アンジーが地下室の扉を開けて入ってくる。
「おや、いらっしゃいましたか」
「まあねえ、4者会議を開催することにした時から、あんたが死んでいないことを天界は薄々感づいているのよ。それで私にちょくちょくちょっかいをかけてくるのよ。「どうしてるー」とか、「帰ってこいー」とかね。確かに今の私には、ここにいる理由はないのよ。のらりくらりとかわしてはいるけどね。それもあって、天界はあんたの生存を確信しているとは思うわねえ。ああ、ルミネア様は心配ないわ。ちゃんと取引したから話していないわよ」
「なるほど。急いだほうがよさそうですか?」
「大丈夫じゃない?」
「あの方は、私に殴られて気力を無くしていたのではありませんか」
「大分立ち直ったみたいよ。「天使が人に怒りの感情を持つなんて・・・」とつぶやいていたわ」
「おもしろいですねえ。神に創造されて感情がないわけがないじゃないですか」
「本人は、自分を理性の人だと思っていたみたいよ」
「あれだけ世界を楽しんでいるのに感情がないとはのう」
そう言ってモーラも地下室の私の部屋に入ってくる。
「まあ、あの方の話は良いわ。で、どうなの?何か手伝えるの?」
「アンジーが動く事で、動きを悟られてしまいますから。でも、会議がうまくいって、今回の作業が終了すればお願いする事はかなり多くなります。きっと忙しくて愚痴を言うくらいにはなりますよ。
そうでした、できれば、エルフの森の黒い霧の跡地ですが、定期的に修復作業をして欲しいのです。あと、似たような土地を発見して補修をお願いします」
「それは、エルフィと旅をしろということね」
「パムに先行してもらって、発見次第という事になりますが」
「だそうよ。聞いていたでしょう」
「ここは、地下室なので会話が漏れるはずはないのですが」
「穴よ。あんたの作った穴」
「確かに穴は、開けておきましたが」
「メアとパムに頼んで、細い糸をその穴から出しておいたのよ。前にモーラの洞窟の周囲に仕掛けた罠を覚えている?」
「なるほど、あの糸というかワイヤーですね」
「念のためにこの部屋から私の住んでいる家まで引いておいたわ。あんたの世界でいう有線インターホンね」
「なるほど。やりますね。脳内会話にリンクするようになっているのですね」
「違うわよ、通信端末の方とリンクするようにしているわ。脳内会話までは繋げなかったのよ。解析不能だったから」
「アンジーさんさすがですねえ」
「メアが作ったのよ。私には構造解析とか無理だったの」
「確かに高位の人々は、その魔法を当たり前に使用しているから構造という概念がありませんからねえ」
『パムさんには申し訳ありませんが、定期的に各国を見回ってほしいのです。通常のお仕事の暇な時に』
『ドワーフたちの仕事自体は安定していますので、息抜きがてら回ってきます』
『よろしくお願いします』
『僕たちはー』とはレイの声だ。
『レイは、獣人たちの調整をもう少し頑張って頂戴。まあ、代わりの人を立ててもいいので、その人を選んでちょうだい。それができたら旅をしてもいいわよ』手厳しいアンジーの声がする。
『えーーーー』
『わかったわね』
『は・・・い』
「私はメアと普段通り暮らしているわ。天界に気付かせないようにね」
「お願いします」
続く
「4者会談は都合がついたぞ。いつでも良いとさ。始祖龍様も魔法使いの里もな」
「ガブリエル様もルシフェル様もいつでも良いそうよ」
地下室に戻って来たときに扉に張られたメモにそう書かれていた。私はモーラの洞窟に飛ぶ。
「モーラいませんか?」
「なんじゃここに来たのか。どうした」
「モーラにお願いがあります」
「うむ、なんじゃ改まって」
「例の件でちょっと。いや、かなり大規模な作業をお願いしたいと思いまして」
「そうか」
「同時に草木のドラゴンさんとドリュアディスさんと一緒にお話がしたいのですが」
「まあ、頼みの内容は大体わかるが、直接話すつもりなのか?」
「確認したい事があります。ですからお二人同時にお会いしたいのです」
「わかった。3者で話す場を設けよう、もちろん内密になのだろう?」
「はい。ですから草木のドラゴンさんの縄張りに行きませんか」
「ああそれが一番効率がよいな」
「はい」
「さて、わしが草木に会いに行く理由はどうするのじゃ」
「まあ、黒い霧の処遇についての情報交換と例の城の地下の地脈の様子を見に来たとかですかねえ」
「まあ妥当な線か。ドリュアデスはどうするのじゃ」
「呼べば出てきてもらえそうです」
「ふむ、ではちょっと行ってくるかのう」
「明日にしてもらっていいですか。いろいろと下準備をしておきます」
「わかった。明日の日が明ける頃でよいか?」
「はい。現地で会いましょう」
翌日私は、草木のドラゴンの縄張りであるスペイパル王国の草原に立っていた。
上から音も無くドラゴンが降りてくる。モーラである。
「まったく。そのフードをかぶっていたらどこにいるかわからんではないか」
「ならどうしてここにいるんですか」
「まあ、上から見たら草原のど真ん中に変な形の洞窟があったからなあ。さすがにすぐわかったわ」
「さて、草木のドラゴンさんがお見えになった時に私がいてはまずいので、この先に作った洞窟の中でお待ちしています」
「ドリュアディスはどうする」
「もうお話ししています」
「なるほど、段取り済みか」
「では、先に行っています」
私は洞窟の中に入った。モーラはドラゴンの姿のまま飛び立って、草木のドラゴンに声をかける。
「見ておるのであろう?わしじゃ。モーラじゃ」
「その名前が通り名になったのかい?」そう言って草木のドラゴンが現れた。
「あ、しまった。最近土のドラゴンと呼ばれ慣れておらんからなあ」
「それもどうかと思うけどね」草木のドラゴンがあきれている。
「おう久しぶり。どうじゃ縄張りの様子は」
「まあまあかな。それより里では、お前の話でもちきりだったよ」
「あ?どうせ良い噂ではないな」
「世界に干渉しすぎだとさ。古参どもが喚いていたよ」微笑みながら草木のドラゴンが言った。
「まあなあ。確かに肩入れしすぎていることは否定できんな」気にした風でもなくむしろ自慢げにモーラは返した。
「別の噂では、何か企んでいるのではと言われているぞ」探るような茶化すような目で草木のドラゴンが言う。
「そうか」
「そんな中で俺が呼ばれただろう?お前に呼ばれたのをみんな気付いているし、どこかで見ているはずだ。実際のところどうなんだ?世間話をしに来たわけではないだろう。辺境の賢者様?」今度も茶化すような感じで言った。
「おぬしがそれを言うな。恥ずかしいわ」
「そうか?俺は感謝しているし、これまでのお前の動きは世界のためになっている。俺達ドラゴンは世界に対して基本不干渉だとは言え、どうやったって関わり合いにならなければならない。特に俺やお前なんかはな」
急に真面目な顔で言った。
「そうじゃな」
「少なくとも俺のところにわざわざ来るくらいだ。何かあるのだろう?」
「お願いがあって話をしに来たんじゃ。話を聞いてもらって断られても良いのだが、里に話されると困る話なんじゃが・・・」
「ああ大丈夫だ。話すつもりもない。これまでのお前を見ていると、それが一番正解だと思う。そこは心配するな」
「そうか。それならあの洞窟へちょっと来てもらえぬか」
「おや?あんなところにあんな洞窟あったかな。まあいい行こうじゃないか」
二人とも人の形に変化して、空からゆっくりとその洞窟に降りていく。
「こんにちは。初めましてですね。私は・・・」
「名乗らなくてもいいよ。そして、やっぱり生きていたんだな。おっとその前に、あの城の天使を救い、そして土地を崩落させずにうまく立て直してくれた事。あの時の様子は全部見ていたんだ。俺に感謝される筋合いでもないだろうがお礼を言いたい。あの時はありがとう」草木のドラゴンさんに頭を下げられてしまった。
「草木のドラゴンさんに感謝されたことは心に刻みます」私は丁寧に一礼する。
「もうよいか?」
「ああ。それで俺に何の用だい?」
「ドリュアディスさんも一緒に話を聞いても良いですか」
「あ?ああかまわないよ」草木のドラゴンの声とともに私の隣にドリュアディスさんが地面から文字通り生えてくる。
「お久しぶりです。草木のドラゴン様」ドリュアディスさんが深々とお辞儀をした。
「改めてお前にも苦労をかけたな。ありがとう」草木のドラゴンは軽くだがお辞儀をした。
「そんな、あなた様には過大なる恩恵をいつもいただいております。でもほんのわずかでもお返しできたのであれば幸いです」再びドリュアディスさんが頭を下げる。
「いや本当にありがとう。さて、前置きが長くなってすまんな。本題に入ってくれ」
「わかりました」
私は、これからの計画について話ししました。
「なるほど、そこまで深刻だったのか」
「私も最近の植物の成長については危惧しておりました。特に魔族が現れてからの植物の成長度合いは不安を感じるものでした。お話は納得がいくものです。ぜひ協力させてください」ドリュアディスさんが真剣な顔でそう言った。
「で、わしらに何をさせるつもりじゃ」モーラは知っていながら初めて聞くフリをしてそう言った。
「それでは、これからお連れするところをご覧ください」
私は、ガラスのように透明な立方体を作った。洞窟の壁面にその立方体をつなぐアンカーを装着している。
「お入りください」私は、その中に入り3人を誘導する。
ガラスの底には少し穴があけてあり、ドリュアディスさんが土の中に伸ばした蔓がつながったままになるようにしてある。
全員が箱に入ったので、私は、洞窟の壁面に空間を開いて立方体を移動させて空間を少しだけ閉じる。アンカーの鎖とドリュアディスさんの蔓が空間から出ている形になる。
出てきたのは宇宙空間。上下左右前後、全周囲が星々に囲まれ、はるか彼方に細かい星の群れが見えている。そして、間近に一番大きく輝いている恒星が見える。大きさがここからでは判断できないが、膨大なエネルギーを感じる。
「この恒星の周囲に生存可能な惑星を作っています」
私がそう言って、一瞬で違う位置に移動した。星の位置がいきなり違って見えている。
「そこの小さく回転している赤い塊が惑星になります」
私が指さした先に、恒星の光によって、半分だけ明るくなっていて、かなりのスピードで自転しながら楕円軌道を回っていて、進行方向に浮かんでいる周囲の石を吸い込むように取り込んで徐々に大きくなっている。
「ふむ、あれに土を入れて草花を生やすという事か」
モーラがそう言った。
「そんなこと可能なのか?」草木のドラゴンが怪訝そうな顔で尋ねる。
「一応、惑星の地表がある程度冷えたところで、魔素を集積した魔鉱石を打ち込む予定です」
「わしはそれを使って大地を作るのだな」
「あとで、水も大気も必要になりますが、とりあえず、惑星の表層を作らないとなりません。モーラにはそれをお願いします」
「草木や微生物の発生はどうするつもりなのですか」ドリュアディスさんが私を心配そうに見て言った。
「それは別の人が用意しています。それを蒔いた後に強制的に急成長させなければなりません」
「それをやってほしいというわけか」
草木のドラゴンが私を見て言った。
「はい」
「なぜわざわざ見せたのだ」
「話だけでは、実際の大きさや作業の規模をイメージするのは難しいかと思いまして。さらに夢物語だと笑われるのでは無いかとも思いましたので」
「確かにな。見せられていてもそう感じてしまうくらいだからな」
草木のドラゴンが引きつった笑いをしている。
「ここから見ているだけではスケール感がわかりづらいのです。実際にそばに寄りますね」
大地の近くに移動する。
「回転していないように見えるのはなぜじゃ」
「もうじき恒星の影に入りますし、周囲の星を見ればわかります。でもこのままでいると中心部分に取り込まれてしまいます」
「この状態でもかなり大きいな。水平線がまっすぐに見える」
「大きくしておかないと今後の移住に支障をきたしますので」
「戻りますが、何かありますか」
「・・・・」
そしてあの洞窟に戻り、立方体から出ると立方体とアンカーは消えた。
「いかがでしたでしょうか」
「言葉も出ぬわ」モーラが深いため息をついた。
「ああそうだな。とんでもないものを見せられた気がする」
「本当に言葉もありません」
「いきなりでは、頭がついていきませんか」
「おぬしのやりたいことはわかった。協力もしよう。しかし、せっかく作ったのに移住を拒否するという事は考えられぬか」
「実際には、この世界とほとんど違わない生活環境が作られると思いますので、大丈夫だとは思いますが、一つだけ問題点があります」
「何があるのじゃ」
「魔素かな?」草木のドラゴンが考えつつそう答える。
「草木のドラゴン様ご賢察です。体内の魔力を使ってしまうと、魔力が貯まるまでに時間を要すことになります。それを避けるためには、できるだけ生活に必要な最小限度の魔法を使って生活する必要があると思われます」
「飛ぶことはできるが魔法が使えないのか」
草木のドラゴンが何か考えている。
「威力のある魔法は使えないと思ってください」
「うむ、それは厳しいかもしれぬな。特に魔族は、まあ体力的にも優位だし問題ないじゃろうが、天使たちはどうなのじゃ」
「光属性はまだましなほうですね。光もありますから飛べますし。ある程度は魔法を使えます」
「ドリュアディスはどうなのだ」
「私達はほとんど支障ないと思います。なぜなら草花自体がネットワークしているのであまり魔素を必要としていません。実体化している時もほとんど使っていませんから。もっとも成長が少しだけ遅くなるかもしれませんね」
「ふむ獣人族もエルフもまあ、そんなに必要ないか。となると、魔法使いの里が一番影響を受けそうじゃなあ」
「今回のエクソダスをするにあたっては、神界、ドラゴン族 魔族 魔法使いの里のすべての魔力を使って移動することになります。ですから移動した後、魔力量が維持できないでしょう」
「それが道理だな」
「お話しできることは、今のところこのくらいですね」
「段取りを整理しよう。もう一度手順を教えてくれ」
「私は、先ほどの惑星が恒星の周りを周回しながら、周囲の衛星を取り込んで大きくなってから、徐々にその速度を落として恒星への周回軌道を安定させて、さらに惑星の公転速度も私達の生活に支障ない速度に安定させます」
「ふむふむ」よくわかっていないはずですがちゃんと聞いてくれています。
「その後、モーラに大陸を隆起させてもらい、大気と水を用意します。そして魔力を充填した魔素を地表面にばらまきます。それから、水と氷、そして土、さらに風を起こして空気の対流を作ります」
「あやつらに頼むのじゃな」
「はい。水と大気が安定したあと、こちらの動植物の箱庭を作っていますので、そこに設置します」
「そこで、草木のドラゴンさんとドリュアディスさんにお願いして、その箱庭を元に惑星全体に繁殖してもらいます」
「なるほど。そういう手順ですか」
「最後に完成した惑星を見せて自分の意見を言う事ができる全種族に対して説明して、納得のうえで移転してもらいます」
「それは壮大すぎるわ」
「最後に一つ教えてほしい。なぜこの段階で俺とドリュアディスにこのことを話したのだ」草木のドラゴンが私を見つめて言った。
「それについては、私も同じ意見です。なぜその箱庭を作った後で話さなかったのですか」私の隣に立っていたドリュアディスさんが私をのぞき込むように見てそう言った。
「私は、お二人が今のこの世界を愛していると思っているからです」
「愛していると言われるのですか?」ドリュアディスさんがぽかーんとしている。
「人や魔族や神界、獣人達ではなく、この大地を、草花を、この世界を、です」
「言っていることがわからんな」モーラが首をかしげている。
「そうでしょうね。私はひねくれていますので、お二人がもしかしたらこの世界を何とか修復して存続する事にこだわるのではないかと思ったのです」
「確かにそれはあるかもしれないな。こだわりが無いわけではない」草木のドラゴンさんは考え込んだ。
「固執するという言い方にもなりますね」ドリュアディスさんも同様に下を向く。
「なるほど。この世界が壊れるのならともに朽ちるつもりかと言いたいのじゃな」
モーラが私を見て言った。
「そうだとしたら、もしかしたら協力してもらえないかもと思ったのですね?」ドリュアディスさんが言った。
「それもあります。もちろんお話をしたからと言って後から断られることもあります。でも、どうしても最初にお話しておきたかったのです」
「本当におぬしはひねくれ者じゃな。この世界を愛している者がいないならそもそも切り捨てるつもりじゃったのか?」
「切り捨てるなんてとんでもない。全員で滅びるつもりでしたよ。私も含めてね」
「あんた、それはおかしいだろう。言っていることが矛盾している。この世界の定義がおかしいだろう。魔族や獣人や人がいてこその世界じゃないか」
草木のドラゴンさんが私を見て言った。
「そうでしょうか?私は、動物たちと植物たちだけで、この世界は十分だと思いますが」
「確かにそれを否定しないが、それでも、この今の世界は彼らを含めて成立しているだろう」
草木のドラゴンさんがあきれている。
「私もそう思います。例えば、獣人や人、魔獣が移動して歩くことで、 植生が変わっていきその植物の生態系が変化していくことを私は好ましく思っています。もちろんそれによって弱い植物が淘汰されていくこともありますが、むしろそうやって植物は強く育っていくのですから」
ドリュアディスさんも私を見てあきれている。
「わかりました。それでは、星が一つできたら連絡しますので、その時に気が変わらなければ手伝いをお願いします」
私はお二人にそれぞれお辞儀をした。
「わしは少し残って話をしていくわ」
「わかりました。それでは」
私はそこから消えた。
「あの魔法使いはどういう思考の持ち主なんだ?まるで・・・そうだな、すべてのものを憎んでいるというか」
「動植物以外は・・・ですね」
「意志を持つもの全てじゃな」
「ああそうなのか。それでいてできるだけ公平に扱おうとしている。自分の感情は抜きにして、というところか」
「それはどうなのでしょう」
「どうでしょうとは?」
「あの方は、この世界のためになるのでしょうか?」
「わしにはわからん。あやつの発想力もその考え方も突飛すぎてな」
そうして3人はその洞窟からでて、それぞれ帰って行った。
○ 天使が生まれた日
私は、アンジーに連絡を取って、二人きりで話をしたいと告げた。
「アンジーさん。天使が作られたときのことを知っていますか」
「ああ、そんなことを知りたいの。なら教えてあげるわ。もっとも豊穣の天使から聞いた話ですけどね」
「教えてもらえますか」
「この世界に突然現れたというわよ。人が作られて、しばらくしてからね」
「そうなのですか」
「ええそうよ。神に作られたと言っていたわ。私たちは人々と共に在ると言っていたわねえ」
「普通は逆ですよねえ」
「神を模して人は作られたと言いたいのね」
「はい、私の世界ではそうでしたねえ」
「そうよねえ・・・おっと。姉さまに直接聞いてみたいのかしら?もっとも私が話した事と一緒だと思うけどね」
「同じ話でもニュアンスが違うかもしれません。念のため聞かせてもらってもいいですかねえ」
私の言葉にアンジーは鏡を使ってルミネア様とコンタクトを取ってくれた。
「ルミネア様お久しぶりです。実はお尋ねしたいことがありまして」
「おや、死んだとされていた魔法使いさんですね。何かしら。お答えできることなら良いですよ」
「天界ができた時の話をお聞きしたいのですが」
「そうですか。私は、天界ができたと同時にそこにいましたよ」
「同時にですか?」
「はい。アンジーは、中の人が入れ替わりましたから知らなかったかもしれないわね」
「それは初耳です」
「まあ、話していませんからね。あなたの前の人は心が折れたらしいのよ。そして自殺したの。霧になってね」
「そうなのですか」
「話がそれましたね。いつから存在しているかわかりますよ。私たちが作られたのは人が生まれてからしばらくして、人々が災害に遭った時なのです。人を救うために作られました」
「その事をはっきりと理解しているのですか?」
「はい、神が私たちを作りました。そして人を見守れと」
「最初からこの人数なのですか?」
「人の数が増えるごとに増えていきましたねえ。災害があって人が死んでも天使の数は変わらず、減りもしませんでした。なので、今は、人が増え続けていますが、天使の数は多いのでまだ増えていませんね」
「なるほど。そういうことですか」
「参考になりましたか?」
「ええ、ありがとうございました。私にできることは何かありますか?」
「あの子にお伝えください。たまに神に祈るようにと、祈ればお話もできますが、折ってくれないと会えません。少し寂しいです」
「わかりました。私はまだ死んだままですので、アンジーに頼んで連絡しておきます」
「こうでもしないと連絡してこなくなったのですよ。プンプン」
「そうですか。ご協力ありがとうございます」
「あとですね。最近は、私の豊穣の力も及ばなくなってきています。何か異変が起きていますか?」
ルミネア様は心配そうにそう言った。
「それは、天使の力が届いていないということですか?」アンジーがビックリして聞き返した。
「わずかですけど・・・そんな感じがします」
「なるほど、異変の兆候でしょうか。調べてみますね」
「よろしくお願いします」
そうして、アンジーの鏡を使った会話を終了した。
「私も改めて知ったわ。意外と自分のことは知らないものなのねえ」
「そうでしたか。私は、この事実にビックリですよ」
「確かにね。作られた時期までわかっているとはね」
「そうですよ。これはすごいことです」
「少しは役にたったようね」
「はい」
「あんた、今回の話は、4者会談で話す時の裏付けに使うつもりなのね」
「まあ、そうですね」
「考えすぎるとハゲるわよ」
「おっと。さてそうなると、他の種族や人が生まれたのがいつなのかも聞きたいですね」
○ドラゴンの起源
「モーラ様、お願いがあります」
「なんじゃ改まって」
「始祖龍様にお会いして、この世界の歴史をお聞きしたいのですが」
「そうか、それはかまわぬだろう。少し待て、聞いてくるから」
そう言ってモーラはドラゴンの里に飛び立ち、すぐに戻って来た。
「むしろ会いたいそうじゃ。もっとも場所は里ではまずいから近くの山になるがな」
私は、モーラに連れられて高い山の上に連れて行かれた。そこには人の形をした始祖龍様がすでにおいででした。
私は降り立つと同時に始祖龍様の前に跪いた。
「初めまして始祖龍様」
「こやつから色々聞かされて、なぜか会っていた気持ちでいたが、これが初めてなのだな。そうかそうか。立つが良い。この姿の時は人と同じじゃ、そこに座る場所を今作るから待っておれ」
始祖龍様は、そう言って、その場所に畳を20畳ばかり作った。始祖龍様は反対側に座り、私とモーラは向かい合うように靴を脱いで畳に上がり、モーラがあぐらをかいたが、私は正座した。
「さすが異世界の者じゃな。作法をわきまえておる。膝を崩すがよい」
そう言われて私は、あぐらをかいた。
「ふふ、なかなか様になっておるな」始祖龍様が妙にご満悦です。
「さて、尋ねたい事があると言っておったが、なんじゃ」
「ドラゴンはいつ、どうやって生まれたのかをお尋ねしたいのですが、教えていただけますか?」
「かまわぬよ。わしはなあ。最初ひとりじゃった。卵から生まれ、周囲に誰もおらず、しばらくは飛べずにその場所にいた。後から知ったのじゃが、そこは、そびえ立つ山の山頂近くでな。当然誰も来られず安全じゃった」
始祖龍様は目をつぶり思い出すように話し始める。
「ある程度成長して、ある日目を覚ますと隣に卵があった。どうやらわしが産んだらしい」
「その時、神から「仲間を増やしたければ、卵を産んで増やせ」と言われたのだよ」
「神からですか」
「そう神からじゃ。わしらは単性生殖じゃ。性は未分化のまま成長するが、本人の意志でどちらにでもなれる。今のところ、わしと水風氷士はメス、光火草木金間がオスじゃ。しかし、何度でもどちらにでも変化できるので、メスになれば卵が産める」
「はあ」
「わしが最初に産んだのは、初代の土のドラゴンでな。それから水、風、火が続いた。ああ、モーラおぬしは2代目でな、初代の土属性は、おぬしを産んで死んだ」
「わしの先代は、わしを産んで死んだのか」
「そうじゃ」
「始祖様が生まれた時には、ほかの種族がいましたか?」
「さあなあ、飛べるようになってもしばらくは、次々とドラゴンが生まれてきて、それどころではなかったからなあ」
「なるほど」
「よく考えると新たな種族が発生したのは災害とかが起きた時だな。これまで数回災害があった。そのたびに種は増えていったぞ」
「ドリュアディスとホピット、スノーク、エルフ、ダークエルフ、ドワーフは、わしらが発生する前には存在していたと思う。わしが周囲に飛び立てるようになり、災害が起き、水が様子を見に飛び回った頃には、すでに争っていたからな。そういえば氷もその時くらいだな。人族の時に金が、天界が出来た時に光が、魔族の時に闇と言う具合だ。もっともその間もいろいろなドラゴンが生まれているのだが、死んだりしていてなあ。今は、60柱くらいかのう」
「ああ、災害はそのあともあったな。そして魔法使いが生まれた」
「そういえば、魔法使いの里ができた時には、ドラゴンが結構たくさん生まれておったなあ」
「ドラゴン様方の縄張りはどうお決めになったのですか」
「最初の火水風土氷とわしの6柱になったときに、お互いが気になりだしてなあ。成長が早い順に飛び立っていったわ。その時は、勝手に住み着いたところを縄張りにしていた気がするな」
「増え始めてからは、トラブルが増え始めたので、ルール作りをしたな。おぬしの先祖がそもそも土だからなあ。土地のトラブルは土の役目だと、うやむやのうちにやらされておった。しぶしぶ線引きはやっておったようじゃ。そういえば土の奴は縄張りを持っていなかったな。自分が持つのは公平ではないと言って、わしのところにおったぞ」
「わしが縄張りを持てたのは、どういう経過じゃ」
「最初はそれぞれ縄張りを持ってそこに住んでいたのじゃが、人が増えるところにおったドラゴンは、嫌になったのか縄張りを捨てて里に帰ってきて住み始めてなあ。そんなドラゴンが多くなってきて、里が手狭になったので人型を模して暮らし始めたのじゃ。まあ、生活コストがかからんからな。そんな時におぬしが生まれて、体のいい暇つぶしに使われて遊ばれていたからなあ。おぬしも早々に出たがっていたようだし意をくんだのじゃ。助かったであろう?」
「まあ、確かに助かったことは助かったわ。しかし、ほかの思惑もあったのであろう?例えばあの町とか」
「さすがじゃなあ。あのファーンの村の事に気付いておったか。あそこの村だけは、ほかと異質でなあ。隣の町もそうだが、災害の後に突然できたのじゃよ。確かに災害前の町の残骸もあったが、壊滅的な被害にあって、人は誰もいなかったのじゃよ。そこに突然生活するものが出たので、どうやってそんな遠いところまで移動して、ほとんどーから村を作ったのかが不思議だったのでなあ。まあ、人が暮らし始めたという事はドラゴンが嫌がらなければそこを監視していたほうが良いので、ちょうどいいと思ってな」
「ドラゴンも縄張りにしていなかったような人のいない土地になっていたということか」
「そうじゃ。もっとも何もなく穏やかな村ではあったがな」
「面白そうな話ですが、お生まれになった時に最初にいたのは、動物とホビット、オーク、 ゴブリンあたりかと思いますが、そのほかの種族は見ましたか」
「わしらも実際見ておらんのでなあ。前後してエルフとダークエルフ、ドワーフが生まれたのではないかと思う」
「災害は起きませんでしたか」
「そうじゃな、水害が起こったような気がする。動物たちは山の上に逃げていて、水が引いたころには、森の形が変わっていたような気がするな。もっともわしらはまだ里に住んでいたから、周囲を見に行った水のやつと土のやつが見回っていた話しか聞いておらぬ」
「水の方に聞けばわかりますかね」
「世代交代しておるからのう」
「最初の方々はもういらっしゃらないのですか」
「わし以外は、全員世代交代しておるのう。もっとも火水土じゃからなあ」
「ありがとうございました。大変参考になりました」
「何がわかったのか教えてくれぬか」
「ドラゴンと魔法属性は関連があるようであまりないこと」
「ふむ」
「魔法を頻繁に使い出したのは、魔族と人間と天界が増えてきたからということですね」
「なるほど魔素を大量に消費しだしたのは、ここ千数百年くらいのことだというのかな」
「そうなりますね」
「なるほどな。神というやつは、そこを変えたいと思っているということか」
「はい。でも失敗しました」
「確かにそうじゃな」
「ありがとうございました」
「話ができてうれしかったぞ。昔話ができて久しぶりに楽しかったしなあ」
「ありがとうございます。ですが、この先この世界のためにご協力をお願いすることになろうかと思います」
「ふむ、この世界のためにとなあ。まあ今はまだ話せぬのであろう。わし「ら」にできることなら協力しよう」
「ありがとうございます。それではまたお会いさせてください。失礼します」
「ああ、また会おう。それとモーラ」
「はい、なんでしょうか」
「この最果ての魔法使いは、わしの客人とみなす。今後は、里へ連れてくることを許そう」
「ええっ良いのですか?」
「ああかまわん。里にはわしが話をつける。緊急時には事前連絡なく連れてきても構わぬ」
「わかりました。そのように致します」
「まぁ、普段は、事前に連絡をくれないか、食事を用意するのでな。ではまたな」
「ご足労いただきありがとうございました」
私は正座をして頭を下げた。始祖龍様は、畳から出て、そこから消えた。私とモーラも畳から出たところで、畳は消えた。
「ホッとしました」
「いやいや、あんな事を言い出すとはなあ」
「お客様ですか」
「まあ、礼節にこだわるのは側近たちだから、礼を失したとしても問答無用に殺されはしないが、始祖様の機嫌の悪い時には、あまり連れて行きたくないのう」
「殺されますかねえ」
「おぬしは殺されそうになっても防げるじゃろうが。まあ一触即発にはなるやもしれんな」
「あまり行かないようにします」
「招待されなければ大丈夫だろう。さて、始祖様とは、意思疎通していたようだが、魔素が足りなくなってきているのか」
「モーラもさすがですねえ」
「おぬしの転生にまつわる一連の出来事はこういうカラクリの元に動かされていたという事か」
「そうなりますね」
「供給が追い付かなければ、どうなるのじゃ」
「この世界は崩壊します」
「なるほどな。魔族を殺せば魔素は減らず、魔素がなくなれば世界が滅ぶか。おぬしいったい何を考えておる」
「まあ色々と。本当は、魔族を殺すより人間を殺したいのですがねえ」
「おいまさか」
「いえいえ。人間を殺しても魔素の使用量はそんなに減りませんよ」
「なるほどな。だめならこの世界ごとなくなればよいのか」
「それは嫌ですねえ。少なくとも家族を路頭に迷わすのは嫌ですよ」
「自分達だけどこかに逃げようとは考えないのか?」
「それも嫌ですねえ。町の人も色々な地方の知り合いもみんな大切ですからねえ」
「その余裕たっぷりな感じは、何か考えているのだな」
「自信はないのですが、この世界の皆さんの協力があれば出来そうな気がします」
「よい案を待っているぞ」
「はい」
○セリカリナにて
私は、これからの作業のためセリカリナに飛んだ。あの地下研究所に到着して、階段を降りて、研究室の扉を叩く。
「アスターテさんお久しぶりです。さっそくですが、進捗状況はどんな感じですか」
扉が勝手に開いたので私は中に入った。正面の机にアスターテさんは座っていて、そこで私に手招きする。
「できていますよ。これが試作品です」
アスターテさんは、私に少し大きめのガラスの箱を丁寧に持ち上げて見せてくれた。
「このアクアリウムですか」私は自分では手に取らずにその箱の中を見ている。箱の中は、海岸を海面下数メートルまで切り取ったジオラマのようになっていた。
「もう一つ。これがビオトープ。「箱庭」です」私に見せていた大きめのガラスの箱を静かに置いたあと、私に小さい箱の方を見せる。
「この中で生命が循環しているのですか」
「ええ、この世界の植物をそのまま移植してあります」
「これを持ち込めばいいのですか?」
「持って行って安定させてから開放すれば大丈夫です。もちろん魔素は必要になりますよ」
「砂漠も川もありますか?」
「これの応用ですから作る事はできますが、川の場合はもう少し循環系の規模を大きくしないとできませんので、まだ試作さえできていません」
「どのくらいの規模が必要ですか」
「直接現地に行って、作ったほうが早いですね」
「わかりました。ではこちらも行動開始します」
「そうですか、それは楽しみです」
○見回り
「他には何か手伝えることはないのかしら」
アンジーが地下室の扉を開けて入ってくる。
「おや、いらっしゃいましたか」
「まあねえ、4者会議を開催することにした時から、あんたが死んでいないことを天界は薄々感づいているのよ。それで私にちょくちょくちょっかいをかけてくるのよ。「どうしてるー」とか、「帰ってこいー」とかね。確かに今の私には、ここにいる理由はないのよ。のらりくらりとかわしてはいるけどね。それもあって、天界はあんたの生存を確信しているとは思うわねえ。ああ、ルミネア様は心配ないわ。ちゃんと取引したから話していないわよ」
「なるほど。急いだほうがよさそうですか?」
「大丈夫じゃない?」
「あの方は、私に殴られて気力を無くしていたのではありませんか」
「大分立ち直ったみたいよ。「天使が人に怒りの感情を持つなんて・・・」とつぶやいていたわ」
「おもしろいですねえ。神に創造されて感情がないわけがないじゃないですか」
「本人は、自分を理性の人だと思っていたみたいよ」
「あれだけ世界を楽しんでいるのに感情がないとはのう」
そう言ってモーラも地下室の私の部屋に入ってくる。
「まあ、あの方の話は良いわ。で、どうなの?何か手伝えるの?」
「アンジーが動く事で、動きを悟られてしまいますから。でも、会議がうまくいって、今回の作業が終了すればお願いする事はかなり多くなります。きっと忙しくて愚痴を言うくらいにはなりますよ。
そうでした、できれば、エルフの森の黒い霧の跡地ですが、定期的に修復作業をして欲しいのです。あと、似たような土地を発見して補修をお願いします」
「それは、エルフィと旅をしろということね」
「パムに先行してもらって、発見次第という事になりますが」
「だそうよ。聞いていたでしょう」
「ここは、地下室なので会話が漏れるはずはないのですが」
「穴よ。あんたの作った穴」
「確かに穴は、開けておきましたが」
「メアとパムに頼んで、細い糸をその穴から出しておいたのよ。前にモーラの洞窟の周囲に仕掛けた罠を覚えている?」
「なるほど、あの糸というかワイヤーですね」
「念のためにこの部屋から私の住んでいる家まで引いておいたわ。あんたの世界でいう有線インターホンね」
「なるほど。やりますね。脳内会話にリンクするようになっているのですね」
「違うわよ、通信端末の方とリンクするようにしているわ。脳内会話までは繋げなかったのよ。解析不能だったから」
「アンジーさんさすがですねえ」
「メアが作ったのよ。私には構造解析とか無理だったの」
「確かに高位の人々は、その魔法を当たり前に使用しているから構造という概念がありませんからねえ」
『パムさんには申し訳ありませんが、定期的に各国を見回ってほしいのです。通常のお仕事の暇な時に』
『ドワーフたちの仕事自体は安定していますので、息抜きがてら回ってきます』
『よろしくお願いします』
『僕たちはー』とはレイの声だ。
『レイは、獣人たちの調整をもう少し頑張って頂戴。まあ、代わりの人を立ててもいいので、その人を選んでちょうだい。それができたら旅をしてもいいわよ』手厳しいアンジーの声がする。
『えーーーー』
『わかったわね』
『は・・・い』
「私はメアと普段通り暮らしているわ。天界に気付かせないようにね」
「お願いします」
続く
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